『紅魔館へようこそ。47。』
『今回のターゲットは出所不明の日本人、梅野花梨よ。経緯は不明だけれど紅魔館でメイドをしているわ。クライアントである八雲紫は、出所不明の人物を幻想郷の勢力の一つに加担させるのは危険と判断したようね。』
『紅魔館は女性しか働いていないみたいだから今回は変装することは出来ないと思っていいわ。あと館の主は幻想郷でもトップクラスの実力を持つ吸血鬼。十分注意して。』
『準備は一任するわ。』
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「はうぁ!?」
「美鈴。」
「は!咲夜さん!えっと・・・その・・・。テヘッ♪」
「テヘッ♪じゃないわよ。また居眠りして。今日はお嬢様から“来客があるかもしれない”と言われていたでしょうに。」
「あーすみません。でも来客ならそんなに警戒する必要はないかなと思いまして・・・。」
「来客はそのままの意味じゃないわよ。侵入者が来るって意味。あなたが警戒しないでどうするのよ。」
「あー!そういう意味だったんですね!わかりました!この紅美鈴、命に変えても侵入者を中へ入れさせません!」
私は今紅魔館の門のすぐ外にいる。門の前で女性二人が話しているのが見える。片方は話し終えると道なりに歩いていった。話の内容からすると夕方まで戻らないらしい。となるとあのやたら張り切っている門番をどうするかであるが・・・。
今回私はTAC-4 ARを持参した。使い慣れたアサルトライフルだ。もちろん吸血鬼の館ということで銀の弾丸も1マガジン持参した。もっともまず館に入れなければ話にならないが。もう少し近づいてみよう。
ガサッ
「ん?なにか動いたような・・・?」
「・・・!」スッ
ニャーン
「ああ、何だネコかあ。このあたりでは珍しいなあ。」
ニャーン タタタタ
「ああ、いっちゃった・・・。ルーミアあたりに食べられなきゃ良いけど・・・。」
少し近づいただけで気配を察知された。幸いにして近くに猫が居たようで、それと間違えてくれた為見破られることはなかった。しかしこれでは動くこともままならないな・・・。しばらく思案していると、後方の空から何かが飛んできた。
「やっほーい!」
ドガァン
「ぎゃー!」
「お、中国。今日も元気だな!」
「魔理沙!毎回毎回門ごとふっとばしてくるの止めてくれないですかね?!怒られるの私なんですよ?!」
「おー、こりゃ見事に門がないな。門がなければ門番はクビか?」
「物騒なこと言わないでください!来客ってのはあなたのことだったのね!絶対に通さない!」
「お、久々に勝負と行くか?」
「望むところ!」
なんだかよくわからないが門が壊れて通れるようになった。魔理沙と呼ばれていた少女に連れられて門番が上空へ上がってしまったため、門は現在無防備だ。魔理沙とやらに感謝するべきだろうな。私は茂みから出ると上を伺いながら門をくぐった。
中庭はよく整備されており、いろいろな花が咲き誇っている。殆どが赤系統の花ばかりだが。おまけに館も赤系統の色で統一されているため、目につく範囲の殆どが赤いという事態になっている。非常に目に悪い。私は中庭を足早に抜け、館の東側の窓から内部に侵入した。
館の外観が赤いなら内装すらも赤い。グラスや燭台などまでは流石に赤くはなかったが。入ったのは客間のようだ。ソファやテーブル、ベッドなどがあるが使用されている形跡がないため来客用の宿泊設備というところだろうか。私は館の中を探索する。隣の部屋もそのまた隣の部屋も同じような作りだった。この辺一体はすべて同じ部屋のようだ。
私は一気に玄関ロビーまでやってきた。遮蔽物がなく隠れられる場所が少ないため、慎重かつ早急に抜けなくてはならないだろう。
私はロビー中央の大階段を登り、2階へ上がった。2階の部屋には遊戯室があったりそれなりの広さを持つ浴場があったりしたが、背中に羽の生えた妖精メイド以外は誰も居なかった。通路の奥に螺旋階段を見つけた。私は階段を登り3階へ向かった。
3階の部屋は1階の客間以上に殺風景な部屋ばかりだった。調度品は殆ど置いておらず、あったとしても乱雑に部屋の隅に固めておいてある。おそらく物置の代わりとして使っているのだと推測できる。
コッコッコッ
螺旋階段から誰かが上ってきた。私は手近な部屋に身を隠した。階段を登ってきた人物はそのまま一番奥の扉を開けて入っていったようだ。私は部屋から出て一番奥の扉に張り付き聞き耳を立てた。
「・・・ふぅ・・・こんなところでしょうね。ここまで調べるのに3週間もかかってしまったわ。あの人が見たら笑うかしら。」
私は慎重に音を立てないように扉を開ける。そこには部屋の中央に佇む一人のメイドが居た。部屋は物置部屋というべき場所で、あちこちに大きな荷物が置かれて埃を被っている。
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『47。その目の前のメイドがターゲットの梅野花梨よ。こんなところに何のようなのかしらね?』
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ターゲットは現在一人きり、絶好のチャンスと言える。私は静かに懐からシルバーボーラーを取り出し、ターゲットの頭を狙った。
「そんなものでは私は殺せませんよ47。」
「!」
私は気配を最小限にしていたはずだが、気が付かれた。ターゲットはゆっくりと振り返る。
「こんにちは。エージェント47。案外遅かったですね?」
「・・・。」
「疑問でいっぱいですか?無理もないでしょうね。」
「お前は何者だ。」
「その疑問に答えてほしくば、私を殺してみせなさい!」
“サイレント”
「!?」
サイレント。ハルケギニアでの消音魔法を何故幻想郷の人間が?
「これでこの部屋でいくら騒いでも下の階はおろか、扉の向こうにも音は届きません。」
「お気遣い感謝するべきかな?」
「いえいえ。私もこのほうが都合がいいのでね!」チャキッ
「むっ!」タタタ
「さあ、踊りましょう!」
ダダダダダ
ターゲットはいきなり懐から銃を取り出した。形状から察するにAKSだろうか。いよいよ持って謎が深まるが私は物陰にとっさに隠れ、TAC-4で応戦する。
銃撃戦に発展し、壁、調度品、何かの木箱などを穴だらけにしながら銃弾が飛び交う。彼女がリロードする隙をみて一気に距離を詰める。しかし彼女も装填作業を片手で行い、もう片手で拳銃を発砲してきた。・・・!あの拳銃は・・・。
「どうしました?隠れてばかりでは私を殺すことなど出来はしませんよ!」
私は柱に隠れつつ辺りを観察する。・・・あそこだ。私はTAC-4を片手で連射する。彼女は銃撃から逃れるように左へと移動していく。無論片手なので命中精度はガタ落ちであるが今はそれでも良い。もう片方の手でシルバーボーラーを持つと、彼女の走る先の色が違う床を撃った。
バシュバシュベキ
タタタバキッ
「な!」
バキバキバキガシャーン!
見事に床が抜けて彼女は下の階に落ちた。私も続けてTAC-4を撃ちつつ下の階へ飛び降りる。
「・・・なんの真似かしらね。これは」
「・・・お嬢様。」
「・・・レミリア・スカーレットか・・・。」
落ちた先の部屋はレミリアスカーレットの居室だった。この館の主は少し離れたところで紅茶を飲んでいた。私はターゲットから銃口を外すこと無く辺りを確認した。ターゲットは落ちた体勢のまま、未だに床に座り込んでいる。
「誰が説明してくれるのかしら?」
「私がご説明します。」
「・・・。」
「・・・聞きましょう。」
「私はこの館に来たときに、今までのことを覚えていないと言いました。しかしそれは嘘です。本当は私はこの館に入り込むためのいわばスパイのようなものでした。」
「あらあら。スパイされるほど複雑な構造でもないのにね。」
「この目の前の暗殺者は、私の行いを危険視した幻想郷の管理人からの依頼で私を殺しに来たのです。」
「・・・。」
「既に私の得た情報は私の組織へ送信済みです。ですが私はここでおめおめと殺されるつもりはありません。お嬢様。できれば最後の願いと思って聞き入れてください。私とこの男の戦い、どうか邪魔をしないでいただきたい。」
「・・・。」
「私はこいつに殺されなくとも、この館から今日限りで出ていきます。今までご迷惑をおかけしました。」
「・・・わかったわ。でもこの部屋ではやらないでちょうだい。やるなら屋上でやりなさい。」
「・・・わかりました。」タタタタ
「暗殺者さん。無礼にも程がある入室の仕方だったけどそれは今回は不問にしてあげるわ。光栄に思いなさい。」
「・・・感謝する。」タタタ
「・・・。同じ・・・か。」
私はターゲットを追って部屋を出た。ターゲットは先程の螺旋階段を駆け上がっている。私もその後に続く。階段は狭く、ここでは仕留められない。
ターゲットは螺旋階段を登りきり、扉を開けて外へ出たようだ。私も急いで駆け上がり、扉を開ける。
ダーン キンッ
「さあ!決着を付けましょうか!」
扉を開けてそのまま飛び出していたら撃たれていたところだ。私はTAC-4を扉の向こうに乱射して牽制する。牽制の後扉をくぐり屋上へ出た。屋上には空調システムと思われるダクトが張り巡らされていた。私はそのうちの一つに張り付く。
再び銃弾の応酬が始まった。私はダクトを移動しながら銃撃を加えていく。しかし相手も同じように移動するため堂々巡りになっていた。消耗戦になっている。ターゲットが館正面の縁のダクトに張り付いたその時、
ドカーン!モッテカナイデー!
「!!」
「・・・!」
ダーン
ターゲットのすぐ近くで爆発があった。何の爆発かはわからないがその瞬間、ターゲットが一瞬よろめいた。私はその機を逃さず彼女の胴へ銃弾を放った。
銃弾は彼女の腹部を貫通。撃たれた衝撃で銃を手放し、下へ落としたようだ。彼女はそのまま屋上の縁に設置されている柵にもたれかかるように崩れ落ちた。何とか勝利できた。いつの間にやら銀の弾丸すら使用していたようだ。もう銀の弾丸が5発しか残っていなかった。
「ぐ・・・見事でした。47。さすがですね。」
「お前は何者だ。」
「・・・私は・・・私の名は梅野花梨などではありません。」
「・・・?」
「私の名は、エージェント50です。」
「エージェント・・・。」
「そう。あなたと同じ生産ロットで、あなたの女性バージョンというわけです。ですがあなたの強さは、私の・・・遥か・・・上・・・だ・・った・・・。」
「・・・。」
彼女は動かなくなった。
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『47。現在上層部に確認したわ。エージェント50は別働隊だったようね。ともかく任務は完了よ。帰還して頂戴。』
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「終わったのね。」
「レミリア・スカーレット・・・。」
「あの子がスパイだっていうのは最初からわかっていたわ。でも私の城で何をスパイされたとしても問題ない自信があった。」
「・・・。」
「あの子はスパイ活動もそこそこに、私のために忠実に働いてくれていたわ。他のみんなからも慕われていた。」
「・・・。」
「あの子は、もう私達の家族のようなものだった。」
「・・・。」
「あなたがやったことを責めるわけじゃないわ。私には“視えて”いたもの。あなたが来ることを。でも正直、何かが干渉しててあなたがこの館にやってくるところしか見えなかった。この結末が見えたのはつい先日、彼女の運命を改めて視たときだったわ。」
「このことを予見していたのか。」
「ええ。どうして対策しなかった?って顔ね。対策しようとしたわ。でも同時に視えてしまったのよ。いくら対策をしようとも彼女は今日、死ぬ運命だったということがね。」
「・・・。」
「あなたの目的は達成されたのかしら?」
「ああ。」
「そう。それはよかった。であれば早急に帰っていただけるかしら。私とて家族を殺した人間をいつまでも家に居させる訳にはいかないわ。」
「わかっている。邪魔をした。」
「ええ。本当に。」
私は階段を降り、そのまま大階段も降りて正面玄関から館を後にした。門番はなぜか門の前で倒れていたが気絶しているだけのようだったので放っておいた。
私は森のなかに用意してもらったICAの車両に乗って脱出した。
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~3日後~
『別働隊を用意する必要はなかったのでは?』
「私とて47を信頼していないわけじゃない。しかしプロジェクトのためにはより詳細なデータが必要だったのだ。」
『その結果エージェント50を死なせることになってもですか?』
「彼女は失敗していた。かの当主レミリア・スカーレットにスパイであることを見抜かれていた。だから、我々の手で抹殺したのだ。」
『我々の?ということはあの依頼は。』
「八雲紫からの依頼。もっともらしい理由だっただろう?」
『・・・。』
「そう怒るな。プロジェクトに必要なデータは揃いつつ有る。あとはカテゴリ・LOGの完成を待つばかりだ。」
『・・・そのことでご報告があります。』
「ほう?」
『カテゴリ・LOGの試作機が先月完成し、我々の世界と試験的に幻想郷にも配置しました。』
「なるほどなるほど。それで?」
『再度試射を行いましたが、まだ威力不足であると思われます。弾頭に改良を加えませんとプロジェクトには不十分かと。』
「そうか・・・。以前、深海棲艦の設計図を手に入れたと言っていたな?」
『はい。現在、自動再生機能付き生物反応装甲の実証試験中です。』
「それを弾頭用に改造したまえ。アレならばタングステンなどよりずっと良いだろう。」
『はあ・・・技術部に打診してみます。』
「うむ。では深海棲艦に関する技術は、“カテゴリ・ディープ”とする。早急に対処せよ。」
『了解しました。』
ミッションコンプリート
・「星屑の招待状」 +1000『霧雨魔理沙と紅美鈴が戦闘中に門を通り抜ける。』
・「不思議の館のアリス」 +3000『ターゲットと戦闘する。』
・「闘技場ではない。」 +1000『屋上に出る。』
・「喉の奥に何かがあるみたいだ。」+5000『エージェント50を暗殺したあとにレミリアと話す。』
カテゴリ・LOG。進捗率75%
2019/06/17追記
この時点では再登場の予定はありませんでした。
次回は辺境の城に行きます。