結論から言うと、実験体は消滅した。しかしその代償はかなりのものになってしまった。
ゼロポイント弾は宇宙空間を膨張させている俗に言うダークエネルギーを固着・充填したものだ。弾頭内に装填されていたエネルギー物質はわずか0.5g。たったそれだけの炸薬量ではあったが、そのたった0.5gが引き起こした爆発によってサハラの大半が吹き飛んだのだ。
アーハンブラの城と城下町は爆発の余波に巻き込まれ、風速にして300m/s以上の竜巻の倍以上の風が襲い、すべての建物と人間は瓦礫と肉塊にされたようだ。サハラの反対側に会ったエルフの都市アディールは最初の核爆発の衝撃波により警戒態勢に移行したため、都市に備え付けられているカウンター魔法を作動させたようだが、爆発の衝撃波はその障壁を、特にカウンター対策を施していないにもかかわらず貫通。地上部分の構造物の大半を瓦礫に変えたようだ。しかし最初の核爆発で住民を地下へ避難させ始めていたようで、100人にも満たない数ではあるが生き残った者が居るようだ。
3000キロ以上離れたハルケギニアの都市部でもかなりの被害が出ている。アーハンブラほど深刻ではないものの、リュティスやトリスタニアなどでは建物のガラスが割れる被害が多発したようだ。魔法学院でも衝撃と割れたガラスで死者こそ出なかったものの、負傷者が多数発生したと後にキュルケが教えてくれた。
着弾地点は半径70kmにもなる巨大クレーターが形成された。これでも地球の歴史上最大の隕石衝突よりは威力が小さいというのだから驚きだ。ちなみにこの衝撃で惑星の地軸が0.2度ほど傾きが大きくなったようだが、すぐに惑星の対極に位置する無人の大陸に対し同じく砲撃が行われ、環境や生態系に影響が出る前に修正された。
肝心の実験体の存在はどこにも見つけられなかった。しかし、前回と違うのは転移した形跡がまったくないことだ。渡界機の渡界技法では転移の瞬間とその後数時間にある程度の時空の歪みが発生する。1~3時間ほどでもとに戻る程度の歪みであるが、特異な痕跡を残すので転移したかどうかは比較的簡単に見つけることができる。前回硫黄島で転移したときもその歪みははっきりと観測されている。今回はそれが全くない。ということは転移はしていない。おそらくその圧倒的な破壊力によって粉々になったか蒸発したか。何れにせよあの悪夢のような実験体はもうこの世のものではなくなったのだ。
『考え事かしら?』
「・・・。」
バーンウッドが私の近くへ来た。今私は元の世界のアメリカに来ている。今回の事件によって世界の歪みがだいぶ進行してしまった影響で、しばらくICAの活動は休止せざる負えないと判断されたためだ。ブルーとシルバー、タバサ、彼女らもそれぞれ元の居た世界に一時帰還している。先の作戦で呼び寄せた者たちも同様に簡単な記憶処理を施して帰還してもらった。ある意味世界は正常に戻ったと言える。
技術部は今躍起になって世界の歪みを矯正する技術を開発している。その開発がなければ作戦遂行ができないだからだ。だが進捗は彼らにしては珍しく芳しくないと聞いた。しばらく時間がかかりそうだ。
「開発は順調か?」
『アレが順調だと言うならば、完成予定は早くても200年先ね。』
「さすがの私も200年は待てないな。」
『取っ掛かりは見え始めているのだけれど、まだ決定的という訳にはいかないわね。』
「あまりのんびりするのも腕が鈍りそうだ。」
『なら訓練施設を使うかしら?久々にアラスカの施設を使えるように手配するわ。』
「ありがたい。」
『それにいつまでも仕事なしというわけにも行かない。今各国の有力者を回って仕事を探させているわ。』
「ファンタジーも異生物も絡まない仕事は久しぶりになりそうだな。」
『そうね。この所は魔法だのなんだのが多かったものね。』
私はICAに入って最初に使ったあの訓練施設を使うために空港へ向かうことにした。
~ブルーside~
「ここへ来るのも久々ね!ねえ!シルバー!」
「そうだね。でも何故ここに?」
「何言ってるのよ。里帰りの一環よ。貴方このあたりの出身なんでしょう?」
私達は今、トキワの森に来ている。シルバーがトキワの森周辺で生まれたことを知ったのはICAに入ってからで、情報部による身辺調査の一環で判明したことだった。あの悪名高きロケット団のトップであるサカキの子供だということも同時に判明している。
もっとも、ロケット団もICAが立ち上げに関与しているらしいから、シルバーは生まれたときからICAに関わっていたことになるわね。
「誰か知ってる人とか居ないの?あ、そうだ!親御さんに挨拶しに行こうかしら!」
「・・・。」
「・・・。ごめん。」
「なんで謝るのさ?」
「そんな簡単なノリで言っちゃまずかったかなって。」
「大丈夫だよ。でも僕はかなり幼い頃に連れ去られたから正直親の顔も殆ど覚えてはいないんだ。」
「そうなの・・・。でも何か思い出したりしないの?お気に入りの場所とか食べ物とか友達とか。」
「・・・そういえば連れ去られる前にこの辺りで一緒に遊んだ子供が居たと思う。名前とかは全くわからないけれど。」
「じゃあその子を探しましょう!もしかしたらまだこの周辺に住んでるかも!」
「いやいいよ。向こうもこっちを覚えてないだろうし・・・。」
「何いってんの。覚えてるかもしれないじゃない!ほらほら、どこらへんで遊んでたのよ!」
私達はトキワの森の中へ入っていく。相変わらずこの森は昼間でも薄暗い。でも陰気な感じはしない。私もここには来たことがあったけれど、ポケモンを捕まえに来た程度であまり思い入れはない。その次に来た時は既にシルバーと一緒だったしね。
その後、小一時間森の中を歩き回ったけれど、目的の人物はおろか手がかりすら見つからなかった。まあ当たり前か。
「もうそろそろ夕方だ。一旦帰ろうか。」
「そうね。あーあ、いつまでこんな調子になるのかしらね。」
「給料は出ているし衣食住は保証されてるんだから、以前のような逃亡生活よりはマシだと思うよ。」
「そりゃあそうだけどねえ・・・。」
「ははは・・・まあやることがないっていうのは確かに体が鈍りそうではあるね。」
「・・・決めた!明日も来るわよ!こうなったら私達が培った諜報の技術を総動員してでも見つけてみせるわよ!」
「いや、なにもそこまでしなくても・・・。会って特に話したいことがあるわけでもないのに。」
「やることが無いよりはマシよ。それに腕を鈍らせないためにもね。」
ともかく今日のところは一旦トキワシティのセーフハウスに戻ることにする。この所各地のセーフハウスを転々としていて、ほぼ毎日のように住む街を変えていたけど、今後しばらくはトキワシティに済むことになるわね。
しかし、トキワの森をもう少しで抜けるというところで出会いは突然訪れた。
「そろそろ街が見えて・・・」
「・・・?シルバー?」
「・・・。」
「どうし・・・アレは・・・?」
シルバーが急に立ち止まったかと思えば近くの小川を凝視して固まってしまった。その目線の先を見ると、一人の少年?が釣り糸を小川に垂らしていた。黄色い服を来て麦わら帽子をかぶっている少年だ。その人物こそ、シルバーが幼い頃に一緒に遊んだ子供だと気がついたのはその後すぐのことだった。
~タバサside~
「サイト君、そっちを持ってくれないか。」
「了解っす!」
側ではサイトとコルベール教諭が忙しく壁を修繕している。本来このような修繕業務は土メイジ、もっと言えば貴族ではなく平民が行う仕事ではあるが、今学院は先の戦闘による余波の影響でいたるところが壊れており、町の平民の大工もあっちこっちの街に引っ張りだこ状態で全く人手が足りていない。よって学院の生徒や教員、メイドや使用人がコツコツと自分たちで修繕している。しかしやはり素人が行う日曜大工のようなものなので作業速度はかなり遅い。事実、事件発生から今日で1週間が経とうとしているが、未だに全体の4割ほどしか修繕が完了していない。ガラスの張替えは個室を優先に行われたため、講堂や食堂は未だに吹きさらし状態だ。
私はと言うと、肉体労働はできなくはないが、この背丈の小ささもあって得意ではなかった。さらに、水精霊騎士団の隊長であるギーシュが「我々男子が率先して学院の規律と秩序を取り戻し、守るのだ!」とか言い出したのを皮切りに、修繕作業をほとんど男子が買って出ることになったため、私達女子はそれを眺めながら屋外テーブルでお茶をするという状況になっていた。今はキュルケとルイズと一緒にティータイムだ。
「一体いつになるのかしらね。全部終わるのは。」
「さっきレイナールが話していたわ。このペースだと全てが完了するのはどんなに早くても来週になるって。」
「明日からギューフの月だというのに吹きさらしは流石にそろそろ寒くなってきたわ。」
「ルイズ、貴方も先の戦闘に参加してたんでしょう?もうちょっと穏便にできなかったの?」
「無茶言わないでよ。あんなの相手に手加減なんかしてる余裕なんか無かったわよ。それにこの被害は私のせいじゃないし。」
「そんなすごかったの?」
「すごいなんてもんじゃないわよ。通る道をすべて灰と瓦礫に変えながら進んでたわ。あそこで倒せなかったらそれこそ学院なんか生徒も教師も全部まとめて瓦礫と煙に変えられてたでしょうね。」
「恐ろしいわね・・・。なんだってそんなものが生まれたのかしら?」
「知らないわよ。でも協力者が居たからなんとか退治できたわ。」
ルイズも含め、あのとき参加していた異世界の助っ人は全員記憶処理がなされており、あの実験体を生み出したのがICAであることは伏せられている。知っているのは私達エージェントと本部のオペレーターを含む組織構成員だけだ。
私の復活劇も精霊の力とマジックアイテムによって蘇ったことにされており、ICAは一切関わっていない事になっている。47と直接会ったキュルケやギーシュに関しても現地インフォーマントが深夜帯に学院に忍び込んで記憶処理を施したと聞かされた。
私は現在、学院の生徒として復帰している。学院に潜入するインフォーマントとしてICAの業務に携わる身になっている。ガリア王家は私が蘇ったことを把握したようだが、今のところなんのアクションも起こしていない。もしかしたらICAの方でなにか手を打ったのかもしれない。
ともあれ現在はICAに出会う前の平穏な生活に戻っている。母さまを救えなかったのは残念だけれど、もしかしたら例の薬でそちらも蘇らせることができるかもしれないと思うと、そこまで悲観してもいない。今はこの平穏な日々を堪能しても誰にも文句は言われないだろう。
「おーい!ルイズ!」
「サイト。終わったの?」
「ああ。まあまだ壁の一部を直しただけだから今度は別の所だけどな。」
「そういえば二人は進展したのかしら?」
「進展?」
「何がだ?」
「決まってるじゃない。卒業したらやっぱりオルニエールに住むの?結婚はいつするの?」
「「結婚!?」」
「あら、そんなに驚くようなことかしら?前以上に四六時中一緒にいて仲良さそうに笑い合うことも増えたのに。」
「そ、そんな事ないわよ!フツーよフツー!」
「あはは・・・ああ!コルベール先生に頼まれごとしてたんだった!じゃあ!」
「あ!ちょっと!サイト!」
今日も騒がしくも楽しげな魔法学院。この平和がいつまで続くかはわからないが、願わくば私達が卒業するまで持ってほしいものだ。
~47side~
久々だ。この訓練施設も。今となってはほとんどタイムアタックに近い形になってしまっているクルーズ船の訓練も懐かしく感じられる。
何回かチャレンジした後、前よりもタイムが落ちていることに多少の鈍りを感じつつ、今日の訓練を終えた。訓練後、バーンウッドが私の元へやってきた。
『調子はどうかしら?』
「悪くはない。だが良くもない。」
『タイムはその時のNPCの行動にもよるから仕方ないわね。』
最近知ったことだが、この訓練施設でNPCとして登場する人物は皆ロボットらしい。道理で殺しても殺しても次の回には何食わぬ顔でまた復活しているわけだ。
「で、何の用だ?」
『報告よ。世界を安定させる装置、私達は暫定的に“ワールドセーフティ”と名付けたわ。でも進展があったと言えばその名前をつけることくらい。まだまだ時間は掛かりそうよ。』
「そうか・・・。」
『で、つい先程、バングラデシュにある中国大使館から仕事の依頼があったわ。政府要人の暗殺。早速仕事に取り掛かって頂戴。』
「久々の任務か。」
『そうよ。今までならシルバーかタバサに任せるような仕事だったのだけれどね。』
「シルバーはもう殺すことには慣れたのか?」
『ええ、残念ながらね。普通に絞殺や貴方の得意な“溺死”も普通にこなしてたわ。』
「そうか。予想ではそろそろフォローが必要だと思うのだが。」
『そう思って彼は故郷の森を散策するように工作しておいたわ。』
「森を散策して森林浴か?その程度では・・・。」
『その森に彼が幼い頃に出会った少年、まあ実際は少女なのだけれど。その少女に出会うように色々と手を下したから今頃再会を果たしているんじゃないかしら。昔を思い出して少しでも気が楽になったら良いのだけれどね。』
「ふむ・・・。気が変わりすぎてICAに反旗を翻されないと良いがな。」
『ええそうね。そのあたりはブルーがブレーキ役になってくれることを祈るばかり。』
「翻されても・・・。」
『ICAは裏切り者を許さない。そこは今も昔も全く変わっていないわ。』
「・・・シルバーも大変だな。」
『あら、貴方が他人の心配をするなんて珍しいわね?』
「彼らに会って私も心境の変化があったのかもしれない。」
『そう。ともかく今は仕事よ。早速ダッカに向かってもらうわ。』
「了解した。」
私は早速支度を始める。今回は何を持参するか。どんな暗殺方法で行くか。楽しみというわけではないが、別段苦でもない。これが日常。これが私の存在意義。これが“エージェント”だ。
『ダッカの中央駅の前にウォーターガーデンがあるわ。今回の任務はそこの・・・。』
支度と言ってもいつものスーツを着るくらいだ。装備は現地調達でもどうにかなる。ダッカについた後もいつもと変わらない。無線でブリーフィングを復習し、そしていつものあの言葉で任務が開始されるのだ。
『準備は一任するわ。』
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「ここをこうして・・・ああ!だめだ!また失敗だ!」
「お疲れ様です。バーンウッドさんからこれを。差し入れだそうです。」
「おお、バーンウッド女史も気が利くじゃないか。おおい!お前たち、偉大なるオペレーター様が差し入れをくださったそうだぞ!」
ワイワイガヤガヤ
「進捗、芳しくないそうですね。」
「そうなんだよ。どうも世界に共通する符丁となる周波数が噛み合わなくてね。・・・ってこんなこと言ってもわかんねえか。」
「あはは・・・まあでもなんとなくは。それぞれの世界に共通することが見いだせないと?」
「まあそんなところだな。魔法を媒体にしたら魔法がない世界がハブられる。科学を媒体にすれば魔法世界がハブられる。そのどちらも媒体にするには容量が足りねえ。どうしたもんかなほんと・・・。」
「うーん・・・。人間とかじゃだめなんですか?」
「うん?」
「人間という存在そのものを媒体にするんです。」
「ああ、そういうことか。でも人間にも色々あるからな。我々の装置ではアメリカ人と中国人の違いを個別に設定しなきゃならなくなるからな。それにそれだと“人間”という存在がいない世界、亜人や動物ばかりの世界がハブられちまうんだ。」
「そうなんですか・・・。」
「まあそんな切羽詰まってはいないから気長にやるさあ。できなくても色んな世界から怒号が飛んでくるわけじゃねえしな!ははは!」
「・・・あ。」
「あ?」
「怒号。そうですよ怒号ですよ。」
「ええ?もしかして怒られる可能性があるってのか?」
「違いますよ!怒号・・・というより“言語”を媒体にすれば良いんですよ!」
「言語を?そりゃあ無理だ。それこそ星の数ほどある。」
「だから“言語”っていう概念を媒体にできないですかね?」
「うん?・・・なるほど、それなら言語を持った存在がいる世界なら対象範囲にできるかもしれねえな・・・。」
「言語を持っていない世界は殆どないと思いますし、どうでしょう?」
「よし、いっちょその線で行ってみるか!ありがとよ!ええと・・・。名前なんて言ったっけか?」
「あ、私はキャロラインです。AIとよく間違えられるんで最近じゃオペ子2とか呼ばれてますけど。」
「オペ子1はバーンウッド女史ってことか。ははは!わかった、ありがとうよ!キャロライン女史!」
「いえ、どういたしまして!成功することを祈ってます!」
ミッションコンプリート
・「一歩一歩前へ」+5000『エピローグを見る。』
いろいろ中途半端な気もしますがひとまず完結です。今までお付き合いくださりありがとうございました。
今後は自分自身読み返して色々と修正しつつ、足りない部分があった場合は外伝として追加していくかもしれません。正直、後半はいきあたりばったりな部分が多く、しかも最後の方など「あれ?何の小説だっけ?」な感じになっていましたが、この完結をきっかけに軌道修正したいなとも思っていたり。
活動報告という名の設定集も意味があったのかわからないレベルなのでそこも加筆修正したいとも思っています。
次があるとすれば、また違うキャラの世界に行くことになると思います。もしかしたらブルー達もついてくるかも・・・。ああでも一つだけやり残したことがあるのを把握していますが、それは次で、もしくは外伝でということになりそうです。
何はともあれここまで本当にありがとうございました。またの機会にお会いしましょう。
それでは~。