HITMAN『世界線を超えて』   作:ふもふも早苗

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HITMAN外伝『エンパイア レムナント』2

『サハリンへようこそ。47。』

 

『ココは日本の北海道のさらに北に位置しているロシア連邦のサハリン島。昔は樺太なんて呼ばれてたりもしたらしいわね。ロシア政府自体、社会が崩壊してて連絡が取れない状態にあって、ここサハリンもロシアの統治下にありながら実質放棄されているわ。』

 

『日本政府はロシア政府が崩壊したのを良いことにサハリン島南部に秘密基地を建設したみたいね。サハリン島自体は深海棲艦の攻撃により全土が焦土となっている扱いだけれど、その秘密基地自体は公にされていないので無問題なわけね。』

 

『ICAの決定事項を伝えるわ。“いくつかの暗殺依頼任務によって世界の方向性が歪められた可能性は排除できず、我々で事態の収束をしなければ崩壊の危険性大と判断する。”だそうよ。要はICAが手を出したから崩壊しかかってるって認めるってことね。』

 

『よって世界を修正するために我々は日本国の計画を潰す必要が出てきたわけ。その最初の任務が今回よ。ターゲットはこの秘密基地の基地司令長官である蔵本浩二。日本国海軍2等海将。中将クラスが基地司令をやっているなんてよっぽどこの基地が重要なのね。』

 

『基地は4つの海上トーチカに守られた断崖絶壁に作られている。艦娘部隊も何隊か常駐しているらしいから気をつけて。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「おい、天龍。そろそろ見回りの時間だぞ。」

「わーってるよ。あーあ、どうせなら近海警備の方が良かったぜ・・・。お前だってそうだろ?」

「そりゃあ俺だって出たかったさ。でも球磨姉さんのまんじゅう食っちまったから逆らえねえんだ・・・。」

「お前・・・意外に意地汚いな・・・。」

 

 

ここは基地外周の警備員詰め所。私は少し遠くの岸壁にボートを付けて上陸し、ココまで歩いてきた。基地は秘密基地扱いなので大掛かりな警備体制はしけないらしく、基地本体は地下で、地上部分にはプレハブ小屋が1棟あるだけだ。

 

プレハブ小屋は警備員の詰め所になっている。しかし人間がココにいてもたかが知れているということなのか、詰め所に居るのは軽巡洋艦“天龍”と重雷装巡洋艦“木曽”だ。他の艦娘は近海警備に出払っているらしい。詰め所から2人が出てくる。私は物陰からそれをやり過ごし、2人が見えなくなった頃合いで詰め所内部に侵入した。

 

詰め所はそれなりの広さがあるが、土間の部分と畳の部分に分かれているだけで、他はトイレくらいしか無かった。しかし、部屋の端においてある机の上にはこの基地の全体図があった。私は念の為手を付けずに、スマートフォンで写真だけ撮影した。他にめぼしいものもなさそうだったので詰め所から出る。

 

全体図によると、岸壁沿いに地下へ降りる階段があるらしい。ひとまず私は最寄りの階段に向かった。

 

 

 

岸壁に到達すると基地の全容が少しではあるが把握できる。岸壁からは深い青、つまり海の色と同じ色に塗られた細い通路が海上の岩に向かって伸びており、その岩はよく見ると窓のように穴が空いている。おそらく海上トーチカが岩に偽装されているのだろう。私は小型双眼鏡でトーチカを見る。内部の奥まではよく見えないが、窓には重機関銃や要塞砲のようなものも見える。発見されればアレがすべて私の方を向くわけか。

 

トーチカからこちらを見ている人間がいないことを確認すると、私は階段を降りた。階段は岸壁に沿うように作られており、ある程度降りたところで岸壁の内側、洞窟のようになっている部分へ進んでいった。洞窟内部は少し奥まったところにコンクリート製の護岸やガントリークレーン、多数のコンテナ、そしていくつかの建物があった。奥にはひときわ大きな建物が見える。おそらくあそこが本部なのだろう。私は奥に伸びる通路を途中置かれている様々なものに隠れながら進む。

 

流石に建物付近は人が多数いる。コンテナの中身を確認している作業員、艦娘が護衛してきたと思われる小型のコンテナ船から荷をおろしている作業員、そしてそれら作業員を指揮している軍人。・・・っと。私の進んでいる通路の先に通路から全体を見回している警備兵が居た。地上部分と違ってこちらは人間が警備を行っているようだ。

 

私は警備兵に慎重に近づき、合間合間から警備兵を見ている人間が居ないことを確認しつつ、警備兵の背後の壁に向かって落ちていた小石を投げた。

 

 

カン、カラカラカラ…

「ん?何だ今の音は・・・。」

 

「なにもない・・・気のせいか・・・?」

ヒュッ

ゴッ!

「ウグッ!?」

ドサッ

 

いつもどおり物音でおびき寄せ、奥まったところに入ったところを後頭部を殴打して気絶させた。そのまま近くの箱に詰め込み、警備兵の服装を借りて私はさらなる行動を開始する。

 

通路から降り、最寄りの建物へ入る。不自然にならないように、かつ慎重に進んでいく。作業員の方は私のことを見破ることはできないようだが、同じ警備兵となればそうはならないだろう。最初の建物は武器庫だった。自動小銃や軽機関銃、各種グレネードやプラスチック爆弾まで。ありとあらゆる武器弾薬が揃っていた。その武器庫の中ほどで2人の女性が在庫チェックをしているようだった。あれは・・・艦娘だ。

 

 

「閃光手榴弾・・・よし。発煙手榴弾・・・よし。ふう、これでこの棚は終了ね。」

「おつかれー。あと棚は2つだよ。早く終わらせて酒保で甘いもの食べようよ。」

「明石、忘れたの?このあと基地司令に呼ばれてるでしょ?」

「あー・・・そういやそうだった・・・。ガックシ・・・。」

「ガックシって口で言わないでよ。しょうがないでしょ。最終決戦も近いのだから準備に大忙しなのよ。」

「最終決戦ねえ・・・。・・・。」

「明石?」

「大淀・・・。本当に最後になっちゃうのかな・・・。」

「そうね。戦況は絶望的。人類や艦娘側が勝てる可能性はほぼ皆無に等しいわ。」

「それにしては落ち着いてるね?」

「なんだろう。なんとなくだけどこの最後の作戦、勝てる気がするの。」

「そりゃまたどうして?」

「何の確証もないんだけれどね。司令は何かを知ってる。私達艦娘も知らない何かを。」

「何かって?」

「そこまではわからないわ。でも司令はすごく落ち着いている。私が言うのも何だけれど、司令は絶望的な戦況になっても冷静でいられるような人ではないと思うの。その司令があそこまで落ち着いてるって言うことはなにか勝算があるのよ。この作戦、もしかしたらこの戦争にも勝てる自信があるのかもしれない。」

「もう人類の8割は死んじゃってるのに今更勝っても・・・。」

「それはそうだけどね・・・。」

 

 

どうやら前線に出ている艦娘には全容は明かしていないらしい。おそらく最後まで、そして全てが終わった後ですら明かすつもりはないだろうが。

 

ともかく、この施設にはめぼしいものはなかった。建物から出て他の施設に向かおうとしたその時、

 

 

「お疲れ様です!」

「!・・・お疲れ様です。」

 

 

小さな子供が挨拶してきた。服装や顔から判断するに駆逐艦“朝潮”だ。

 

 

「なにかお探しですか?」

「あ、ああ。司令官を探しています。早急に耳に入れておかねばならないことができたので。」

「司令官でしたら先程通信塔の方へ行かれましたよ。なのでお戻りになるまで本部で待つのがよろしいかと。」

「失礼。私はこの基地に配属されて日が浅いのですが、通信塔には入れないのですか?」

「ああ、失礼しました。はい。通信塔は一部の高官と専属技師しか基本的に入ることは許されていないんです。私達艦娘も入ることはできません。」

「そうなのですか。わかりました。では本部で待たせてもらうことにします。ありがとうございました。」

「はい。お役に立てたようで何よりです!」

 

 

そう言うと彼女は小走りで駆けていった。私は彼女が言った“通信塔”をスマートフォンの全体図で確認する。どうやら今から向かおうとしていた建物が通信塔だったらしい。私は資材やコンテナの合間を縫って通信塔へ近づいた。

 

通信塔の入り口には警備兵などは立っていない。しかし、生体認証の自動ドアだ。変装した程度では入ることはできそうにない。私は別の侵入経路を探して通信塔の周囲を回った。

 

ここは洞窟の中なのでもちろん天井がある。通信塔の一部は天井に配管かケーブルのようなものが伸びており、おそらく地上施設に繋がっているのだろう。その配管のうち一本が天井付近の通路の近くを通っていた。あそこから侵入できるかもしれない。私は通路を目指して移動を開始した。

 

通路は普段使われていないのか、入り口は南京錠でロックされた扉で塞がれていた。私はロックピックで南京錠を外し、ドアを開けて通路に侵入した。普段使われていないということはココに人がいる事自体が不自然ということ。私はより慎重にこちらを見ている人間が居ないことを確認しつつ配管を目指した。

 

配管は通路から数m離れたところにあった。近くの岩場を使えば掴まることはできそうだ。私は再度入念にこちらを見ている人間が居ないことを確認し、配管を掴んでそのまま雲梯の要領で通信塔へ向かった。幸いにして誰にも見られずに通信塔の屋根部分に到達できた。しかし通信塔には屋上に出る扉や窓はなかった。私は慎重に外壁を見ると窓も基本的にはめ殺しのようだった。さて困った。どうしたものか・・・。

 

 

「第3艦隊が帰投しました。」

 

 

私が思案にくれているとアナウンスが流れた。洞窟の入口の方を見ると6人の艦娘が海上を滑ってくるのが見えた。先ほど詰め所で言っていた哨戒部隊だろう。

 

 

「艦隊帰投クマー!」

「おつかれー。」

「疲れたー・・・。」

「お風呂入りたいっぽいー!」

「私も入りたい・・・前髪崩れちゃった・・・。」

「!・・・ふっふっふ・・・。」

グシャグヤグシャ

「うりゃうりゃうりゃ!」

「うわあああ!北上さん!やめてー!」

「あははは!油断してるからだよー。」

「もーう!いつもいつもなんで私の前髪グシャグシャにするんですかー!」

「んー・・・なんとなく?」

「ムキー!」

「あ、阿武隈さん。もうそのくらいで・・・。」

「こうなたら私も北上さんの前髪崩してやるー!」

「うわわ、なにすんのさー!」

 

 

帰ってきたばかりの艦娘部隊が護岸近くで言い争っている。そのうち取っ組み合いに発展したそれは周囲の物品を蹴飛ばしながら大乱闘だ。周囲の他の艦娘たちはそれを止めようとする2人と囃し立てる2人に分かれてしまっている。っと、乱闘を繰り広げている二人の近くにドラム缶があった。双眼鏡で覗くと、ドラム缶の側面には炎のマーク。おそらく燃料が入っているのだろう。これはチャンスかも知れない。

 

私ははめ殺しの窓の中に誰も居ないことを確認すると、シルバーボーラーを取り出し、そのドラム缶に狙いを定める。取っ組み合いの乱闘がそのドラム缶に近づいた時を狙ってドラム缶を撃つ。と、同時に窓を強く蹴り飛ばして割る。

 

 

ガシャボォォォン!!!

「うわわ!」

「きゃあ!」

「あーあー!何やってんですかもう!」

「ふたりとも!そこまでにしてください!」

 

 

案の定、ガラスが割れた音はドラム缶が爆発した音にかき消され、誰もこちらには気がついていない。ドラム缶の爆発も乱闘の余波だと思われている。本人たちは不思議そうな顔をしているが。

 

割れた窓から侵入することができた。彼女たちには感謝しなければならないな。私はそのまま部屋を少し調べ、他の部屋を調べるためにドアから廊下へ出た。そのときの私はその一連の行為を見ている人影があったことを知らなかった。

 

 

通信塔内部はそこまで複雑な作りというわけではなかった。壁にはられた施設図を見る限り、要である通信室は最上階であるこのフロアにあるらしい。私が入ったのは同じフロアの使われていない一室だったようだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。情報部から追加の依頼が来たわ。今入った情報によると、どうやらその施設は全世界の深海棲艦に対して指示を送るための通信指令センターのようよ。情報部は貴方にその施設から深海棲艦への指令コード表を入手してほしいらしいわ。それがあれば深海棲艦を我々の意のままに動かすことができる。戦争の終結も早めることができるわ。少し大変かもしれないけどお願いね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

なかなか無茶な指令だと思うが、現状その指令センターに居る以上、これ以上の好機はないだろう。私は通信指令室をめざした。

 

現代の高層マンションなどと同じで、この通信塔も入り口だけガチガチのセキュリティを引いておけば問題ないという思想らしく、通信指令室の入り口はおろか、廊下などにも一切警備員や監視カメラなどが見当たらない。窓がすべてはめ殺しになっているのもそうした慢心の一因のような気もする。私は何の苦もなく指令室前まで来ることができた。私はひとまずドアに耳を当て中の様子を探ることにした。中から小さくはあるが声が聞こえてくる。

 

 

「了解しました。第5軍、次の攻略目標は成都です。行動開始はマルサンマルマル。戦力その他詳細は現地司令官に一任します。」

「閣下、重慶が陥落しました。第5軍はそのまま北西に進路を取らせ成都へ向かわせます。」

「よろしい。中国攻略にも目処が立ち始めたな。」

「昆明は今だ抵抗を続けているようです。戦略爆撃の要請が来ています。」

「海南島の爆撃隊を使うことを許可する。」

「了解、・・・海南島前線司令部、出撃命令が出ました。目標は昆明北東部の航空基地と周辺の工場群。」

「欧州部隊から通信です。第34軍、ベルン市街に入ったとのことです。」

「よしよし。スイス陥落も目前だな・・・。」

 

 

今まさに指揮をとっているようだ。私は少しだけ扉を開けてみる。中から反応がないのを確認してすばやく内部に入る。内部は先日侵入した東京の通信指令室と似たり寄ったりな構造をしているが、地球儀は無く、東京の施設より広くはない。

 

私はその中心にいる人物を見つけた。アレは・・・この間東京の研究所の施設にも居た男だ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『その男がターゲットの“蔵本浩二”。全世界の深海棲艦を操って世界を破滅に追い込もうとしている張本人。偶には世界を救うってのも悪くないと思うわよ?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ターゲットもそうだが、まずは情報部から頼まれたお使いの方をこなしてしまおう。私は指示を飛ばしているオペレーターを観察する。流石に大戦期ではないので手元に暗号乱数表があるわけでもなく、通信はすべてコンピューターが自動で暗号化を行っているようだ。

 

私はオペレーターの一人に近づき、少し目を離した空きに端末に小型のハッキング装置を取り付けることにした。問題はどう目をそらすかだが・・・。

 

 

ピピピ

「閣下、基地作業員から報告が上がっています。」

「何だ?」

「軽巡洋艦“阿武隈”と重雷装巡洋艦“北上”がまたいざこざを起こしたらしく、その余波で燃料ドラム缶が1本爆発したようです。」

「先程の衝撃と音はそのせいか・・・。思わぬ箇所に被害が出ている可能性もある。基地内を点検せよ。あと2人には後で私の部屋に来るように伝えろ。」

「了解。」

「まったく・・・アイツラにも困ったものだ。」

「これで4度目ですね?」

「ああ。普段はとてもいい子達なんだが、阿武隈はこと髪型のことに関する事になると周りが見えなくなるきらいがあるからな・・・。」

「北上のほうもじゃないんですか?」

「ああ、あっちはあっちで周囲にちょっかいを出したがるからな。ふたりとも戦闘では非常に優秀なのだが・・・。」

「一度閣下がビシッと言うべきなのでは?」

「ああ。言ってるつもりなのだがな・・・。」

「言ってますか?私にはそうは見えませんね。」

「私も同感です。どちらかと言うといつも北上に丸め込まれている気がします。」

「な!」

「最近じゃ駆逐艦の子たちも“司令官はもうちょっと威厳がほしい”と言っていましたよ。」

「ぐぬぬ・・・。」

「まあ閣下では威厳を出すのには当分掛かりそうですね。」

ハハハハ

 

 

雑談をして気が逸れている。今のうちに装置を端末に設置する。と言ってもコンピュータの背面のUSB端子に差し込むだけだが。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。端末の起動を確認したわ。これで相手の通信情報は筒抜けになるわ。よくやったわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

なんとか気が付かれずに設置することができた。私は静かに部屋を後にする。あとはターゲットを事故に見せかけて暗殺するだけだ。

 

私は部屋を出たあと、どうやって暗殺するかを思案していると眼の前にエレベーターがあった。ココは海に面した断崖絶壁の秘密基地。もしかすると・・・。最初に入ってきた部屋に戻り、部屋の隅に置いてあった工具箱からレンチを取り出すと再びエレベーターへ向かった。

 

私はエレベーターを呼び、着いたエレベーターの天井部分を開けてエレベーターシャフトに入った。案の定、エレベーターの細部は色々なところが錆びている。金属製のワイヤーロープは結構錆びが広がっており、いつ切れてもおかしくない状態だ。私はエレベーターシャフトの管理用のはしごを伝ってエレベーターの下側に移動し、非常ブレーキパットを見つけ出した。こちらはそこまで劣化は進んでいないため機能にさほど問題はなさそうだ。

 

私は非常ブレーキパットのボルトを緩める。左右2箇所にある非常ブレーキパットのボルトを緩めたことでこの非常ブレーキはもはや機能しないだろう。私は再びシャフトの上部に移動し、そこでターゲットが乗ってくるのを待った。

 

しばらくしてエレベーターのドアが空いた。上部通風孔から中を覗く。乗ったのはターゲット一人のようだ。

 

 

「まさか爆発の余波があんなところまで着ていたとはな。早急に修理させねば・・・。割れていてははめ殺しの窓にした意味がないじゃないか。」

 

 

どうやら窓を発見されたらしい。他の作業員が来る前にことを済ませなければならない。私はエレベーターが動き出すのを見計らって、管理用のはしごからシルバーボーラーで錆びていたワイヤーロープを撃った。

 

 

パシュ

ガキン!

「うわああ!」

ガー…

 

 

ワイヤーロープが切られたエレベーターは凄まじい速さで落下していった。普通ならば落下スピードが一定以上になれば自動で非常ブレーキが効くが、今回はそのブレーキは役に立たない。ともすれば・・・。

 

 

ドォーン

ボォォン

 

 

一番下まで落下する以外にない。落下した衝撃で一番下にあった機器に勢いよくぶち当たったようで小規模な爆発がおこった。この通信塔は8階建てに相当する高さなのでおそらくターゲットはエレベーターの中でヒキガエルのように潰れていると思われる。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの生命反応消失を確認したわ。任務完了ね。脱出して頂戴。最初の上陸地点の沖合に潜水艦を待機させているわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は入り口の扉をこじ開けて元のフロアに戻った。通信指令室の要員は何があっても外に出ないようにと厳命されているのか、あの爆発音でも誰かが外に出てくる気配はなかった。

 

私はそのまま最初に入った割れた窓ガラスから外を確認する。外に居た作業員は落ちたエレベーターに注目しており、割れた窓ガラスを見ている人物は居なかった。私は入ったときと同じように配管を伝って通路に戻り、通路をそのまますすんで地上に出た。出入り口は南京錠でロックされていたが特に問題なく解除することができた。

 

外に出ても警報もなにもないということは、私の侵入に気が付かれていないということ。あのエレベーターの落下は事故と見られていると思われる。私は来た道を戻るようにして上陸地点に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

「お待ち下さい。」

 

 

 

 

 

 

急に背後から声をかけられた。そこには軽巡洋艦大淀が居た。手には単装砲を持っている。

 

 

「・・・。」

「先程、弾薬のチェックを行った後、通信塔に入る貴方を見ました。何を行っていたのかは今入った通信でわかりましたけどね。」

「・・・。」

「お答えください。なぜ司令官を殺したのですか?」

「何のことだ。」

「とぼけても無駄です。貴方が入った窓は施設の最上階。最上階ならばエレベーターに細工をすることもできる。そして死亡したのは司令官ただ一人です。」

「・・・。」

「いいたくなければそれでもいいです。」

「何?」

「ですが・・・一つだけ教えてください。貴方は私達艦娘が知らないことも知っている。そう見受けられるので問います。」

「・・・。」

 

 

「この世界はどうなるのですか?」

 

 

私は質問の意図を考えた。純粋な好奇心か、世界を変えようとする英雄気取りか、はたまた見境なく首を突っ込みたがるバカなのか。その目は真剣で英雄気取りでもバカでもなさそうだ。

 

 

「それを聞いてどうする。」

「この世界は深海棲艦に滅ぼされるのでしょうか。それともまだ希望が残っているのですか?」

「・・・。」

「貴方の正体は知っています。エージェント47。国際暗殺組織“ICA”のエージェント。いつぞやの硫黄島での戦闘にも参加していたのでしょう?」

「ほう?キミは何を知っている。」

「私もその作戦に後方ではありましたが参加していましたから。そのときに私独断であなた方のことも少し調べたんです。」

「この世界に開示されている情報は少ない。よく調べ上げられたな。」

「あなた方は気がついていないみたいですが、情報部のエージェントを私は知っていますよ。」

「何?」

「私の知識もそのエージェントの通信内容から判断したものです。」

「・・・。何をするつもりだ。」

「何も。私はただ、この世界が早く平和に、平穏になってほしいだけなんです。」

「・・・。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『エージェントの素性が露見している・・・?大至急調査の必要があるわ。我々の中にスパイが居る可能性があるということだもの。もっと情報を引き出して・・・いえ、最終手段を取ることを許可するわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

本部の許しが出たか。仕方がないがこのことはある意味任務よりも重大そうだ。

私は静かに彼女に歩み寄ると手の届く距離まで近づいた。そのまましばらく見つめ合った後、私は何かに気がつくように背後に目をやった。彼女はその目線に気がついたのか振り返って目線の先を探した。その瞬間を見計らって私は彼女の鳩尾に一発くれてやった。

 

 

ガッ

「うぐっ!・・・どう・・して・・・。」

「君はこれから世界の真実を知ることになるだろう。」

ドサッ

 

気絶させた彼女を担いでゴムボートを再び海に浮かべ、彼女を乗せてサハリンを脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

『47。軽巡洋艦大淀の尋問の結果、エージェントの素性が露見したのは彼女だけだったようよ。』

「そうか。ひとまずは安心か?」

『そうね。でもまだ油断はできない。エージェントには厳重注意を行ってさらなる露見を防がせるわ。』

「それがいいだろう。で、肝心の作戦のほうは?」

『設置したバグのおかげで深海棲艦に使われる通信はすべて傍受できている。暗殺した基地司令官の後釜は滞りなく決定されたそうよ。』

「ということはバレては居ないか。」

『ええ。いま通信方式の解析を行っているわ。これが完了すれば我々の基地からも指令を飛ばすことができる。作戦の最終段階が実行に移すことができるわ。』

「そうか。」

『我々の指令を深海棲艦に届けるには、本物の指令を届かないようにしなければならない。ネットワークのメインコンピュータはまた別にあるから、貴方にはまだ働いてもらうことになりそうよ。』

「承知した。」

『ああ、それと、軽巡大淀のことだけれど、こちらの存在を知った以上、このまま帰すわけにも行かないわ。作戦が終わるまで私達で“保護”することになったから気が向いたらあってきたらどうかしら?』

「私が会ってどうなるものでもないだろう?」

『あの子、相当諜報能力に長けているわ。それにあの思想・・・もしかしたら・・・。』

「・・・。」

『わかるわよね。貴方の役目になるかもしれないわよ?』

「勘弁してくれ。私はスカウト業はやっていない。」

『でもブルーやシルバー、タバサを勧誘できたじゃない?』

「あれはその場の状況がそうさせた。ブルーに至っては私は口添えをしただけに過ぎない。」

『そう言えばそうだったわね。まあとにかく一度会ってみて頂戴。』

「わかった。」

 

 

ミッションコンプリート

・「空き巣にご注意」+1000 『通信塔に侵入する。』

・「フリーフォール」+5000 『エレベーターを落下させてターゲットを暗殺する。』

・「近接戦闘は苦手」+3000 『艦娘を近接戦闘で気絶させる。』

・「黒幕候補」   +3000 『軽巡大淀を鹵獲する。』

 




秘密基地はスナイパーエリートに出てきたラーテ工場や、MGSのシャドーモセスなどをイメージして勝手に作り上げました。なので樺太に断崖絶壁があるかどうかすら今回は確認してません(笑)

個人的な話ですが、最近「荒野のコトブキ飛行隊」にハマっています。2~3話もしかしたら書くかもしれませんが話の大筋には全く関わらないですw

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