『現在位置、アフガニスタン、クナル州、アサダーバード。任務従事者、タバサ。』
『作戦目標、ターリバーン過激派“ナルフッタ・クイール”指導者アルザ・エラードの抹殺。作戦開始位置、アサダーバード南東部河川敷付近。北緯34度52分9.2172秒、東経71度9分19.4862秒地点。』
『作戦依頼者、アメリカ合衆国国防総省、中央軍所属作戦司令官。詳細は機密事項です。備考、本作戦におけるターゲット以外の殺害は禁止されています。指令者、ICA上級委員会役員No.4。』
『準備は一任されています。作戦を開始してください。』
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ボートで川を遡上し、作戦開始地点に着いた。今回は久々に一人での任務だ。元いた世界ではよくあることだったが身分を隠しての任務自体あまりなかった。
川辺には倉庫が多かった。おそらく麻薬や武器などを船などで運んでいるのだろう。しかし兵隊の数も少ないためターゲットがいる感じは無い。私はひとまず手近な倉庫へ入る。
倉庫には誰も居なかった。しかし積まれている箱の中にはおがくずに紛れて白い粉の入った袋が入っていた。おそらく麻薬の保管場所だろう。私は倉庫の事務所のような場所を発見したためそこへ入る。
事務所にも誰も居なかった。だが事務所のコルクボードには様々な紙が貼ってあった。その中にはここアサダーバードの地図があり、中心にあるスーパーマーケットの跡地に線が集約していた。おそらくここが本拠地だろう。私は倉庫を後にし、市街地へ向け進んでいった。
市街地は入り組んでいる。崩れた家々が内戦のすさまじさを物語っている。路地に注意しながら進んでいくとスーパーマーケットが見えてきた。このまま路地伝いに進んでいけば問題なくたどり着けるはずだ。問題はどうやって内部に侵入するか・・・、内部には相当数の人員が居るはずである。ここはおびき出し作戦を行おう。
まず手近な兵隊の集団をスリープクラウドで眠らせる。そしてその部隊を探しに来た兵隊も同じく眠らせる。これを繰り返せば司令部はもぬけの殻かもしくは非常に手薄になるだろう。幸いにして人を隠せそうな場所は大量にある。
私はまず周囲を探索した。すると兵士30人ほどの小隊が歩いているのを確認した。私は周囲に他の兵がいないことを確認しつつ作戦を開始した。
“スリープクラウド”
「んあ?何だこの霧は?」
「なんだか猛烈に眠く・・・。」
「もしかして睡眠ガス・・・。」
「て、てきしゅ・・・」
グウグウ
首尾よく眠ってくれた。しかしそれなりに散開していたため予定されている場所に運ぶのに多少手間がかかりそうなのは難点だ。
「こちらCP、8-1、定時連絡はどうした。」
「・・・。」
「8-1応答せよ。」
「・・・。」
「異常事態発生。最寄りの部隊は確認に向かえ。」
うまく行った。これでこっちに来てくれるだろう。後はそれをまたスリープクラウドで眠らせる。これで行けるはず。来るときは足音や気配で近づいてくればわかる。それまではこの眠らせた兵士を移動させるのに集中しよう。
6体ほど移動させた。結構重労働である。7体目に取り掛かろうとしたその時路地の角の向こう側に集団が歩く気配がした。しかしまだこちらには気がついていないようで気配はまだ遠い。焦らなくともまだ時間はあ・・・
「・・・。」
「・・・。」
「コンタクト!」
「!」
ダダダダダ
気配を読み間違えた?この私が?路地の向こう側に居た小隊の気配は目の前の兵士の叫びによって一斉にこちらへかけてくる。まずい。戦闘態勢になってしまった。
私は放たれた弾丸を躱しつつ最寄りのゴミ箱の裏に隠れた。ゴミ箱は金属製で、銃弾を弾くことができている。が、いつまでもここに居るわけにいかない。どうすればいい・・・。
路地の向こう側に続々と応援が駆けつけている。そのうちの一人、先程気配をつかめなかった兵士が応援を呼ぼうとしているのが聞こえた。流石にこれ以上応援を呼ばれると対処ができなさそうだ。私はまず銃弾で制圧射撃されてる状況を打開することにした。
“エアハンマー”
制圧射撃をしていた兵士の内何名かを吹き飛ばして気絶させることに成功した。弾幕が薄くなったことで私は隙を見て杖を構える。
“スリープクラウド”
発生した霧はゴミ箱の裏から相手の兵士の方へ流れ、彼らを包み、銃撃がやんだ。何とかなったようだ。私は隠れるのを止めて本来の作戦を遂行しようと眠った兵士たちへ近寄った。またレビテーションで一人ずつ運んでいく。
3人目を運ぼうとしたその時、路地から敵兵が近づいてくる気配を捉えた。しかも今度は3方向からほぼ同時だ。流石に多方面からの同時は対応しきれない。私は諦めてこの状態のまま敵本部への潜入を試みることにした。2個小隊が戦闘不能で1個小隊が対応中なのだからこれだけでも十分手薄になっているだろう。
私は再び路地裏を縫うように移動し、拠点となっているスーパー跡に到達した。おそらく正面は敵がいるだろう。壁際から覗いてみると、何故か正面入口に兵士が2人びしょ濡れで気絶していた。理由はわからないがこれは好都合だ。ただ正面から入ると中にそれなりに兵士がいる可能性もあるので、建物正面側の窓の一つに入った。
窓の向こうはそれなりに大きめなカフェテリア跡だった。部屋の端には後から無理矢理付け足されたと思われる地下への入口があった。ターゲットは組織の重要人物だ。戦闘状態になっているこの状況では一番安全な地下施設にいると思われるので、私は迷わず地下へ入っていく。
地下はそれなりに大きく、隠れるところもそれなりにあった。少し進むと明るくなっているところがあり、兵士たちが何やら騒いでいた。
「ハルドゥエラ様!ハルドゥエラ様!返事をしてください!」
「返事がないぞ!どうする!?」
「どうするもこうするも開けてみるしかねえだろ!」
「しかしハルドゥエラ様からは絶対に開けるなと・・・。」
「中から返事がなくなってもか?もしかしたら中で倒れられてる可能性だってあるのだぞ!」
「確かに・・・しかし我々にそれを判断する権限は・・・。」
どうやらやたら重厚な扉の向こうにいるハルドゥエラとかいう人物と連絡が取れずに焦っているようだ。おそらくあの扉の重厚さからあそこはパニックルーム、もしくはセーフルームと呼ばれる避難所なのだろう。そこに入ってから応答がないということは、何かあったと見るのが自然だ。しかし彼らには開けるかどうか判断する権限が与えられていないようだ。焦りばかりが場を支配しているのが見て取れる。すると奥の方から一人の男性が歩いてきた。
「その扉を開けろ。」
「え、エラード様・・・。」
「私の権限で扉の開放を許可する。開けてみろ。」
「りょ、了解しました!おい!扉を開けろ!」
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『声紋照合…一致。網膜照合…一致。静脈照合…一致。ターゲットのアルザ・エラードと確認しました。任務を続行してください。』
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アレがアルザ・エラード、威圧感に満ちた風貌で、離れてみているこちらにもそのオーラが伝わってくるようだ。扉の方は兵士の何人かが開放を試みているがうまく行っていないようだ。
「閣下!扉のロックは解除できましたがなぜか開きません!」
「向こう側の電源が落ちている可能性がある。予備電源に切り替えろ。」
「はっ!」
「予備電源に切り替えます!」
ジジジバチッ!
「うわ!」
「どうした。」
「予備電源に切り替えた途端、扉全体が電気を帯び始めました!こんなはずは・・・。」
「構わん。開けろ。」
「はっ!」
ピッピッピッ…
現在部屋の中にいるのはターゲットも含め合計で12人。スリープクラウドで眠らせてもよいが密閉された空間なためこちらにも霧が来る可能性がある。一応対象選択はある程度できるので問題はないが、地下は基本的に風メイジにとって不利な場所なだけあってことは慎重に行うべきだ。そうこうしているうちに扉が開き始める。
ゴゴゴゴバシャア
「うわ!な、なんだあ!?」
「・・・!」
「中から水がこんなに!排水ポンプを作動させろ!」
「了解!」
「・・・これは。」
中から大量の水が漏れ出してきた。床があっという間に水浸しになるが、元々地下ということで雨水対策用の排水ポンプが常備されているようで、それを起動して何とか部屋全体が浸水する事態は避けられた。
完全に扉が開くと中にはうつ伏せになって倒れている人影があった。
「ハルドゥエラ様!」
「・・・。この様子では・・・。」
「・・・ダメです。もう亡くなられています。」
「中から水が大量に出てきたということは溺死か。」
「そのようです。・・・クソッ!なんでこんなことに!」
「ここはいい。上のシモンズに伝えてこい。」
「はっ!了解であります!」
タッタッタ…
「お前たちも仕事にもどれ。半分は建物の警備を固めろ。」
「了解!」
彼はテキパキと指示を飛ばしていた。12人居た兵士のうち6人が私の側を通り抜けて地上へ上がっていった。残りはターゲットを含めて6人だ。この程度なら・・・。
私は一人離れて壁に何かを書いている兵士を発見した。他の5人は・・・全員手元か別の方向を向いている。私は“サイレント”をかけた後、すばやく近づき兵士のすぐ後ろを通り抜ける。通り抜けるついでに当身を食らわせる。
ゴッ
「うぐっ!」
当身を食らわせつつ反対側の物陰に隠れ、当て身で気絶した兵士が倒れ込む前にレビテーションで支える。そしてそのまま近くの箱の裏に隠れてもらう。
「ん?あれ?あいつ何処行った?」
「あ?あれ?さっきまでそこで資材残量チェックやってたはずなんだが・・・。」
「ちょっと見てくるわ。」
「ああ。頼む。」
もうひとりが近づいてきた。私は物陰に隠れつつ丸い氷塊を作った。ウィンディアイシクルの応用である。兵士が辺りをキョロキョロ見回しながら近づいてくる・・・今!
シュ ゴッ
「ぐあ!」
氷塊を頭部に命中させ気絶させる。倒れ込むが、またすかさずレビテーションで支える。少し声が出たがサイレントのおかげで聞かれていないようだ。先程の兵士と同じところに寝かせると残りの兵士を確認する。
残りはターゲットを含め4名。残りの3名の兵士のうち2名は同じテーブルを囲んで何かを話し合っており、もうひとりは先程セーフルームで死んだ男の死体を片付けている。ターゲットは少し離れたところでその作業を見守っている。
ここは一気にかたをつけるために、強硬手段に出ることにした。私は机のすぐ横まで移動すると机に居る二人を一気に吹き飛ばしにかかる。
“エアハンマー”
「ぐあ!」
「ぎゃあ!」
ガシャーン
「ん?なんだ?」
「・・・?」
“ウィンド・ブレイク”
「ぐわ!!」
「なに?!」
机の二人をエアハンマーで壁際までふっとばした。流石に近すぎたようで気が付かれたがそのまま続行する。そのまま流れるようにウィンドブレイクで残りの一人の兵士を奥へ吹き飛ばした。私は空中に氷の矢を生成しつつ、ターゲットの目の前に躍り出た。
「な、何だお前は!」
「これで終わり。」
“ウィンディアイシクル”
「なっ!ぐおおお!!」
ザシュ
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『対象の心肺停止、確認。任務更新、新たな任務を通達、作戦地域より離脱せよ。』
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終わった。私は慎重に階段を登り地上へ顔を出す。入口のある部屋には人影はなかったが部屋の外には数人の兵士が確認できた。どうやら気が付かれては居ないようだ。
部屋の入り口には兵士が立っているようだったので窓から出る。そのまま来た道を戻るように市街地を抜け、川までたどり着き、ここに来るときに使ったゴムボートを使って脱出した。
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~3日後~
『じゃあ結果を発表するわね。』
「・・・。」
『タバサ。あなたは・・・75点。まあ及第点ってところね。』
「・・・。」
『減点の理由はやっぱり交戦状態になったことが原因ね。意外にもブルーやシルバーより点数が低い結果になってしまったわね。』
「じゃああのセーフルームで溺死していた死体は。」
『ブルーが暗殺したターゲットね。彼女は今回うまくやってたわ。ほんとに、交戦状態にならなければ彼女たちを上回っていたのにね。』
「・・・あそこで敵の気配を読み間違えなければ問題なかった。」
『まあ、アレはある意味しょうがないとも言えなくはないわね。』
「・・・?」
『ともかく、これで試験は終了。今はゆっくり休みなさい。』
「この結果で今後の仕事内容が変わる?」
『そうとも限らないわ。上層部が実力を見たいだけだったようだし、実戦経験という意味では2人よりあなたのほうが上だしね。』
「・・・そう。」
ミッションコンプリート
・「北花壇の斥候」 +1000 『敵司令部の情報を入手する。』
・「眠り姫の誘惑」 +1000 『10人以上を眠らせる。』
・「ジャッキータバサ」+3000 『5人以上を気絶させる。』
・「砂漠の亡霊」 +3000 『ターゲット排除後、気が付かれずに脱出する。』
次回はシルバーsideです。