HITMAN『世界線を超えて』   作:ふもふも早苗

51 / 87
HITMAN『魔物に匿われた男』

『デスパレスへようこそ。47。』

 

『ここはこの世界に蠢く魔物たちの城。魔物たちの長である魔王デスピサロの居城。人里離れた辺境に有るけれど、ICAの大型ステルス機が送り迎えするから大丈夫よ。』

 

『ターゲットはこの城の地下牢に閉じ込められているパーブルという男。エンドール出身の彼は、人類側の情報を魔物に横流ししている罪でエンドール、ブランカ、サントハイム、バトランド等各地の主要各国から指名手配を受けているの。』

 

『ある時、旅の一行がデスパレス内部に侵入することに成功してね。そのときに地下牢にその男がいることがわかったの。各国は魔王が討ち滅ぼされた現在になっても強力な魔物が大量に潜むデスパレスへは手出しできない状況なのよ。そこで我々に依頼が来たというわけ。難しい任務だけど、それを理由に依頼料を釣り上げたら1000億ドルにもなってしまってね。釣り上げた手前受けざる終えない状況になってしまったの。』

 

『そんなわけだからクライアントは“人類連合軍”。主要8カ国による合同軍からの依頼。この世界の人類みんなから期待されているわよ。期待に答えないとね?』

 

『ついでに、と言っては何だけれど、先日“バサラブ”の改良が完了したわ。非常に強力な睡眠薬になったから、人間に使うとほぼ永久に眠り続けてしまうわ。一応起こす手段はないことはないけれどね。魔物のような強力な生命力を持った存在もこれである程度は眠らせることが可能よ。その実地試験もできればしてきて頂戴。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「降下用意。」

「・・・。」

 

 

私は今、ICAが用意したステルス輸送機に搭乗している。作戦ではこのまま高度13000mから単身HALO降下で潜入することになった。HALO降下は訓練施設では行ったが、実際に任務で行うのは初めてだ。そもそもこういう降下をしなくてはならない状況が稀なので仕方のないことでは有るが。

 

 

「グリーンライト。」

「では行くとしようか。」

 

私は搭乗員に軽く挨拶の手を挙げると、開かれた後部ハッチから外へ飛び出した。眼下には横長で高い山脈に囲まれた大陸が見える。その中央付近の平野に城が見える。私はその城めがけて降下していった。城の中庭には塔が建っている。その周囲は森に囲まれており、魔物たちに見られずに降りるには森のなかに着地するのが良いだろう。私は高度計のブザー音に合わせてパラシュートを展開し、城の東側の森のなかに着地した。

 

木と木の間にうまく降りることが出来た。私はすばやくパラシュートをたたむと近くの茂みの中に放り込んで隠した。現在時刻午前4時半。周囲は不気味なほどの静けさに包まれている。

 

今回、強化麻酔薬“バサラブ”の試験を含めると言うので、技術部に新型麻酔薬用に設計変更した麻酔銃を作らせた。以前の針型よりも大型であり、弾一つ一つの大きさは45口径弾と大差ない。先端部には大型の注射針が装着されている。採血針よりだいぶ太く、直径は3mmは有るだろうか。通常の人間の頭部に使用すると脳に深刻な損傷を与え殺傷することも可能だという。魔物相手に使う場合は躊躇なく頭部や心臓近辺を狙うようにと言われた。その程度で死ぬような体では無いようだ。その大きさと特殊機構ゆえに弾倉内は7発しか装填されておらず、急造品のため数もこの1マガジンしかない。使う相手は慎重に選んでいく必要があるだろう。

 

 

 

私は城の外壁部分に到達した。特殊な構造をしている城ではあるが、あちこちに窓やテラスがあり、侵入自体はそれほど苦ではないと思われる。中庭に建っている塔は入り口が見当たらない上に外周の地面には光り輝く床が設置されており、どうやら電気のようなものが流れているようだ。

 

私はひとまず近場の窓から内部への侵入を試みる。張り付いた建物の窓から中を覗くと、内部は広い広間になっていた。奥の壁には扉が等間隔に配置されており、たった今出てきた魔物の奥に見えた雰囲気だとどうやら宿舎になっているようだ。私は慎重に窓を開けると耳をそば立て、窓の周囲に魔物が居ないことを確認して内部に入った。

 

城内部は魔物の城とは思えないくらいに綺麗に掃除の行き届いた青と白のタイル床と、様々な調度品によって飾り立てられていた。しかし調度品デザインは悪魔や亜人などをかたどったものが多く、魔物の城足り得る禍々しい雰囲気を作り出していた。

 

私はその調度品の一つの、やたらトゲや出っ張りの多いソファに身を隠し、周囲を伺った。すると奥の扉から魔物が2体出てきた。

 

 

「あー、今日も意味のない一日が始まるな・・・。」

「そう言うな。我々が秩序を持ってこそ、ピサロ様の意思を継ぐことができるのだ。」

「そうは言ってもピサロ様亡き今、世界中の魔物たちも各々各地の有力者の傘下に入っていると聞くぞ。」

「ううむ・・・。しかしこの大陸には有力者と言われる者は居ない。今まではピサロ様やエビルプリースト様がいたから良かったものの、あの方々が勇者に討伐された今、我々も身の振り方を考える必要があるだろうな・・・。」

 

 

なんとも世知辛い話をしている。この世界では以前、デスピサロと呼ばれる魔王が魔物たちを統率して人間と対立していたようだが、去年の暮れに“導かれし者たち”と呼ばれる8人の人間によって討伐され、今現在は世界中の魔物の指揮系統が混乱している最中というのは情報部から聞いていた。

 

 

「エスターク様が居てくれたらなあ・・・。」

「ああ、そういやお前はエスターク様に元々仕えてたんだっけか。」

「ああそうさ。エスターク様は俺の記憶じゃ初めて全ての魔物を統括できたお方だった。進化の秘法を使われてからはおかしくなられて、最後の方はまともに会話もできなかったがな。」

「ピサロ様も使ってたアレか。あれはなあ・・・。正直我々魔物にも手に余る代物だよな。」

「そういや今地下牢にぶち込んでる人間、その進化の秘法の在処を知ってるとか息巻いてたな。」

「ああ、アッテムトに有るぞ!とか言ってたあれか。おそらく復活しかかったエスターク様のことを言ってんだと思うが、もう勇者に倒されてしまったからな。」

「今じゃあいつの話は一種のホラ話になってて下級悪魔どもの娯楽になってるらしい。」

「まあそんなくらいしかあいつには利用価値がないからな。そのおかげで生きながらえてるようなもんだ。」

 

 

どうやらターゲットは地下牢に閉じ込められているらしい。本来であれば施設図のようなものを探して地下牢の位置を特定するところだが、ここは魔物の巣食う城。施設図が有るかどうかも疑わしい。

 

私は彼らが談笑している横を通り抜け、一旦侵入した窓から外へ出ると窓を確認しながら忍び足で歩き始める。1階に点在している窓から地下への階段を見つけようというものだ。城内を歩き回るよりは見つかる確率が幾分減らせるだろう。

 

反時計回りに森を進み、城の外周を回る。上空から見えたもう一つの中庭と思われる池に出た。池は斜めに橋がかかっており、離れの建物に続いていた。私は池を大回りで迂回して離れの建物の近くによった。遠目からもわかっていたが窓が一つもない。扉には鍵はかかっておらず、中から物音もしないので慎重に開けて中を確認する。

 

中には下に伸びる階段があった。私は慎重に階段を降りる。降りた先には細い通路があり、更にその奥には鉄格子の扉が見えた。廊下には隠れるところがないため私は階段から目を凝らして扉の向こうを見定める。2匹の魔物が警備している扉の向こうに見えるのは・・・箱だ。赤い箱が何個も置かれている。箱の構造は遠目からでもわかるほどに豪猪であり、囚人用とはとても思えない。おそらくあの部屋は宝物庫だ。

 

魔物が守る宝物にはそれなりに興味を惹かれたが今はどうでもいい。私は階段を上がり外へ出る。また池を反時計回りに迂回し、城の外壁に到達する。城の中を覗くとすぐ近くにまた地下へ降りる階段が見えた。私は窓を静かに開けると内部に侵入、階段を降りた。

 

階段を降りるとそこは食堂だった。魔物たちも食事をしなければ生きられないのは人間と一緒らしい。食堂にはキッチンが併設されており、今まさに数匹の魔物がキッチンで何かを煮込んでいる。よくある創作物に有るような禍々しいものは何もなく、一般的な野菜や人間などではない一般的な動物の肉塊などが置かれている。見た目はいたって普通のキッチンだ。現実などそんなものだろうな。

 

私は食堂のテーブルに隠れつつ、その奥にある部屋を見た。奥には鉄格子の扉、その奥に転がる白骨化した死体。間違いない。ここが地下牢だ。しかし地下牢へ通じる道はキッチンで働く魔物から近すぎる。彼らを突破しなければ地下牢へはたどり着けないだろう。そろそろこいつの出番だ。

 

私は懐から新型麻酔銃を取り出し、キッチンで働く魔物2匹に照準を定める。・・・左の魔物がキッチン一番端の冷蔵庫と思わしきところを開けて中を覗き込んだ。その機を逃さず、もう一方の魔物の首筋に向けて麻酔弾を発射する。

 

パシュブスッ

「んが?うっ・・・。」ドサッ

 

 

うまく行った。もう一方も気がつく前に少しだけ見えている背中に向けて撃った。もう一方もそのまま冷蔵庫に顔を突っ込む形で眠ったようだ。

 

私は牢獄のスペースを覗き込む。牢獄の目の前のキッチンからはちょうど死角になる位置にテーブルを囲んで談笑している2匹の羽の生えたいかにも悪魔という風貌の魔物が居た。私は一方の足に向かって麻酔弾を打つ。

 

パシュブスッ

「ん?何かが足に当たったような・・・。」

「魔物が蚊に刺されてんじゃねえよ。」

「そんなんじゃ・・・あれ・・・なんだか眠く・・・」

パシュブスッ

「おいどうし・・・た・・・」

 

 

うまい具合に時間差で眠らせることに成功した。元々空城だったのもあって地下牢を含めたこの階全体ではもう魔物の気配はしなくなった。私は牢屋を一つ一つ調べていく。

 

 

「お、おい。何があった。どうしたんだ。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがパーブル。人類からも魔物からも見放された哀れな男。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「お、おいあんた人間か?」

「そうだ。」

「そうか・・・良かったと喜ぶべきところなんだろうか?」

「・・・。」

 

 

私は答えの代わりに持っていた銃、新型麻酔銃を構える。

 

 

「知ってるぞ。さっき見てたからな。それ麻酔銃だろう?」

「・・・。」

「図星か?まあいい。よく聞け。地獄の帝王は勇者によって討ち滅ぼされたが、その元凶となった進化の秘法はまだ生きている!なんとか魔物たちよりも先に見つけ出して闇に葬るんだ!」

「わかった。」

「わかった?・・・まあいい。アッテムトの鉱山にそれは有る。頼んだぞ。俺はここから一生出られそうにないからな。」

「・・・。心配するな。今だしてやる。」

「本当か!?」

「ああ。」

 

 

私は返事とともに彼の頭に向かって麻酔銃を打ち込んだ。

 

パシュンブシュ

「ぐぁ!う・・・あ・・・。」ドサッ

 

 

ターゲットは眠るように倒れ込んだ。しかし、命中した額は変色しており、口からは泡を吹き初め、痙攣していた体は数分後には完全に動かなくなった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。よくやったわ。その城は危険だから早急に脱出して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ガヤガヤガヤ

階段の方から何やら騒がしく魔物の集団が近づいてくるのが聞こえた。まずいこのままでは魔物の集団に鉢合わせすることになる。私はとっさに一つだけ空いていた牢屋に身を隠した。

 

 

「ははは・・・ん?オイ!誰か倒れてるぞ!」

「今日の料理当番のベンガルじゃねえかアレ!」

 

 

キッチンに放置していた魔物も発見された。ここに探しに来るのも時間の問題だ。私は牢屋を見渡し、何か使えるものがないかを探した。

 

するとこの牢屋だけ奥の壁の一部を隠すように木箱が大量に置かれていた。あまりに不自然なその置き方はそこになにかあると思わせるようなものだろう。私は急いで木箱をどかしてみた。すると、壁の一部に人一人が通れる程度の穴が空いていた。私は急いでその穴に入り込み中から木箱をまた入り口を塞ぐように設置した。

 

間一髪、木箱の向こう側で話す声と同時に扉を開ける音が聞こえた。私は物音を立てないように気をつけつつ、急ぎ足で通路を進んだ。牢屋に有る隠された横穴。とくればその先にあるのは出口しかあるまい。

 

 

予想通り、抜け出した穴は城正面入口の横の森の中に巧妙に隠されていた。私はそのまま森の中へ進み、近くの湖に用意してもらっていた水上機に乗って脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~3日後~

 

「思わぬ臨時収入だな。」

『はい。金貨3億5000枚。全て純金製のようで、仮に溶かして延べ棒にしますと総額で1000億ドルは下らないものと思います。』

「この資金は有効に使わせてもらうことにしよう。我々の世界で使用できないのが惜しいくらいだな。」

『その使いみちなのですが一つ案があります。我々は先日の任務で興味深い情報を入手しました。』

「ほう?」

『アッテムトと呼ばれる鉱山の町の奥深くに“進化の秘法”と呼ばれる技術が眠っているというものです。』

「進化の秘法・・・名前だけは大層なものだな。」

『現地のインフォーマントに簡単に調査させたところ、進化の秘法とは地獄の帝王エスタークが開発、使用した技術であり、驚異的な生命力と力を与えるものの、記憶喪失に陥らせる代物のようです。』

「ほう・・・その話が本当なら実際にはそんな大層な代物でもなかったとしても、何らかの技術的アイディアは得られそうだな。」

『なので現地に兵を派遣し確認したいのです。その資金として先程の報酬の一部を使いたいのですがよろしいでしょうか?』

「ふむ。その目的であればよいだろう。元々使いみちのない金貨だしな。」

『了解しました。』

「47を調査に向かわせるのか?」

『流石に魔物たちが跋扈している地底の神殿に単身突入はリスクが高すぎます。いくつかプランがありますので詳細が決まり次第、承認をいただければと思っています。』

「わかった。完成したらもってくるといい。一応上級委員会に話は通しておく。」

『助かります。』

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「じんめんじゅの横に」+1000 『森に着地する。』

・「魔物が守るもの」  +1000 『宝物庫を発見する。』

・「ザキホーマ」    +3000 『ターゲットを麻酔銃で暗殺する。』

・「先人の知恵」    +3000 『地下牢の秘密の抜け穴を通って脱出する。』

 

 




まあプランと言っても1~2つくらいしか無いんですけどね。


次回は別アプローチです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。