HITMAN『世界線を超えて』   作:ふもふも早苗

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HITMAN『実験都市、OKB-457』

『シベリアへようこそ。47。』

 

『今回の任務は少々特殊よ。あなたが今いるのはウラル山脈の北側、ボルクータの北東200km地点にある秘匿閉鎖都市「OKB-457」通称“ブリンスキー設計局”。一番近い空港まで200km以上離れてて、近くの海は氷河に覆われて大地は永久凍土。そんな世界の果てとも言える土地に突如として現れる大都市がここよ。』

 

『この街は5本の超高層ビルとその周囲を取り巻く高層ビル。そして外周部のマンション群とそのさらに外側にある一般住宅街で構成されているわ。通常なら数万人規模の都市ではあるけれどここは閉鎖都市であり実験都市なの。近代的な市街地における新型兵器の実験やロボットなどの実験に用いられていて、人口も300人弱しか居ないわ。』

 

『今回我々ICAはこの都市を、完成したカテゴリLOGの最終実証試験場に採用したわ。47。あなたにはこの街に僅かに住んでいるその300人弱の住人を避難させてほしいの。手段は問わないわ。眠らせて一人ずつ町から出すも良し、集団で避難誘導しても良し、でも殺すのはダメよ。殺すくらいならカテゴリLOGの殺傷力の実験台になってもらうほうが有意義だからね。』

 

『それと、この装置も一緒に持っていって頂戴。これはパチュリー・ノーレッジ氏率いる魔導研究班監修で作成した対物魔法障壁発生装置よ。理論上は10メガトンクラス熱核弾頭にも耐えられるシールドを広範囲に展開するわ。避難が完了したら街の中心で展開して頂戴。魔法障壁は防御に重点を置いている設計だから展開すれば肉眼でも視認可能よ。』

 

『援護としてブルーとシルバーも同行させるわ。あと観測用としてSR-72も派遣する予定よ。準備が完了したら無線で知らせて頂戴。脱出用のヘリを向かわせるわ。あなたにも確認しておいてほしいから脱出用のヘリに乗ったら実験を開始する予定よ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「それで、今回はどういうプランで行く予定なの?」

 

私は今舞台となるOKB-457にヘリで向かっている最中だ。都市近郊の森のなかの空き地にヘリを下ろしてそこからは徒歩で向かう予定になっている。機内にはブルーとシルバーも同乗しており、これから始まる作戦の打ち合わせがこれから行われる。

 

「情報部の得た情報によると中央の5本の超高層ビルには町のインフラ設備、観測設備、それと放送センター以外には空のオフィスが入っているだけのようだ。重要区画はその周囲の高層ビル群の中にある3箇所の研究センターだ。」

「そこにはなにが?」

「別段大した事を研究しているわけではないようだ。化学兵器や細菌兵器の研究施設だ。」

「ちょ、ちょっとそれだいぶ大した事のように聞こえるんだけど?」

「シーバーンは流石にまずいのでは?」

「大丈夫だ。どうやら都市部におけるエアロゾルの広がり方を研究する施設のようで、実際の化学兵器や細菌兵器は保管されていないようだ。」

「そう、それならまあ安心できるのかしら。」

「油断は禁物だ。万が一本物のBC兵器を発見した場合はできるかぎり速やかにその場を離れろ。」

「わかった。心得ておく。」

「見つからないことに越したことはないんだけどねー・・・。」

 

 

二人は少しだけ安堵したような表情を見せる。私の予測では少量ながら本物のBC兵器が保管されている可能性が高いと睨んでいる。用心に越したことはないが、過度に危険視するのも作戦の柔軟性を損なう危険性がある。私はとりあえず本題である作戦について話し始めた。

 

 

「まず二人にはその周囲の研究施設に侵入して何かわかりやすい“毒ガスのようなもの”を探してほしい。色がついている気体なら何でも良い。」

「毒ガスである必要はないのね?」

「ああ。人体に無害でも構わない。見た目が毒ガスっぽくあればそれで良い。見つけたらそれを散布する装置を設置する。ここは小型爆弾が良いだろう。」

「持ってきているよ。威力はそれほどではないけど、何かしらの容器を壊すには十分だ。」

「よし。それを3つの研究所に仕掛けてくれ。仕掛け終わったら中央棟のメディアセンターから私が避難指示を出す。」

「避難誘導は何処にするの?」

「市街地南西部に簡易滑走路がある。町の住人が全員乗れる旅客機が駐機されているのが衛星で確認されている。それに乗せて町の外へ脱出させる。」

「300人弱だったっけ。正確な数はわからないの?」

「この街は秘匿実験都市の性質上、情報が外に漏れ出ない様になっている。公式にはこの町自体が存在していない。よって正確な統計も取られては居ない。知っているのはこの町の支配者たる大統領だけだろう。」

「ともかく僕と姉さんは研究所で毒ガスっぽいものを撒き散らす準備をすれば良いんだね。」

「ああ。事が終わったらメディアセンターのある中央棟に来い。屋上からヘリで脱出する。」

「了解。」

「わかったわ。」

 

 

一通り説明し終えると、乗っていたヘリは丁度良く市街地郊外の森のなかの空き地に着いた。私達はヘリを降りるとそれぞれ別方向へ歩き出した。

 

 

「じゃあ、またあとでね。」

「47も気をつけて。」

「ああ。」

 

 

二人は森の中へ消えていった。私も行動を開始する。今回持参したのはいつものシルバーボーラーに加え、出発時に渡された野球ボール程度の大きさの機械だ。情報部曰く、この機械が例の魔法障壁発生装置らしい。こんな小さな機械で熱核兵器にも耐える障壁が生成できるとすれば、それは世界の軍事バランスを根底から覆す代物に違いないだろう。

 

私は森を進み、市街地の外周部に出た。森と市街地を隔てているのは高さ2mほどのフェンスと検問所だ。私はフェンスの一部が破れているのを発見し、そこから内部へ侵入した。大方近くの野生動物、熊あたりにでも破られたのだろう。

 

市街地へ侵入すると、町中に監視カメラと言うには大きく頑強な作りのカメラを発見した。おそらく観測用のカメラなのだろう。念の為カメラを避けつつ市街地深部へ侵入していく。既に住宅街は抜け、高層ビル群に入っているが今の所人はだれも見かけていない。特に劣化しているわけでもなく、どこかの科学番組のようなまさに大都市から人間だけが忽然と姿を消したかのような風景になっている。

 

 

ジリリリリリリ!!!

 

 

突然けたたましいベルが鳴り響いた。音はかなり離れたところからなっており、表通りを武装した兵士と思われる集団が何組かベルの方へ向かっていった。しかしすぐにベルは止まり、辺りに静けさが戻る。

 

ピンポーン

「報告、15時21分25秒に発生した侵入者情報は確認作業の結果問題なしと判断されました。各員は所定の配置に戻ってください。」

 

 

どうやら先程のベルは侵入者検知のベルだったようだ。おそらく彼らだと思われるが、問題なしということはうまく切り抜けたということだろうか。

 

私は更に市街地をビルの合間を縫うようにして進み、ついに市街地中央部のメディアセンターの入る超高層ビルへたどり着いた。1階部分と2階部分は他の超高層ビルとつながっており、中程あたりに周りの4本のビルと空中廊下でつながっている。

 

正面入口には流石に警備員が立っていた。格好は警察官のそれであるが、明らかにアサルトライフルのようなものを携行しているのがわかる。私は周囲を周り、侵入できそうなところがないか調べて回った。

 

ちょうど到達した場所から反対側に当たるところまで周ったところで1階部分の外壁に錆びた鉄格子の換気口を見つけた。周囲を確認し、試しに引っ張ってみると、ボルトが錆びて劣化していたためか簡単に外れた。鉄格子を外すとそこには人一人が通れそうなくらいの換気ダクトがあった。再度周囲を確認し、その換気ダクトに潜り込んだ。

 

換気ダクト内を匍匐前進で進み、一番最初の換気口を開けて室内に侵入した。出た場所は倉庫のようだ。侵入さえ出来てしまえばあとはどうとでもなるだろう。私は手始めに倉庫を漁った。

 

倉庫内には事務用品雑貨が多かったが、殆どは予備として用意されたものばかりのようで手がつけられた形跡がなかった。陽動用にボールペンを数本拝借する以外にこれと言って収穫はなかった。

 

 

「47。聞こえる?」

「ブルーか。」

「ええ。こちらは一つ目の研究所の仕掛けを終えたわ。どうやらここはOKB-457-2と呼ばれているらしいわ。」

「3箇所のうちの一つだろう。何を使うことにした?」

「二酸化窒素が充填されていたタンクがあったからそれと排気ダクトを繋げておいたわ。バルブ代わりの栓を爆弾で爆破すれば一気に流れるはずよ。」

「上出来だ。ところでシルバーはどうした?」

「ここにいるよ。」

「ともに行動しているのか。」

「ええ。一人だとまだ大変なことがあるから。それでも二人なら大丈夫!」

「そうか。では他の2つも頼む。」

「はーい・・・あっ!そうそう、47。この研究施設、やっぱりアブナイわよ?」

「どういうことだ?」

「さっき見つけたのよ。二酸化窒素のタンクのある部屋に。“硫化ジクロロジエチル”って書いてあるタンクがあったわ。気をつけてね。どうやらガチで化学兵器実験場らしいわよここ。」

「気をつけよう。」

「じゃああとでね!」

 

 

やはり化学兵器はあったようだ。硫化ジクロロジエチルは通称マスタードガスと呼ばれるびらん剤の一種だ。気体を吸い込まなくとも皮膚が触れただけで爛れさせる。無論吸引すれば口も喉も肺もすべてが爛れてしまう強力なものだ。ゴム製の防護スーツも貫通するため専門的な機関でない限り防ぐのはまず無理だろう。

 

二人が誤って化学兵器の貯蔵容器に爆弾を仕掛けないことを祈りつつ、私は施設内を先に進む。

 

非常階段を登り、4階まで上がると、初めて人の気配を感じた。慎重に確認すると、ドアが開けっ放しになっている部屋があった。どうやら人の気配はその部屋の中からのようだ。私は慎重に近づき、部屋を覗く。

 

部屋はどうやら警備室のようだ。それもこの街全体いたるところにあったカメラの映像が映し出されている。部屋の中には合計で3人の警備員が居た。彼らは皆モニタを凝視しており、何かを探している風もあった。

 

 

「どうだ、みつけたか?」

「いや、こっちにはいないな。」

「こっちもだ。見間違いだったんじゃないか?」

「確かに居たんだよ。茶髪と赤毛の子供二人が。」

「でもこの街には子供はいないはずだし、第一この街に何の用だってんだ。実験は当面行われないんだぞ?」

「だからこそだろ。この街に保管されている化学兵器を奪いに来たとか・・・。」

「子供がかあ?お前やっぱり疲れてんじゃねえのか?」

「ううむ・・・こうも見つからないとそんな気がしてきた・・・。」

「ちょっと仮眠室で休んでこいよ。どうせ誰も居ない町だからな。俺ら二人で十分だ。」

「そうそう。休んできな。俺らが休みたくなったら起こしてやるから。」

「うーん・・・わかった。そうさせてもらう。悪いな。」

「いいって。さっさと寝ろ。」

 

 

警備員の一人が出口であるコチラに歩いてきた。私は物陰に隠れてやり過ごす。外に出た警備員は少し離れた別の部屋に入っていった。おそらくあそこが仮眠室なのだろう。私は忍び足で仮眠室へ向かい、中をそっと覗いた。中では先程の警備員が警備服を脱いで下着姿で寝床に入ろうとしていた。館内は暖房がきいており、スーツだと若干暑いくらいなので下着姿でも問題はないのだろう。

 

私は静かに部屋の中に入り、たった今脱いだ警備服を拝借する。奇しくも外はそれなりの風が吹いており、窓を揺らす音のおかげで侵入・拝借・退室の音に気が付かれることはなかった。私は近くの別の部屋に入り、そこで警備服に着替えた。警備服にはIDカードが入っていたためこれで館内を自由に動き回れるだろう。

 

館内を歩き回っていると、エレベーターホールにやってきた。壁にこのビルの施設図があったので見る。どうやらこのビル自体、市街地再現の一貫の役割が強いらしく、地上120階建ての高層ビルにもかかわらず、テナントは全く入っておらず、1階の受付、4階の警備室、50階の管理室、80階の放送センター、120階の展望エリア以外はほとんど空き室か倉庫になっているようだ。

 

私はエレベーターに乗り50階の管理室を目指した。特に目新しくもないエレベーターに揺られている最中に通信が入った。

 

 

「47。聞こえるか?」

「シルバーか。そちらの首尾はどうだ。」

「今二つ目の研究施設に爆弾を設置した。前と同じく二酸化窒素のタンクだ。」

「そうか。よくやった。ブルーはどうした?」

「今、別のタンクとにらめっこ中。書いてあるキリル文字の意味が理解できなくて悩んでる。」

「意味はわかるわよ。どうせこれも化学兵器のタンクだわ。近くにあった書類にはイソプロピルアミノ・・・なんとかエステルって書いてあるわ。長すぎるわよこれ。」

「それは前駆体だな。お前の予想通り中に入ってるのはおそらく化学兵器の毒ガスだろう。」

「予想はあたったわね。全然嬉しくないけど。」

「タンクはかなり離れたところにあるから問題はないと思う。最後の研究施設に向かう。」

「わかった。」

 

 

エレベーターは50階に到着。エレベーターホールの眼の前の大部屋が管理室のようだ。私は中にいる人員の服装が自分と変わらないのを確認すると、室内に潜入した。

 

中央のメインモニタには街全体の簡略図が描かれており、様々な場所のカメラや温度、湿度、放射能濃度やオゾン濃度まで書かれている。3つの研究施設の周囲はとりわけモニタリングポストが多く、化学兵器漏洩にかなり気を使っているのがわかる。私は目の前の操作盤の中に空調管理用のパネルを発見した。どうやらこのパネルでの操作で街のすべての空調を一括で動かすことができるようだ。

 

私は周囲を横目で確認し、誰もこちらを見ていないことを確認すると、すべての施設の空調を外部の空気を取り込むように変更した。変更する際にパスワードを設定して他の者が変更できないように手も加えておいた。

 

 

 

私は管理室を後にすると再びエレベーターに乗り、今度は80階の放送センターに向かった。80階から82階までが放送センターになっているようで、一見するとテレビ局のスタジオのようであるが、どうやら街全体への放送を担うと同時に各種部隊への通信なども行えるようだ。

 

こちらは警備服の人員が1人だけで管理しているようだった。実験などで使われない場合の保守メンテナンスはたった一人でも事足りるということなのだろうか。私はたった一人の警備員に話しかける。

 

 

「ふぁ~あ・・・。」

「暇そうだな。」

「んあ?何だお前?」

「交代要員だ。後は私がやろう。休憩すると良い。」

「ん、まだ交代の時間には早いが・・・まあいいか。わかった。」

 

 

休憩することを拒否する人間はなかなか居ない。彼はすぐに部屋を出ていった。私は邪魔者が居なくなったことで改めて設備を見渡す。目の前のパネルには各種舞台へのホットラインがあり、その上に全体への通信ボタンが有る。近くにおいてあったマニュアルによると、緊急時には12ある部隊のうち1つだけを対処要員として残しておくことになっているらしい。現場に一番近い部隊がそのハズレくじを引くことになっているようである。

 

 

「47。終わったわよ。」

「ブルー。」

「3つの研究施設全てに設置完了。最後は楽だったわね。」

「若干危なかったけどね。ともかく任務は完了だ。」

「了解した。ではこれから行動を起こすことにする。混乱に乗じて中央の一番高いビルの屋上へ向かってくれ。」

「わかった。そこで合流だね。」

「さて、どうなるのかしらねこの街。」

「施設から脱出できたら知らせてくれ。」

「もう脱出済みだよ。今路地裏を通ってビルへ向かってる。」

「そうか。では始める。」

 

 

私は小型爆弾の遠隔スイッチを押した。小型爆弾の為流石にここまでは爆発音は聞こえてこない。そのまましばらく待っていると、パネル横の電話がなった。

 

ガチャ

「はいこちら放送センター。」

「こちら警備室だ!緊急事態発生!研究所にて化学災害発生の可能性大!警報と避難誘導放送を頼む!」

「了解。」

ピピ

 

ビービービー

「こちら放送センター、緊急事態発生。緊急事態発生。OKB-457-1、2、3にて化学災害発生の可能性あり。職員は直ちに所定の手順に従い当地域から避難されたし。」

 

 

私はマニュアルに書いてあったとおりの手順と言葉で警報を発した。マニュアルでは職員は簡易的な除染を行った後、防護服に身を包んで空港まで向かい、2機の飛行機に分乗して脱出する手はずになっているようだ。

何回か警報を繰り返し放送した後、再び電話がなった。

 

 

「まずいぞ!システムの不具合で全施設の空調が外気を取り込む形になっている!我々も避難を開始するからそちらも早く脱出しろ!」

「わかった部隊への指示を行った後脱出する。」

 

 

「こちら放送センター、チーム・トーリカ応答願う。」

「こちらトーリカ1。どうぞ。」

「トーリカ1。今回の災害にはチーム・ゴーラが向かうことになった。第1陣脱出機に乗って脱出せよ。」

「トーリカ1了解。よかった。俺らじゃなくて。」

 

 

「こちら放送センター、チーム・ゴーラ応答願う。」

「こちらゴーラ1。」

「ゴーラ1。今回の災害にはチーム・トーリカが向かうことになった。避難誘導を行った後、第2陣脱出機にて脱出せよ。」

「ゴーラ1了解。やれやれだ・・・。」

 

 

 

 

 

私は対処チームを含めてすべての人員を避難させた。しばらくしてから放送センターから見える滑走路から2機航空機が飛び立ち、西の空へ消えていった。おそらく町には我々以外誰も残っては居ないだろう。私は放送センターを後にしてエレベーターで最上階へ向かった。最上階に着くと既に二人が待っていた。

 

 

「おそいわよ。47。」

「作戦は成功だ。町には人っ子一人居ないよ。」

「お前達の働きのおかげだな。さて・・・。」

ピッ

『信号を受信したわ。今迎えを送る。そのままそこで待機していて頂戴。』

 

 

私は通信機で信号を送り、迎えを呼ぶ。迎えが来るまでの間に最上階のヘリポートの端に持参した魔法障壁発生装置なるものを設置する。スイッチをいれるのはヘリで脱出したあとの方が良いだろう。

 

しばらくすると東からヘリがやってきた。私達三人はヘリに乗り込むと誰も居なくなった町を飛び立った。そのまま町から10キロほど離れたところを周回飛行する。

 

 

「脱出完了だ。」

『よくやったわ。衛星でも確認できた。町の中にいるのは犬と家畜の豚くらいね。それじゃあ魔法障壁を展開するわ。』

 

 

その言葉の直後に遥か彼方のビルの頂点から光が発せられたかと思うと、紫色の膜のようなものがビルから発せられた。おそらくあれが魔法障壁とやらなのだろう。街全体が紫の半球状の障壁に覆われた。

 

 

「はえー・・・これは壮観ね。」

「あれが魔法障壁か。興味深いな。」

『でしょう?ではまず手始めに魔法障壁の効力を確認するわ。北極海にドミネーターが居るのよ。じゃあお願いね。』

 

 

そういうと後ろでなにか指示を出している声が聞こえた。数十秒後、北の空から飛翔体がやってきた。どうやらミサイルのようだ。ミサイルはそのまま一直線に魔法障壁に向かっていき、直撃した。ミサイルは見事に障壁に防がれ爆発した。障壁には何の影響もないようだ。

 

 

『上々ね。次はもうちょっと威力が高いわよ。やって頂戴。』

 

 

今度はかなりの上空から何かが落下してきた。目を凝らしてみると以前私が使ったSR-72だ。かなりの速度が出ており、おそらくほぼ最高速だ。そのまま一直線に障壁にぶち当たった。

 

ドゴーン

 

派手な音を立てて障壁の外側で機体は爆発した。衝撃で粉々になったようだ。しかし魔法障壁はびくともしておらず、発生当初の状態でそこに有る。マッハ6にもなる高速飛翔体に耐えれるのはかなりのアドバンテージだろうな。熱核兵器に耐えるという話も誇張ではないのだろう。

 

 

「私達が苦労して取りに行った機体データを簡単に壊してくれるわね・・・。」

「まあ予想はできてたし、設計図自体が壊れたわけじゃないからいくらでも作れるんじゃないかな。」

 

 

横でブルーとシルバーが不満げな顔で話していた。気持ちはわからんでもない。

 

 

『魔法障壁の効果は立証されたわ。次はお待ちかね。メインディッシュよ。』

「“カテゴリ・LOG”か。」

『そう。かなりの衝撃が予想されるからもう少し離れるようにパイロットに言っておいて。』

「わかった。」

『じゃあ・・・始めるわよ。』

 

 

パイロットに伝えた後、ヘリは更にその場を離れるように飛行し始める。直後、

 

 

シュユルルル

 

 

超高空から何かが降ってきた。細長い弾頭だ。かなりの速度のようで、先程のSR-72よりも早い。そのまま魔法障壁に直撃する。

 

 

ガギィィィィン!

 

 

甲高い音がして魔法障壁が揺らぐ。一瞬へしゃげたかと思うと、弾頭は障壁を貫通し、地面へ落下した。

 

 

ドゴォォォン!

 

 

弾頭は市街地のほぼ真ん中に落下し、装置を設置したビルをえぐりながら地面へと突き刺さる。そのまま地面深くへ潜り込むと周りの建物などを宙に舞い上がらせながら地面を裂いた。

 

 

「うっわ・・・。」

「すごい・・・。」

「・・・。」

 

 

地獄絵図という言葉がぴったりだろう。基礎部分からえぐられた高層ビルはまるでおもちゃの模型のように宙に舞いながら崩れ去った。地面には多数の地割れが起こり、郊外の住宅街の一部が地割れに飲み込まれていった。飲まれなかった住宅も激しい衝撃と地震で原型をとどめている建物は一つもない。さながら世紀末物のパニック映画のようだ。

 

 

「私見たことあるわよ。ネットの映画配信でみたわ。“2012”ってやつ。あれにそっくりよ。」

「僕も見たけど、そのままだね。高層ビルの倒れ具合とか地面の割れ具合とか。」

「完全に世紀末ね。しかもたった一発でこれでしょう?」

 

 

そう、町を完全に崩壊させ世紀末を起こしたこの兵器は、たった一発しか放っていないのだ。その一発でこの結果ならば・・・。

 

 

『実験は成功ね。よくやったわ。予想通りの結果に上層部も満足してくれるでしょう。』

「・・・。」

『47。あなたは何も考えることはないわ。我々はこれを使って世界征服するわけじゃない。我々の存在を確保するための兵器なのよ。』

「そうか。」

『・・・。とにかく任務は成功よ。帰還して頂戴。』

 

 

私達三人はそれぞれ今後の世界の展望に一抹の不安を覚えながら帰還した。町には既に巨大なクレーターとその周りに放射状に伸びる地割れしか残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~数時間後~

 

 

「ふむ。実験は成功のようだな。」

『はい。想定していた効果範囲と威力を観測することが出来ました。』

「地割れの深さは推定150mから300m。効果範囲は半径120kmか。核兵器並だな。」

『しかし核兵器と決定的に違うのは放射線による汚染がないことです。これは大きなことでしょう。』

「そうだな。連射できる上に迎撃は極めて困難。世界の軍事バランスが完全に崩壊するな。」

『ですので当面は我々の世界に1基。そして幻想郷に1基設置するのみとしています。』

「プロジェクト23265のために必要な最低限というわけか。」

『そうです。彼の地で穏便に事を進めるためにも、この兵器は必要なのです。』

「パチュリー女史は怒ってるんじゃないか?試験は映像で見てたんだろう?」

『険しい表情をしていましたが、“読書環境を壊さない”という契約を守ってくれるかどうかを念入りに確かめる以外は、特にこれと言って反論や批判はありませんでした。』

「あくまで本が最優先か。大図書館と言われるだけはあるようだな。」

『これを持ってカテゴリLOGの開発を完了としたいのですがよろしいですか?』

「うむ。ご苦労だった。」

『では今後の作戦用コードネームを設定してください。それで全ての諸手続きは完了です。』

「わかった。」

 

 

 

 

 

「ICA上級委員会No.1が命ずる。現刻を持って“カテゴリ・LOG”の開発を完了することを宣言する。また現時点よりコードネームを変更する。」

 

「1号機をコードネーム“オーディン”。2号機をコードネーム“ロキ”とする。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「小さな暗殺ネズミ」 +1000 『換気ダクトを通って中央棟へ侵入する。』

・「職員用エレベーター」+3000 『変装後、エレベーターに乗って移動する。』

・「暗殺警報発令中」  +1000 『避難を放送で呼びかける。』

・「魔法は高い所が好き」+2000 『魔法障壁装置を中央棟の屋上で作動させる。』

 




別アプローチではブルーとシルバーの方の様子を書きたいと思います。

次回はシルバー&ブルーsideです。

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