いつもより残酷な描写があるかもしれません。ご注意ください。
『アラスカへようこそ。47。』
『ここはアラスカ南部のアメリカ軍のエルメンドルフ空軍基地。ロシアからアラスカの防空を担っている主要基地の一つ。今回のターゲットはここの指揮官。アーノルド・ホリンズ空軍大将。齢70にして未だに現役の軍人で、冷戦期には戦略航空軍団を指揮した経験のある人。彼はペンタゴンの最高機密情報を持っているという情報も入っているわ。可能ならばそれも奪取して。』
『クライアントは中国国家安全部のとある高官。ロシアと共同で北太平洋の米空軍戦力の弱体化が目的みたいね。』
『今回はもう一つやってほしいことがあるの。以前、ラグドリアン湖で水の精霊から“水精霊の涙”を分けてもらったでしょう?それと世界樹の葉で得られた知見を元に、技術部が新薬を開発したのよ。と言っても何のことはないちょっと強力な睡眠薬ってだけだけれど。特徴は対象を選んで眠らせることができるという点ね。後かなりの少量でも広い範囲に効果を発揮するみたいだから気をつけてね。一応デフォルトで47には効かないようにセッティングはされてるから、敵を眠らせるつもりが自分までなんて自体にはならないはずよ。その薬の実地試験もお願いね。』
『準備は一任するわ。』
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寒い。流石に12月夜のアラスカは凍えるくらいに寒い。町に設置されていた街頭温度計ではマイナス11度を示していた。
今回持参した新薬は栄養ドリンクのような容器に入った液体だ。技術部曰く振りまけば簡単にエアロゾル化するらしく、また冬のアラスカのような極限状態でも効果を確実に発揮するらしい。現にこの液体は現地で回収した際、路上にぽつんと放置されたアタッシュケースに入っていた。アタッシュケース自体がすでに凍っており、試しにそこらにあった石で軽く叩いてみるとアタッシュケースはばらばらになってしまった。しかし新薬はその中に対した保温装備もないにもかかわらず凍らずにその中にあった。
私は今、エルメンドルフ空軍基地の南にあるジャンクヤードに居る。通常ならばすぐ傍を通る道を進んで検問を通って中に入るのだが、深夜1時に軍事基地に入ろうとする観光客など居るわけがない。よって門前払いは確定だろう。
道の向こう側には基地内まで続く貨物線路が有る。私は道を渡り、貨物路線内へ侵入した。現在路線には1編成の貨物列車が停車しているだけである。私は貨物列車の間をすり抜けそのまた向こう側の森のなかに入る。森と言ってもそこまで広くはない。
少し歩けば軍事基地の外周フェンスまでたどり着いた。私は持参した液体窒素スプレーを金網に円を描くように吹き付ける。一拍居てから中心部分の金網を少し押し引きしてやれば液体窒素によって凍りついた部分が壊れて金網に丸く穴が空いた。私はそこを通り抜けて基地内に侵入した。
基地内は広く、巡回の警備員や兵士も殆ど見えない。代わりに電信柱などの柱3本に1箇所の割合で監視カメラが設置されていた。私はそれをうまく避けるようにして進む。茂み、放置された車両、機械、家やゴミ箱まで駆使して隠れては周りを確認して進み、また隠れるを繰り返した。1時間ほど繰り返したのちやっと滑走路までたどり着いた。滑走路の側に大きめの建物がある。私はその建物に慎重に近づいた。道路を挟んで向かいの茂みまで到達したところで、不意に横についていた扉が開いた。
「ふぅ~・・・ったくよ。スモーカーにも優しくしろってんだよなあ・・・何が禁煙キャンペーンだよ・・・。」
中から兵士がタバコを吸いに外へ出てきた。周辺には監視カメラもないため大手を振ってタバコが吸える数少ない場所なのだろう。
私は近くにあった小石を取ると少し離れた草むらに向かって投げた。
ガサッ
「ん?なんだあ?猫だったら捕まえなきゃならんから止めてくれよぉ?」
うまくおびき出すことに成功した。私は気づかれないようにそっと後ろから近づき、首を絞めて気絶させた。気絶させた兵士を草むらまで引きずり、草むらの中に隠すと、服を借りた。
首尾よく服を借りることに成功した私は、彼が出てきたドアから内部に潜入した。彼が出てきたのは休憩室だった。今の御時世は休憩室ですら禁煙になっているのか。私はなにか役立つものがないか探した。休憩室にはプラスチック製の長テープルとパイプ椅子、雑誌やコーヒーメーカー、軽食のドーナッツまであった。しかし、その中で役に立ちそうなものと言えば簡易シンクに置いてあった果物ナイフとハサミくらいだろうか。とりあえず私は果物ナイフを懐に忍ばせた。
休憩室のドアを慎重に開け、廊下に出た。廊下は殺風景な空間が広がっており、窓はなく、ドアがいくつか有るだけだった。私は向かい側のドアを開ける。向かい側は読書コーナーのようなスペースだった。おそらく休憩の一環に読書を楽しみたい兵もいるのだろう。しかし今は深夜ともあって人どころか明かりすら点いてはいなかった。私は窓が無いことを確認して明かりをつけた。再び役に立ちそうなものを探す。
本はごくごく普通の図書館といった風の本しか置いておらず、役立ちそうなものはなかったが、一番奥の壁に施設図が飾られていたのを発見した。この地図によると、管制塔兼指令センターは隣の建物らしい。指令センターは深夜と言えども夜勤の兵が居るはずなので潜入には危険を伴うが、サブ目標である重要情報を取得するためには行かざる負えないだろう。私は図書室を出て一旦外へ出ることにした。
外に出た私はまず隣の建物を確認した。3階建てで横に広く、管制塔がその上にそびえ立っているのが見える。っと、私はその管制塔の外周部にむき出し状態の階段があることに気がついた。おそらく非常階段なのだろうが、うまくすれば管制塔に潜り込むこともできるかもしれない。私は建物の屋上に登るすべを探した。
私は建物の外壁に雨樋のパイプが伝っているのを発見した。私はそのパイプを使って壁を登る。老朽化などはしていないようだが、なにぶん細いパイプだ、壊さないように慎重に上った。数分後、なんとか屋上までたどり着くことに成功した。管制塔の非常階段には当然のように鉄格子の扉があったが、簡易的な鍵であったので解錠するのは容易だった。扉を開け、管制塔の外周を登る。最上部では窓のない扉の先に管制室があった。しかし、管制室では管制官や兵士が少なくとも5人はいた。比較的狭い室内に5人もいられると、ひとりずつおびき出して倒すのは至難の業だろう。
私はドアは開けずに手すりを踏み台にドアの上へ登った。窓枠や外観の出っ張りなどを駆使し、管制塔の上へ到達した。案の定管制塔の上には管制室用のエアコンの室外機があった。私は果物ナイフをドライバー代わりに室外機の外装を外し、中に通じるビニール製の管を見つけた。その管を果物ナイフで少しだけ切ると、技術部が今回渡してくれた“新薬”を少しだけ中に入れた。量にしてみたら本当にスプーン1~2杯程度だろう。私は室外機に適当にカバーだけした後、縁から身を乗り出して管制室の中を覗いた。
管制室の中では5人全員がその場で崩れ落ちるか制御盤に突っ伏す形で眠りこけていた。効果は抜群といったところか。私は屋根から降りて管制室の扉を開けた。開けた途端、甘い香りが中から漂ってきたが、私は眠くなることはなかった。
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『実地試験は成功のようね。効果範囲内の人間が眠り、47は眠らない。これだけでも十分利用価値が有るわね。』
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無事実地試験も終了したので管制室のコンピュータを使って情報を漁る。殆どが他愛のない日報や整備状況やフライト計画でしかなかったが、私はディスクごと暗号化されている場所を発見した。暗号コードが分かれば開くことはできそうだ。ひとまず、暗号化されている部分も含めてまるごとICA本部へ転送することにした。
データアップロード開始・・・。完了。解析自体は向こうがやってくれるだろう。少ししてから通信が入る。
『データを受信したわ。殆どが行動計画や演習計画、軍事訓練計画なんかね。』
「問題の部分はその暗号化されている部分だと思われる。」
『そうね。しかし無理にこじ開けようとすればデータそのものが消滅しかねない。ここはパスワードを手に入れるほか無さそうよ。丁度持ってきてくれたみたいだし。』
「ああ。車列を確認。4台のハンヴィーだ。」
『衛星で確認したわ。その2台目のハンヴィーにターゲットのアーノルド・ホリンズ大将が乗っている可能性が極めて高いわ。どうにかして彼からパスワードを引き出してそれから暗殺して頂戴。』
「了解した。」
『今確認した情報によると、ターゲットはこのまま朝までこの基地に居て、明日の朝一で戦闘機でパールハーバーへ向かうみたい。』
「ということはタイムリミットは明け方か。」
『ということになるわね。でもこれから彼は仮眠するだろうからやりやすくなるんじゃないかしら。』
「だといいがな。」
私は管制塔をでて非常階段を急いで降りた。私が階段を降りきって建物の端に伏せるのと、ターゲットの車列が建物の前に到着するのはほぼ同時だった。車列から続々と兵士が降りてくる。その数軽く見積もっても10人以上はいる。その中心にターゲットは居た。
「では諸君、私は少し休ませてもらうよ。明日はよろしく。」
「了解しました。警備はお任せください!」
ターゲットはそのまま建物の中に入っていった。外には2名兵士が配置されたのを確認し、私は屋上から階段を降りて内部に侵入した。
先程見た施設図を思い出すと、仮眠室は2階にあったはず。私は慎重に階段を降りて、3階から階段の間にある隙間を使って下を覗き込むと、丁度ダーゲットが1階から2階へ上がってくるところだった。ターゲットの他にも2名ほど着いてきているようだ。
私はそれ以上上ってくる兵士が居ないことを確認すると、静かに2階へ降りた。階段から廊下を慎重に覗くと、仮眠室の前で兵士が2名仁王立ちで警戒しているのが見えた。私は少々もったいない気もしたが技術部からもらった新薬の瓶を蓋を開けたまま彼らの方へ転がした。
カラカラカラ…
「ん?なんだこれ?」
「どうした。」
「いや、なんか瓶がこ…ろが…っ…て…」バタッ
「お、おい!どう…し…た…」バタッ
首尾よく二人共眠ってくれた。新薬は全て流れ出てしまったようだが。私は近くによって瓶を拾い上げると、そのまま仮眠室へ入った。
仮眠室にはベッドがたくさんおいてあったが、使われているのは一つだけのようだった。私はその一つだけ使用中のベッドへ歩み寄り、かかっている毛布ごとターゲットを引きずり倒した。
ガバッ
「ふあぁ?あああ!」ドタッ
「ふっ!」
「ぐあ!な、なんだ!」
いきなり叩き起こされて混乱しているターゲットを無理矢理起こして羽交い締めにする。そして懐から出した果物ナイフを喉に突き立てる。以前スネークが行っていた尋問方法である。
「機密ファイルのパスワードは?」
「な、何だお前は・・・」
「答えろ。」
「は、話すわけがないだろう!」
「そうか。わかった。」
「えっ?」
私はベッドに彼顔面を押し付けて声を上げさせないようにしてから彼の右手の人差し指を切り飛ばした。
ザシュッ
「むごおおおおおおおお!!」
「まだ指が残っているうちに答えろ。」
「ぷはあぁぁ・・・わ、わかった・・・。」
「機密ファイルのパスワードは?今すぐ確認する。嘘を言ったときは・・・。」
「わ、わかってる!やめてくれ!パスワードは【1f4ds4b58d5】だ。」
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『47,ファイルが開いたわ。サブ目標は達成よ。』
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「パスワードは合っていたそうだ。良かったな。」
「はあ・・・はあ・・・うぐぐ・・・。」
「今、楽にしてやろう。」
「ぐお!ぐはっ・・・。」
私は手を抑えてうずくまっていたターゲットを無理矢理羽交い締め状態にすると、果物ナイフを今度は深く首に刺した。声帯と動脈が切られ、血が噴水のように吹き出し、辺り一面を真っ赤に染めてターゲットは動かなくなった。
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『ターゲットの死亡を確認。ご苦労さま。帰還して頂戴。』
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私はターゲットをそのまま放置し、仮眠室を出た。建物の1階出入り口には警備兵が立っているため出ることは出来ない。私は一度屋上に戻ると、登るときに使用した雨樋のパイプを使って降りた。再度茂みや建物、廃車などを使って移動する。しかしここは基地の中心。脱出するにはまたかなり長い距離を歩かねばならず、その間に警戒態勢になると余計に面倒だ。なので手っ取り早く基地の中心から脱出することにした。
私は滑走路の横に併設されているバンカーにやってきた。中にはいつでもスクランブル発進できるようにと駐機されているF-16があった。そばに置いてあった対Gスーツとヘルメットを借りて乗り込む。スクランブル用なのでキーは挿しっぱなしだ。私はエンジンを点火させる。凄まじい轟音が鳴り響くがここまで来てしまえば正直バレようが何しようが関係はない。管制塔は全員眠りこけている。
私は滑走路に移動する前に誘導路の時点から加速を始め、半ば無理矢理に離陸、低空飛行でレーダーを避けつつ脱出した。
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~2週間後~
「それで。解析は終わったのかね。バーンウッド君。」
『はい。情報部が総力を上げて解析した結果、米軍の新型兵器に関する情報が記載されておりました。こちらが資料です。』
「・・・。新型・・・と言っていいのかなこれは。」
『基礎理論は以前からあったものですが、完成すれば驚異となるのは間違いありません。』
「ふむ・・・それはまあそうだが。となるとあの計画は予定通りということか・・・。」
『・・・。』
「わかった。予定通り計画を進めたまえ。」
『了解しました。現在目下捜索中です。もし完成しているとすればその奪取や破壊もやむなしかと。』
「わかっている。そのあたりは君に一任しよう。うまくやってくれたまえ。」
『はっ。』
「これが我々のものとなれば、プロジェクト23265も大きく前進するだろう。」
『・・・。』
「ダイアナ・バーンウッド。ICA上級委員会No.3の名において命じる。本作戦を“カテゴリLOG”として承認。遂行を許可する。」
『承知いたしました。』
ミッションコンプリート
・「赤いリンゴのような」+1000 『果物ナイフを使ってターゲットを暗殺する。』
・「もう助からないぞ」 +1000 『管制塔を制圧する。』
・「伝説直伝」 +3000 『ターゲットを尋問する。』
・「王の間の赤い絨毯」 +3000 『ターゲットの寝ているベッドをターゲットの血で染める。』
パスワードは誕生日や意味のある文字列などにはせず、英字と数字が混じった意味のない無作為な羅列にしましょう。
次回は別アプローチです。