HITMAN『世界線を超えて』   作:ふもふも早苗

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今回はクロスオーバー作品は特にありません。



####注意####

残酷な描写があります。ご注意ください。


HITMAN外伝『ICAの報復』

『ヒューストンへようこそ。47。』

 

『ICA上級委員会は非公式ではあるけれどドナルド・カーキンスへの報復攻撃を採択したわ。今回はその前段階よ。通常なら当人を排除するだけなんだけど、今回の事態はNo.1も重く見ているようでね。今後同じようなことが起こらないように見せしめにしなければならないの。』

 

『今回向かってもらうのはアメリカ、ヒューストンのトリニティ湾沿岸にあるICA技術部直属の化学薬品工場よ。ここではICAが暗殺に使用する様々な薬品や、道具の製造に使う薬品などを作っているわ。いつだったかあなたに渡した、ロシアの強力な毒物も手に入れた情報を元にここで製造されたのよ。』

 

『今日、この工場は“ファミリー・デー”と称して技術者や責任者、関係者の家族が職場見学という形でやってきているの。この施設の実質的な所長であるドナルド・カーキンスの家族も例外ではないわ。』

 

『今回のターゲットはその家族。妻のミシェル・カーキンスとその娘のリアン・カーキンスよ。彼の目の前で彼の家族を暗殺することで、自分が誰を敵に回したのかを分からせるってわけ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

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ガヤガヤ

 

本来、化学薬品工場などというものは子供が出入りしてはならない場所。しかし今日はファミリーデーということで一部の職員用通路と見学用通路が開放されているため、女性や子供の姿が目立つ。彼女らは一様に普段めったに目にする機会のない化学薬品工場の重厚な配管や機械類を眺めては感嘆の声を漏らしたり、写真を撮ったりなどしている。

 

今回、施設の構内図をブリーフィングで確認したときにあることに気が付き、それを元にプランを立てた。持参したのはいつものシルバーボーラーとロックピックくらいだ。プランが思い通りに進めばシルバーボーラーでさえ要らないはずだ。

 

正面はファミリーデーのために普段は閉鎖されている門が開け放たれている。しかもかなりの数の人が居るため警備員も一人ひとりチェックはしていないようだ。一応門の向こう側、施設入口付近で持ち物チェックと身分証の提示を求めているようだ。私は家族集団の中に混じり、門を通過する。通過した直後に右に逸れ、脇道に入る。脇道はすぐに行き止まりになるが、脇には扉がいくつかある。無論全て鍵がかかっており、来場者が迷い込まないように措置がされている。

 

私は表から死角になる位置の扉をロックピックでこじ開ける。すばやく内部に侵入すると、一応中から再度鍵をかけ直す。入った施設は機械洗浄用の精製水を作る施設のようだった。ここは見学コースに含まれていないため人通りはまったくない。加えて言うなら今日は見学者が多いため基本的に工場は休業中で施設の装置は大半が動いてはいない。一応、いくつかの装置は見学用に動かす予定ではあるようだが、基本的に見学コースの強化ガラスの向こう側からな上、動かす装置も動作が大きいだけで、比較的他の装置より危険性がないものばかりだ。

 

事前情報を頼りに施設内を進み、一つの部屋にたどり着く。慎重に扉をあけて中に侵入する。部屋は20枚以上のモニタがひしめき合う警備室だった。中では2人の警備員が椅子に座ってモニタを監視している。

 

 

「まったく、よくもまあこんな工場にこれだけ人が集まるもんだ。」

「そういえばお前の家族は来てんのか?」

「うちはそういうのに全く興味が無いからな。今頃近所の連中とバーベキューでもしてるだろうさ。」

「俺もそっちが良かったなあ。こういう日は苦痛でしかねえよ。」

「そういやお前まだ独り身だっけか。」

「ああ。5年前に彼女に逃げられて以来そういう話とは無縁だ。」

「お前まだ若いんだからよ・・・ほら、アレ。」

「ん?」

 

 

左側の男が一枚のモニタを指差す。そこには一人の50代の女性と2人の若い女性が映っていた。

 

 

「ああいうのはどうだ?」

「ああ、ああいうのは好みだな。だが職員の誰かの家族なんだろ?気が引けるな。」

「そういうのを気にしてたらいつまで経っても独り身だぜ?ほら、ココはオレ一人で十分だからちょっと引っ掛けてこいよ。」

「おいおい・・・でもまあそうだよな・・・。ちょっくら頑張ってみるか!」

「その意気その意気!」

「じゃあ俺は休憩を取る。後は頼んだぜ。」

「おう。休憩と一緒に未来の嫁さんも取ってきな。」

 

 

右側に居た男が立ち上がって部屋を出ていこうとする。私はその後をこっそりと付ける。部屋からそれなりに離れたところで後ろから首を絞めて気絶させた。残念だが嫁さんは別の場所で探してくれ。

 

近くの倉庫へ引きずっていき、いつもどおり服を借りた。私は再び警備室に戻ると、モニタをあくびをしながら眺めている警備員にも後ろから首を絞めて気絶させた。こちらはそのまま放置だ。警備室内にあったレコーダーをショートさせて壊しつつ、HDDを抜いた。これでカメラは気にせず動くことができるだろう。

 

私は警備員の格好のまま施設を移動する。暫く歩くと見学者コースに出た。まだ見学は始まっておらず、コースには職員と思われる男性ばかりであった。そのうちの一人がこちらに気がついたので話しかけて情報を探っていく。

 

 

「失礼。所長にご家族の警備を頼まれたのだがそのご家族は今度にいるかわからないか?」

「おいおい、大丈夫かよ。所長の家族は特別な見学コースを通ることになってるはずだろ?」

####アプローチ発見####

「申し訳ない。そのコースのことを聞き漏らしていたようだ。どこに行けば確認できるだろうか?」

「ったく、しょうがねえなあ・・・。ほら、予定表だ。俺はもう覚えてるからお前が持ってきな。」

「ありがたい。感謝する。では。」

「失礼のないようにな。」

 

 

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『カーキンスの家族は所長の家族ともあって特別待遇のようよ。もらった予定表によると、警備員1名を随伴させるだけで、ドナルド・カーキンス本人も含めた4人で施設を回るようね。どうにかしてその警備員になりすますことができれば、素敵な工場見学に案内できるでしょうね。』

 

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私は予定表に書かれている随伴の警備員の名前はカールと言うらしい。見学はあと2時間ほどで始まるようなので、その前にカールという警備員を探し出して成り代わらなければならない。私はひとまずロッカールームへ向かった。

ロッカールームは1階にあった。入ると数人の警備員が談笑している最中だった。私は警備員たちに話しかける。

 

 

「すまない。カールという人はどなたかな?」

「ん?カールは俺だが?」

「ああ良かった。見つかった。重要な話がある。ココでは話せない内容なので私と一緒に来てくれないか。」

「何だよせっかく勝ってたってのによ・・・。」

 

 

カールは渋々立ち上がると私についてきてくれた。ロッカールームの隣にある倉庫に二人で入る。

 

 

「そこの木箱を開けてみてくれ。それに見覚えがあるだろう。」

「んあ?あの木箱か?なんだ・・・?」

 

 

カールが私に背を向けて端にある木箱に手をかけようとした瞬間に後ろから首を絞めて気絶させる。ほどなくおとなしくなったカールをそのまま空の木箱の中に押し込むと胸につけていた名札を私のと取り替えた。そのまま倉庫からでる。これでカールに成り代わることはできた。

 

まだ集合の時刻まで1時間ほどある。私はさらに下準備をするために4階へ上がる。4階には大きめの薬品貯蔵タンクがあり、その上に点検用の簡易通路がある。扉の説明文によると、この点検用通路はタンクの一番下まで降りられるよう、通路全体に昇降機能が備わっているようだ。現在はタンク内に薬品は充填されておらず、空の状態だ。タンクは1階から4階までの4階層を使っておりかなりの高さがある。通路から突き落とすだけでも死亡させられるだろうが・・・。バーンウッドは言っていた。“死だけでは足りない”と。

 

私は5階にある制御室へ向かった。工場が可動していないため制御室には鍵がかけられており、ロックピックで解錠して中にはいっても誰もいない。私は制御盤の一部を操作して薬品タンクに薬品を充填し始める。充填が1/3程度まで終わったところで注入を止める。満タンにすると見学者用通路から見られてしまう。私は壁にぶら下げられていた制御用のリモコンを発見した。“タンク点検用”と書かれているためおそらくコレが昇降装置の制御リモコンだろう。私はそれを持ち出した。

 

そろそろ時間だ。私は集合予定場所へ向かった。集合場所には何人かの重役と思わしき人物に囲まれ談笑している男が居た。

 

 

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『アレがドナルド・カーキンス。ICA上級委員会No.9。いえ、既に非公式ではあるけれど彼はもう上級委員会の役員ではなくなっているわ。その後ろで微笑ましく見守っている女性がミシェル・カーキンス。その隣の8歳位の少女がリアン・カーキンス。できることならば巻き込みたくはないけれど、報いは受けさせる。それがICAよ。』

 

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私はターゲットである彼女たちに近づき、話しかけた。

 

 

「失礼。ミシェル・カーキンス様ですか?」

「はい?そうですけど。」

「とうことはそちらがリアン様ですね。お二人にドナルド・カーキンス様より特別コースへご案内するように申し使っています、カールと言います。」

「ああ、話は聞いています。カールさん。ではもう?」

「はい。ご案内します。ドナルド・カーキンス様は現在重要な話をされているとのことで先に順路を回るようにと。」

「わかりましたわ。行きましょうリアン。」

「はい。お母様。」

#####アプローチ完了####

 

 

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『うまくターゲットと接触できたわね。さあ工場見学の始まりよ。』

 

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私は会場からターゲット二人を連れ出すことに成功した。様々な施設を順に回り、一つ一つ説明をしていく。施設内の装置についてはブリーフィングで一通り確認しているため説明も問題なく行えている。いよいよメインというところで服と一緒に拝借した無線機からコールが入った。

 

 

「カール、今どこにいる。私の家族はどこだ?!」

「所長。ミシェル様がどうしても早く見て回りたいとおっしゃられたので先に案内して差し上げています。」

「なに?・・・まあしかたないか。今日を楽しみにしていたからな・・・わかったすぐに追いつく。」

「わかりました。今エリア11の通路ですのでココで待機します。」

「エリア11だな。わかった。」

 

 

エリア11は薬品タンク内を強化ガラスの外から見ることができる見学コースの一つだ。私はドナルド・カーキンスが来る前にターゲットをお連れし無くてはならない。そのまま進み、先程の薬品タンク上部の点検用通路までやってきた。

 

 

「うわぁ・・・すごいですね。すごい高さ!・・・リアン平気?」

「平気だよ。これくらい!」

「今無線から通信が入りました。ドナルド・カーキンス様がこちらに向かわれるそうです。合流地点はこの通路の向こう側です。」

「あら、やっとなのね。じゃあ行きましょうリアン。」

「はい!」

 

 

ターゲット二人は手をつないで通路を渡っていく。私はそれを見届けると踵を返して入ってきた扉から出た。閉める直前にこちらを不思議そうに振り返っていた。扉を締めた後、私はリモコンで通路全体をゆっくりと下降させ始めた。

私は足早にエリア11へ向かった。見学通路に到着すると、既にドナルド・カーキンスがやってきていた。

 

 

「やっときた・・・ん?私の妻と子供はどうした?」

「申し訳ありません。リアン様が早く会いたいと一人で走り出してしまって、ミシェル様もそれを追ったようで、見失ってしまいました。」

「なんだと!?どういうことだ!お前は何をしているんだ!さっさと探し出せ!」

「分かっています。危険なところへは立ち入らないと思うのですが。」

 

 

話をしていると横の見学者用強化ガラスの向こう側、薬品タンク内の上から通路がゆっくり通りてくるのが横目で見えた。そこには急に動き出した通路にしがみつきながら慌てているターゲット二人が居た。

 

 

「!?!?ミシェル!?リアン!?何故そんなところに!」

 

 

強化ガラスは厚く、こちらの声は向こうには届かず、あちらもなにか叫んでいるようだが全く聞こえない。みるみるうちに通路は下へ下がっていく。そして側に居た職員の一人が叫んだ。

 

 

「な!!何故だ!なぜ薬品が!?」

「どういうことだ!」

「薬品タンクの下部に薬品がまだ残っています!」

「なんだと!?」

「あの水位だと・・・一番下まで降りれば通路は完全に薬品に浸かってしまいます!」

「な!な!なああああ!!」

 

 

先程確認したが、薬品タンクに充填されている液体は水酸化ナトリウムだったようだ。無論人が触れたりしただけでも激痛を伴って溶ける上、浸かろうものならば一瞬でゾンビのように溶け始めるだろう。このタンクはそのために特別に作られたものであり、その液体が何かを一番良く知っているのはドナルド・カーキンス本人だろう。なので錯乱したように慌てている。まあ無理もないが。

 

 

「はやく昇降機を止めろ!私の家族が居るんだぞ!」

「わかりました!」

 

 

職員が制御室に走っていく。職員が帰ってくるまで必死になって家族にガラス越しに呼びかけている。他の職員も不安そうにしている。そして職員が戻ってきた。絶望的な知らせとともに。

 

 

「所長!大変です!昇降機制御用のリモコンがどこにもありません!」

「な、なんだと!!!」

 

 

あたりまえだろう。私が持っているのだから。「なにか打つ手はないのか。」、「施設のメイン電源を止めろ」、「装置を破壊して止めろ」などと喚き散らしているが、そのたびに職員が「電源を落とせば昇降機が一気に下に落ちてしまいます」だの「破壊すれば完全に止めることはできなくなります」だの言い争っている。

 

何の対策も取れないまま、通路の下が薬品に浸かり始めた。ターゲット二人は手すりの上に登ってなんとか難を逃れようとしているが、健闘むなしく、妻のミシェル・カーキンスの足が水酸化ナトリウムに浸かり始めてしまった。傍から見ても絶叫のような悲鳴を上げていると思われる表情をしている。リアンの方も完全に大泣状態だ。ドナルド・カーキンスは完全に顔面蒼白状態でガラスに張り付いている。そしてその数分後、ミシェルの体半分のところまで浸かったところで息絶えたようで、手からリアンが離れ、水酸化ナトリウムの海に投げ出され沈んでいった。

 

 

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『ターゲット2名の死亡を確認。本当にお疲れ様。今までで一番後味が悪かったかもしれないわね。帰還して休んで頂戴。』

 

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ドナルド・カーキンスは完全に抜け殻のようになってしまっている。もしかすると座ったまま気絶しているかもしれない。私は職員が駆け寄って介抱している騒ぎに乗じて部屋を出た。

 

帰り際に所長室へ寄った。所長室は無論見学コースからは外れており、人は誰も居なかった。私は所長の机の上にこれ見よがしに昇降装置のリモコンを置いた。ついでに所長室の棚を漁ると、興味深い資料が出てきたので持ち帰ることにする。ついでにデスクに備え付けられていたパソコンのHDDも抜いて持っていく。

 

私は所長室を出て警備室へ戻った。未だに気絶している警備員の近くの私のスーツに着替えると、元来た道を通って正門から歩いて帰還した。

 

 

 

 

 

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~3日後~

 

 

『ドナルド・カーキンスが退職願を出したわ。』

「相当堪えたようだな。」

『そうね。でも上級委員会No.1はそれを保留にした。彼は辞めてすべてを終わらせようとしているみたいだけれど、そうは行かない。裏切り者の始末がまだ終わってないのだからね。』

「・・・。」

『ドナルド・カーキンスは退職願を出したその日を境に出勤していない。おそらく自宅で療養という名の防衛を固めているのでしょう。』

「防衛?」

『あなたが所長室にリモコンを残してきたことで我々が命を狙っていると気づいたようね。証拠もないから断罪できずに防衛を固めるしか無いようよ。』

「なるほど。では次の任務は・・・。」

『ええ。ドナルド・カーキンスの暗殺。今のうちから準備を始めておいて頂戴。』

「わかった。」

『ああそれと。あなたが回収した資料とHDDを解析した結果、プロヴィデンスに関することも新たな発見があったわ。』

「やはり情報が入っていたか。」

『ええ。今まで行ってきたICAの任務の一部がプロヴィデンスによって依頼されていたものだったことがわかったわ。目的はまだ調査中だけれど、こちらの解明には相当時間がかかると見ていいわ。』

「一筋縄では行かなそうだな。」

『ともかく。今回は精神的に疲れたでしょう。ゆっくり休んで。なんならフィジーの保養施設を使うかしら?』

「いや、結構。訓練施設に戻る。」

『それ休むことになるのかしら・・・。』

 

 

 

ミッションコンプリート

・「そこには誰もいない」 +1000 『監視カメラを無力化する。』

・「亡国の王女」     +2000 『ターゲットと会話する。』

・「復活などさせるものか」+3000 『ターゲット薬品に漬けて暗殺する。』

・「ICA is Watching you」 +5000 『所長室に侵入の痕跡を残す。』

 

 

 




悪事によって得たものは、悪事の報復を受ける。- ウィリアム・シェイクスピア



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