『ミッドウェー島へようこそ。47。』
『今回のターゲットは深海棲艦に殲滅されたこの島の唯一の生き残りであるアンドリュー・チェリス少尉。現在は日本の艦娘によって奪還されたこの島で、現地司令官の軍事顧問として生活しているわ。』
『クライアントは日本国大本営。彼らの計画においてターゲットの存在は邪魔でしか無いけど、現地の指揮官や艦娘に慕われている彼をむやみに処刑できないため抹殺依頼をだしたようね。』
『準備は一任するわ。』
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「お兄さんもアメリカの人っぽい?」
「いや、私はヨーロッパの方から来た。」
「そうなんだ。じゃあレーベとマックスを知ってる?」
「名前だけなら聞いたことがある。」
「今度紹介してあげるよ。いい子たちだから。」
「この艤装も彼女たちのものなのだろう。後で直接会おう。」
私は今、島の中央部にある滑走路の脇で艦娘たちの艤装のメンテナンス作業を行っている。欧州から派遣された臨時整備員としてこの島に来ているためだ。欧州から派遣された艦娘たちはそれぞれ各国独自の進化を遂げた艤装を装備しているため、艦娘発祥の地である日本でも完璧には整備できないらしい。そこで欧州から整備員が派遣されることになったわけだ。私はその整備員を舞鶴で発見し、こうして入れ替わっているというわけである。
艦娘たちが暇を持て余して私の周りでメンテナンス作業を見学している。この島には娯楽が少ないためこんな油臭い作業でも一種の娯楽足り得るらしい。しかし私が黙々と作業をしていると一人また一人と飽きて何処かへ去っていった。その内回りに居るのは一人だけになった。彼女たちからは“吹雪”と呼ばれていた子だ。彼女だけは熱心に私の作業を最後まで見ていた。
「・・・ふぅ。」
「終わったんですか?」
「ああ。それより何故君はこんな地味な作業をずっと見ていたんだ?」
「え?ああ・・・私、こう見えても駆逐艦たちのまとめ役をしているんです。最近入ったレーベちゃんとマックスちゃんのこともっとよく知っておかないとと思って・・・。」
「ふむ。熱心なものだ。しかしそれならば本人たちと一緒に行動するほうが遥かに親睦が深められると思うのだが?」
「あ・・・そ、そうですね。私ったら・・・。」
「早く行ってやるといい。こちらはもう片付けてしまう。」
「はい。あの・・・ありがとうございました。」
「礼を言われる覚えはないが。」
「あ、そうですよね。あはは・・・。じゃあ。」
「ああ。」
何故か彼女は苦笑い状態のまま走り去っていった。私は指定されていた倉庫に整備した艤装を戻すと行動を開始した。まずはターゲットの位置を確認し無くてはならない。私は艦娘たちが多くいる詰め所へ向かった。
詰め所と言ってもプレハブ小屋の建設現場の休憩所のようなところである。彼女たちは一様に母港となる鎮守府や泊地があり、ここへは周辺海域での作戦遂行のために一時的に停泊しているだけに過ぎない。この島に住んでいるのは、ターゲットを除くと日本の整備員数名程度である。
詰め所には何人かの艦娘たちが談笑していた。私は窓を少しだけ開けて聞き耳を立てた。
「それにしてもアレは何だったんですかね?」
「アレってなんデース?」
「えっと、この島から西に500キロほどのところを定時哨戒していたときです。水平線の向こうで何かが光ったんです。」
「何かの爆発とかですか?」
「かもしれないわ。光った後に地鳴りのような音がしたから・・・。」
「キリシマお得意の情報はないんですカー?」
「お姉さま。私とて万能ではありませんよ。」
「そういえば西南西400キロ地点で輸送任務にあたってた17駆のみんなが言ってました。東の方でやたら尾の長い流れ星が見えて、直後に津波のように波が高くなったって。」
「隕石でも落下したのでしょうか?」
「サア・・・。私は見てないからなんとも言えないけド、特にその後以上もなかったんだから大丈夫なんじゃないですかネー?」
「だといいんですけど。」
「っと、そろそろいつもの配達の時間なので行ってきますね。」
「アア、もうそんな時間ネ。でもアレはそろそろ止めておいたほうがいいって言ったほうがいいネ。」
「私も何度も言っているんですけど、“これだけが楽しみだから”って言われちゃうとなんだか・・・。」
「まあチェリスさんもそんなに一気には消費してないみたいですし、そんな急激に体が悪くなるようなこともないはずですからね。」
「でもアレは分量間違えると即死するレベルの毒性も持っていますからそこらへんだけは注意するように言っておいてくださいね。」
「わかっています。ちゃんと分量を示した紙も同封していますから。」
####アプローチ発見####
「今の所問題はないようだからいいけどネー。」
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『ターゲットは駆逐艦吹雪に何か特別な食べ物を毎日決まった時間に届けさせてるみたいね。しかも分量を間違えると死に至るような刺激的なものを。吹雪ちゃんは忙しそうだし代わりに届けてあげたらどうかしら?』
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「では駆逐艦吹雪!第2倉庫からチェリス邸へ、ミドウガタケの輸送任務を開始します!」
「はい。いってらっしゃい。」
「早く帰ってくるデース。ご飯の準備をしておくネー。」
「はい!」
どうやらその食材は“ミドウガタケ”というらしい。名前からしてきのこ類だろうか。私は窓を静かに閉めると、表に回り込む。家から出てきたばかりの吹雪を見つけると走り寄った。
「吹雪さん。」
「あ、整備員さん。さっきはどうも。」
「吹雪さん。提督が臨時司令部に来るようにと言っておりました。急ぎのようらしいです。」
「え?本当ですか?どうしよう・・・これからチェリスさんに届けなきゃならないのに・・・。」
「提督はそれなりに焦っている様子でしたので早めに向かったほうが良いかと。」
「・・・わかりました。輸送任務を中断して向かいます。伝令ありがとうございます。」
「いえ。」
吹雪はそのまま進んでいた方向とは逆の方向へ走って行った。司令部まではそれなりに距離があり、往復には少なくとも30分はかかるだろう。私はその間に第2倉庫へ向かった。
第2倉庫と言っても外見はただの40ftコンテナである。内部を倉庫という名の物置に使っているだけのようだ。扉を開けると中には両脇に棚が設置されており、様々なものが陳列されていた。私は中にはいり、ミドウガタケを探した。
様々なものが陳列されていて探しにくかったが、中程に置いてあった木箱にミドウガタケの文字を発見した。しかし私の目的はこの得体の知れない食材ではない。この周囲にあるはずの・・・あった。ミドウガタケの摂取調整表と書かれている紙だ。どうやらこのよくわからない食材はその日の天候や気温、前日の摂取量などによって量が上下している。本日の摂取可能量は前日の3分の1である120gになっていた。
私は倉庫の隅にペンが転がっているのを発見した。ペンを取り先ほどの摂取調整表のグラム数を改竄した。多少無理があるかもしれない書き方になってしまったが、120gを420gに変えておいた。分量的には先々週に500g摂取している時があったので問題はないはずだ。もっとも、今日の分としては問題しか無いだろうが。
####アプローチ完了####
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『数字を書き換えるだけで人が死ぬ。人の命は些細なことで生きるか死ぬかが分かれるのよね。これでターゲットは摂取量オーバーになって死亡するはずよ。』
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私はペンを隅に放り投げると倉庫から出た。近くの茂みに隠れて様子をうかがう。しばらくすると吹雪が駆け足で戻ってきた。
「はっはっはっ・・・急がないと。でも司令官何の用事もないってどういうことだろう?じゃあなんで呼んだのかな・・・。」
司令官に呼ばれたと聞いて駆けつけるも呼んでないと門前払いされたか、少々不機嫌そうな顔で第2倉庫であるコンテナに駆け寄った。中に入ってすぐに先程の紙と木箱を持って出てきた。さすがは艦娘、4~5キロはありそうな木箱をまるで薄いファイルを持つかのような手軽さで運んでいる。
私は彼女の後を追うように中腰状態で尾行した。艦娘の感覚がどれほど人間より優れているかはわからないが、少なくとも常人のそれとは比べ物にならない位という想定のもと動く。見失うかどうかギリギリのところ、約300mほど開けて尾行する。幸いにして見失う要素となりえる路地や建物群などはここには無い。10分ほど尾行した後、彼女は一軒のプレハブ小屋に入っていった。私はすかさず距離を詰めると壁に張り付き中の会話に聞き耳を立てる。
「みんな言ってましたよ。これを食べるのはそろそろ止めたほうがいいって。」
「ああ。私もわかってはいるんだ。しかし、食べるのをやめると浮かんでくるんだよ。」
「浮かぶ?何がです?」
「この島に一緒に居た戦友たちの最後の叫びだよ。」
「最後の・・・。」
「ああ。私達は皆で塹壕に隠れながらこのきのこを食べて生きながらえたんだ。あのときも、みんなでこいつをパクついてるときに、彼らは来たんだ。」
「・・・。」
「・・・ああ、こんな話してもしょうがないな。今は前を向かないと。」
「いえ・・・私達も以前は似たようなことはありましたから・・・。」
「そういえばそうだったね。それで、今週はどのくらい食べられるのかな?」
「あ、はい。ここの紙に書かれてるとおりです。これをオーバーすると最悪の場合死に至りますので気をつけてください。」
「はいはい。その文言はお約束なのかい?」
「お約束ではなく、規定です。これは毎回口頭で確認するようにと厳命されていますから。」
「そうか。まあせいぜい死なないように気をつけるとするさ。」
「では私はこれで。・・・あ、明日なんですけど、明石さんが艤装のことで聞きたいことが有るので朝一で四号棟に来てほしいそうです。」
「おお、わかった。じゃあまた明日。」
「はい。」
会話を終えると吹雪は足早に小屋を後にした。小屋の中を窓から確認すると、さきほど彼女が運んできた木箱の前で紙を読んでいる男が居た。
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『アレが、アンドリュー・チェリス少尉。この島の悲劇の最後の生き残り。さあその悲劇に終止符を打ってあげましょうか。』
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ターゲットは紙に書かれている内容を一通り読むと、静かに紙を机においた。そのまま少し虚空を見上げたのち、おもむろに小屋を出ていった。
私はターゲットが出ていった後の小屋に侵入した。死亡しなかった場合に備えてなにか代替策になりそうな情報はないか探るためだ。私は慎重にタンスや戸棚、壁にかけてある絵画の裏などを探る。すると、机の裏の隙間からメモリーカードが出てきた。明らかに紛失したと言うよりも意図的に隠したそのメモリーカードの真意を考えていると、窓の外でターゲットが戻ってくるのが見えた。私は急いで小屋から脱出し、近くの茂みに再び隠れた。
ターゲットは外で野草のようなものを摘んできたらしい。棚から鍋とガスコンロを取り出すと料理をし始めた。野草と一緒にミドウガタケを入れる。その量は明らかに120gなどではない。そのまま小一時間調理したのち、完成したのかそのままその場で食事を取り始めた。その顔は美味しいものを食べている顔とは程遠い表情をしていた。鍋の中身をあらかた食べ終えたターゲットは食器類や鍋やコンロを片付け始めた。そう言えばあのきのこの毒成分が、どのくらいで効果を発揮するのかが確認するのを失念していた。
仕方がないのでそのまま夜になるまで様子を見ることにした。ターゲットは片付けを終えると、寝る準備をし始めた。軽くベッドメイキングを行った後に部屋の電気を消してベッドに入ってしまった。私は念の為3時間経っても変化がない場合は侵入して寝ているところを襲うことも考えた。しかし、就寝してからすぐに変化があった。
ベッドに入って数分後にうめき出した。胸を鷲掴みにして苦しみを耐ええようとしているようだが、過呼吸のような症状の後一気に落ち着いてベッドに沈んだ。ターゲットはもうピクリとも動かなくなった。
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『ターゲットの死亡を確認したわ。お疲れ様。その島から脱出して頂戴。』
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私は小屋を後にし、夜闇に紛れるように隠れつつ、港へ向かった。港には船舶こそ無いものの、その桟橋には水上機が何機か係留されていた。おそらく本土との連絡用だろう。私はそのうちの一つに入り、そのまま飛び立って脱出した。
操縦している最中にふと左ポケットに物が入っているのに気がついた。あまりに軽くて気が付かなかったそれはターゲットの部屋で見つけたメモリーカードだった。持ってきてしまったが、もとより隠していたものなので無くなっていても問題はないだろう。私はそのまま本部へ持ち帰ることにした。
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~1週間後~
『ご報告がございます。』
「わざわざ直接報告しに来るということはなにか進展があったのかね?バーンウッド君。」
『はい。先日行われました“カテゴリ・LOG”の試験結果が出ました。まだ実用段階とするには早すぎた模様です。』
「ううむ。まだもう少しかかるか。まあいい。まだピースは揃いきっていないのだから焦らずともよいのだ。それにカテゴリLOGはプロジェクトの中では保険のような存在だからな。」
『もう一つ。先日エージェント47が回収したメモリーカードの解析が完了しました。』
「ああ、あの深海棲艦とかいう謎めいた生命体の設計図とかいうアレかね。」
『そのとおりです。その解析の結果、あの世界で確認されているほぼすべての深海棲艦の設計図が、詳細に記されていることが判明しました。』
「ほほう。それはそれは。なかなかなものですね。」
『これを所持していたターゲットはこれを対深海棲艦の切り札にしようと考えていたようです。』
「相手の事細かな情報はたしかに切り札足り得るものだ。しかし・・・。」
『はい。この情報は技術部に一任しました。彼らの世界の切り札にはなることはありません。』
「それがいいだろうな。彼らにも深海棲艦にもまだやってもらいたいことは有る。」
『では計画通り当該世界の日本国大本営との交流を続けてまいります。』
「うむ。頑張ってくれたまえ。彼らはプロジェクトの最初の顧客なのだから・・・。」
ミッションコンプリート
・「どちら様でしょう?」 +1000 『ターゲットと直接接触しない。』
・「よくある気まぐれ」 +1000 『吹雪に司令官室へ行くように仕向ける。』
・「夢見の良くなる薬」 +3000 『ターゲットをミドウガタケで暗殺する。』
・「世界の切り札」 +3000 『ターゲットの持つメモリーカードを回収する。』
着々と準備は進められています。
2019/06/17追記
例の兵器の初実験が行われました。
次回は紅い館へ向かいます。