カルデア小話~アーチャーの場合 その1~
「────アーチャー!」
朝焼けの光が辺りを照らし始めた頃。ふと、そんな声を耳にした。
その声の主など判りきっていた。聞き間違える筈もない、あの凜とした声を。
彼女は私の憧れであり、
初恋であり、
師であり、
そしてマスターであったのだから。
「残念だったな。
そういうわけだ。今回の聖杯は諦めろ、凛。
君の姿があまりにもアレなものでね。お互いよくぞここまでぼろぼろに慣れたものだと呆れたのだ。」
───なんと声を掛ければ良いのか戸惑ったものの、何とかいつも通りの皮肉を口にする。
「ねぇ、アーチャー…………」
────彼女の言いたいことはわかっていた。しかし、それは出来ないことだと、私は同時に理解していた。
「アーチャー、もう一度私と契約して。」
「それは出来ない。私にその権利はないだろう。
それにもう目的がない。私の戦いはここで終わりだ…」
彼女と共に在ることは出来ない。己に敗北した以上、私の最後の悪足掻きも終わった。であれば、此処に居座る必要もないというもの。それに、それはきっと、私の役目ではないから。
「けど、けどそれじゃあんたはいつまで経っても救われ…」
そう言って俯く凜。
────参ったな……そんな悲しい顔をしないでほしい。凜に似合うのはそんな顔ではなく、誰よりも眩しい笑顔なのだから。
彼女の────実に彼女らしいその名を呼ぶ。
「────凜」
………だから、私はこんな言葉を送る。彼女からすれば、卑怯な言葉かもしれないが。
「私を頼む。知っての通り頼りない奴だからな。君が支えてやってくれ。」
息をのむ音。そして束の間の静寂の後、彼女の見せるその顔は───精一杯の笑顔だった。
「────うん、解ってる。私頑張るから!あんたみたいにひねくれた奴にならないように頑張るから…!
きっとアイツが自分が好きになれるように頑張るから! 」
────あぁ、彼女のことだ、大丈夫だろう。
すると凜は何かを思い出したかのように懐を探り、そして何かを私に向かって投げつけた。
「────凜、これは…」
アーチャーの手に握られているのは眩しいほどに赤い宝石。かつて私の命を救い、無限にも思える時の果てにようやく本来の主のもとへと戻った筈のペンダントであった。
「────これ、あんたがずっと肌身離さず持ってたんでしょ。もう魔力もほとんど無いし、仕方ないからあげるわ」
「しかし、これは本来凜のものだ。私はそれを返したまでのこと。それに、これは君にしか似合わない」
すると、何故か凜は顔を赤らめて言う
「いいから!!………それが、どんなに離れていても私とアーチャーを繋いでくれる。だから、いつかまた会えたらその時に改めて返しなさい!絶対だからね!」
「………はぁ、全く君は…」
────相変わらず無茶を言うものだ。聖杯戦争はもう終わったというのに。
しかし、それは実に彼女らしい命令だった。
「承った。マスターの命だ。必ずや君に返そう」
そう言って凜の力強く美しい蒼い瞳をまっすぐに見詰める。その言葉を聞いて凜はうなずくと、
「ええ。だから、あんたも………」
────自分を許してあげなさい
そんな魔術師でありながらも、最後まで優しい彼女の在りかたに、つい笑みがこぼれる。
そして、私は最後に精一杯の笑顔でこう伝えた
「────答えは得た。
大丈夫だよ、遠坂。俺も、これから頑張っていくから」
#
───無数の剣が墓標のように連なる丘。
無機質な────それでも確かな色を得た空とこの世界を縛り付ける歯車の下、一人の男がいた。
其処は「座」と呼ばれる場所。時間という枠から外れ、エミヤという存在を記録し続ける場所である。
英霊という存在は召喚され、その役目を終えると座に帰る。そして、召喚された記憶はいつしか記録に成り下がる。
しかし、この男には無限に等しい時の中で記憶が摩耗していこうとも決して忘れ去ることの出来ない、鮮明に輝く記憶があった。
「────凜」
その名を呼ぶだけで、そのペンダントを見つめるだけで、世界に色が戻ったようなそんな錯覚を感じる。
あの場所で得た答えと、最後に告げられた命令は今も色褪せることなく胸に焼き付いている。
────しかし、我ながら面倒な命令を受けたものだ。彼女と再会した時に、彼女が安心できるように努力しなくてはならないのだから。
だが、地道な努力というのはエミヤシロウの得意分野だ。何せ才能が無かろうと己の道を極め、他の英霊とすら渡り合う力を手に入れたのだから。
などと考えていると、少しの浮遊感。そして何処からか自分を喚ぶ声が聴こえた。
────さて、行くか。
こうして正義の味方は戦いの地へ赴く。
────それは、人類を救う戦い。
消え行く世界と、それに抗う人々の物語
#
「────マシュ、聖晶石は?」
「準備、出来てます!魔力リソース充填完了。霊基召喚、いつでも可能です」
「オッケー!じゃあ、始めよっか!」
とある場所にあるとある施設のとある部屋に、少年少女はいた。
彼らがこれから行うのは英霊召喚。有り得ざる奇蹟を人為的に成し遂げる神秘の儀式である。
部屋中を照らす眩い光。そしてその光が収まった時、彼らの目の前には一人の男が立っていた。赤い外套を纏い、肌の色は褐色。髪はくすんだ灰色の筋肉質な男性。
そして男は辺りを見回し、黒髪の少年に向かって口を開く。
「────サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した」
#
「────サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した」
そう、目の前に立っている
すると、マスターは笑顔で私に語りかける。
「俺は藤丸立香。よろしくなアーチャー。あ、でも待って。此処ではクラス呼びはややこしいから、真名を教えてくれないか?」
「む、そうだったか。すまない、失念していた。私の真名は…エミヤ。よろしく頼む、立香」
「あぁ、改めてよろしくなエミヤ」
そう言って握手を交わす。そして立香は隣の少女へ視線を向けて
「それで、こっちにいるのがマシュ。俺の相棒だ」
「マシュ・キリエライトです。よろしくお願いします、エミヤさん」
そう私に言ったのは薄いピンクの髪で片目の隠れたあどけなさの残る少女。彼女の気配は…
「ああ、よろしく頼む。君は…」
「はい。私はデミ・サーヴァントです」
やはりそうか。この二人、記憶にはないが記録として覚えている。最も、その時の私はサーヴァントとは言い難い曖昧な存在──シャドウサーヴァントであったためその記録も朧気で正直彼らのような者と戦った気がする程度の認識だ。むしろ記録というよりは夢に近い感覚だ。
しかし………そうなると余り得心がいかない。私と彼らが出会ったのはあの場所のみ。しかもサーヴァントとしてではなく、その影───シャドウサーヴァントとしてだ。私の記録が朧気なことからもその縁の薄さは明白だ。召喚されるならば彼らともっと確固たる縁を結んでいる他のサーヴァントで然るべきなのではないだろうか。
「ふむ、立香」
「ん?これからカルデアを案内するけど…どうしたの?」
「君に一つ、訊きたいことがある。なに、そう時間はかからない」
「あぁ、いいよ。で、質問って?」
「…君の目の前で、二艘の船が沈没しようとしているとする。片方には大勢の人々、君は顔も知らない人々が乗っている。もう片方には、君の大切な人───家族でも恋人でも親友でも構わない。そんな人を含めて精々が数人しか乗っていない船だ。君は片方は救えるが、片方は救えない。どちらを選ぶ?」
「あー、それ良く聞くやつだね。うーん、出来れば沢山の人を救いたいけど───うん。やっぱり大切な人を優先するかな。あ、でも確かに俺だけじゃ片方しか救えないけど、みんなの助けを借りれば両方救えるかもしれない。俺って欲張りだからさ。出来れば両方助けたいなって、出来ればだけど」
「────そうか」
「でもなんでそんな質問を?」
「いや、ただの興味だよ。気にしないでくれ」
サーヴァントは基本的に触媒によって召喚される。触媒が無い場合はマスターと相性の良いサーヴァント、もしくはマスター自身を触媒とし、マスターに縁のあるサーヴァントが召喚される。私の場合マスターとの縁も薄く、マスターと性質が似ているとは思えない。
まだ召喚されて間もないため確かなことは言えないが、今の答えで十分だ。間違っても私のような生き方はしないだろう。
しかし、そうなると後は触媒なのだが…
ふと立香に目をやると、彼は何かを握っていた。その鮮烈な赤、それは────
「立香、それは…………」
「あぁこれ?これはこの前霊基召喚した時に出てきた概念礼装なんだけどさ。凄く綺麗な赤い宝石だから気に入ってずっと持ってるんだ」
「────そうか、そういうことか」
「どうしたの?」
「いや、何でもない。では行くとするか」
───そう告げた彼の表情は、背を向けていて見えなかったが、
何故だか微笑んでいた気がした。
【挿絵表示】
小説は大体絵から始まる人なのでよく挿絵があるのはご了承下さい。
ちなみにこの話はアーチャーを召喚するちょっと前に凜のペンダントを引いていたといううちのカルデアの実話から。ペンダントが喚んだ気がしたので
作者はもちろん弓凜好きです
こんな感じでちょいちょい書いていきます。