HITMAN『世界線を超えて』   作:ふもふも早苗

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###注意###

原作に登場するキャラが死亡する描写があります。作品に思い入れが有る方はご注意ください。


HITMAN『デザートは復讐の鎖』

『トリステイン魔法学院へようこそ47。』

『今回はここ、ハルケギニアでも有数の魔法学校である“トリステイン魔法学院”よ。ここでは日夜貴族の子息が魔法を学び、貴族としての立ち振舞を学んでいるわ。最近は謎の爆発が頻発しているのが諜報部のドローン偵察で確認したみたいだけど、学院側に目立った動きはないからおそらく生徒の仕業なんでしょうね。死傷者は今のところ出ていないみたいだけど一応注意して。』

『今回のターゲットはその生徒の一人、タバサ。本名“シャルロット・エレーヌ・オルレアン”。そう、この間ガリア王ジョゼフを暗殺したときのクライアントよ。私達ICAは常に中立。依頼があればこなすだけ。それは言われなくてもわかってるわよね。』

『彼女は亡きシャルル・オルレアン公の忘れ形見の一人娘。母親も病で長年幽閉状態だから現王女イザベラにとっては目の上の瘤。実質的に権限を握っているシェフィールド執政官も同意見で彼女を秘密裏に暗殺することになったようよ。でも情報部の報告によると忘れ形見は一人では無いようだけれどそれは今回の任務には関係がないわね。』

『依頼人はそのガリア王国イザベラ女王とシェフィールド執政官。依頼をしてきたのは良いけどあの人達私達がジョゼフ王を暗殺したことを知らないようよ?まあ知る必要もないのだけれど。』

『準備は一任するわ。』

 

 

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「おう新入り!そっちのトマトを3つ取ってくれ!」

「わかりました」

 

私は今見習い料理人として学院に来ている。この世界の身分証明書をICAが準備できたのにも驚きだが、そんな怪しさ満点の人物を雇う学院側にも危機意識の欠如を感じざる負えない。さすが貴族の通う魔法学院。料理の質もかなり高く、フランス以外の国ならば星1つは最低でももらえるかというクオリティだ。

現在時刻は朝の6時。朝食の用意で厨房はてんてこ舞いである。私は今回料理人として潜入するに当たりシアン化水素系致死毒を持参した。

 

「新入り!そろそろ配膳の準備だ!落とすなよ!」

「わかりました」

 

今いる厨房はかなりの広さの食堂のすぐ脇に併設されている。厨房で完成した料理をすぐに運べるようにだ。私は朝食だというのにやたら豪華なフランス料理にも似た料理を手際よく並べていく。と、早くも一部の生徒が食堂内に入ってきた。

そこからはかなりの忙しさだった。ひっきりなしにできる料理を片っ端からテーブルに並べていき、貴族の生徒の要求に的確に答えていく。一段落したのは生徒の大半が食堂を出た後だった。忙しさのあまりターゲットの確認すらできなかったのは悔やまれる。

 

「おつかれさまです。初めてなのに手際良かったですよ。」

「ありがとう。こういうのには慣れているので。」

「そうなんですか?マルトーさんも“あいつは手際が良くて助かる”って褒めてましたよ。」

「そういう君もなかなかの手際だった。」

「あはは、ありがとうございます!」

 

彼女はシエスタ。いきなり昼寝を始めそうな名前では有るがとても働き者で、貴族の何人かと談笑する場面もあったので内部事情にも詳しいと思われる。

だが今回はまだターゲットを確認していないため、変なところでボロを出す危険性も有るので早々に話を切り上げる。

厨房の中は依然として忙しそうに料理人や手伝いが動き回っている。と、近くの壁に大量の鍵がぶら下がっている。おそらく使用人用の合鍵なのだろう。それぞれ鍵の上に名札がついている。私はミス・タバサの部屋の合鍵を隙を見て取った。それを懐にしまうと、皿洗いの中に交じった。

皿洗いをしているとマルトー料理長が話しかけてきた。

 

「おう新入り、この後なんだけどよ、昼食を作る手伝いが終わったら皿洗いや後のことは俺らに任せてお前は馬車小屋に行ってトリスタニアまで買い出しに行ってほしいんだがよ。」

「何を買ってくればよろしいのでしょう。」

「それは馬車を操縦するやつにメモを渡しとくから、そのとおりに買ってきてくれや。やってくれるか?」

「わかりました。昼食作成後、馬車に乗り買い出しをすればよいのですね。」

「おうよ。あんがとよ、力自慢のやつが今までその仕事についてたんだがこの間腰をやっちまってよ。しばらく動けねえらしいからその間は頼むぜ。」

「わかりました。」

 

脱出ルートが決まった。

 

 

 

 

私が厨房の仕事を終え外に出ると生徒は各々の教室で授業を受けていた。私は清掃員のフリをしつつターゲットの部屋を探り始めた。しかしドアに表札が出ているわけではないので外からの見た目では判断しづらかった。1階の廊下でどうしたものかと思案していると私と同じような頭をした男性が近づいてきた。

 

「どうされたのですかな?」

「いえ、ミス・タバサから部屋においてくるように頼まれたものがありまして。しかし、ここに来てまだ日が浅いため部屋の位置がわからないのです。」

「ああ、ミス・タバサの部屋ならこの2つ上の階の左から2番目の部屋ですよ。ちなみに一番左から空き部屋、ミス・タバサ、ミス・ツェルプストー、ミス・ヴァリエールの部屋となっています。」

「ありがとうございます。早速行ってまいります。」

「いえいえ、ご苦労さまです。」

 

おそらくこの学院の教師なのだろう。貴族至上主義の世界にもかかわらず平民としか思えない相手に親切にしてくれた。頭は私以上に光っていたが。

私は3階のミス・タバサの部屋に来た。合鍵を使って中にはいる。ベッドメーキングはまだ済んでいないようだったので私が代わりにやりつつ、部屋を観察する。テーブルの上に空の紅茶セットと不釣り合いな薄水色のサラダボウルがある。紅茶のお茶請けにサラダとはまた奇怪である。私は近寄ってサラダボウルを調べる。すると、中に食べられなかった野菜の破片があった。特徴的なギザギザの葉。ハシバミ草と呼ばれるものだ。

私はボウルを含めた食器を厨房へ持っていった。厨房には若い料理人が一人で居た。

 

「ああ、ミス・タバサの部屋の食器だな?なんで分かるのかって顔してるな。そりゃわかるよ。その食器はハシバミ草専用のサラダボウルなんだ。あの野菜は味が強烈過ぎて食器に若干苦味が残っちまうんだよ洗っても取れやしないから食器ごとどうにかするしかねえんだ。」

「私はハシバミ草というのを食べたことはないのですがどういう味がするのでしょうか?」

「知らねえ。オレも食べたことはないんだけどよ、マルトーさんも含めて味見でもなんでも食ったこと有るやつみんな口をそろえて言うのは“人間が食べられる物じゃねえ”だそうだ。相当苦くてなうちら平民も他の貴族様たちも誰も食べようとはしねえんだ。ミス・タバサだけが毎回注文するもんでな、個別に注文して専用に作って差し上げてるのさ。」

####アプローチ発見####

「だから俺ら料理人を含めハルケギニアの平民や貴族はみんなハシバミ草の猛烈な苦さを聞き及んでるだけで、実際に口に入れたことの有るやつは少数なんじゃねえかな。」

 

 

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『ターゲットはハシバミ草を好んで食べているようね。自室に持ってこさせるほどに。ハシバミ草はとてつもなく苦味のある特殊な野菜で、常人が食べたらそれはもうこの世のすべての食物が甘く感じるほどだそうよ。そんな野菜だから彼女しかいつも食べたりせず、料理人ですら手を付けないみたいね。彼女しか口に入れない野菜、これは使えるんじゃないかしら?』

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「毎回食事に出すのですか?」

「ああ、今日このあとの昼食でも出す予定だ。ほら、あそこに一個だけ離して置かれた木箱が有るだろ?アレがハシバミ草の入ってる箱さ。間違っても他の料理に混入させたりするなよ?」

「わかりました。」

 

厨房の隅にまとめて置かれた食材の木箱の中に更に木箱1つか2つ分離され独立して置かれている木箱が有る。私はその木箱に近づき箱を開けた。

中には先ほどボウルの中に少しだけ残っていた葉と同じ形の草が大量に入っていた。おそらく買いだめしているのだろう。持ってきている致死毒は水溶性で洗えば落ちてしまうのでこの時点で混ぜ合わせたとしてもおそらくサラダにする際に食材を洗うときに洗い流されてしまうだろう。私は箱を閉じ、食材を整理している風を装うことにした。

 

 

しばらくして厨房の中が慌ただしくなり始めた。昼食の時間が迫っている。マルトー料理長以下10数名の料理人がせわしなく働き、それぞれ鍋に火をかけ、フライパンを舞わせ、包丁が小気味いいリズムを奏でる。依然として食材の整理をしていた私にマルトー料理長からお呼びがかかった。

 

「オイそこのお前。そこにいるんならその木箱の中からハシバミ草を5~6枚取ってサラダを作ってくれ。詳しいレシピはまな板の横にあるメモ書きを読んでくんな。ああ、盛り付けはあっちの薄い水色の器にしろよ?アレが専用皿なんだ。」

「わかりました。愛情を込めてやります。」

 

私はハシバミ草を6枚手に取ると流しで洗い、指定されたまな板の上で一口大に。その近くにあった塩を振り、別の料理人から受け取ったトマトと合わせた。胡椒と隠し味の致死毒を混ぜ合わせ、サラダボウル1杯分のハシバミ草サラダの完成だ。

 

「料理長できました。」

「おお、出来たか。じゃあそれを食堂に運んでくれ。ミス・タバサの席はわかるか?左から2つ目のテーブルの前から14番目だ。」

「わかりました。」

 

私はサラダボウルをもって食堂に出た。食堂では既に多数の生徒が食事を今か今かと待ちわびている。数人がすれ違うときに私のもっているサラダボウルに興味を示したがその中身をみると苦虫を噛み潰したような顔で離れていく。左から2番目のテーブルの前から14番目の席、つまりターゲットの席にそのサラダボウルを置いた。私は厨房に戻り、使った調理器具や手を洗った後、次の食材を取るふりをしつつ厨房を抜け出した。

 

私はそのまま食堂の中が見える外周城壁の上へ移動した。食堂の中の生徒の数はどんどん増えていく。その中に青い髪をした少女が居た。

 

 

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『アレがターゲットのタバサ。シャルロット・エレーヌ・オルレアン公。政治闘争の犠牲者になるお方よ。』

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食堂では学院長の演説が行われているようだ。その演説も終わり、始祖とやらへの祈りの後食事が始まった。ターゲットも目の前の料理を平らげていく。サラダボウルに手を伸ばした。と一瞬なぜか戸惑ったような素振りで手を止めた。が、軽く首を振った後ハシバミ草のサラダを小皿に分け、そして口に運んだ。

 

食べた瞬間少し咀嚼していると急にうめき出した。いやうめき声は聞こえてこないが明らかに苦しんでいるのが見える。テーブルに突っ伏し、テーブルクロスを掴む。赤い髪のグラマラスな女性が近くに駆け寄ってきた。何か問いかけたり周囲に何かを叫んだりしているがあの致死毒は即効性であり、口に入れたが最後わずか10秒足らずであの世へ誘う。

周りに人が集まってきた。その中には杖を持っているものがいるが、既に彼女は泡を吹いておりピクリとも動かなくなっていた。

 

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『ターゲットダウン。見事な手際だったわ。そこから脱出して。』

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食堂は大騒ぎになっており、周囲の生徒や教職員も駆けつけ魔法を彼女にかけているのが見える。私は城壁をおり、中庭を馬車小屋の方へ歩いた。

馬車小屋では今まさに馬車が発車しようとしている。おそらく夕食用の買い出し便だ。私は2~3運転手と話し、馬車に乗せてもらった。私はそのまま馬車で学院を出た。

 

 

 

 

 

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~2日前~

 

「タバサが居てくれてほんと良かったわ」

「だな!俺も危うくあのエルフに殺されかけたところを助けてもらったし。ほんと頼りになるぜ!」

「それほどでもない」

「ちょっとぉ、私も活躍したんですけどぉ?エルフが操る蔦を焼き切ってあげたのは誰のおかげかしら?」

「ああ、キュルケもありがとうな。助かったぜ。」

「私の扱い雑じゃない!?ねえタバサ?!」

「・・・」

「うるさいわよキュルケ、狭い馬車の中で騒がないで。」

「なによもう。まあいいわ、みんな無事に帰ってこれたんだもの。」

「だな。平和が一番。でも学院についたら質問攻めに合うんだろうなあ。」

「そう言えば結局ギーシュはトリスタニアに置いてきちゃったものね。キュルケ、あんたが置いていく判断下したんだからあんたが責任持って説明してよね。」

「あら、それを言うならルイズも二つ返事で同意したじゃない。しかも実際に置いていく算段を実行に移したのはあなたの虚無魔法なんだし。」

「なによそれ!わたしのせいってわけ!?」

「あら、誰もルイズのせいとは言ってないけど?」

ゴンッゴンッ

「痛!」「あう!」

「静かに。」

「タバサの言うとおりだぞ二人共。せっかく生きて帰ってきたんだ。今はそれを喜ぼうぜ。タバサもな!」

「(コクン)」

「・・・なんか腑に落ちないけどまあ良いわ。」

「そうね・・・(まあでも、これでやっとタバサも自分のことに集中できるわね。応援してるわよ!あなたの恋!)」

「何を考えてる?」

「別に、何も。タバサはなんにも心配しなくて良いんだからね~。」

「・・・あんまりタバサにベタベタくっつくのよしたほうが良いわよキュルケ。」

「あら?あなたもしたいの?」

「するわけないでしょ!」

 

 

 

ミッションコンプリート

・「三ツ星シェフ」+1000 『料理を作る』

・「招かれざる客」+1000 『ターゲットの部屋に入る』

・「天にも登る味」+3000 『ターゲットを食事で毒殺する』

・「最後の晩餐」 +2000 『ターゲットを食堂で食事中に暗殺する』

・「同志」    +1000 『コルベール教諭に会う』

 

 

 




『復讐ほど高価で不毛なものはない。』ー ウィンストン・チャーチル



次回は別アプローチです。

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