HITMAN『世界線を超えて』   作:ふもふも早苗

66 / 87
『前段作戦 ~ 萌芽根絶』の別アプローチです。



HITMAN『前段作戦 ~ 萌芽根絶』(もう一つの世界線)

『幻想郷へようこそ。47』

 

『今回のターゲットはロシア対外情報庁の諜報員の二人、コンスタンティン・ギルグルフと、アルタリア・キリールよ。幻想郷へ共産主義を広めようと人里の古書店を根城に活動しているわ。』

 

『今回の暗殺はできるだけ派手にお願い。というのもこの暗殺を我々ICAの手によるものだと幻想郷の有力者たちにわからせる必要があるの。手段や規模は問わないし、兵器の持参も許可されてる。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

静かだ。現在時刻、午前2時40分。大都市の繁華街とかならいざしらず、田舎の農村の深夜など誰一人として歩いているものはいない。まして電気が通っていないので明かりといえば月明かりや星明りしか無い。それも今は曇天の影響で全く見えず、あたりは文字通り闇夜に包まれており、雲を通して届く僅かな月明かりが、かろうじて道と建物の区別が付く程度には道を照らしてくれている。

 

私は今回、リモコン起爆式の爆弾を持参した。“派手に”という要求に答えるためだ。しかし炸薬は比較的小規模にとどめておいた。小規模に留める必要があったというべきだろう。

 

人里の中央の広場にやってきた。広場というよりも空き地に近い様相ではあるが、こんなのでも住人にとっては貴重な憩いの場だろう。私は地面を注意深く観察する。暗闇でよくは見えないが目を凝らして顔を近づければ地面の凹凸程度なら見ることができる。注意深く見ると、よく人の通る“動線”が見えてくる。

 

広場の端にある羽の生えた天使の彫刻はそれほど人気ではないことがわかった。彫刻に彫られた銘はヨーロッパ風の名前であり、おそらく外来人が作ったものだろう。我々の世界では天使のイメージの強い羽の生えた女性も、この世界では妖怪の一種としか見られていないようだ。地面はほとんど荒れておらず、また広場の端にあるため待ち合わせスポットとしても不人気のようだ。ここならいいだろう。

 

私はその天使の像の根元に小さく穴を彫り、その中に爆弾を設置した。アンテナケーブルのみ彫刻の裏手まで地面の下を這わせて地上に出した。地面を元通り修復して準備は完了。あとはターゲットをここに呼び寄せるだけだ。

 

現在時刻、午前3時30分。周囲に人影はまったくなく、居たとしても私がやっていることは、この闇夜のせいで把握することはできないだろう。私は静かにその場を後にし、一旦セーフハウスへ戻った。

 

 

 

 

日が昇り、雲が晴れ、快晴とまでは行かないものの十分に青空が見える。太陽は時折雲に隠れつつもその陽射を地上に降り注がせ、冷え切った地表付近を多少温めてくれている。

 

時刻はそろそろ午前11時になろうかというところ。私は行動を開始した。まずはターゲットを発見するために私は町人の服を着て街を練り歩く。広場では中央の井戸の周囲で女性が複数人談笑を楽しんでいるのが見える。その中にはこの街の有力者の一人である上白沢慧音も居た。私は広場にある露店の一つを眺めるふりをしつつその井戸端会議に耳を傾けた。

 

 

「でね、旦那ったら「俺が見てきてやるよ!」って勢いよく出てったとおもったら5分と立たないうちに「何も見えねえ」って帰ってきたのよ!」

「あははは。まあそんな時間じゃ真っ暗で何も見えないでしょうね。」

「それであまりの速さに唖然としちゃって、それが顔に出てたのかそれから度々旦那の威厳を見せようとしてるのか、いろいろ力を貸してくれることが多くなったわ。」

「あら、それならいいじゃない。うちの旦那なんて仕事から帰ったらご飯食べてすぐ寝ちゃうのよ。何の手伝いもしてくれないわ。」

「まあしかたないですよ。旦那さんは朝から晩まで農作業ですから・・・。」

「そういえばこの前畑の雑草抜いてるときに変な人を見たわ。」

「変な人?」

「ええ、一人は町外れの古書店、ほら、あの森に近いところにある古書店よ。あそこの店員さんなんだけど、もうひとりは見たこと無い服を着ててねえ。二人で歩きながら何か相談してるみたいだったわ。」

「どんな格好してたんです?外来人では?」

「多分そうだと思うのだけれど、今までは、えーと・・・なんていったかしら・・・すーつ?とか言う服着た人が多かったじゃない?」

「まあそれだけじゃないけど後は襟もなければすごい薄そうな服だったりするわね。」

「それらの外来人の服ではないのですか?」

「うーん、なんて言ったらいいのかしら、すーつとかよりももっと畏まったというか・・・もっときちっとしてる感じでね。胸や肩のところにキラキラするものがいっぱいついてたわ。」

####アプローチ発見####

「それは・・・なんとも特徴的な服装ね。目立ちたがり屋なのかしら?」

「でしょう?慧音先生はどう思います?」

「どうと言われましても・・・実際に見てみないことには判断が付きかねますが、実害がないのであれば放っておいて問題ないと思いますよ。」

「まあ、珍しい格好の人がいるのなんて今更だしねえ・・・。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『綺羅びやかな装飾品をつけた見慣れない服装の男が目撃されているみたいね。情報によればターゲットのうちの一人、ギルグルフの方は階級こそ大尉だけれど、幾多の戦場において様々な戦績を残している関係でそれなりに多くの勲章をもらってるみたい。おそらくその目撃された人物はギルグルフで間違いないでしょうね。となると古書店の店主も怪しくなってくるわね?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

町外れの古書店、胸にキラキラしたものをたくさんつけた服を着ている人物、おそらく古書店がアジトでその人物が着ていたのは軍服だろう。なぜ軍服を着てうろついていたのかは不明だがこの際そのことは問題にはならないだろう。

 

私は露店を離れて別の露店へ向かった。こちらの露店は文房具などを主に取り扱っている店のようだ。外の世界から流れ着いたものも販売しているらしく、大学生が使いそうなノートやシャープペンシルが1冊だけとか1本だけ売っていたりした。私は店主に話しかける。

 

 

「店主。手紙を送りたいのだが便箋のようなものはあるか?」

「へいらっしゃい。便箋ですかい?えー・・・はい、こちらになりやす。」

 

店主が差し出してきたのは至って普通の便箋だった。よくよく考えればメールやSNSでやり取りするのが主になっている現代では便箋を使うことは殆ど無い。だから忘れ去られてここに流れ着く紙も多いということか。

 

便箋を購入し、近くに設置されていた石でできた、彫刻と同じ人物が作った椅子とテーブルに座って手紙を2通認める。1通はターゲットの古書店へ、もう一通はギャラリーへだ。

 

手紙を書き終えると付属の封筒へ入れ軽く封をする。完成した手紙を持ってターゲットの古書店を探すことにする。できれば日が傾く前に手紙を渡したいところだ。

 

 

古書店は案外あっさり見つかった。町ゆく人に尋ねると皆その古書店の存在を知っていたからだ。どうやら外の世界由来の書籍を多数扱っているらしい。おそらく書籍で自らの思想を広めようとしているのだろう。古書店に到着した私は早速中に入る。

 

 

「いらっしゃいませ。」

「いや、客じゃないんだ。上白沢慧音という人物を知っていますよね?」

「はい、彼女には店を出すときにもいろいろ世話してくれてよく知っていますがそれが?」

「彼女から手紙を預かっていますのでお渡しします。彼女からは2人に、と伺っていましたが・・・。」

「2人・・・。そうですか。わかりました。」

「では確かにお渡ししましたので、私はこれで。」

「はい、ご苦労様でした。」

 

 

これでターゲットの方は大丈夫だ。次はギャラリーの方だ。

 

 

 

 

 

~ターゲットside~

 

「慧音さんからの手紙だそうです。」

「なんと書いてあるのだ?」

「はい、今日の夕方に広場の天使像の前に2人で来るようにと。」

「2人でだと?私の存在は気が付かれていないはずでは?」

「しかし確かに手紙には2人でと。それに手紙を託した人にも“2人に”とおっしゃっていたそうです。」

「・・・我々の活動が露呈しかけている可能性は?」

「無い。と言いたいですがこの間あなたは一度外に出ています。そのときに見られた可能性も否定できません。それが綻びとなって疑問を追求した結果露呈するということもなくはないかと。」

「ちっ・・・できれば街の有力者には手を出したくなかったのだが・・・。」

「どうするおつもりですか?」

「八雲紫よりは上白沢慧音のほうが幾分対処しやすい。発覚しているとしたら処分するしかあるまい。」

「殺すのですか?」

「致し方あるまい。ノビチョクを使う。アレならばいけるだろう。」

「了解しました。準備します。いつ実行しますか?」

「呼び出されたときだ。話を聞いて杞憂で済んだのなら使わなければいい話だ。」

「わかりました。」

 

 

 

 

 

~上白沢慧音side~

 

「すみません。」

「はい?何でしょう?」

「東の古書店の店主からこれを預かってまいりました。慧音先生にと。」

「手紙?私に?なんだろう・・・。」

「では確かに渡しました。私は用があるのでこれで。」

「あ、ああ。すまない。ありがとう。」

 

「ん~・・・夕方日が沈む頃に広場の天使像に来てくれ・・・?」

「どういうことだろう・・・。古書店の店主というのはあの人だろうが・・・。」

「まあ予定もないし、行けばわかるだろう・・・。」

 

 

 

 

~47side~

 

2人に手紙を渡した私はその足で広場に隣接している食事処に来た。最近急増していた外来人向けに作られたものだが、町人もよく利用しているらしい。広場を見られる席に座り、その時が来るのを待った。

 

私が少し早い夕食を取っていると、広場の東側からターゲットの二人が現れた。流石にもう片方は軍服ではなく町人の格好をしていたが。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『彼らがコンスタンティン・ギルグルフと、アルタリア・キリール。幻想郷を赤く染め上げようとする影の扇動家。さあ、不穏分子はさっさと排除しちゃいましょう。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は食事である川魚の定食を食べつつその成り行きを見守る。傍からは人の行き交う広場を眺めている客にしか見えないだろう。広場は夕方なのもありそれなりに人通りがある。しかし例の彫刻の前は動線から外れている上に待ち合わせにも使われないので、ターゲット2人以外誰一人としてその側に行こうとするものはいない。

 

2人は彫刻の前で何かを相談しながら辺りをうかがっている。おそらく呼び出した本人が居ないことを不審に思っているのだろうか。上白沢慧音はその後少ししてから広場へやってきた。

 

私が食事を終え食後のお茶と和菓子を食べていると、西の道から慧音がやってきた。私は懐から爆弾のスイッチを取り出す。慧音が2人に気がついたようで広場の動線を横切って彫刻に近付こうとしている。

私はそのタイミングで爆弾の起爆スイッチを押した。

 

 

ドォーン!

キャアアア!

ナ、ナンダア!

 

 

爆弾はターゲット2人の直下で爆発した。50gのプラスチック爆薬なので、それなりに大きな爆発にはなったが広場の露店のものが爆圧で落ちたり、広場に居た人間が倒れ込んで怪我をしたりはしていたが、通行人は皆一命はとりとめているようだった。

 

しかし爆心地に居た二人はそうは行かない。爆発による土煙がある程度収まると爆心地が見えてきた。しかしそこに2人の姿はなかった。あったのは彫刻の残骸と思われる粉々に砕け散った瓦礫だけだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。衛星からの映像を解析した結果、爆発の衝撃でほぼ粉々になって飛び散ったみたいね。ターゲット2名の死亡を確認とするわ。ご苦労さま。なかなか派手に行ったみたいね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

広場では上白沢慧音が広場を回ってけが人を介抱したり、助けに駆けつけた住人たちに指示を飛ばしたりしていた。眼の前で知人が粉々に吹き飛んだというのに冷静さを失わないのは流石は町のまとめ役と言ったところか。

 

私はリモコンを懐にしまい直すと、目の前に置かれていた大福を食べ店を出た。・・・ぐっ、少し土の味がする・・・。

 

店を出た広場は阿鼻叫喚となっている。幸いにして手足がちぎれたりした人間は居ないようだが、爆圧で転倒したり破片や土塊で切り傷などを追った住人が多くいるようだった。私はそれらの混乱に紛れるように進みセーフハウスへ帰還した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~5時間後~

 

 

「今回人里で起こった爆発事件だけど、どうやらICAって組織が絡んでるらしい。」

「ICA・・・か。」

「ん?レミリア、知ってるのか?」

「前にちょっとね。それより何であなたが仕切ってるのよ蓬莱人。」

「慧音がショックで寝込んでしまったからな。介抱が一通り終わったらぷっつりと糸が切れたように気絶したよ。」

「まあ慧音も目の前で人が粉々になればそりゃあねえ・・・。で?そのICAって奴らが異変の元凶なの?」

「これって異変なのか?ただ単に爆殺事件が1件起こっただけだろ?」

「確かに異変と言うには少し規模が小さい気もするな。だが今回殺された二人は外来人なんだ。」

「外来人?」

「ああ。何でも古本屋をやっていたらしいんだが詳しくはわからない。」

「何でそいつらが殺されたんだ?」

「それもわからない。ただ似た手法を使う人物が心当たりがあるやつが居る。」

「47ね。」

「レミリア?」

「前にうちのメイドを一人そいつに暗殺されたことがあったのよ。」

「レミリアが暗殺なんて許すとはまた珍しいわね?」

「結局はそのメイドもICAとやらの手先だったけどね。なんとか贖う方法を模索したけど結局贖えなかったわ。」

「なあ、それってもしかして例の大爆発と関係があったりするのか?」

「あら白黒、ご明答よ。私があいつを追い詰めたときに空からなにか降ってきたのよ。あの爆発はその時のもの。」

「あれはすごかったわね。紫も慌ててたもの。」

「ともかく、その連中がまたこの幻想郷で何かをやらかすつもりらしい。今レミリアが言った空からの攻撃が来ないとも限らないから用心していこう。」

「私は独自にいろいろ調べてみるぜ!なにかわかったら報告する。」

「ああ魔理沙。頼む。くれぐれも気をつけるんだぞ。」

「じゃあ私はパチェと相談して襲ってきたときのための対策を練ろうかしら。」

「そうしたほうがいい。他のみんなも各自用意はしておいてくれ。これは異変の始まりかもしれない。」

「異変なら霊夢の出番だな!」

「町のど真ん中でいきなり爆弾を爆発させるようなやつ相手にはしたくないなあ・・・。」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「世界共通の情報通達」     +1000 『井戸端会議の会話を聞く。』

・「コミュニティリーダー」    +1000 『上白沢慧音に会う。』

・「暗殺者より愛を込めて」    +3000 『ターゲットに手紙を渡す。』

・「ミッドイーストプロジェクト」 +5000 『中央広場でターゲットを爆弾で暗殺する。』




多少派手になりました。ですが感想にあったんですが以前のヤマブキシティのと比べるとまだ地味なのはどうしようも・・・w


2019/06/17追記
被害を出さずに派手にするのは非常に難しいです。劇場版コナンの爆弾テロとか被害者の描写がないだけで相当に被害者は居るはずなんですが・・・。


次回、作戦開始。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。