『ロータへようこそ。47。』
『今回のクライアントは前回のターゲットであるオウニ商会のルゥルゥ社長よ。彼女は独自の情報網を駆使して先の襲撃の犯人である、我々ICAのことと前回のクライアントについて調べ上げたようよ。まだこの世界での情報網の構築が不完全なところを利用された形になってしまったわね。』
『だから今回のターゲットは前回のクライアント。と言ってもその命令を伝達した中継組織だけどね。名前は“カマタカンパニー”今回狙ってもらうのはそのカマタカンパニーのカマタ社長。側近であり秘書のマルミ。そして命令の伝達係であり、我々に直接接触してきた資材部のポポル。この3名よ。』
『この3名は現在、ここ空の駅ロータから北へ130キロほど行った所に位置している渓谷に基地を構えている“エリート興業”という組織を訪問しているわ。仕事の契約みたいね。』
『あなたにはここからICAのステルスヘリで渓谷近くまで行ってもらう。そこからは徒歩で基地へ入ってターゲットを暗殺して頂戴。』
『準備は一任するわ。』
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ブゥゥゥゥン…
エリート興業基地の手前1200m地点に降り立った。この先の曲がり角の先にその基地はある。情報によるとターゲットの3人は明日の昼頃までこの基地に滞在するらしい。タイムリミットは後20時間ほどだ。
今回、シルバーボーラーの他に小型のリモコン爆弾を持参した。リモコン起爆式なので暗殺はもちろん、いざという時の攻撃や、揺動などにも使えるので持っておいて損はない。後はいつもどおりロックピックだ。
私は早速曲がり角まで来た。岩の陰から覗くと渓谷の底に広がる滑走路が見えた。滑走路の端にはエリート興業の所属機であると思われる一式戦闘機が複数駐機していた。その近くには整備士と思われる男が数名戦闘機のエンジンを弄っている。
岩陰と僅かに生えている草に隠れるようにして慎重に近づく。基地の一番端の部分まで来ることができたが、此処から先は基地の入口まで隠れる岩も草も無かった。侵入方法を考える必要がある。
私は辺りを観察し、ちょうど滑走路の反対側にいくつかの白いタンクがあるのを確認した。おそらく航空燃料が貯蔵されていると思われる。手持ちの装備ではタンクに穴を開けることは困難であるが、そのタンクから伸びている給油用のホースには簡単に穴が開くだろう。ちょうどそばでは1機が給油中だった。
シルバーボーラーで慎重に狙いを定め、給油中のホースに狙いを定め弾丸を発射した。
パシュン
プシュ
うまい具合に穴が空き、燃料が漏れ始めた。給油中の機体の整備士とパイロットは機体後部で何やら話し込んでいる。私は更にもう一発、漏れ出て地面にたまり始めていた燃料に向かって弾丸を放った。
パシュン
チュンボォォォウ!
「おあ!?なんだあ!?」
「火災だ!消火急げ!」
ワーワー
滑走路がにわかに慌ただしくなった。様々な場所に散らばっていた基地要員が消火器を手に一斉に燃え上がっている機体へ殺到する。私はその混乱の隙にダッシュで入り口に駆け込んだ。
基地内部は洞窟を改造しているのか、足場だけは綺麗に整備されていた。しかし、壁は岩石がむき出し状態だ。
「見ねえ顔だな?新顔か?」
突然そんなセリフが聞こえてきたものだから即座に振り返って確認する。別の廊下から誰かが歩きながら話しているようだ。
「ああ。なんでも営業部と人事部の人員が足りてないとかでな。つい昨日スカウトされたんだよ。」
####情報を発見####
「そういやボスと姐さん、昨日はラハマに行ってたんだったな。」
「姐さんってのはあのボスの横に居た女性の事かい?綺麗だったなあ。」
「やめときな新入り。彼女はボスの
「うへ、まじかよ。あっぶねー・・・。」
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『エリート興業は営業部と人事部が人手不足のようね。うまく新入社員に紛れ込めばターゲットに近づきやすくなるんじゃないかしら?』
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こちらに歩きながら話しているようで、このままでは鉢合わせになってしまう。私は一旦手前の部屋に入った。
入った部屋は宿舎のようだった。しかしベットの数が6つしか無く、おそらく数ある宿舎のうちの一つだと推測できる。奥にはタンスが設置されており、その中には制服が何着か収められていた。おそらくこの部屋の住人のものだろう。私はそれを借りることにした。
見たところこの基地の人員は皆同じ服装のようだったので、パット見で判断するのは難しいだろう。私は制服を借り、再び部屋を出る。
話を聞く限り、新入社員が入るタイミングで潜入できたのは好都合だ。ついでに情報を探ってみよう。私は通過したばかりの2人に後ろから声をかけた。
「すまない。少しいいか。」
「ん?あんたも見ない顔だな?その風体からすると・・・新入りの実行部か?」
「ああ。そんなところだ。」
「へえ、見ただけでわかるのか?」
「あったりめえよ。営業部と人事部って顔じゃねえもんな。ガハハハハ!」
「・・・。」
「・・・っと気を悪くしないでくれよ?ちょっとしたジョークさ。」
「大丈夫だ。分かっている。それより少し聞きたいことがある。」
「ああ、そうだったな。なんだ?」
「カマタカンパニーという会社から人員が来ているはずなんだがどこに居るか知らないか?届け物があるんだ。」
「カマタ・・・ああ、あの連中か。あの連中なら今頃酒場にいるんじゃねえか?ああ、でも女の方は酒は苦手だとか行ってたから別の場所かもしれねえ。」
「別の場所とは?」
「そこまでは知らねえよ。何だあの女に用があるのか?だったら気をつけるんだな。あの女結構じゃじゃ馬だぜ?」
「え、そうなのか?俺もここに来たばかりのときにチラッと見たけど可愛い子だったじゃねえか?」
「可愛いのは見た目だけだぜ。口を開けば“不潔”だの“蛮族共”だの“近寄るな下郎”だのってよ。一応俺らは取引先ってことなんだが何だあの態度は。」
「うへえ・・・。」
「わかった。会う時は気をつけよう。では。」
「ああ、何の用か知らんが頑張れよ!」
二人に別れを告げ、まずは酒場にいると思われる男性二人の方に“届け物”を渡しに行くとしよう。
酒場は以外に早く見つかった。滑走路でボヤ騒ぎがあった後ということもありそこまで人は居なかったが、他の人々とは違う服装の人物がバーテンダーの他に3人居た。黒い燕尾服に黒いシルクハットをした初老の男性と、濃紺スーツ姿の小柄な男性。そして茶色のスーツの小太りの男性だ。茶色スーツの男性が笑いながら話している。
「なあに、心配はありませんよ!うちの社員は優秀ですからな!ワハハハハ!」
「だといいのですがね。我々カマタカンパニーの命運も今回の輸送に掛かっていることをお忘れなきように。」
「ええ、ええ。大丈夫ですとも!我々は昔は空賊まがいのこともやってましたが、あの有名なコトブキ飛行隊と一戦交えたあとは心を入れ替えてこうして輸送護衛を請け負うようになったんですわ。ですから腕前はそんじょそこらには負けはしませんよ!それこそコトブキみたいなのが来ない限りね!」
「そうですか・・・。」
「社長。そろそろ・・・。」
「ん、ああ。もうそんな時間か。ではトリヘイ殿、私は少し用があるので電話をお借りできますかな?」
「ええ、構いませんよ。電話はそこの廊下の突き当りです。」
「ありがとう。では失礼して・・・。」
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『アレがカマタ社長。情報によれば非合法の貿易や、各都市諜報員の連絡係など手広くやってるらしいわ。』
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どうやら茶色スーツの男性がエリート興業の社長のトリヘイという男らしい。“我々カマタカンパニー”と言っていたところから見てあのシルクハットが社長のカマタ、その横の秘書と思われる男がマルミだろう。
カマタ社長のほうが席を立ち、秘書と一緒に別の出入り口から酒場を出ていった。私は別の通路から急いで回り込む。酒場は部屋の周囲を廊下で囲われており、追いつくのはそこまで難しくはなかった。私は基地の社員の一人として足早にターゲットを追いかける。
ターゲット2人は酒場の横の廊下の奥に会った公衆電話に向かっていた。私は手前の通路の曲がり角まで尾行し、角に隠れた。カマタ社長のほうが公衆電話を使用し始めた。秘書はその後ろで待っている。
公衆電話はこちらから見て奥側の廊下の袋小路の突き当りの壁に設置されているため2人共こちらを見ていない。私は静かに秘書の背後に近づき、後ろからすばやく口をふさぎつつ首の骨を折った。
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『まずは一人目。マルミを排除したわね。ターゲットはあと2人よ。気を抜かないでね。』
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瞬間的に息の根が止まって動かなくなった秘書をゆっくりと床に下ろす。そうこうしているうちに電話がつながったようだ。
「私だ。ああそうだ。商談は成立した。船を出発させろ。」
「・・・当たり前だ。予定地点で私も合流する。無論ポポルも一緒だ。」
「・・・分かっている。決してオウニ商会なんぞに介入させはしない。こちらも準備はしている。」
「大事な積み荷なのだぞ。かの御仁はイサオ氏が居なくなってから人が変わったようだからな。失敗すればこちらの首が物理的に飛びかねない。だがそれはお前も何だからな?」
「・・・ああ、またあとで連絡する。大丈夫、ポポルは今頃風呂でのんびり鼻歌でも歌ってる頃だろう。」
「・・・万が一の時はポポルだけでも任務を遂行できるようにしているから大丈夫だ。」
「疑ってるのか?あいつの腕は確かだ。どこに屠龍で紫電改を3機連続で落とせるやつが居る?」
「・・・ああ。ああ。ではな。」
電話が終わる。コード式受話器を耳から離した瞬間にその受話器を取り上げそのまま首にかけ、ターゲットの体ごと背負う。突然の出来事に何が何やら分からずジタバタするターゲットであるが、次第に抵抗が弱くなっていき、ついには動かなくなった。
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『2人目、カマタ社長を暗殺したわね。残るは資材部のポポルだけよ。手早く済ませてしまいましょう。』
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ここは廊下の袋小路であり、周囲に死体を隠せそうな場所がなかった。仕方なく、まずは死体を物色し、なにか手がかりを探した。秘書の背広の中から鍵を発見した。鍵には特徴的なキーホルダーが付けられており、この鍵の使いどころであると思われる戦闘機の絵が彫ってあった。この機影から推察するに二式複座戦闘機だろうか。
廊下の端から複数の足音が響いてきた。もはや死体を隠している暇はなさそうだ。私は一旦そのまま死体を放置してその場を離れた。
また滑走路に戻ってきた。入ってきた入り口とは別の入口であり、ここにも大量に戦闘機が並べられている。その一番奥に真っ白の二式複座戦闘機、通称“屠龍”があった。幸いにして周囲に人はおらず、機体周りは他の機体があり見通しも良くはない。
私は屠龍に近づくと主翼に登って風防を開けた。前の座席と後ろの座席の間にリモコン爆弾を仕込む。風防を閉じ、機体から離れた。
しばらくすると血相を変えた社員が数名滑走路に飛び出してきた。
「おい!客人2人が死んでる!誰かに殺されたようだ!侵入者が居るぞ!探し出せ!」
死体が発見されたようだ。残る一人のターゲットがまともな感性を持っているならば・・・。
####ターゲットが逃走を開始####
「待ってください!まだ安全が確保できていませんよ!」
「うるさい!未開の蛮族共なんて当てにできるわけ無いでしょう!」
小柄な女性が先程のエリート興業社長を怒鳴りつけながら滑走路へやってきた。案の定一人で逃げるつもりのようだ。自分の行いに疚しい事があるのであれば普通はそう考えるだろう。
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『アレが資材部のポポル。噂通りの相当な高飛車な女性のようね。癇癪を起こして周囲に当たり散らすとしっぺ返しを受けるもの。そうよね?47。』
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そのままドカドカと二式複座戦闘機に乗り込んでいった。すぐさまエンジンが始動し、周囲に居た社員を押しのけるように滑走路へ走り出してしまった。周囲の社員もすぐさま護衛するために各々自分の機体へ走っていく。社長だけは憮然としていた。
滑走路の端までターゲットの機体が進み反転、そのまま速度を上げて滑走路を走り出した。私の目の前も通過し、空に飛び上がった。車輪を格納する段階で、私はリモコンのスイッチを押した。
ドガァァァン!
上昇中の機体はコックピット部分が派手に爆発した。そのまま真っ二つになって折れ、渓谷に落下していった。
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『ポポルの排除を確認したわ。任務完了ね。迎えは居るかしら?』
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私はそれを確認し、滑走路に停めてある一式戦闘機のもとへ向かった。横では社長が唖然と空を見上げている。
「な、な、何が!?」
「社長!ポポルさんの屠龍が爆発しました!」
「わかってる!と、とりあえず消火だ!あと戦闘機を上げろ!周辺警戒だ!」
「わかりました!」
私は周辺警戒のために上がる戦闘機隊に混じって一式戦闘機で空に上がり、隙を見て渓谷に降下、そのまま谷を縫うように飛行して脱出した。
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~3時間後~
『それで。報酬の件なのだけれど。』
「ええ、わかっていますわ。こちらが報酬。1000ポンド。」
『確かに。ではもう一つの方を。』
「私が言うのも何だけれど、コレにそれほどの価値があるのかしら?」
『我々にとっては依頼料の残りの5万9千ポンドに相当する価値がある。』
「まあいいわ。こっちが基本設計。こっちが発展設計よ。」
『・・・確かに受領したわ。』
「それで次の仕事なのだけれど。」
『あら?まだ依頼があるのかしら?』
「ええ。先の我々オウニ商会を襲った空賊の黒幕。それを排除してほしいのよ。」
『具体的な人物名がないと間違う場合もあるし、依頼料も割高になるわよ?』
「それでもよ。ここらで決着を付けないとあとが大変だからね。」
『・・・それだけかしら?』
「どういうこと?」
『他にも理由があるんじゃなくて?』
「・・・。」
『話したくなければそれでもいいわ。依頼は前回と同じ経路で。』
「別に大した理由じゃないわ。ただ・・・。」
『ただ?』
「あの子達の心に傷を負わせたその黒幕に、自分でもびっくりするくらい怒ってるってことよ。」
『・・・部下思いね。』
「それはあなたもでしょう?」
『・・・。』
ミッションコンプリート
・「生命の狼煙」 +2000 『燃料タンクで火災を発生させる。』
・「エリートアサシン」 +1000 『エリート興業の社員に変装する。』
・「音信不通」 +3000 『ターゲットが電話中に暗殺する。』
・「整備不良にご注意を」 +5000 『逃走中のターゲットの乗る飛行機を爆破する。』
ゴメンなトリヘイ。この棺桶は3人用なんだ。(爆)
次回でイジツ編は一旦終了です。次回は暗殺というより1回目と同じく派手目になる予定です。