HITMAN『世界線を超えて』   作:ふもふも早苗

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今回は任務ではありません。


HITMAN『アンサー』

 

 

 

 

「あら?47、どこか行くの?」

「少し外の空気を吸ってくる。」

「あら珍しい。風邪引かないようにね。ここはニューヨークとは違うわよ。」

「ああ。そうだ、シルバーが探していたぞ。ポケモンバトルの相手をしてほしいそうだ。」

「またあ?昨日もやったじゃないの・・・。まあいいわ。ありがと、行ってくるわ。」

 

 

ここはICAの訓練施設兼作戦司令部。サイト01。別の世界ではあるが、故郷となる世界に非常によく似ている。違いといえば、北極圏に決して消えることのない低気圧があり、猛烈なブリザードを形成していること。この施設はそのブリザードの真っ只中にある。ブリザードの中と言っても、このあたりはその低気圧の中心部分に当たり、台風の目のようにこのあたりだけ晴れ渡っている。1キロ先には海面から成層圏まで覆うかのような分厚い雲の壁がある。ブリザードは非常に激しい雷雲も兼ねているため、航空機も通行することはできない。この世界は衛星もほとんどが破壊されているため、この場所を探り当てられる組織は存在しない。

 

そして最も大きな違いは“艦娘”と“深海棲艦”が存在していることだ。現在、艦娘側はかなり窮地に立たされている。既に全盛期と比べて世界人口は7割を喪失しているようだ。欧州はほぼ壊滅状態であり、北米もかなり内陸部に追いやられているらしい。中国もインドも沿岸部はほぼ壊滅しており、南アメリカやアフリカに至っては政府機関自体存在できているか不透明だそうだ。その中で日本だけが大した撤退もせずに水際で防衛できているという。これはやはり・・・。

 

 

フランドール・スカーレットの血液を技術部に提出した後、私を含めたエージェント4人はこの基地に派遣されていた。実験自体はこの世界を使って行われるらしい。我々の世界で行えないほどに危険なものということだろうか。少し不安ではあるが実験自体は赤道上の太平洋に浮かぶ孤島で行われるらしく、距離的には9000キロ以上離れている。

 

私は施設の外郭防護壁を開けて外に出る。ブリザードはこの周囲にないとは言っても、低気圧の影響でかなり寒くなっている。外壁にあるデジタル温度計によると現在気温、マイナス60度。技術部の開発した特殊防寒着を着ていなければすぐさま凍死だろう。

 

このところのICAの動きは何を意味しているのだろう。元々は全世界の有力者から暗殺依頼を受け、それを高額な報酬と引き換えに遂行するのが主だったはずだ。しかし最近の動きはまるでこれから世界を征服するかのようだ。上層部はしきりに“生存戦略だ”と言っているが、どこまで真実か怪しい。

 

今回の“プロジェクト23265”も何を意味しているのか、何が最終目標なのか。私は前回の任務のときにその断片を聞かされた。あの忌々しきルーマニアの廃病院・・・。ICAはあんなものを作って何をしようというのか。

 

 

「・・・。」

「・・・ん。タバサか。」

「・・・。」

「何を考えてるって顔だな。」

「・・・ICA上級委員会について少し調べた。報告したいから中へ。」

「・・・ここは報告を聞くには少し寒すぎるか。」

 

 

私はタバサの私室に招かれていた。何のことはない、私の部屋と大差ない殺風景な部屋だ。部屋に入りテーブルに着席すると、タバサは書類の束を出してきた。

 

 

「これ。」

「読ませてもらおう。」

 

 

そこにはICAが今までやってきたことが詳細に書かれていた。数々のカテゴリ計画の詳細。部隊の徴兵方法から依頼件数の伸び率まで。様々な資料の最後に核心部分はあった。

 

 

「“フランドール改”・・・?」

「幻想郷にいるフランドール・スカーレットを元にしたクローン警備アンドロイド計画。プロジェクト23265の目標。」

「実験体1体だけだと思っていたが・・・量産する気でいるのか・・・。」

「元々は警備に使用する予定だった。しかし最近ではそれを国家単位の組織への攻撃計画に使おうとしている。」

「戦争でもする気・・・そうか、そういうことか。」

 

 

なるほど、それならばいろいろ合点がいく。

 

 

「そう、ICAは今まで個人への暗殺依頼を請け負ってきた。それを、国家単位に拡大しようとしている。」

「正体不明の謎の勢力によって強襲され、勢力を疲弊させる。これではPMCと何ら変わりないじゃないか。」

「PMCとの違いは襲撃を受ける側にとって、戦っている相手がわからないこと。元々の敵が派遣した勢力なのか、それとも全く別のところからの勢力なのか。」

「それがわからなければ報復の口実も作りにくい。まさに“国家の暗殺”か。」

「そう。既にいくつかの世界で幾多に分裂する国家群を破壊し、統一世界政府を建設しようとする勢力から打診があった模様。これがそのリスト。」

 

 

タバサは別の書類を出してきた。様々な機関や国家が書かれている。この世界の日本国大本営や、別の世界の合衆国国防総省。SCP Foundation、Aperture Science等見慣れない機関の名前もあれば、“アレイスター”や“ヘクマティアル”等どこの世界ともわからない人物の個人名もある。

 

 

「世界政府を作るお手伝いいたします。ってところか。見返りはおそらくその世界での行動の自由と資金提供か。」

「あとはその世界の様々な技術や歴史の閲覧。特に歴史の閲覧に関して強い関心を示していた。」

「他の世界の歴史なんて調べてどうするつもりなんだ。」

「そこまではわからなかった。上級委員会のさらに一握りの役員しか知らないみたい。」

 

 

国家の暗殺者となり、その見返りに世界の歴史を学ぶだと・・・?見返りにするくらいなのだからおそらく正史だけではないのだろうな。

 

正史でないにしろ、違う世界の歴史を学んで何になるというのだ・・・。私が思考の淵に沈みかけたその時だった。

 

 

 

ビー!ビー!ビー!

 

「む。」

「・・・?」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。聞こえる?レッドアラートよ。詳しくはブリーフィングルームで話すから大至急着て頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はタバサと顔を見合わせ、すぐさまブリーフィングルームへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとちょっと、何なのよ一体!」

「何があったんですか。ミス・バーンウッド。」

「遅くなった。」

「到着。」

「ああ、47とタバサ。」

「こっちもいま来たところだよ。」

 

 

ブリーフィングルームには既にブルーとシルバーが居た。

 

 

『集まったわね。じゃあ状況を説明するわ。』

『プロジェクト23265がこの星の赤道上にある孤島で行われているのは知ってるわよね。さきほどその基地から緊急信号を受信したわ。』

「緊急信号?それってどういうことなの?」

『信号内容は3つ。1,施設に重大な損害が出ていること。2,プロジェクト23265に関連した一部実験が失敗したこと。3,プロジェクト23265の実験体が脱走したこと。』

「ちょ、ちょっとまって。それってかなり不味いんじゃないのか?」

「実験体というとフランドールのクローンか。」

「え!何あの凶暴な大量破壊少女を野に解き放ったってわけ?!」

『衛星からの観測結果では実験を行っていたサイト20はほぼ壊滅に近い状況になってるわ。島の半分以上がえぐり取られてる。攻撃力に関しては想定どおりね。』

「やけに冷静だな?」

『元々計画としてあの研究施設は完成後に実験体の実験標的になる予定だったからね。それでもそれなりに焦ってはいるのよ?』

「元々の計画が前倒しになったってことじゃないの?それって。」

『最後の報告を見る限り、まだ制御機能が完全に機能してない可能性が高いわ。このままだとあの実験体は、少なくともこの世界を完璧に破壊し尽くしてもまだ止まることはないでしょうね。』

「ということはここも。」

『そうなるわね。でも上級委員会としてはこの世界が完全に破壊されるのは望ましくないのよ。余波が我々の世界まで及びかねないからね。』

「例のフォルムーラとかいうカテゴリは実装されているのか?」

『今回の事故はカテゴリ・フォルムーラの実装に伴って発生したのよ。実装した結果がこれなら実装済みだと思うわ。』

「フォルムーラって確かシルバーがハナダシティで見つけたよくわかんないやつ使ってるんだっけ?」

「あとみんなで行ったアッテムトの奥底で見つけた進化の秘法も合わさってたはずだよ。」

「どちらも単体でその世界最強レベルの力を発揮するがそれを合わせたんだ。その破壊力は我々の想像を超えるものになるだろう。」

『その通り。なので時間敵猶予はかなり少ないと見ていいわ。直ぐに行動を起こさなくてはならない。』

「でもどうするんだ?俺たちに島を簡単に吹き飛ばすような奴、相手になんかできないぞ?」

『いくつかプランは考えてある・・・ちょっとまって。』

 

 

ミス・バーンウッドは会議を中断し、何やら通信を受け取っているようだ。その顔がだんだん険しいものに変わっていく。

 

 

「ミス・バーンウッド・・・?」

『みんな聞いて。非常に不味い事態よ。実験体が高速でこちらへ向かってきているらしいわ。』

「何!」

「ちょ、ちょっと!まだ何の準備もしてないじゃない!」

『基地にある全兵器をもって迎え撃つわよ。戦闘態勢に移行して頂戴。』

「来てしまうものはしょうがない。できる限り迎え撃つぞ。」

「47!本気なの!?逃げたほうが良くない?!」

「逃げる場所がない。」

「タバサの言うとおりだ。ここから逃げたとしてもいずれ殲滅されることになる。ならばまだ幾分態勢の整っている今迎撃する他ない。」

『話している暇はないわ。戦闘配置!』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『こちら戦略AIです。全VLS安全装置解除完了。全レールガン砲台12門展開完了。対空レーザー砲台53門迎撃体制。第一種戦闘配置。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私達は緊急で戦闘配置を整える。最も、我々が装備できる装備で撃破できるとは到底思えない。退けることができれば御の字だろう。

 

私は基地の最上部でL-39対物ライフルを構える。タバサはその隣で対空銃座に座っている。手にはもちろん杖を持っており、弾丸の威力を極限まで高めるようだ。

 

ブルーとシルバーは揃って1段下の階にいる。オーダイル、ギャラドス、カメックス、ニドクイン等、攻撃力の高いポケモンを前面に配置しているようだ。本人たちも銀弾を装填したWA2000やEnram HVを装備している。

 

 

『巡航ミサイル発射。』

バシュウウウ…

 

 

基地のVLSハッチから巡航ミサイル6本が同時に我々の正面へ向かって飛翔していく。ミサイルはすぐに分厚い雲に入り見えなくなった。

 

1分ほどして雲の中が光った。6回光ったためおそらくミサイルの爆発だろう。しかしこの緊張感が迎撃に失敗したことを予感させた。

 

すると雲の中がまた光った。次の瞬間、

 

 

バリリリリリ!!ドゴォォン!

「うわぁ!」

「きゃあ!」

「くっ!」

 

 

雲を突き破りながら赤い光線が飛んできた。光線はVLSハッチのある塔をレールガン砲台2基と一緒に一瞬で薙ぎ払っていった。

 

 

「ちょっと!向こうはこっちが見えてるわけ!?」

「いや、おそらくミサイルが飛んできた方向に闇雲に打ったのだろう。見えているなら我々は既にこの世の存在ではなくなっている。」

「一瞬だけど相手が見えた。」

「本当かい?タバサ。」

「でもこちらから見えたということは相手からも見えた可能性が高い。」

「・・・ここから移動したほうが良さそうだな。」

「(コクン)」

 

 

私とタバサは装備を捨て基地最上部から飛び降りた。その瞬間次の攻撃があった。凄まじい轟音とともに先程まで居た基地上部はえぐり取られてしまった。

 

基地のレールガンが各個射撃を開始する。雲の中でも特殊レーダーで相手の位置は大体把握できるようで、回避を強要できているのか相手の位置がだんだん東にずれている。しかし、時折雲の中から先ほどの赤い光線が飛んできては砲台が一つ一つ潰されていっている。

 

だめだ。圧倒的に戦力が足りていない。このままでは全滅するのも時間の問題だ。私はバーンウッドに通信を送る。

 

 

「基地の防衛兵器をすべて停止させろ。」

『47?それは何故?』

「役に立たない物をいくら撃っても居場所がばれるだけだ。それなら基地の機能が完全沈黙したと思わせたほうがまだ幾分助かる可能性は残る。」

『騙されてくれるかしら?』

「わからん。だがこのまま戦うよりはマシなはずだ。」

『・・・わかったわ。』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『全防衛兵装緊急停止します。広域レーダーオフライン、短距離レーダーオフライン。作戦オペレーター権限により、これより無線封止が開始されます。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

基地内のすべての防衛砲台が機能を停止した。上を向いていた砲台も今は力なく下を向いている。私はタバサと一緒にブルーとシルバーに合流した。

 

 

「ブルー、シルバー、無線封止が開始された。これからは無線は使えない。」

「わかってるわよ。で、どうするの?そろそろ来るわよ?」

「一旦基地の瓦礫に身を隠す。やり過ごせることを祈るしか無い。ポケモンもしまっておけ。」

「わかった。戻れ、オーダイル、ギャラドス。」

「戻って、カメちゃん、ニドちゃん。」

「気配はできる限り殺すべき。所謂“死んだふり”。」

「そんなクマ相手みたいな戦法が通じるかしら?」

「姉さん。クマ相手に死んだふりすると逆効果らしいよ。」

「通じるかどうかは未知数だ。だが通じなかったらどのみち我々はあの世行きだ。ならば試すほうが懸命だ。」

「そうね。一箇所に固まらないほうが良いかもしれないわ。私はあっちの方で倒れることにするわ。」

「じゃあ僕はその近くに。」

「・・・私はここでいい。」

「では私はあっちだ。散開。」

 

 

私達は各々別の場所で瓦礫に身を隠すように倒れ、死んだふりを敢行する。時折光線が飛んできては基地の施設を破壊しているが、そのうち攻撃が止んだ。

 

私は薄目を開けて周囲を確認しようとする。しかしその時、散開した我々のど真ん中に実験体が降りてきた。

 

 

「・・・。」ピピピ

 

 

実験体は形こそフランドール・スカーレットそのものであったが、色は黒く変色しており、頭部や腕などに機械のようなものが散見される。また、足の一部が鱗のようなもので覆われており、黒光りしている。

 

既に基地はぼろぼろであり、ほとんど原型はとどめていない。その状況に満足したのか、それとも気が変わったのかはわからないが、実験体は再び飛び上がり、基地の南東方向へ飛び去っていった。

 

念の為数分は動かずに待ち、戻ってこないことを確認すると私はゆっくりと起き上がった。

 

 

「全員、生きているか?」

「な、なんとか・・・。」

「あーこわかった。すごい近かったわよね。」

「大丈夫。」

 

 

私は司令部に通信を入れる。

 

 

「こちら47。実験体は南東に飛び去った。生きてるか?」

『こちらはなんとか無事よ。でも基地機能がかなり破壊されたわ・・・。』

「状況を確認したい。我々4人もそちらへ向かう。」

『ええ。こちらも確認作業を始めるわ。』

 

 

ところどころ瓦礫に埋もれてはいたが、なんとか先程のブリーフィングルームまで戻ることができた。ブリーフィングルーム自体も大部分が崩落しており、我々は各々瓦礫に腰掛ける形でバーンウッドの報告を待った。

数十分後、バーンウッドが入ってきた。

 

 

『状況を報告するわ。』

「大丈夫なんですか?かなり色んな所がやられてるみたいですけど。」

『率直に言って大丈夫じゃないわね。いくつか重大な損害も出ている。』

「重大な損害とは?」

『まず一番は地下にあった渡界機の端末がやられてるわ。これでは世界線を超えられない。』

「それって元の世界に帰れないってことですか?!」

「緊急事態。」

『一応、受信装置は生きていたわ。でも送信装置がほぼ完全に破壊されている。さらに言えば、発電用の核融合炉も損傷していて復旧にはかなり時間がかかるわね。』

「渡界機が使えなくなったってことか・・・。」

「でも復旧できないことはないってことですか?」

『ええ。だけれど・・・。』

「渡界機を修復する前にあの実験体がこの世界を業火の炎で焼き尽くすほうが早いだろうな。」

『47の言うとおりよ。その場合、修復前にまたここに現れるかもしれない。』

「じゃあどうするのよ・・・。打つ手無いじゃない・・・。」

「俺たちはここで死ぬのを待つ以外に無いのか・・・。」

「・・・。」

 

 

室内に暗い雰囲気が漂う。しかし私には一つだけ案があった。

 

 

「もしかすれば、この方法なら・・・。」

『47?』

「なにか方法を思いついたの?!」

「実行できるかはわからない。不確定要素が多すぎる。だが他に方法もない。」

「教えてくれ!どうすればいい!?」

『47。私からもお願いするわ。どうすればいいの?』

 

 

 

 

 

「簡単だ。渡界機を使えばいい。」

 

 

 

 

 

ミッションフェイルド

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別アプローチでの掲載にする予定でしたが「よく考えれば何も話数同じにする必要なくね?」って言うことになったので次回もここでの投稿になりますw


谺。蝗槭?遑ォ鮟?ウカ縺ク蜷代°縺?∪縺吶?

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