HITMAN『世界線を超えて』   作:ふもふも早苗

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HITMAN『ファイナル・テスト』

『アーハンブラ城へようこそ。47。』

 

『情報部の調査によって実験体はここ、ハルケギニアに転移したことが判明したわ。現地諜報員によると今の所目立った破壊活動は確認されておらず、おそらく我々の攻撃による傷を修復していると考えられるわ。』

 

『ICA上層部はハルケギニアへのカテゴリLOGの配備を決定したわ。コードネームは“バルドル”よ。ハルケギニアでは既にいくつかのICAの衛星が浮かんでいて終末誘導まで衛星から遠隔で行えるから、今回は照準器を持つ必要はないわ。』

 

『つい先程、情報部から連絡があったわ。実験体はここアーハンブラ城の城下町に潜伏している可能性が高いことがわかったわ。可能ならば完全に修復が完了する前に暗殺。できなければ東側の砂漠地帯へおびき寄せて頂戴。バルドルで殲滅するわ。』

 

『今回、バルドルには今まで使っていなかった弾頭が装備されているわ。これで倒せなければ本当にICAは打つ手が無くなる。転移した世界ごと消滅させるしか方法がなくなってしまうの。この世界の命運も貴方にかかっているわけね。』

 

『ブルーとシルバー、タバサとスネーク、ルイズとサイト、そして貴方。この4部隊で捜索して追い詰めるわ。必ず見つけ出して世界が滅ぶ前に、そしてまた転移される前にその息の根をとめるのよ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

~12時間前~

 

 

「タバサ!!」

「・・・!キュルケ・・・。」

 

 

彼女は私を見つけると持っていた本を放り投げて私に駆け寄ってきて抱きついてきた。いつもなら避けるか防ぐかするところだが、流石に今回はそんな野暮なことはしない。

 

 

「タバサ!本当にタバサなの?!亡霊?!操られてるわけじゃないわよね?!」

「私は生きている。亡霊でも操られてもいない。」

「うん、うん。わかるわよ。私が一番タバサを見てきたもの。今ココにいるタバサは本物で誰に操られてるでもないわ・・・。」

 

 

もう彼女は顔面がクシャクシャだ。遠巻きに47とルイズとサイトが見ている。

 

 

「グシュ…フー…それでそちら方は?・・・ってルイズとサイトも!あなた達も今まで一体どこへ行ってたのよ!」

「なんか反応遅くない?」

「あはは・・・まあ仕方ねえよ。」

「それも含めて説明する。」

 

 

私は47を招き寄せ、キュルケに事情を説明する。ガリア王ジョゼフの暗殺依頼を私が出したこと。報復としてガリア王国の依頼によって暗殺されたこと。ICAが私を特殊な薬品で生き返らせたこと。ICAに所属して今はいろいろな任務を行っていること。そして、今回ココへ来たのも重大な任務のためなこと。

 

 

「そう・・・大変だったのね・・・。ということは墓荒らしって・・・。」

「おそらく私のことだろう。」

「あなたが47さん?結構イケメンじゃない。でもそれはそれとして・・・。」

「・・・?キュルケ?」

「タバサの願いを聞き入れてくれたこと。そしてタバサを生き返らせてくれたこと。その2つに関しては感謝するわ。ありがとう。」

「・・・。」

「でもタバサを殺したこと。これに関しては償ってほしいとも思ってる。まあでも生き返らせてくれたんだから相殺されてる気がしなくもないけどね。」

「殺したのも生き返らせたのもこちらの都合だ。感謝されるようなことは何もしていない。」

「・・・そうね。でもタバサにまた会わせてくれたことも感謝したいわ。」

「・・・好きにすると良い。」

「それで?ココに来たのがそのよくわかんない生物を倒すためなんだっけ?ルイズとサイトもそれで拉致られてたの?」

「まあそういうことになるわね。」

 

 

それからは実験体に関する情報を聞いたり知らせたり。この魔法学院が巻き込まれそうになった時の対処方法などもレクチャーした。その上で、ルイズとサイトを借りること、そして私が今後もICAで仕事を続けることを伝えた。

途中ギーシュやコルベール教諭が中庭で話す我々に気がついて寄ってきた。彼らにも事情を話した所協力を申し出てくれたが、流石に今回はエンシェントドラゴンも比ではないバケモノが相手だということで、魔法学院の防衛という名目で丁重にお断りすることとなった。

 

ひとしきり話した後、出発の時刻になった。名残惜しそうなキュルケにまた会いに来る旨を伝えると少しだけ表情が和らいだ。私達はICAの輸送ヘリに乗ってアーハンブラ城へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

アーハンブラ城は、砂漠のオアシスに建てられた古城だ。周囲は岩石砂漠であるが、西側の地平線には草原が見えているくらいには砂漠の端にある。

 

この砂漠は“サハラ”と呼ばれているらしく、衛星からの情報ではここから東に2000キロほど行ったところにエルフの住む都市があるらしい。この間の2000キロはひたすらに砂利と砂が広がっている。どうにかしてこの領域にターゲットを誘き出してここで処理したい。作戦前のブリーフィングでいくつかプランが立てられた。そのうちの一つをこれから実行に移そうと思う。

 

帝政ゲルマニア東部、サハラ北方に位置し、高さ4000m超えの険しい山岳とマイナス30度にもなる極寒によって守られている中にICAの野戦滑走路がある。そこに駐機されているSR-72を使用してターゲットを砂漠へおびき出すことにした。

 

手順としては我々の部隊でターゲットを城下町から追い立てる。おそらく飛行ユニットの修復は完了している可能性が高い。なのでルイズ、サイト、タバサの3名によりターゲットをひきつけ、食いついたところで低速飛行中のSR-72に飛び乗ってもらう。かなり難易度は高いが、ガンダールヴの力を使えばなんとか掴まることくらいはできるらしい。掴まったら速度を上げサハラへ誘導する。サハラ中央部にてルイズの虚無の力、“エクスプロージョン”を使って再び実験体を足止めする。足りなければ“バルドル”の戦略核弾頭を撃ち込む算段だ。

 

私のやることと言えばこの城下町の喧騒の中から実験体を探し当て、ルイズたちへ託すことくらいだ。実験体の処理を部外者に頼るというのも癪な話だが仕方ないだろう。むしろ彼女たちの協力がなければ、この城下町に直接戦略核弾頭を投下することになっていたと思われる。

 

 

「準備はいいか?」

「オッケーよ!」

「こっちも良いよ。」

「大丈夫。」

「ああ、問題ない。相方は無口で少し退屈だがな。」

「スネークは実験体を発見した際、ルイズとサイトの準備ができるまで私と時間稼ぎだ。」

「わかった。そういうのは得意だ。」

「実験体を発見しても手を出すな。お前たちの手に追える相手ではない。」

「わかってるわ。流石にあんなのを見せつけられちゃ手なんか出したくないわよ。」

「ルイズ、絶対に手を出すなよ?絶対だぞ?」

「サイト。それもしかして手を出せって言ってる?」

「お約束もいいが今回は洒落にならない。交戦は絶対に避けろ。」

 

 

少々不安だが、ルイズ達も前回の硫黄島での戦いは映像で見ているはずだ。そうそう勝手な行動はしないだろう。

 

 

「では全隊。行動開始。」

「「了解!」」

 

 

私達は手分けして城下町の捜索を始めた。私は現地民の服装を例によって“借りて”町を街路から探索する。タバサとスネークはその隠密作戦能力を使って家から家へと飛び移りながら捜索しているようだ。ブルーとシルバーに関してはこの間の幻想郷での一件で味をしめたのか、今度はナンカレー屋台に扮して広場で情報を集めようとしている。ルイズとサイトはこのような捜索に慣れていないのもあっていつもどおりの普段の格好のまま街路を探索している。案の定とても目立っている。しかし、むしろあちらが目立つおかげでこちらに目が向かないので好都合でもある。

 

道のど真ん中で喚き散らしている主従たちを横目で見ている住人が居た。

 

 

「なんだまたよそ者か?これ以上の厄介事は簡便だぜ・・・。」

「だな。あいつはまだこの街を出てないんだろ?」

「出れる状態じゃないのは確かだけどな。でもあいつ何もしゃべんねえし、事あるごとにこっちを威嚇して殺気飛ばしてくるから近寄れねえんだよな。」

「あーわかるわ。俺も殺されるかと思ったぜ。」

「教会の神父様がかばわなきゃ町総出で追い払うか殺してるところだったからな。」

「でも俺は襲うようなことにならなくてよかったと思ってるぜ。」

「ふうん?なんだ可愛そうになったか?」

「可愛そうになったのは自分自身だな。ありゃ町総出で襲いかかっても勝てそうにねえ。」

「そりゃまた何で?」

「俺は見ちまったんだよ。あいつ、最初の頃、神父様にすら殺意飛ばしてた。そのときにあいつが殺気飛ばすたびに、あいつの周りにあるものが勝手に爆発してったんだ。」

「爆発してっただあ?」

「ああ。コップ、箱、本や机までな。」

「だから最初の頃教会から変な音してたのか。」

「あいつはなんか恐ろしい能力を持ってるに違いないぜ。早く出ていってくれねえかなあ・・・。」

 

 

どうやらターゲットは教会周辺にいるようだ。ならず者状態だった実験体を教会がかくまったらしい。この世界における教会の権力は絶大であり、領主の貴族ですら教会の意向に真っ向から反対することはできないらしい。なので得体の知れない生物が来ても誰も文句を言えない状態にあるというわけだ。私は得た情報を通信で報告する。

 

 

「こちら47。ターゲットに関する情報を手に入れた。ターゲットは教会関係者に匿われているようだ。」

「教会か。今その協会らしき建物の近くにいる。天窓から中を覗いてみよう。ミス・タバサ、音を消す魔法を頼む。」

「了解。」

 

 

スネークとタバサのチームが教会を確認する。私はそのまま情報収集を継続した。

 

 

 

 

 

~スネークside~

 

 

天窓から教会内部を確認する。念の為タバサに足音を消す魔法をかけてもらった。魔法というものは便利だな。頼りすぎても問題だが。

俺はUSPを構えつつ、天窓を慎重に覗き込む。・・・礼拝室には誰も居ないようだ。移動し、別の部屋を順番に探っていく。しかし天窓がついている部屋はそうは多くない。天窓がついている部屋は全て見たがターゲットはおろか人っ子一人いない。やはり潜入して調べる他ないだろう。

 

 

「タバサ、俺が今から中にはいる。援護を頼む。」

「了解。」

 

 

口数は極端に少ない少女だが腕は確かだ。的確に援護できる位置と適切な火力支援を行ってくれるだろう。俺は天窓の一つを開けると内部に潜入した。

 

 

「こちらスネーク。教会内部に潜入した。」

「よし、ターゲットは町の住人から恐れられていた。外に出しているとは考えにくい。おそらくまだその教会内に匿われていると予想される。十分に注意しろ。」

「わかった。」

 

「スネーク、相手は手負いとは言えかなり凶暴なはずだ。こんなところでやりあえば周りにも被害が出る可能性が高い。十分に注意するんだ。」

「オタコン。俺を誰だと思ってる?」

「まあ君なら大丈夫だと思ってるけどね。無事に帰ってきてもらわないと、こっちでもやることが山積してるんだ。」

「・・・帰っても休めそうにはないな。」

 

 

オタコンとはこちらの世界に呼び出されたときに、ICAの回線を使って通信が可能になった。オタコンの他には隠居中の大佐もいるし、アメリカ海軍の新設第7艦隊の副司令にまで上り詰めたメイリンまでいる。非常に心強い。

 

さて、教会内部はそこまで特殊な作りになっていたりはしない。廊下沿いに6部屋。一番奥に礼拝堂への扉。反対側の突き当りにはダイニングキッチンが見える。上へと登る階段はあるが螺旋階段でとても狭い。まずは手始めに6つの部屋を調べて回ることにしよう。

 

1つ目の部屋の中からは人の気配がしている。慎重に音を立てないように少しだけ開けて中を覗くと、壁に設置された机で神父と思わしき老人が書物をしていた。忍び足で背後に近づき、すばやく口に手を回して羽交い締めにする。

 

 

ムーッ!

「暴れるな。暴れたらどうなるか・・・。」

 

 

懐からサバイバルナイフを取り出し神父の首元に近づける。みるみるうちに神父の顔が青ざめていく。静かにするように言い、口から手を離す。

 

 

「言え。最近匿った者が居るはずだ。」

「あわわわわわ・・・・。」

「言え。言わないと・・・。」

「ま、まってくれ!言う!言うから命だけは!」

「早く言え。」

「ここにはいない!今朝出ていった!」

「どこへ行った。」

「知らない!本当だ!東へ向かったことしかわからない!」

「もう一つ、背中に羽が生えていたはずだ。飛んでいったのか?」

「羽は特に傷ついている様子はなかったが、歩いて東へ行った。まだ飛べる状態じゃないみたいだ。」

「そうか。」

「お、お助け・・・。」

「しばらく寝ていろ。」ゴッ

「うぐっ!」

 

 

必要な情報は引き出せた。騒ぎになるのも問題なので首筋に峰打ちを食らわせて気絶してもらった。ふと扉を見るとタバサがこちらを見ていた。

 

 

「言ってくれれば眠らせた。」

「ついてきていないと思っていたからな。」

「ともかく急いだほうが良い。」

「だな。今の情報が正しいとすればそろそろ街を出ているかもしれん。」

 

 

現在時刻は午前11時少し前。今朝出発したとしたなら歩きだとしても既に街を出ている可能性もある。

 

俺たちは無線で全員に報告した後、街の東側へ向かった。

 

 

 

 

 

 

~ルイズside~

 

 

「ほら!急ぎなさい!」

「ま、待てよ!まだ慣れてねえんだって!」

 

私達は今街の東の砂漠に来ている。街はずれの人に聞き込みを行った結果、目的の人物は街を出て砂漠を歩いていったらしい。ついでに羽も含めた全身を覆うフードをかぶっていたらしい。もしかしたらそいつも日光が苦手なのかもしれない。だとしたらフードを引っ剥がせば後はほっといても勝手に死んでくれるんじゃないかしら?

 

ともかく、私達は町で借りた馬に乗って東へ向かっていた。サイトは相変わらず乗馬は下手なようで速度が出ずに遅れていた。今度ちゃんと乗馬を教え込まないと駄目ね。

 

 

「こちら47。ルイズ、聞こえるか。」

「聞こえてるわよ。どうしたの?」

 

 

本来なら魔法を使えない平民に呼び捨てにされるのは癪だけれど、彼は例外。なぜなら彼は魔法なんか必要ないと思えるほどに強く、あとこれが一番の理由だけど、エレオノール姉さまとは違う次元で怖い。その目で見られた瞬間に、灼熱の砂漠に雪が降るんじゃないかと思ったほど背筋に悪寒が走った。だから彼が私を呼び捨てにするのを許容するのも仕方がないことだと思う。

 

 

「ターゲットのものと思われる足跡を発見した。そこから南東へ向かってくれ。」

「南東ね・・・南東ってどっちかしら?」

「太陽があっちで影がこっちに伸びてて・・・今12時だから・・・あっちじゃね?」

「なんで分かるのよ?」

「お昼の12時に太陽がある方向が南だからだよ。」

「へぇ・・・。」

「南東に向かえばターゲットと接触する可能性も高い。気を引き締めろ。」

「了解!」

 

 

サイトが元気よく返事をする。こいつなんかあの47って男に憧れのような眼差し向けてる所あるのよね。学院に行った時のギーシュも似たような目をしていたし、男子ってこういう男に憧れるのかしら?

南東に向かって馬を走らせる。水は多めに持ってきているので炎天下の砂漠でも問題なく走れている。岩でできた丘をいくつか超えるとかなり遠くに一人歩いている人影を発見した。私達はすばやく近くの岩場に身を隠す。

 

 

「こちらルイズ。ターゲットを発見したわよ。」

「よくやった。そちらの位置はビーコンで確認できている。準備ができるまでできる限り遠くから尾行するんだ。」

「尾行?やっつけるんじゃないのか?」

「サイト、相手は島を粉々にするような攻撃でも死ななかった相手なのよ?忘れたの?貴方一人で行くって言うなら止めないけど。」

「遠慮しておきますです。ハイ。」

 

尾行と言ってもかなり見晴らしが良いので、実質その場で待機することになった。しばらく待っていると後ろに風竜が降りてきた。いや、実際には風竜ではなく韻竜なのだけれど。乗っているのはタバサとスネークだ。

 

 

「ルイズ、サイト。発見したようだな。」

「はい!スネークさん!あれです!」

 

 

サイトは47にも憧れているし、このスネークというおじさんにも憧れている。ハードボイルドって言ってたけど何のことかしら。

 

 

「っていうかタバサ、その子イルククゥ?」

「そう。」

「キュイ!」

「再契約できたのね。よかったわ。」

「何だこのドラゴン、知り合いなのか?」

「元々タバサの使い魔だったのよ。タバサが死んじゃって契約は切れちゃってたんだけど・・・。」

「こちらに来てから再度サモン・サーヴァントを行った。」

「サーモンがなんだって?」

『その話はまた今度にしてくれると助かるわね。』

「うぉっと。」

『全員聞こえてるわね。SR-72の準備も整ったわ。爆音を出すSR-72が近づけば否応にもターゲットに気が付かれる。チャンスは一度切りよ。』

 

 

サイトの頭の上に疑問符が浮かんだ。

 

 

「でも飛行ユニットは治ってないんだろ?だったらわざわざ飛び乗る必要もないんじゃね?」

『衛星からの観測の結果、ターゲットの飛行ユニットもほぼ完全に修復が完了しているわ。何故それを使わないのかはわからないけれど。』

「燃料切れということはないのか?」

『実験体の飛行ユニットは体内に内蔵されている特殊融合炉からの電力供給。燃料は食料よ。』

「ということはもしかして今腹ペコ?」

「かもしれないわね。」

「腹ペコのときに襲うって、それあいつブチ切れるんじゃ・・・。」

『満腹になったらまた破壊の限りを尽くすことになるわ。どっちが良いかしら?』

「どっちもどっちだな。」

「でもそれならやっぱり飛べないんじゃねえのか?」

『非常時には体内バッテリーを使って飛行することができるわ。体力に相当する部分だからあまり長くは持たないでしょうけどね。』

「今は省エネモードというわけか。」

 

 

兎にも角にも作戦が実行に移されることになった。私はサイトとタバサと一緒にイルククゥに乗る。イルククゥには私達3人をSR-72とか言うのに移したらスネークをひっつかんで作戦地域外に脱出するように言ってある。私がエクスプロージョンを唱えている間はサイトとタバサだけが頼り。必ず成功させてみせるわ。じゃないと作戦前にあのバーンウッドとかいう女性が言っていたことが現実になってしまう・・・。

 

 

 

“『実験体は今は活動を休止しているでしょうけど、いずれ完全に復活すれば周りを再び焼き尽くしにかかるでしょう。そうなったらハルケギニアは人間もエルフも亜人も完全に滅亡するでしょうね。』”

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

シュゴオオオオオ…

キャア!

ナ、ナンダア!

 

「ちょっと47!何も町のすぐ上を飛ばさなくてもいいじゃないの!」

「危うく土埃が鍋に入るところだった。」

 

合流したブルーとシルバーが抗議している。城下町を低空飛行でSR-72が通過していったのだ。低速なためソニックブームは発生していないがそれでも時速250キロは出ているため砂埃が辺りに舞い上がっている。操縦しているのは私だ。私は今、ブルーとシルバーのカレー屋のテーブル席に座っている。端末と通信衛星さえあればどんなところからでも操縦できるのが無人機の強みだろう。そう、たとえカレー屋でカレーを食べながらでさえも。

 

段取りとしては、ルイズ達の上空を低空かつ低速で通過する。カメラはついているので乗り移れたかどうかを判断するのは可能だが、音声がないため通信は別でやらなければならない。端末に備え付けられている小型イヤホンとマイクから呼びかける。

 

 

「ルイズ、サイト、タバサ、聞こえるか。」

「聞こえるわよ。」

「大丈夫だ!」

「・・・。」

「まもなくSR-72が到着する。高度200m、速度230km/hで侵入する。準備しろ。」

「了解。」

 

 

先日、魔法学院に久々に里帰りしたタバサが使い魔を再召喚したことでこの作戦が実行できると言っても過言ではない。あのドラゴンは、複葉機並の速度を出すことができるのだ。

 

砂漠なので障害物もなく、乱気流もないので操縦は容易だ。レーダー上でドラゴンを捉える。高度と速度を落とし、彼女らの下を通過する。カメラが一瞬不規則な振動をする。

 

「飛び乗れたわ!」

「OK!ちゃんと掴まった!」

「こちらも大丈夫。」

「では行くぞ。タバサ。前方に風除けの障壁を張るのを忘れるな。」

「わかってる。」

 

 

私は機体の速度を一気に上昇させる。それとほぼ同時にターゲットの真上を通過した。

 

 

『ターゲットが食いついたわ。飛行ユニットはやはり治っている。急がないと追いつかれるわ。』

「分かっている。アフターバーナーを点火する。」

 

 

一気に速度が上がる。機上の彼女らの姿は見えづらいがなんとかしがみついているようだ。速度はぐんぐん上がる。800、900、1000・・・。音速を突破した。風除けの障壁が障害になっているのか速度の上がりが通常よりもかなり遅い。だが実験体から逃げるのには十分だった。

 

次第に離れ始めるとターゲットも速度を上げる。再び近づいてきてはこちらも速度を上げて引き離す。そうしているうちに街から既に800km以上離れていた。

 

 

「ルイズ、聞こえるか。」

「な、なんとか!」

「そろそろ決めるぞ。詠唱を開始しろ。」

「結構大変だけれどやってみるわ!」

 

 

“エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド…”

 

 

「サイト、ターゲットの攻撃の兆候がある。お前が守るんだ。」

「わかってるよ!何でも来やがれ!」

 

 

ターゲットが例の赤い光線を放った。私は機体を動かし、ギリギリのところで回避を試みる。しかし若干掠りそうになるが、掠る部分だけ光線が消えていっている。サイトは背中にしょっていた剣を出しており、その剣が光線の一部を吸い取っているようだった。

 

 

“ベオーズス・ユル・スヴェル・カノ…”

「実験体の火力が上がった。」

「こっちはそろそろヤバイぞ!」オレッチモキツイゼ!

「こちらも準備を開始する。」

 

 

“オシェラ・ジェラ・イサ・ウンジュー…”

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『こちら戦略AI。対地攻撃衛星“バルドル”起動。戦略弾頭装填開始。装填数 1。発射シーケンス準備開始。安全制御プロトコル1から16まで解除完了。目標地点を設定してください。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

“ハガル・ベオークン・イル”

 

 

 

 

 

 

 

“エクスプロージョン”

 

 

 

 

 

 

 

カメラが何も映し出さなくなった。正確に言えばホワイトアウトと言うべきもので、音声があれば凄まじい轟音がなっていたと思われる。全く状況は把握できないが念の為高度を徐々に上げておく。

 

そのうちカメラの映像が戻ってきた。どうやらまだ飛んでいるようだ。私は報告を求めた。

 

 

「こちら47。状況を報告せよ。」

「こちらタバサ。ターゲットは落下中・・・。今、地面に激突した。」

「激突か。原型をとどめている以上、念には念を入れる。ルイズとサイトはどうした?」

「ルイズは力を使い果たして気絶状態。サイトはそれを抱えている。」

「タルブの村でもそうだった。一気に力使いすぎると気絶しちまうの忘れてたわ。」

「ふむ。了解した。そのまま掴まっていろ。作戦空域を離脱する。」

「了解。」

 

 

「本部。確認できるか。」

『ターゲットの健在を確認。でも動いてはいないみたいだけれど一時的なものと仮定するわ。バルドルを発射する。対ショック態勢をとって頂戴。』

『戦略AIです。座標設定が完了しました。発射シーケンス開始。弾頭:戦略弾頭。炸薬タイプ:550キロトン級水素爆弾。空中炸裂モード。高度信管800mに設定。発射弾数 1。安全制御プロトコル、16から32まで解除完了。全安全装置解除完了。カウントダウン開始、発射まで10,9,8,7・・・』

 

 

550キロトンの水爆。落下予定地点から最寄りの集落まで800km以上離れているが、残留放射能の影響は避けられないだろう。しかしそれより遥かに広大なこのハルケギニア全土が焦土と化すよりはマシだ。端末に送られてくる映像は実験体の現在の状況を示している。相変わらず場所は動いてはいないが、外傷という意味ではあまり与えられていないため、戦闘不能と言うよりはスタン状態に近いのだろう。それから数分後、そこへ飛来する一本の弾頭。それが広域画面のほぼ中央に来たときにまたもや画面がホワイトアウトした。

 

 

ゴゴゴゴ…

 

着弾点から1000kmは離れているはずのここですら爆発の地鳴りが聞こえてくる。流石に火球は見えないが。ちなみにルイズたちはあれからほぼフルスロットルで飛ばしたため、振り落とされていなければ爆発時には2000km以上離れられているはずだ。その辺りも確認しなければならない。

 

 

「こちら47。タバサ。応答せよ。」

「こちらタバサ。」

「戦略攻撃が完了した。そっちは無事か?」

「無事。」

「何回か吹き飛ばされかけたけどな。」

「ではそのままゲルマニア東部のICAの空軍基地に向かえ。そこで落ち合おう。」

「了解。」

 

「スネーク、聞こえるか?」

「ああ。」

「攻撃は完了だ。これ以上我々にできることはない。撤退するぞ。」

「もう撤退は開始している。このドラゴンはなかなかおもしろいな。ああ、蛇食うか?」

「キュル・・・」

「・・・おそらく嫌がっているぞ。」

 

 

「では我々も行くぞ。」

「・・・私達今回何もしてないわね。」

「わかったのは、この地域ではカレーはあまり好かれないってことくらいだ。」

 

 

ブルーとシルバーのカレー屋はものの見事に閑古鳥が鳴いていた。先程待っているときに味見をしたが、客が来ない理由はおそらくこのカレーが辛すぎるせいだと思われる。

私達は近くに来た迎えのヘリに乗ってSR-72が向かった空軍基地へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

『47。残念なお知らせよ。実験体はまだ生きているわ。』

「・・・。」

『・・・残念だけど例の最終兵器を使うしか無い。本当に残念だけれど。』

「実験体の損傷状況は?」

『手足と羽の部分はほとんど焼け爛れて使い物にならなそうね。でも肝心の頭部と胴体が表面が焼けているだけで内部までダメージが通っているかが不透明よ。』

「生きているという根拠は?」

『生体反応が消えていない。熱核兵器の直上の熱線に耐えたってこと。』

「・・・。」

『既に体の修復が始まっている。爆発の余波の影響で観測が遅れたの。早急に次の手を打たねばならない。でも核弾頭はもう無い。』

「のこるは効き目のない通常弾頭とカテゴリ・スパディルだけか。」

『そういうことよ。もうすぐ基地に到着するわね。念の為ICAの人間を全員他の世界に避難させているわ。47も基地に到着次第こちらに戻ってきて頂戴。』

「・・・了解した。」

 

 

 

 

 

 

『戦略AIです。座標設定が完了しました。発射シーケンス開始。弾頭:カテゴリ・スパディル。炸薬タイプ:1.2ギガトン級ゼロポイント弾頭、時限信管モード。炸裂時間を120秒に設定。発射弾数 1。発射完了後、バルドルを含めた全衛星は安全圏に退避します。安全制御プロトコル、560から1020まで解除完了。全安全装置解除完了。カウントダウン開始、発射まで10,9,8,7・・・』

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「神をも恐れぬ」   +2000 『教会の神父を尋問する。』

・「スパイシーな作戦」 +1000 『ブルーとシルバーのカレーを食べる。』

・「スピードレーサー」 +3000 『ルイズ・サイトのいずれかが音速を突破する。』

・「虚無の爆発」    +5000 『熱核兵器を使用する。』

 




次回で一旦区切りになります。(多分)

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