やはり俺の見る夢はまちがっている   作:拙作製造機

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感想で希望のあった後日談を二つ程書いてみようかと思います。
まずはよく覚えていないまま彼女持ちになった捻くれてないヒッキーの話。


奇妙な夢が残した結果

「では、もう夢は見なくなったのね?」

「あ、ああ……その、見なくなったというか何というか」

「どういう事なの? はっきりなさい」

 

 今、俺へやや呆れた眼差しを向けているのは、我が総武高の有名人である雪ノ下雪乃である。その、いつの間にか知り合いになり、ここ奉仕部へ出入りする事になったために出来た縁だ。

 

 ……ホント、何で俺みたいなのが彼女のような美少女と知り合いになって、しかも定期的に放課後を過ごす事になっているんだろうか? 夢というならこっちが夢だと思う。

 

「……見ない訳じゃない。だけど、何て言うんだ? ぼんやりと覚えてるような嫌な感じじゃないんだよ。あの、かおりと結婚したみたいでな? しかも妊娠してるって感じだ。これ、もう悪夢じゃなくてただの願望だろ?」

「…………そうね。だけど、未だに見ているのは事実。やはり予知夢なのかしら? 貴方、急に態度が落ち着かなくなったものね」

「それとどうして夢が関係するんだよ? あと、落ち着かんのは当然だ。お、お前が、可愛いからな」

 

 かおりという彼女はいるが、正直雪ノ下と由比ヶ浜の方が容姿は上。おかげであいつとの付き合いがあまり意味を成さない。てか、俺ってあいつとし、してるんだよなぁ。おぼろげにしか思い出せないけど、とっくに俺は魔法使いの資格を失っている訳で。

 

「……本当に変わったわ。もしかして、あの時の比企谷くんこそが夢の住人? だから妙に落ち着いていたし、未来予知のような事も言えた?」

 

 俺に聞こえない程度にぼそぼそと喋る雪ノ下。これも正直気になる。悪口言われてるんじゃないかとか。でも、彼女はそれを隠さないで面と向かって言ってくると知ってる。……それが良いのか悪いのかは分からないけど。

 

「やっはろー! あ、ヒッキーもいる」

「お、おう……」

「由比ヶ浜さん、ノックを」

「ご、ごめんねゆきのん」

 

 俺が雪ノ下の考え込む顔をそれとなく眺めていると、由比ヶ浜が明るく入ってきた。本当におかしなもんだ。クラスもバラバラで、碌な接点もないはずなのに、俺達は気付けば知り合ってこうして集まるようになっている。

 

「それで、由比ヶ浜さんは何の御用かしら?」

「えっとね、実はさ」

 

 そこから始まる女子二人のトーク。昔なら関係ないと思えたんだが、今の状況だとそうも言えない。何せ、俺の気のせいでなければこの二人は妙に好意を見せてくれている気がするからだ。

 

 例えば、雪ノ下が夢の話を詳しくしてくれと俺へ言ってきて、何故か絶対週に一度はここへ顔を出す事を義務付けられたり、由比ヶ浜からは毎日メールが送られ、返信に手間取っていると「もう寝ちゃったの?」みたいなのが顔文字付きで送られてくる。

 

 かおりへそれとなく尋ねてみたら、割と真剣な顔で「それ、ホントならひきがやの事狙ってるかも。マジな話?」と言われたので考え過ぎだと思うと言っておいた。いや、だって俺なんかへこの二人が迫る理由がない。

 かおりだって、ぼんやりと覚えてるのはあいつの彼氏を撃退したから付き合えたみたいな感じだし。何て言うか、中学の最後の辺りと高校に入ったばかりの頃は、記憶があやふやなんだよな。まるで、自分じゃない自分がいたみたいなぐらい、思い出す言動も違ってるし。

 

「親父達や小町は、受験が終わって気が抜けたんだろうって言ってたけど……」

 

 それまでは毎朝のように両親を見送り、夜も出来るだけ出迎えてた、もんな。今はそんな気は起きないしやる気もないけど。だけど、その時の親父や母ちゃんの嬉しそうな顔がやけに焼き付いてるもんだから、時々やるようにはしてる。

 

「ね、行こうよゆきのん。ヒッキーも行くよね?」

「い、いきなり何だよ。どこに行こうって言うんだ?」

「えっと、犬や猫がいっぱい集まるイベントがあってね」

「あー、あれか。あれなら俺も小町と行くぞ。毎年行ってるぐらいだし」

 

 どうやら由比ヶ浜は雪ノ下を犬猫好きのための催し物へ誘ったらしい。でも、俺を誘うのは何でだ? ほ、本気で俺を意識してんのかな? かおりが、彼女がいるのに?

 と、そこでふと思った。世の中には彼氏彼女持ちしかそういう対象にしない者達がいるらしい。もしかして、由比ヶ浜はそういうタイプ、なのか? もしそうなら俺を意識しているのは納得だが、いやいやこんな優しくてエロ可愛い子がそんなはずは……。

 

「比企谷くん、目付きがいやらしいわ。何を考えているの?」

「っ!? な、何も?」

「ヒッキー、目が思いっきり泳いでるよ……」

「由比ヶ浜さん、悪い事は言わないわ。彼と行動を共にするのは止めておきなさい。どこで何をされるか」

「ま、待て。俺だってそれぐらいの分別はある。だ、大体かおりが、彼女がいるんだからエロい事はそっちに」

「本性を現したわね。聞いた、由比ヶ浜さん。彼は貴方へいかがわしい事を考えていたようよ」

 

 こちらを見下す冷たい眼差し。言い逃れ出来ない失態。あー、死にたい。弁解しようとして自爆とか泣けてくる。もうここに来る事はないな。そう思って俺は無言で項垂れた。

 

「え、えっと、仕方ないんじゃないかな? ヒッキーは男の子だし。そ、それに、そういう風に見られないって女としてどうかとも思うし?」

「……言いたい事は分からないでもないけど」

「それにさ、ゆきのんだってそう言いながら、ヒッキーがまったく意識してなかったらヤダみたいに」

「っ!? あ、あれは違うわ。ただ、初めて会った時から二度目まで、彼が私を見る目がまったくと言っていい程周囲と違っていたから」

 

 あれ、何だこの流れ。よく分からん内に由比ヶ浜と雪ノ下が俺への感想を言い合ってる? でも、初めてと二回目って、俺の記憶があやふやな時じゃないか。たしかに、何故かあの時の俺、あいつの事をまったくと言っていい程意識してないんだよなぁ。

 正直これだけ可愛ければ一度や二度、いやかなりの頻度で変な意識しそうなのに。てか、今も若干してる。彼女がいるのにな。……もしかしたら、彼女が出来たからか? 少しでも女の事を知ってしまったから、他もと思い出してるのかもしれない。うわ、男の愚かさはこういうとこか。

 

「と、とにかくこの話は終わりよ。スケベ谷くんが同行するかしないかはさておいて、私は由比ヶ浜さんとは一緒に行動出来ないわ」

「え~?」

「わ、私は犬が苦手なの。猫は好きなのだけれど……」

「そうなのか? 何ならうちに猫がいるぞ。見に来るか?」

 

 初めて知る雪ノ下情報。猫が好きで犬が苦手か。そういえば由比ヶ浜は犬好きだ。サブレ、だっけ。あいつ、元気なんだろうか?

 

「本当? 比企谷くん、家に猫がいるのは嘘ではないでしょうね?」

「……何で嘘吐く必要が」

「私を連れ込むため」

「ゆ、ゆきのん、少しはためらおうよ……」

 

 まったくだ。でも、そう考えると、今のって男が女を連れ込む口実な気がしてきた。なので由比ヶ浜へ助けを求めるように目を向ける。彼女は一度家に来た事があるのだ。

 

「ん? あ、ホントだよゆきのん。あたし、一度ヒッキーのお家行ったけど、猫居たから。見てはないけどケージがあったし、猫のトイレもあったから」

「……どうやら本当のようね。では、早速見せてもらってもいいかしら?」

「それはいいが、突然だな?」

「時間を与えたら本当に変な事をする可能性が上がるじゃない」

「小町がいるのにか?」

「…………留守にさせるかもしれないわ」

 

 何というか、雪ノ下の警戒心は強いと言うか過剰と言うか。とにかく、ならばと彼女を連れて我が家へ行く事になった。と、その前にメールをかおりへ送る。

 

―――雪ノ下がカマクラを見たいと言うので家へ上げる。構わないよな?

 

 送信して鞄を持ったらスマホが震える。もう返信か。相変わらず早いなぁ。

 

―――別にいいけど、二人きり?

 

 絵文字なし。これは結構気にしてる。小町はいると思うが確定ではない。仕方ない。

 

「由比ヶ浜も良かったら来るか? かおりが二人きりだと不安だって」

「あー、いいけど、あたしで大丈夫? かおりん、余計不安にならない?」

 

 何故か苦笑いの由比ヶ浜。二人きりよりも安心だと思うが、何故だ? とにかく構わないと頷いて再度メールを送る。

 

―――心配ない。由比ヶ浜も来るぞ。

 

 これでよし。そう思って部室を出ると再度振動。何だろう、嫌な予感がする。

 

―――ひきがや、本気でマジウケるね。危険度上げてどーすんの?

 

 ……由比ヶ浜の言ってた意味はそういう事か。だけど……

 

「由比ヶ浜さんはどんな猫か知っているの?」

「えっと、写真で見せてもらったけど……」

 

 どう見ても楽しみで仕方ないといった感じの雪ノ下を、今更がっかりさせられない。仕方ない。多分大丈夫だと思おう。

 

―――小町もいる。それでもダメか?

―――小町ちゃんもいるならいいよ。ただし、ひきがやの部屋はダメ。リビング限定。いい?

―――分かった。サンキュな、かおり。

 

 今度こそ大丈夫だろう。嘘を吐く事になったかもしれないが、帰って小町がいればいいだけの事だし。こうして俺は自転車を押しながら雪ノ下達と共に自宅を目指す。

 途中でカマクラの事やサブレの事を話題に話しながら、気付けばいつの間にか家が見えてきていた。

 

「あ、あそこだよゆきのん」

「一軒家なのね」

「ああ。親父達が頑張って働いてくれているおかげだ」

 

 あの夢のせいか、最近本気で頭が上がらなくなりつつある。俺の学費にスマホ代、月々の小遣いや色んな物の代金。それらは全て両親の頑張りがあってこそだと、そう実感しているためだ。

 あの夢の俺は、辛い暮らしをしてた。かおりが来てくれた後は大分マシな感じだったけど、それでも厳しいのは変わらなかった。正直俺は将来働かずに済むのを願っていたけど、あの夢を見てたらそれじゃダメだと心底思った。

 

 最低でも月に二十万は稼げて、暮らしは1LDKが最低ラインだ。で、もし彼女や嫁をもらうならもっといい稼ぎを得たい。あの妊婦になったかおりの姿。女性は子を宿すと働けない。それを考えれば、俺が目指すのは親父のような道しかなかった。

 

 ……社畜にはなりたくないけど。

 

「ただいま」

「「お邪魔します」」

 

 声をかけるも返事はない。靴を見れば小町のがない。……こういう時に限ってそうなるんだなぁ。

 

「どうしたの?」

「ヒッキー?」

「……何でもない。上がってくれ。俺は着替えてくるわ」

 

 二人をリビングへ案内し、俺は自室へと向かう。鞄を投げ、制服を脱ぎ捨てて部屋着に着替える。どうしようか。小町いないって事は外出してるって事だよな。これ、帰ってくるの、日が落ちてからじゃないか?

 

「かおりには、最悪土下座だな」

 

 理由はどうあれ、嘘を吐いて他の女子を家に上げた事に変わりはない。かおりも、雪ノ下と由比ヶ浜じゃなければそこまで気にしないんだけどな。……ま、あの二人以外で俺が親しくしてる女子などいませんけどね。

 

 着替え終わってスマホ片手にリビングへ戻ると、由比ヶ浜がソファに座り、雪ノ下がそこから離れてしゃがんでいた。うん、あそこにカマクラがいるようだ。な~っと言う声が聞こえてくる。どうもかなり困っているらしい。

 

「あ、ヒッキー」

「待たせたな。その、何か飲むか?」

「いいの?」

「ああ。客人に何も出さないんじゃ小町に怒られる。麦茶で良かったよな?」

「うん、ありがとヒッキー」

 

 にっこり笑顔を向けてくる由比ヶ浜に胸がざわつく。これ、かおりいなかったら絶対惚れてる奴だ。そして、キモくなって引かれるパターン。

 そんな事を考えつつ、俺はカマクラと戯れてる(と本人は思ってるだろう)雪ノ下へ声を掛ける事にした。

 

「雪ノ下、何か飲むか?」

「……そうね。何があるのかしら?」

「麦茶、MAXコーヒー、あとはオレンジジュースか牛乳ぐらいだ」

「なら、オレンジジュースを」

「分かった。それと、カマクラを可愛がるのはいいが、やり過ぎて嫌がられるなよ? そこは人間と同じだ」

「わ、分かっているわ」

 

 嘘だ。絶対我を忘れてちょっかいを出してたはずだ。でなければ後ろで由比ヶ浜が声無く苦笑いを浮かべるものか。

 

 だけど口には出せない。出せる訳ない。だって、怖いもの。ひきを。

 

 ……ちょっとだけ某有名人を意識したけどなんだこりゃ。馬鹿らしい。しかし口に出せないのは本当だ。怖いんだよな、雪ノ下の睨み。

 

「ま、その分不意に見せる顔が可愛いんだけど……」

 

 かおりには絶対に聞かせてはいけないセリフである。本当にどうすればいいんだろうな、この環境。かおりが同じ高校なら困る事はなかったと思う。だからと言って、今から編入を考えるのも馬鹿な話だし、そもそも無理だ。

 

「今後を考えたら少しでも上の大学を出ないとな」

 

 麦茶やオレンジジュースをグラスへ注ぎながら思う。かおりといつまで付き合ってるのか、あるいは別れて違う相手を持てるのか。それともあの夢の通り結婚までするのかもしれないが、どうなるにせよ、俺はあの夢のままにはならないつもりだ。

 

「……金があれば幸せとは言えないが、ないと不幸なのはあの夢が嫌って程教えてくれたしな」

 

 そう自分へ言い聞かせるように呟いて、俺はグラスを両手にしてソファへ向かう。既に雪ノ下はカマクラを膝に乗せており、由比ヶ浜は若干苦手そうな顔をしながらも、少しだけ手を出している。……そういや、何で由比ヶ浜は猫が苦手なんだろうか。それを話題にしてみるか? そう思いながら俺は彼女達へグラスを差し出すのだった……。

 

 

 

 不安だ。何もテストとか勉強がじゃない。……そっちもある意味不安ではあるけど、今のあたしにとっての不安は彼氏の事だ。

 

「ひきがや、浮気はしないって言ってたけど、やっぱ近くにいる可愛い子っていうのは厄介だよね」

 

 結衣ちゃんは優しくてイイ子だし、雪ノ下さんは綺麗で清楚。どっちもあたしとはタイプ違うのもヤバイ。特に結衣ちゃんだ。あの子、間違いなくひきがやの事、いいなって思ってる。

 

「ひきがやの良さって、付き合ってみないと分かんない。だから、結衣ちゃんはそれを分かってきてるんじゃないかな?」

 

 何でかちょっと前までキョドったりしてたけど、今はそれも落ち着いたみたいで、大分あたしと付き合い出した頃に近くなった。でも、どこか違う。前の、あたしが意識し出した事のひきがやとは。

 

「……大人の余裕、無くなっちゃったし……」

 

 中学時代のひきがやはどっか大人っぽかった。あたしの事をエロい目で見なかったし、色んな事知ってた。ま、あたしの知らない色んな事知ってるのは今でもだけど。

 ただ、包み込んでくれる感じはなくなった。でも、そんなひきがやはひきがやで何か可愛いってカンジがする。

 

「何て言うんだっけ。ボセー本能だっけ? それをくすぐられるんだよね~」

 

 海浜には、同中の子も結構いて、あの頃のひきがやを覚えてる子も多い。その子達にひきがやの事を話すと、結構がっかりしてる子多かった。みんな、ひきがやの大人っぽいとこ好きだったみたい。

 これ、言わないでおこうと思った。だって、今のひきがやだと変に意識して余計変なカンジになるのが分かるから。

 

「……はぁ、やっぱカラオケ断れば良かった」

 

 今、あたしはカラオケのトイレの中。高校の付き合いは一生モノだってお母さんに言われて、なら頑張って大事にしよって思ったらこれ。あたしが彼氏持ちなの知ってるのに、明らかに男女で三対三の集まり。これ、そういうのが狙いだよね。

 

「バックれよっかな?」

 

 男子の一人なんか、明らかにあたしへエロい目向けてきてた。彼氏持ちって知って、そういう事経験済みだって踏んでるからかな? まぁ、アタリなんだけどさ。でも、絶対ヤダ。彼氏でもない男とそんなの出来ないししたくない。あたし、安い女になりたくないもん。

 

 あのぼんやりとした変な夢。ひきがやと結婚して、赤ちゃんまで出来てた夢だと、あたしは……男とエッチな事してお金稼いでた。そんなの絶対嫌だから、彼氏か旦那以外とは絶対キスだってするもんか。

 

「……うん、やっぱバックれよ」

 

 このままだとどうなるか分からない。そう思って、あたしは決断した。そうと決まれば一緒に来た女の子の方へメールを送り、鞄を片手に店を出る事に。そのまま目指すはひきがやの家。っと、そうだ。小町ちゃんへメール送ろ。今ひきがや達どんなカンジって。

 

 すると少しして返信あり。だけど、そこであたしは目を疑った。

 

―――今日小町は友達の家で宿題やって遊んでるんですけど?

―――そっか。ごめんね。あたし、勘違いしてたみたい(*^.^*)エヘッ

 

 ……これはどーゆー事かな? ひきがや、話によったら許さないから!

 

 

 

「そっか。昔のトラウマか」

「うん……」

「では、アレルギーとかではないのね?」

「それはないよ。てか、それだったらそもそも来ないし」

 

 あれから大体二十分程経過した。カマクラは雪ノ下から解放され、どこか疲れたように眠っている。それを三人で眺めながら話題は由比ヶ浜の猫話。どうも昔住んでいた団地で飼っていた事があるらしく、それがあまり楽しくない結末を迎えたため、苦手となったようだ。

 

 こうなると雪ノ下の犬が苦手なのはどういう理由なんだろうか。

 

「何?」

「あ、いや、雪ノ下の犬が苦手なのは一体どういう理由なんだろうとな」

「……そうね。由比ヶ浜さんの話を聞かせてもらったし、私だけ黙っているのもね」

「え? 別に気にしてないよ」

「私が気にするのよ。えっと、あれは」

 

 雪ノ下が話しだそうとしたその時だった。来客を告げる音が響いたのは。俺達の視線が同じ方向を向く。

 

「ヒッキー、お客さんみたいだよ」

「そうだな。一体誰だ?」

「妹さんじゃないの?」

「いや、それなら鍵を持ってるから勝手に開けて入ってくるはずだが?」

 

 言いながら玄関へと向かう。そして鍵を開けてドアノブへ手をかけた瞬間、それが開いた。

 

「来ちゃった」

「……か、かおり」

 

 満面の笑みでこちらへ微笑みかけるかおりだが、その雰囲気がおかしい事ぐらい俺でも気付く。何というか、全身から怒気が漂っているのだ。それに俺が気圧されていると、かおりの目が素早く玄関へと動いた。

 

「ね、ひきがや? それって、結衣ちゃん達の?」

「え? あ、うん」

「そっかぁ。ねぇ、ひきがや? どーして嘘吐いてまで二人を家に入れたの?」

 

 間違いなく、俺の心臓が止まった。いや、正確には時間が止まった。かおりはずっと笑顔のままだ。だけど、声は言っている。隠し事するな。言い訳せずに真実を話せ、と。

 

「そ、それはだな?」

「うん」

「ゆ、雪ノ下が猫が好きで……」

「うん、聞いた」

「もう、あの時にはっ、見たくて仕方ないって感じだったんだ」

「そっか。で?」

「そ、それを今更ダメだって言うのも気が引けて……」

「そっかそっか。それで?」

「……ごめんなさい嘘吐いて誤魔化しましたっ!」

 

 全力で頭を下げる。そのままかおりが許してくれるまで上げるつもりはない。そうやってしばらく沈黙が流れる。すると、ポツリとかおりが呟いたのだ。

 

「二人はリビング?」

「ああ。その、本当に目的はカマクラなんだ」

「……あたしも上がっていい?」

「大丈夫だ。むしろかおりを拒む理由はない」

「…………そういうとこは変わらないんだ」

「は?」

 

 小さな声で呟かれた言葉に思わず顔を上げる。しかし、そこには既にかおりの姿はなく、もう靴を脱いでリビングへと向かおうとしていた。俺はその背中を慌てて追いかけようとして、ドアを閉めてない事に気付いて急いで閉める。鍵も閉めてリビングへ入ると、そこでは何とも言えない気まずい空気が漂っていたのだ。

 

「はじめまして。あたし、折本かおりって言います」

「はじめまして。私は雪ノ下雪乃よ。貴方の事は、比企谷くんや由比ヶ浜さんから聞いているわ」

 

 何故かバチバチと火花を散らしているようなかおりと雪ノ下。ふと見れば由比ヶ浜がそんな二人を見て苦い顔をしている。

 

「由比ヶ浜、一体何があった?」

「え、えっとね? かおりんが入ってくるなり、ゆきのんへ泥棒猫って」

「……はい?」

「だから、かおりんがゆきのんを泥棒猫って」

「ああ、いや、そこじゃないんだ。何で雪ノ下に?」

「多分だけど、ゆきのんがヒッキーの家に来る切っ掛けになったからじゃない? で、目的の猫はもういなくて寝ちゃってるし、ならどうしてまだいるのって事?」

「……マジかよ」

 

 言いがかりにも程がある。そう思うけど、それがかおりの俺への気持ちとすれば嬉しくない訳ではない。だが、このままではいかん。一触即発の雰囲気など耐えられん。なので意を決して死ぬ覚悟を決めて二人の間へ割って入る事にした。

 

「そこまでだ。えっと、今回の事は俺が悪い」

「比企谷くん、どいて頂戴。それと彼女の発言は別問題よ」

「そうだよひきがや。カー君が目的ならもうじゅーぶんじゃん。それなのにここにいるって言うのは、別の目的があるって思われても仕方ないよ」

「あら、私が彼に懸想してるとでも?」

「けそー? よく分からないけど、好きでもない男子の家なんて入らないでしょ」

「……目的は猫だったわ」

「だから、ならどーしてまだいるの? 彼女持ちの男子の家にフリーの女とか問題にしかならないから」

 

 だ、誰か助けてっ! 修羅場が我が家で展開されていますっ! かおりが雪ノ下へケンカ腰だし、雪ノ下は雪ノ下でかおりへ睨みを利かせているし、どういう事なんだ、これは!?

 

「かおりんもゆきのんもストップ! かおりん、本当に今日来たのはカマクラが目的だったんだよ。だけど、それが済んだらはいさよならって言える程ゆきのん酷い子じゃないもん。少しはお喋りしてもいいじゃん。かおりん、心配なの分かるけど、あまりそくばくするとヒッキーも嫌になっちゃうよ?」

 

 思わぬところで助け舟。こういう時の由比ヶ浜は本気で助かる。さり気無く俺の事も気遣ってくれる辺り、本当に出来る女だよ。こいつを彼女に出来る奴は幸せ者だろう。ただし、どうやらメシマズっ娘のようだが。

 

 かおりも雪ノ下も由比ヶ浜の仲裁で少し落ち着いたのか、その雰囲気が和らいでいた。これ、本当に俺が原因で悪いんだよなぁ。そもそも俺が雪ノ下に今日は無理だと言えば良かった訳だし、連れてくるにしても誤魔化さずにかおりへ事実を伝えればまた違った結末だったはずだ。

 

「その、本当にすまん。俺がちゃんと言うべき事を言えなかったからだ。雪ノ下へ、かおりが不安がってるからまたの機会にと言えば良かったし、連れてくるなら連れてくるでかおりへ本当の事を言っておけば良かったんだから」

「……そういう意味で言えば、私に貴方は気を遣ったのでしょ? その、あまりにも楽しみにしていたから」

「ひきがやってそういうとこ弱いんだよね。あと、あたしもごめん。さすがにいきなり初対面の人に言い過ぎた」

「いいのよ。その、私も少し配慮が足りなかったわ」

「じゃ、これで仲直りだね。そうだ! ついでにかおりんとゆきのんも連絡先交換しようよ」

 

 本当にいいタイミングで話へ入る由比ヶ浜。こうしてかおりと雪ノ下も連絡先を交換し、晴れて友人となった。どうもいきなり自分へ泥棒猫と言えたかおりの性格が雪ノ下的には気に入ったらしく、かおりもかおりでそんな事を言われたのにちゃんと謝り許してくれた彼女を気に入ったらしい。

 

「で、何でこうなるんだ?」

「雪乃ちゃん、料理上手いね。あたしも練習してるけどそこまでは無理だなぁ」

「そんな事ないわ。折本さんも中々上手よ。由比ヶ浜さん、それはしまって」

「え? ダメ? 美味しいと思うんだけど」

「あははっ、結衣ちゃん、マジウケるねその意見。おみそ汁には下手な物入れない方がいいって」

 

 絶賛我が家のキッチンに三人の女子高生がいて、何と夕食を作ってくれています。ただ、一名は手伝いではなく妨害に見えるけれど。どうも小町がかおりからのメールで状況を察したらしく、俺へメールを送ってきたのだ。

 

―――おにーちゃん、どういう事かな?

 

 で、事情を説明した後、こんなメールが届いた。

 

―――小町、今日ご飯作る気なくなったから。何か食べたいのなら自分でやるか、かおりお義姉ちゃんに作ってもらって。

 

 そして、それを見せるとならばと雪ノ下も参加を申し出たのだ。自分にも少しは責任があると。そうなれば由比ヶ浜も手伝うと言い出すのは当然の流れ。こうして現状へ至る。

 

 俺も手伝うと言ったのだが、かおりにいいから任せてと言われ、雪ノ下に手は足りていると突き放され、由比ヶ浜には大人しく待っててと断られてしまった。

 

「……何て言うか、もしかしたら今日が俺の人生最高の日かもしれん」

 

 目の前で繰り広げられる光景。女子高生三人が、我が家で俺のために飯を作ってくれている。うん、これで俺の人生の全体運のほとんど使ってる気がしてきた。

 そんな事を考えながら俺は次第に漂ってくる匂いに腹を鳴らす事しか出来ない。それと、もし次回があるのなら、俺は由比ヶ浜を抑えよう。そう心に誓って俺は三人の作業風景を見つめるのだった……。




四人それぞれにぼんやりと残っている別の自分の記憶や思い出。ですが、当然です。だって体と時間軸は彼らのものだったのですから。
彼女持ち故に揺れ動くヒッキーですが、原作と違って捻くれてない彼では二年生からが大変です。……まぁ、それでも何とかなるのが世の中ですが(汗

これが少しでも皆様に楽しんでいただければ幸いです。
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