HITMAN『世界線を超えて』   作:ふもふも早苗

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『魔物に匿われた男』の別アプローチ版です。


HITMAN『魔物に匿われた男』(もう一つの世界線)

『デスパレスへようこそ。47。』

 

『今回のターゲットはこの世界の主要8カ国全てから指名手配を受けている男、パーブル。長らく行方知れずだったけど、先日ついにデスパレスにとらわれていることが判明したの。人類側の情報が彼の口から漏れる前に口封じするのが今回の任務よ。』

 

『クライアントは主要8カ国の人類連合軍から。報酬もたっぷりもらっているわ。期待に答えないとね。』

 

『今回は新型麻酔銃も持っていって。魔物にも効果が見込めるほど強力という話だからその実地試験を頼むわ。人間に撃ったら死んでしまうと思うから気をつけてね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

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「グリーンライト。」

「では行くか。」

 

 

私はICAのステルス輸送機から飛び出した。デスパレスの直上13000mからのHALO降下だ。現在時刻は夜明け前の午前4時。暗闇に包まれた世界だがデスパレスの周辺は篝火なのかぼんやり明るい。そこを目指して300km/hで降りていく。高度300mに達するとブザーが鳴った。それを合図にパラシュートを開く。急激に減速し、城の屋根に直接降り立った。

 

私は持ってきていたバックを屋上、といっても屋根の上だが、そこに設置した。新型麻酔銃と念の為に持ってきた致死薬を持って行く。ちなみに致死薬はごく普通の青酸系だ。相手が普通の人間なので強力な毒は必要ないだろう。

 

私が降り立ったのは2棟ある本棟のうち、南側の屋根の上に居る。東側にもう一棟あり、間は城壁のような渡り廊下で繋がれている。渡り廊下の2階部分は屋根がないため屋根伝いに向こうの棟へ行くことは出来ないだろう。

 

私はひとまずこの建屋の南側のテラスに降り立つことにした。どうやらこちらの建物がエントランスらしく、石畳と石柱がきれいに並べられているのが見える。

 

私はテラスに降り立つと、扉の横にある小窓から中の様子をうかがった。早朝ということもあり、中には人気ならぬ魔物気は無かった。篝火の炎だけが煌々と燃え盛っており、奥に設置されている演説台を怪しく照らしている。

 

 

「・・・ったく、なんで俺が・・・」

 

 

外から何者かの声が聞こえた。テラスの下からだ。私はテラスの手すりに近寄り、慎重に下を覗く。そこには一匹の魔物が大量の木箱を中に運び入れている最中だった。

 

 

「レッドドラゴン様も着任そうそう魔物使いが荒いよ。なんで俺が食料運びなんかやらなきゃなんねえんだよ。しかも人間の飯まで。」

「・・・っと、人間の飯はどれだっけ・・・?俺らの飯と混ざるとみんな煩いからちゃんと分けとかねえと・・・。」

 

 

ぶつぶつ独り言を言いながら木箱をあさり始めた。箱を開けては閉めを繰り返し、あるきばこのところで止まった。

 

 

「あった、あった。これだ。わかりやすいように箱に目印しとくか。・・・フッ!」ガリッ

「よし、この傷がある木箱は人間用。よしよし。じゃあちゃっちゃと運ばねえとな。」

 

 

そういうと魔物は大きな鎌を背負いつつ別の木箱を持って内部へ入っていった。人間用ということはおそらくこの城の何処かにいるターゲット用と見て間違いないだろう。

 

私はテラスの手すりを乗り越え、石造りのためあちこちに出っ張りの有る城壁を伝って下に降りた。先ほど魔物が印をつけていった箱を開ける。箱の中身に毒を塗布すればターゲットが口にし、確実に死に追いやることができるだろうという寸法だ。

 

 

しかしそんな目論見は早くも頓挫した。箱の中には大きめのパンが10以上、果物数十個、魚十数匹が入れられていた。明らかに一人用としては多すぎる。これは城の内部に人間が他にも居ることを示している。余計な被害を出すのは得策ではない。なぜなら仮にターゲットより先に他の人間が毒の塗布された食べ物を食べたとすれば、毒が塗られていることが露見してしまうからだ。全てが一つの箱に入れられているこの状況下ではどの食材がターゲットの口に入るのか予測するのは不可能だ。私は一旦箱を閉じた。

 

しばらく近くの茂みから見守ることにする。ターゲットに的確に毒を盛るにはもっと情報が必要だ。しばらくして魔物は木箱を全て運び終え、最後に残った印の付けた人間用の木箱を持って中へ入っていった。私はその後を気が付かれないよう一定の距離を取りつつ尾行した。

 

魔物が木箱を運び入れたのは地下の牢獄前の部屋だった。その部屋だけが牢屋ではなく倉庫として扱われているようだ。

 

少しして魔物が戻ってきた。私は一旦階段を上がり、エントランスロビーの柱の陰に隠れた。よく見ると戻ってきた魔物は手になにか持っている。あれは・・・果物だろうか?反対側の別棟からもう一匹魔物が現れた。彼らはお互いを認識するとロビーの真ん中で立ち話を初めた。

 

 

「おう、ちゃんと運んだか?」

「ああ。ちゃんといつもの部屋においておいたぜ。」

「ん?そりゃなんだ?」

「ああ、これか。いや牢屋に居るあの人間が食いたいって言ってた果実さ。大量にあったから一個くらい失敬しても構わねえと思ってな。」

「ふうん。おい、俺にも味見させろよ。」

「いいぜ。・・・っと割れた。ほらよ。」

「オイ、そっちのほうが大きくねえか?てか全然大きさ違うじゃねえか!」

「いいだろ。こちとら重労働押し付けられたんだ。これぐらいチップみたいなもんだろ。」

「ったく。まあいい。・・・ふむ。見た目はいいな。」

「だな。どれ・・・。」

シャクシャク

「うぐっ!?」

「ぐぉ!」

 

 

突然魔物たちが苦しみだした。手に持っていた果実を取り落とし、胸のあたりを抑えて苦しんでいる。片方の魔物が指を立ててなにかつぶやいた。

 

 

“キアリー”

「・・・ふぅ・・・なんだこれは!」

「毒じゃねえかこんなもん!」

「こんなもんを食うとか頭どうかしてるぜあいつ。」

「くっそ!殺せねえのが腹立たしいぜ!」

「ああ。何だってあんな奴生かしておくんだレッドドラゴン様は。」

「しらねえよ。聞いても“魔族に有益な情報を与える”とかなんとかいうだけだしよ。」

「有益な情報つっても、あいつ近頃はアッテムトに有る進化の秘法のことしか喋らねえじゃねえか。」

「アッテムトのエスターク様は勇者に滅ぼされたってこと知らねえんだろあいつは。」

「まあ何にせよ、あの男しか食わないのがせめてもの救いだな。」

「ああ。他の囚人も食わないものだってのにな。」

 

 

良いことを聞いた。あの果実は情報を提供してくれるという男しか食べないらしい。これでターゲットが絞り込めるかもしれない。

 

しばらくして魔物たちは落とした果実を掃除した後、2匹揃って別棟の方へ行ってしまった。私は掃除する際に捨てていたゴミ捨て場へ向かい、その果実が何かを調べた。すると意外にもその果実は“アボカド”だった。確かアボカドには人間には効かないが、動物には致死性の毒になる成分が有る。魔物に対しても同じだったのだろうか。

 

私は地下へ向かった。地下は地下牢とキッチン食堂が併設されている。キッチンでは2匹の魔物が料理を作っており、手前側の魔物のそばには先程の印をつけた木箱が置いてあった。おそらく既に調理を初めているものと思われる。急いでアボカドに毒を混入させ無くてはならない。

 

私はできる限り近づき、調理済みと思われる料理を確認した。その中にはアボカドを切り分けてドレッシングのようなものをかけたサラダがあった。囚人にしてはずいぶんと高待遇な気がするが、殺さずに生かしているということは投獄と言うよりは軟禁に近い状況なのだろうか。

 

テーブルのあいだをすり抜け、牢獄を見渡す。牢獄は全部で4つあり、そのうち1つは倉庫になっている。

 

一番手前の牢屋の囚人は床に座り込んでいた。絶望に近い色の目で虚空を見つめている。ショートヘアで男のような顔立ちでは有るが、胸部が結構な大きさに膨らんでいる。アレは女性だ。

 

2つ目の牢屋では囚人がやたらと忙しく狭い牢屋内を走り回っている。長い髪をたなびかせながら時折発せられる言葉は若い女性のものだ。ここも違う。

 

その奥の最後の牢屋には床に寝っ転がっている囚人が見える。目を瞑っているがその表情は、絶望というよりはもうすぐここから出られるかのような希望が見え隠れする顔だ。服装は粗末で、顔はあごひげを生やしている。そしてなによりも情報にあったターゲットの顔と一致している。

 

 

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『アレがパーブル。自分の立場を勘違いして死地へ迷い込んだ哀れな男。解放してあげましょう。』

 

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牢屋の中の人物は男性一人女性2人だ。先程の会話から推察するに、アボカドサラダを食べるのはターゲットのみのようだ。これで心置きなくアボカドサラダに毒を混ぜられるというもの。

 

私は新型麻酔銃を取り出すと、アボカドサラダの目の前にいる魔物ではない方、奥側の魔物に向けて一発麻酔銃を撃った。

 

パシュンブスッ

「んあ?・・・な、なん・・だ・・・。」ドサッ

「ん?オイ!どうした?」

 

 

もうひとりの料理人が倒れたことで確認のために作業の手を止めて魔物がその場を離れる。私はすかさず近寄ってアボカドサラダに青酸系致死毒をふりかけた。かけ終えるとすぐに近くのテーブルに身を隠した。

 

 

「・・・。」

「おい!どうしたしっかりしろ!」

「・・・グゥ・・・。」

「・・・この野郎!」ドガッ

「うぼぉ!」

「寝てんじゃねえ!さっさと起きろ!」

「んあ?アレ俺様寝てたのか?」

「ああ、すやすやとな!」

「いやあすまんすまん。昨日はちゃんと寝たはずだったんだがなあ。」

「ったく。急いで朝食の準備しなきゃならないってのに・・・。」

 

 

魔物たちはそれぞれ仕事に戻っていった。この新型麻酔薬は一度眠ると起こされた後は再度眠るようなことはなく、そのまま寝る前の行動を継続できるようだ。

 

下準備は完了した。あとはターゲットが毒で死亡するのを待つだけだ。私は階段を上って1階へ戻り、階段直ぐ側にあった窓から中庭へ出た。城の城壁はゴツゴツした岩を石垣のように積み重ねて作られており、登るための凹凸には事欠かなかった。私は外壁をよじ登り、屋根部分に上った。私はそこで魔物たちの朝食の時間まで待つことにした。

 

 

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『47。ステルスドローンからの映像でターゲットの死亡が確認されたわ。でも大勢の魔物の目の前で死んだものだから食堂はちょっとした騒ぎになっているわね。』

 

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日が昇ってから少したったあと、本部からターゲット死亡の報を受けた。私はそれを確認すると、屋上に設置しておいたバックから気球を取り出し、備え付けのボンベの中身を気球に充填する。空に浮かべ、くくりつけられているワイヤーを自身の腰のハーネスに装着して、回収願いの信号を出した。

 

しばらくしてそれなりに大きな音がし始めると、低空侵入してくる輸送機が見えた。来るときに乗った輸送機だ。輸送機はそのまま気球をかっさらい、同じ様に私も空中へかっさらわれた。一気に遠くなっていく城ではテラスや窓からこちらを見ている魔物もちらほら確認できたが、既にこの世界のどの飛行生物よりも速い速度で飛んでいるため追いつかれる心配はないだろう。

 

私はそのまま輸送機に回収され、この地域を脱出した。

 

 

 

 

 

 

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~2週間後~

 

 

「そういえば聞いた?今度の任務。47も一緒なんですって。久々よね。」

「姉さん。足りないよ。タバサも一緒に呼ばれてるみたいだ。」

「そうなの?4人での合同任務ってなんなのかしらね?」

「わからないけど、4人一緒にってことは相当危険なんじゃないかな。単純な戦闘能力なら僕らも結構高い部類に入るってこの前バーンウッドさんが言っていたよ。」

「数日がかりになったりしないといいわね。何日もお風呂に入れないのは流石に嫌よ。」

「あれ?組織から逃げ出したあと、風呂に入る機会なんてあったっけ?」

「あなたの見えないところで隠れて水浴びしてたのよ。あの地域は銭湯なんて無かったしね。」

「お風呂入るためにいちいちグレンタウンまで行くわけにも行かなかったからね。」

「それはそうと、ちゃんと準備しておかないとね。」

「大丈夫。準備は万端。抜かりはないよ。」

「へえ・・・ちなみにどんな準備を?」

「まず乾パンを1週間分。携帯ラジオと懐中電灯と・・・簡易トイレもあるよ。」

「シルバー・・・それ避難袋じゃないの・・・。」

「・・・あれ?」

「あなたってしっかりしてるようで偶に抜けてるわよね・・・。」

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「身に余る食事」   +1000 『ターゲットを朝食で毒殺する。』

・「超健康食品」    +3000 『ターゲットをアボカドサラダで暗殺する。』 

・「デッドミュージカル」+3000 『5匹以上の魔物の目の前でターゲットを暗殺する。』

・「ガスを使わない気球」+1000 『侵入と脱出を輸送機で行う。』

 




微妙に短くなっちゃったけどそれだけスムーズだったということで・・・w


2019/06/17追記
個人的にはアボカドとマグロを甘辛いタレであわせたやつが好きです。


次回はアッテムトへ向かいます。

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