HITMAN『世界線を超えて』   作:ふもふも早苗

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HITMAN『亡きメイドのパヴァーヌ』

『紅魔館へようこそ。47。』

 

『今回のターゲットはここ、幻想郷の勢力の一つ。吸血鬼レミリア・スカーレット率いる紅魔ファミリー、その本拠地である紅魔館に最近になって配属された一人の女性。名前は梅野花梨。外見上は一般的な日本人女性。でも情報によると特殊な人体改造を施されていて、限定的ではあるものの、特殊な身体能力を手にしているらしいわ。十分に注意して。』

 

『クライアントは八雲紫。以前私のところに依頼を持ってきた妖怪の賢者。今回は出所不明のターゲットを危険視しての依頼ね。彼女が手を下すと紅魔館の主要メンバーに露呈する可能性が高いらしくて、外部の者に任せざるを得なかったらしいわ。』

 

『ターゲットは紅魔館のメイド長である十六夜咲夜の下でメイドとして働いているわ。しかも紅魔館は男子禁制。侵入は容易ではないわ。情報部も技術部もフルバックアップするからうまく侵入してターゲットを排除して頂戴。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

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さてどうしたものか。私は今紅魔館から300mほど離れた森の中に居る。

 

正面の門には門番が立っており、仁王立ち状態で先程から動く気配がない。外周を回って見渡してもそれ以外に入り口は見当たらない。外壁は高さは2~3mとそれほどでもないが一番上には侵入防止用と思われる金属製のトゲが有る。もとより魔法使いや魔物が跋扈している世界に住む吸血鬼の館。このようなさりげない塀にも侵入感知装置があっても不思議ではない。やはり正面から侵入するしか無いだろう。

 

今回、愛用のシルバーボーラーでは火力不足になる恐れがあったため、Enram HVのサプレッサー付を持参した。弾倉には特製のAPスラッグ弾を装填しており、威力は厚さ5cmの鋼鉄版や20cmのコンクリートブロックを貫通できる。近距離ならば魔物相手でも効果的に無力化できるだろう。更に、吸血鬼が居るという情報もあったため銀製の散弾も持参した。

 

私は慎重に門へ近づく。情報によればこの大きな館で人間はターゲット含めて2人だけだという。つまりあの門番も妖怪と呼ばれる魔物である可能性が高い。妖怪は視覚聴覚を含めた五感が人間のそれとは比べ物にならないらしいので、既に私の位置にも気が付かれている可能性すらある。

 

私は双眼鏡で門番を見る。ピクリとも動かず、目は閉じてあたりの気配を探っているように見える・・・。

 

 

「・・・。グゥ」プゥー

 

 

 

・・・。見事な鼻提灯。まさかとは思っていたが、もしかして寝ているのか?私は試しにもうすこし近づいてみた。門の反対側からゆっくりと近づく。

 

 

「グー・・・」

 

 

完全に寝ている。これでは流石に門番としても妖怪としても力を発揮できないと思われる。私は試しに茂みの中から門扉に向かって小石を投げてみる。

 

 

カーン

「・・・グゥ…」

 

 

それなりに甲高い音が響いたにもかかわらず全くの無反応でそのまま眠りこけている。私は更に近づいていく。とうとう門のところへ到着した。門には鍵はかかっておらず、ノブをひねり押し開けるといとも簡単に開いた。私はすばやく門をくぐり抜け、門を閉めた。すぐさま中庭の植え込みに身を隠す。その間、門番は全くこちらに気が付かないまま眠りこけていた。

 

 

 

植え込み伝いに中庭を進んでいると館の門が開いた。そこにはミニスカートのメイド服を来た人物が居た。私は気配を殺して見守る。次の瞬間彼女が消えたと思いきや門の外側に現れた。

 

 

「・・・はぁ・・・」シュッ

ザクザク

「はうぁ!?」

「美鈴。」

「は!咲夜さん!えっと・・・その・・・。テヘッ♪」

「テヘッ♪じゃないわよ。また居眠りして。今日はお嬢様から“来客があるかもしれない”と言われていたでしょうに。」

「あーすみません。でも来客ならそんなに警戒する必要はないかなと思いまして・・・。」

「来客はそのままの意味じゃないわよ。侵入者が来るって意味。あなたが警戒しないでどうするのよ。」

「あー!そういう意味だったんですね!わかりました!この紅美鈴、命に変えても侵入者を中へ入れさせません!」

「いつもそのくらいの意気込みでやってもらいたいものだけどねえ・・・。まあいいわ。私はすこし人里へ買い物に行ってくるわね。夕方ぐらいには戻るから。」

「はい!いってらっしゃい!」

「元気だけはいいわね・・・。」

 

 

門番は叩き起こされた。叩きというより串刺しにというほうが正しいかもしれないが。“咲夜さん”と読んでいたことを踏まえるとあのメイドがおそらく十六夜咲夜。時を止める能力がある人間という情報だった。非常に厄介に思っていたがなんとかやり過ごすことが出来た。私は門番が門の中から目を外したのを確認して中庭を更に進んだ。

 

 

やたら広い中庭を抜け、館の外壁に張り付いた。この館は洋風の外観ではあるが壁はワインレッド、屋根はパーシアンレッド、梁の部分はビクトリアンローズと全て赤系統で統一されており、非常に禍々しい雰囲気になっている。いくつかある窓のうちの一つを開け内部に侵入した。警報装置のようなものは見当たらず、意外に警備はザルだ。そもそも吸血鬼の館に忍び込もうとする輩が居ないと思われるため、警備も昼寝している門番だけで事足りるのだろう。

 

館の中は外から見るよりも広かった。情報では館内部は十六夜咲夜の能力を応用して空間を捻じ曲げているらしい。便利な能力だ。私は手近な部屋から順番に中を確認していった。

 

 

 

 

5~6部屋を確認したがどれもそれなりに豪奢な客間だった。掃除は行き届いているが使用されている形跡がないため無視している。そうしているうちにロビーと思われる場所へ来た。大階段が設置されており、上には豪華なシャンデリアが吊るされている。

 

私はひとまず1階を探索することにした。大階段の裏側にはキッチンがあった。中ではメイドが忙しく働いている。しかしそのメイドたちは一様に背中に薄い半月状の羽が生えていた。おそらく妖精と呼ばれる種族なのだろう。

 

 

「すみませーん。ブラジル産のコーヒー豆ってまだありましたっけ?」

 

 

奥の方から声が聞こえる。慎重に覗くと大きな機械の前で一人の女性が何かを探していた。奥の機械は形状や状況から見てエスプレッソマシンのようだ。近くに居た妖精メイドが棚の奥からコーヒー豆の入った袋を取り出すと彼女に渡した。

 

 

「ああ、ありがとうございます。でもなんでこんな奥に?・・・ああ。お嬢様が。そういえば苦いの苦手でしたものね・・・。」

 

ガガガガガ

 

「・・・っと、よし。あとはこれにミルクを入れて・・・。カプチーノの完成です!」

「小悪魔さん。何をやっているんですか?」

「ああ、梅野ちゃん。パチュリー様用にカプチーノを入れてるのよ。」

 

 

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『アレが、梅野花梨。吸血鬼の館で働く物好きな人間。しっかりとメイドになっているわね。』

 

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「そうなんですか。パチュリー様はコーヒー飲まれるんですね?」

「レミリアお嬢様は苦いの苦手だからコーヒー牛乳しか飲めないけどね。パチュリー様は結構コーヒーお好きみたいです。」

「そうなんですね。小悪魔さんは飲まれないんですか?」

「私もたまには飲むけれど、私はどっちかって言うと紅茶のほうがいいかなあ。」

 

 

キッチンの隅でターゲットと頭と背中にコウモリ羽が生えた少女が談笑している。私は静かに彼女らの近くの扉に移動する。

 

 

「あ、早くしないとコーヒー冷めちゃう。じゃあまたあとでね梅野ちゃん。」

「はい。お仕事お疲れ様です。」

 

 

そのうちコウモリ羽根の少女がパタパタと駆けていった。ターゲットの方はと言うとキッチンで働く妖精メイドたちに何やら指示を飛ばしていた。時間的にはティータイムの時間だろうか。

 

少しした後、ターゲットはティーセットを持ってキッチンから出てきた。私は慎重に尾行する。ターゲットはそこらの妖怪たちと違い人間なのでそこまで気配を感知することは難しいと思われるため、門番の時よりは幾分近めだ。

 

大階段を登り、2階へ上がる。2階の廊下の奥に大扉の部屋があった。他にそのような扉がなく、ティーセットを持ってその部屋に入っていったことを考えると、おそらくあの大扉の向こうがこの館の主、レミリア・スカーレットの居室なのだろう。流石にこの館で一番の実力者の近くによるのは得策ではない。私は大階段の隅で待ち構えることにした。

 

 

しばらくそこで待っていると、大扉が再び開かれ、ターゲットが戻ってきた。私は急いで1階に降りる。彼女は幾分神妙な面持ちでまた大階段へ戻ってきた。階段を降り始める。私はEnram HVを構え階段上のシャンデリアを支える太いロープを狙った。シルバーボーラーではロープが太すぎてちぎれないかもしれないがこのスラッグ弾ならば問題はないはずだ。距離も100mも離れておらず、スラッグ弾でもなんとか狙撃できる。

 

私は彼女が階段の踊り場に来た瞬間に引き金を引いた。

 

 

ボシュン

ブチッ

「!」シュッ

ガッシャーン!

 

 

凄まじく派手な音を立ててシャンデリアがターゲットに落下した。元々シャンデリアは幾分突起が多い形状をしていたため、落下したシャンデリアは見事にターゲットを串刺しにした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。あっけなかったわね。任務完了よ、そこから離脱して頂戴。』

 

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「な、なんですか!?今の音は!」

「煩いわよ。何があったというの。」

 

 

流石に館の中央で派手に落下したシャンデリアの音は館中に響き渡ったらしく、色々なところから妖精メイドが出てきた。先程談笑していた小悪魔と呼ばれていた少女や、大扉の方から出てきたコウモリ羽の少女、おそらくレミリア・スカーレットも何事かと駆けつけていた。私はその喧騒に紛れて来た道を戻るようにその場を後に・・・。

 

 

カシュッ

 

 

・・・?足元になにかがあった。拾い上げるとそれはケースに入ったSDカードだった。照明すら魔法とロウソクに頼っている館でSDカードが有るのはなんとも不思議だ。ともかく何かしらの情報になる可能性があるので持ち帰ることにした。

 

 

「なにごとですか!」バーン

「美鈴さん!梅野さんが!」

「なんですって!?」

「・・・。」

「美鈴さん、手伝ってください!シャンデリアをどかします!」

「わかったわ!行きますよ!せーのっ!」

ガシャガシャ

「梅野さん!しっかりしてください!」

「・・・だめだ。もう亡くなってる・・・。」

「そんな・・・どうして・・・。」

「・・・。」

「レミリアお嬢様?」

「・・・なんでもないわ。私は部屋に戻る。少し一人にして頂戴。」

「あっ・・・はい。了解しました。」

 

 

門番も駆けつけシャンデリアをどかしていた。私はその音に紛れて窓を開けて外へ出た。門番が館内にいるということは今、正門はがら空きだ。私は小走りで中庭を抜けて正門から外へ出た。

 

森の中を小一時間走り、その先にICAが用意した脱出用の車両が有るはずだ。

 

 

 

 

 

 

「遅かったのね。暗殺者さん。」

 

 

 

 

 

 

車両はものの見事に大破炎上していた。そのそばには先程館の中に居たはずのレミリア・スカーレットが立っていた。

 

 

「・・・。」

「あら、私が何故ここに居るのがわからないっていう顔ね。答えは簡単よ。“視えた”から。だから追ってきたのよ。」

「運命を操れるという話は本当だったようだな。」

「そこまで知っているのなら話は早いわ。では私が何故追ってきたかもわかるわよね。」

 

 

私はその返事の代わりに、背中にしょっていたEnram HVに銀散弾を装填した。

 

 

「私の新しいお気に入りを壊した罪は重いわよ。たっぷりと思い知らせてあげるわ!」

 

 

その言葉の直後にレミリアの体がかき消えた。私はとっさに前方に向かってダイブし、体を反転させて背後を向いた。背後に瞬時に回り込んだレミリアがその腕を豪快にふる。衝撃波のようなものが放たれ、周りにあった木々がなぎ倒される。私は振り向いた直後にEnram HVを発砲した。散弾なためその殆どはあたっていないが何発かかすったようだ。

 

 

「ちっ。銀弾か。吸血鬼対策は万全ってわけね。」

「お褒めの言葉と受け取っておこう。」

 

 

しかし状況は非常にまずいと言える。幻想郷の魔物の中でも最上位クラスに位置している吸血鬼との全面戦闘は本来想定していない。このショットガンも気休め程度だろう。何か打開策を考えねば・・・。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。そのまま粘って。今上級委員会から承諾が得られた。ICAが援護するから脱出して頂戴。』

 

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何の承諾が得られたかはわからないが、今の状態ではそう長くは持ちそうにない。先程から避けてはレミリアが居ると思われる方向に散弾をばらまくの繰り返しだ。散弾なのでレミリアに回避行動を強要させているため生き延びられているようなものだ。周りの森が次々となぎ倒され焼け野原になっていく。

 

 

 

 

 

シュユルルル

ボォーン!

「うぉ!」

「きゃあ!」

 

 

突然爆風と思われる強烈な突風に見舞われた。私もレミリアも意表を突かれ突風に吹き飛ばされる。近くの樹を掴むが樹は根元からへし折れ、再度飛ばされた。私は近くの川に落ちた。川は少しだけくぼんでおり、幾分突風を防ぐことができた。レミリアは何処か別のところへ飛ばされたようだ。地面には地割れが出来ており、川の水が地割れに流れ込んでいる。

 

 

 

シュユルルル

ボォーン!

 

 

再度突風が吹く。どうやら離れたところに何かが弾着しているようだ。凄まじい突風が辺りの木々をなぎ倒しつつ周辺を掃討している。すると、その突風に吹き飛ばされレミリアが飛ばされてきた。彼女はそのまま川に落ちた。

 

 

「くっ・・・なんなのよもう・・・・。水・・・力が・・・。」

「・・・。」

「はっ、これがあなた達の力ってわけね。わかったわ。今回は引いてあげる。命拾いしたわね。」

「それは助かる。」

「今度はもっとマシな出会いをしましょう。暗殺者さん。」

「運が悪ければな。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『撤退したようね。攻撃を中止してすぐに迎えのヘリを向かわせるわ。そのままそこで待機していて頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

一体何をどうやったらこんな状況にできるのか。地割れと隆起で地面は荒れ果て、鬱蒼と茂っていた森はほとんど立っている木が見当たらない。遠くにはかなりの大きさのクレーターがあった。

 

数分後、ヘリが到着し、私はそれに乗って脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~数十分前~

 

 

「今の衝撃はなに!」

「わかりません!外の方からですが・・・。」

「みんな大丈夫?!」シュン

「咲夜さん!ご無事でしたか!」

「小悪魔、お嬢様は!」

「それが先程から姿が見えないのです。この大きな地震と衝撃波で館はみんな大混乱で・・・。」

「梅野は?彼女はどうしたの?」

「それが、先ほど玄関ロビーに飾っていたシャンデリアが落下してその下敷きに・・・。」

「なんですって!?」

「咲夜。」

「パチュリー様!」

「今は考えている暇はないわ。外から強い衝撃波と爆風、それに地面の地割れが起こってる。早急にみんなを避難させなさい。」

「りょ、了解しました。」シュン

「小悪魔、私達は館の防備を固めるわ。防護魔法を全力展開よ。準備して。」

「わかりました!」

「・・・一体何が起こっているというの・・・?」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「警戒厳となせ」  +1000 『紅美鈴が寝ている最中に正門を通る。』

・「きらびやかな運命」+3000 『シャンデリアをターゲットに落下させて暗殺する』

・「赤い館のお嬢様」 +3000 『レミリア・スカーレットと戦闘する。』

・「夜王と戦神」   +3000 『ICAの火力支援を得る。』

 

 




もうちょっと上手い爆音の表現があるといいんですけどねえ・・・。


次回は別アプローチです。

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