HITMAN『世界線を超えて』   作:ふもふも早苗

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HITMAN『ICAの試験 ~side.シルバー~』

『よく来たな!シルバー!ここはアサダーバードだ!』

 

『今回の任務は・・・あーなんだっけ・・・。ああそうだ!ココらへんに居るなんかやばい連中に加担してるアメリカ人を殺すことなんだそうだ。今書類見たから俺も今知ったけどな!』

 

『名前はパーティ・シナモンって奴だ!なんだか愉快なコメディアンみたいな名前だな!・・・・え?違う?何処が?・・・ああ!パーリー・シモンズだ!何ちょっとしたジョークだよジョーク!でもシナモンのほうが覚えやすいし親しみやすいと思わないか?軍事顧問が親しみやすい必要はないかもしれないけどな。』

 

『依頼主の情報も言ったほうがいいか?任せておけ。えー・・・あー・・・アレだ。あの五角形の・・・ああ思い出したペンタゴン!そうペンタゴンだ。そこのお偉いさんからの依頼だとさ!なんでかって?それはこの長ったらしい文章を読まなきゃならねえから勘弁してくれよ。』

 

『ああそうそうこれだけは伝えておけって念押されてたんだ。今回の任務はな、ターゲット以外は殺しちゃいけないんだそうだ。全く面倒なもんだな?なんでかって?上の命令なんだ俺が知るわけ無いだろう!』

 

『準備は一任するぜ。頑張ってこいよ!』

 

 

 

 

 

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なんだろう。何故かやたらフレンドリーというか大雑把なオペレーターに送り出された気がする。ともかく俺は今アサダーバードという町に来ている。どうやらここに居るオペレーター曰く“やばい連中”に加担しているアメリカ人、パーリー・シモンズがターゲットだ。

 

今回は47も居なければ姉さんも居ない。完全に一人のミッションだ。しかも相手は武装組織のお偉いさん。容易なことではないだろう。俺は街の西側から潜入している。この街は東西に広く市街地が分布している。そのため隠れられる所も多いが、不意なエンカウントも多いと予想される。十分に注意しなくては。この世界ではポケモンバトルなど生易しいものは行っていないのだから。

 

市街地は建物が多いが人はほとんど見かけない。長年続いた内戦とゲリラの暗躍によってゴーストタウンと化している。崩れている建物も多く、屋根が抜け落ちている建物もあった。俺はそんな中を曲がり角に来るたびに用心しながら進んでいく。

 

山を完全に降り、中心部と言えるような場所にやってきた。そしておそらくターゲットが居ると思われる場所も見えた。内戦の影響で営業をやめたスーパーマーケットのようだ。俺は正面方向から近づいていく。

 

 

「あーあ・・・腹減ったなあ・・・」

「!」

 

 

スーパーの前の駐車場の外周には塀があり、その更に外側を一人兵士が巡回していた。危うく姿を晒すところだった。だがよく見るとその兵士は俺と対して背丈に違いがない。これはチャンスだ。

 

 

「出てこい、ドンカラス。」ガー

「ドンガラス、あの兵士に“ふいうち”だ。」ガー

 

「ん?何だこの音・・・うわ!」ドゴ

「よしうまく行った!よくやったぞドンカラス。」パシューン

 

 

ドンカラスのふいうちでうまく当身の要領で気絶した兵士を倒れる前に抱え、そのまま後ろ向きに路地裏に引きずり込んだ。よし、この服をうばってこの兵士になりすませば・・・

 

 

ビー

「6-7-4、こちらG-1、何をしている。状況を報告せよ。」

 

 

不意に何処からか声が聞こえてきた。こいつの無線機からだ。どうやら何処からか見えていたらしい。どうする。声でバレるかもしれない。でも今からこいつを叩き起こして応答させるわけにも行かない・・・。

 

 

「6-7-4、応答せよ。」

 

 

考えている余裕はない。バレて元々だ。俺は無線に応答した。

 

 

「・・・あー、こちら6-7-4。」

「6-7-4、そんなところで何をしている。通常の巡回ルートから外れているぞ。」

「あー、えーと・・・少し気になるものを見つけたもんで。大丈夫、すぐ戻る。」

「ううむ・・・G-1了解。早めに戻るように。」

「6-7-4、了解。」

 

 

危ないところだった。なんとかごまかせたようだ。早く巡回ルートとやらに戻らねばならない。俺はこいつの服を剥ぎ取り着替えた。気絶した兵士は一応手足を縛って近くのゴミ箱に入れておいた。銃を持って巡回ルートに復帰する。ああ、あいつか。スーパーの屋上に兵士がひとり立っていた。あいつに見られたらしい。

 

ポケットの中に巡回ルートを記した紙が入っていた。書いてあるとおりの巡回ルートに従って巡回すれば問題は無さそうだ。

 

 

「CPより各小隊へ。アサダーバードに不審人物が少なくとも3名侵入したとの報告あり。厳重に警戒せよ。」

 

 

指令センターからの指令が来た。侵入が発覚したらしいが3名とはどういうことだろうか?俺の他に3人組で侵入してきているのが居るのだろうか?若干不安になりつつも巡回ルートを急ぎ足で回る。するとまた通信が入った。

 

 

「6-7小隊全員へ、こちら6-7-1。HQから通達だ。6-7小隊はこれより臨時で本部警備に回される。各員定例巡回を中止し、本部へ帰還せよ。」

「6-7-4了解。」

 

 

先程の侵入者のおかげで本部へ潜り込むことができそうだ。俺はスーパー跡に向かった。

 

 

 

 

問題が発生した。どうやら入り口で帰還する兵士一人ひとりの顔とIDをチェックしているようだ。6-7小隊と思われる兵士が次々とチェックをパスして中にはいっていく。遠目で見る限り、手元のチェックリストに記載していく形式のようだ。あのチェックリストさえ強奪できれば・・・。あまり長い間もたつくのは不審に思われる危険性が有る。早めに対処しなければならないが・・・。

 

中から別の兵士がぞろぞろと出てきた。俺はとっさに身を隠す。どうやら2個小隊が侵入者の排除に向かうようで、それぞれが別々の方向へ走っていった。あまり広くないと思われるこの建物で2個小隊が出払ったということは中は今手薄になっていると思われる。仕方がない。強行突入することにしよう。

 

 

「出てこい、オーダイル。」ガウー

「オーダイル。あの入り口の兵士にむかって“ハイドロカノン”だ。」ガウー

 

 

バシュンバシュン

「うわ何だこのぼぉ!」

「お、おい!だいじょごぼぉ!」

 

「いいぞ。よくやった。戻れ。」パシューン

 

 

オーダイルのハイドロカノンによって兵士二人は水の塊と一緒に壁に叩きつけられ気絶したようだ。俺はすばやく駆け寄ってチェックリストを奪取。備え付けのボールペンで6-7-4の項目にチェックを付けた。それを放り投げると俺は何食わぬ顔で基地内に潜入した。

 

 

 

基地内は慌ただしく、スーパーの奥の倉庫の付近では兵士が忙しく出入りするのが見えた。・・・ん?気のせいか懐かしい雰囲気が有るような・・・。しかしこんな荒れ果てたスーパーはおろか、幼い時は買い物にすらロクに行ったことのない俺にとって懐かしいと感じるのはおかしな話だ。この感覚はなんだろう・・・?

 

ともかく、俺はそのまま一緒に倉庫内に侵入し、何か使えるものがないかを探した。すると奥の棚に調味料関連が箱に入ったまま放置されているのを発見した。俺は箱を開けて中を見てみるとパッケージにはアラビア語でトマトペーストと書いてあった。しかし透明な容器に入れられたその自称トマトペーストは明らかに腐敗しており、色も青緑に変色していた。使えるかもしれないので一応とっておく。別の棚には殺虫剤などが置かれていた。モグラ用のホウ酸団子などもある。俺はその中から見知ったパッケージの殺鼠剤を取り出した。よし、このくらいでいいだろう。ターゲットを探すことにする。

 

俺は2階3階と上がっていき、司令室を発見した。この格好のおかげで小隊メンバー以外にはバレ無さそうなのでそのまま中に入った。中には何人かの兵士とターゲットが居た。

 

 

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『お、ターゲット発見したのか!やるじゃねえか!そいつがパーリー・シモンズってヤローだ。さあ一発ドカンとぶちかましてやれ!』

 

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こんなところでぶちかましたら間違いなく大騒ぎだ。このオペレーターは何処か抜けてる気がするな。俺は自然体で部屋の隅の壁際に立って警備を装った。

 

 

「北方向から1名、南方向から1名、西方向から1名だ。それ以降の足取りはまだ掴めんのか。」

「今第4小隊と第5小隊が捜索に向かっています。第1小隊は地下司令室防衛。第2小隊は東側の警戒を行わせています。」

「司令部の警備は。」

「は、巡回中だった第6小隊を呼び戻して警備に当たらせています。」

「第6は少人数だから致し方ないか・・・。」

 

 

ターゲットたちが作戦会議を行っているようだ。どうにかして不意が打てればいいのだけど・・・。どう始末するか思案していると外から銃声が聞こえてきた。

 

 

 

ダダダダダダ

 

「!?何事だ!」

「CP、CP、こちらHQ。周囲での発砲音の詳細を報告せよ。」

「HQ、こちらCP。現在第4小隊が南側で不審者を発見した模様。交戦状態に入っています。」

「応援は向かわせたか。」

「応援はすでに向かわせています。第7小隊と第5小隊が現地に急行中です。」

「了解。引き続き警戒しろ。」

「CP了解。」

ダダダバァーン

「くっ!お前たち!全周警戒!」

「はっ!」

 

 

しめた。部屋の人員は混乱して窓の外を警戒し始めた。今ターゲットの周囲はがら空きだ。が、ターゲットをここでやるには、流石にまだひと目が多すぎる。しかし彼の飲んでいたお茶には誰も目もくれていない!

 

俺はすばやくターゲットの近くに近寄り、お茶に殺鼠剤を混入させた。俺はそのままターゲットに話しかける。

 

 

「シモンズ様。ここは危険です。お下がりください。」

「なに?!俺は軍人だ!この程度で引き下がってたまるか!」

 

「敵兵!ロストしました!」

「ちっ!第7小隊を追撃に回せ!第5小隊は第4小隊と合流の後速やかに本部まで撤退してこい!」

「了解!」

 

 

俺は混乱している部屋から気が付かれないように静かに廊下に出る。そしておそらく駆け込んでくると思われるトイレに身を潜めることにした。47直伝のあの暗殺法を試してみようと思ったのだ。

 

 

トイレに入った俺は愕然とした。誤算だった。まさかトイレに水がないとは思わなかったのだ。どうする・・・。もうすぐターゲットが来てしまう。水を補給するのは簡単だが普段無い水が補給されていたら不審に思われる可能性もある。俺はトイレ内になにかないか探した。

 

 

 

これだ。用具入れの中に何に使うかよくわからないがロープが仕舞ってあった。これを使うほかないだろう。外では銃撃戦が終わったようだ。また周囲は静けさを取り戻す。

 

 

 

 

しばらく待っているとトイレに駆け込んできた人物が居た。ターゲットだ。口を抑えつつ一番手前の個室に入っていった。俺は静かに後ろから近づき、一気にロープをターゲットの首にかけ腰で背負うようにして首を絞めた。ターゲットは声も出せずにもがいているがすぐに動かなくなった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『・・・お?ああ、終わったか?・・・うん!パーリー・・・なんだっけ?まあいいや。そいつの死亡を確認したぜ!やったな!じゃあとっとと帰ってこいよ!』

 

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このオペレーターはやる気があるのだろうか?まあともかく、目的は達成したので後は逃げの一手だ。俺は首を絞めるのに使ったロープをトイレの窓から垂らして特殊部隊のようにラペリングして降りた。そしてそのまま近くの塀を乗り越え路地裏に入った。

 

 

 

・・・この感じ・・・どこかで・・・。思い出した!姉さんがバトルをしているときの感覚に似ているんだ。でも何故ここでその感覚が?疑問に思いながら路地を走る俺は路地の裏に倒れている兵士を発見した。そのそばには見慣れた足跡が有る。・・・そうか。侵入者ってのは姉さんのことだったんだ。あの足跡は間違いなく姉さんのニドクインの足跡だろう。何だやっぱり近くに居たんじゃないか。心の奥底に引っかかっていたトゲが一つ取れた気がした。

 

 

俺は姉さんの足跡をたどるようにして市街地を脱出し、ICAの迎えの車両に乗って脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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~3日後~

 

 

 

『結果を発表するわ。』

「・・・。」

『シルバーの点数は80点。合格ね。お姉さんには及ばなかったけれど。』

「やっぱり姉さんもあそこに居たんですね。」

『あら、やっぱり気づいてたのね。最後にあなたが通った帰還ルートを見れば当然か。』

「あの感覚、あの足跡、あの風。みんな姉さんを暗示していました。間違えるはずはないです。」

『あんまりそういうのは本人の前では言わないようにね。』

「何故ですか?」

『ストーカーと間違われるわよ。』

「!?」

『まあいいわ。あの時47に見つかっていなければほぼ満点だったんだけどねえ。』

「47もあの場に居たんですか?」

『あら、そっちは気が付かなかったのね。それが気がつけるようにならないと47には追いつけないわね。』

「・・・。」

『まあともかく今はゆっくり休みなさい。あなた。この3日間ずっと怖い顔してるわよ。』

「そう・・・ですか?自分では普通の顔していたつもりなんですが。」

『あなた初めて人を間近で殺したでしょう。その影響ね。』

「・・・。」

『ブルーと一緒に今は休んでいなさい。これは命令よ。』

「わかりました・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「銀色のピエロ」   +1000 『敵兵に変装する。』

・「いらっしゃいませ」 +1000 『敵本拠地に正面から侵入する。』

・「過去には頼らない」 +1000 『マニューラを使わない。』

・「最も基本的な方法」 +3000 『ターゲットをワイヤーで絞殺する。』

 

 




2019/06/17追記
2~3話前に突発的に思いついた趣向だった気がします。

次回はブルーsideです。

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