真剣で京に恋しなさい!   作:やさぐれパパ

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第九話 「日頃の行いがわるいんじゃないか?」

 

 

 

「しっかし今朝も来たのにまた来ることになるとはねぇ」

 

 

ロックな帽子にサングラス、赤い長髪にジャラジャラと付けたピアスと指輪、腕には蛇の刺青を入れた男がラグナマークタワーを見上げてぼやく。

 

 

「…嬉しそうに言っても愚痴にならないよ?」

 

 

お揃いの帽子を目深にかぶって、お揃いの赤い長髪にこちらもピアスと指輪をジャラジャラと付け、腕に蝶の刺青を入れた女が呆れたように呟く。

二条武と椎名京である。

今の二人を見ても、風間ファミリーの人間ですら武と京であることを見抜けないほど、二人の変装は完璧であった。

 

 

「この変装セットが役に立つ日が来るとは…嬉しいやら悲しいやら」

 

 

その昔、京が大和を尾行するために武と買いに行った変装セット。

なんだかんだで使用する事は無かったが、ついに陽の目を見る時がきた。

 

 

「ところで京、モモ先輩が相手だとこの格好をしていても気でバレないか?」

 

「…近づき過ぎなければ大丈夫。モモ先輩は大和と楽しんでいるはずだから、警戒も薄いはずそれに」

 

「匂いも変えているからって?お前この匂い嫌いだろ?」

 

「…相変わらずワン子より鼻が利くね」

 

「愛する京の変化に俺が気づかないわけないだろ?付き合ってくれ」

 

「…そう言うのは良いから行くよお友達で」

 

「はいよ、まずは中華街か?」

 

「…うん」

 

 

二人は京が写した大和の計画書通りに行動を開始する。

結構目立つ格好をしている二人だが、中華街の方へ行くと街柄なのか特に注目されることもなく、むしろ似たような格好をしたカップルが移動中ちらほら確認出来たことに、武は内心安堵した。

 

 

「えっと店は、地図によるとこの道…いや、もう一本向こうかな?…うをっ?」

 

 

急に京が武を抱き寄せた。

壁に押し付けて両手を首に回し、吐息のかかる距離で武を見上げる。

嘗てここまで顔と顔が近付いた事はなく、一瞬で武の時間は止まった。

そのすぐ背後を

 

 

「このフカヒレまん美味いな。だが、シンプルな肉まんの方が私は好きかもしれない」

 

「姉さん、メインのお店にまだ着いてないんだから、それ一つにしておいてよ」

 

「安心しろ、奢りの時の私のお腹は無限だ」

 

「まったく…」

 

 

百代と大和が楽しそうに通り過ぎ、一本裏の路地へと入っていく。

 

 

「…危なかった……武?」

 

 

二人が行ったのを横目で確認してから腕を離すと、武はズルズルとそのまま座り込む。

 

 

「…おーい」

 

 

呼び掛けに反応しない武の口許に手を当てると、その呼吸は止まっていた。

呆れた顔をして京は、武の耳に優しくふぅっと息を吹き掛ける。

 

 

「ぶはぁっ!?違うんです違うんです!決して閻魔様に嘘をつこうとは!…あれ?ここ何処?」

 

「…目、覚めた?」

 

「俺は、いったい…突然目の前が幸せ一杯になったかと思ったら意識が…って!?京おまっ!!」

 

「真後ろを大和とモモ先輩が通って危なかったから」

 

「危なかったのは俺の命の方だ!!」

 

思い出したのか武の顔は真赤に染まっている。

その武の表情が、今している格好とあまりにも不釣合いで京は思わずふきだす。

 

 

「…どんな格好をしていても武は武だね」

 

「んだよそれ」

 

 

その京の顔が可愛過ぎて、照れた顔を隠すように帽子を目深に被り直して立ち上がる。

 

 

「ったく心臓に悪すぎだ…ただ、真後ろ通られてもばれなかったって言うのは収穫だな」

 

「そだね、これで心置きなく尾行が続けられる」

 

「それじゃあ気を取り直していきますか」

 

「うん、大和達はそこの路地を入っていった」

 

「OK」

 

 

武と京が路地裏に入ると、小さな中華料理店が一軒あった。

出入りしている客層は日本人は少なくほぼ地元の人達。

 

 

「まいったな…これだけ小さい店であの客層だと、いくらばれてないとは言え入るのは危険だな」

 

「むぅ…しょうがないから待機する」

 

「んじゃ俺なんか買ってくるよ、小腹減ったろ?」

 

「うん…あ、お金」

 

「おいおい、初デートは男が出すもんだろ?」

 

「はいお金」

 

 

京の殺気の篭った会心笑み。

 

 

「嘘ですデートじゃないです普通に奢ります」

 

「…しょうもない」

 

 

武が泣きながら走っていくのを見送って、京は外から店内をそっと覗いてみると、大和と百代の姿が見える。

何を話しているかは分からないけど、楽しそうに食事をする百代を見て笑っている大和。

京は思う。何故あそこに座っているのは自分ではないのかと。

何故、あの笑顔を向けられるているのは椎名京では無く川神百代なのだろうと。

ただ、そう思う心にまた微かな違和感を覚える。

不意に想像する食事風景、京の前に座っているのは…。

 

 

「お待たせ…京?」

 

 

武の声に京の反応は無い。

ボーッと店内を見つめているが、心此処に在らずと言った感じでいる京に、悪戯を思い付いた子供の様な顔をして、武は京の耳に優しくふぅっと息を吹き掛ける。

 

 

「くぅうふんっ」

 

 

武には予想外な京のエッチな声に、顔が一瞬で真っ赤になるが、振り返った京の表情に赤くなった顔は一瞬のうちに真っ青になる。

武は思う。ああ、鬼神ってこんな感じなのだろうと。

 

 

「いや、これは、その、なんと言うか軽い冗談と言いますか……あ、あの、京さん?」

 

「……」

 

 

無言で路地裏の細い道に武を引きずり込んだ京が囁く。

 

 

「…お前、死ねよ」

 

「ひいいぃぃっ!?」

 

 

数分後、武が買ってきた肉まんを不機嫌そうに頬張りながら、大和達がいる店を張り込む京の後ろに、先程まで武であったであろう残骸が転がっていた。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

「…出てきたよ」

 

「ああ、計画書によれば次は港が丘公園だな」

 

「いくよ」

 

 

京は武と腕を組む。

 

 

「ちょっ!?み、みみみみ」

 

「…真面目にやれよ」

 

「ハイ…」

 

 

武は凄む京に萎縮して、引っ張られるがままに大和達の尾行を再開する。

中華街のメイン通りに戻った大和達は、占い師の前で足を止めた。

 

 

「モモ先輩占いとか意外と好きだからなぁ」

 

「大和も占ってもらってるね…楽しそうに笑ってる」

 

「いててててっ!爪が腕にくいこんでる!落ち着け京っ!」

 

「…はっ!?…つい力が入ってしまった」

 

「バレずに尾行出来るかより、五体満足で帰れるかの方が心配になってきた」

 

「…嬉しそうに言っても愚痴にはならないと」

 

「この状況で喜ぶなって方が無理だろ!」

 

「はいはい行くよ」

 

 

占いを終えた大和達の後を追う武と京が、占い師の前を通り掛かったときに、急にその占い師に声を掛けられた。

 

 

「ちょっとそこの二人待ちなさい」

 

「…急いでるのでまた今度」

 

「だ、そうです」

 

 

しかし、尾行中の大和達を見失うわけにはいかない京と武は、それだけ言ってその場を後にする。

その後ろ姿を見送りながら占い師は呟く。

 

 

「可哀想に…いや、それもあの子にとっては幸せなのか…」

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

「あいつ、日頃の行いが悪いんじゃないか?」

 

「…私とデートしてない時点で悪い」

 

「んじゃ、これは京の涙だな」

 

 

港が丘公園のついて暫くして雨が降り始めた。

用意周到な武は、しっかり折り畳み傘を二本用意していたが、一本にしておけば良かったと、コンビニで買った傘で相合い傘をしている大和と百代を見て思う。

 

 

「…一本にしておけば良かったって思ってる?」

 

「エスパーか」

 

「顔に書いてあるよ…今日は、もう帰るみたいだね」

 

「まぁ雨で景色が売りの船に乗ってもしょうがないしな」

 

 

駅に向かう大和達の背中を見送る。

 

 

「で?満足したかいお嬢さん?」

 

「……」

 

 

京は黙ってしまう。

大和と百代が気になって尾行したのは良いが、得るものなんて何も無く、むしろ、二人の仲が進展しているのを見せつけられたようで少しへこんでいた。

それに付き合わせた武にも罪悪感が沸いてきて、何だか自分が凄く嫌な女に思えてくる。

 

 

「…ごめんね」

 

「ばーか」

 

 

そんな事を考えているのを見透かすように、武は笑っていた。

 

 

「俺はお前と二人でこうして出掛けられて幸せ一杯だっての」

 

「でも…」

 

 

急にしおらしくなる京に、武は帽子を脱いでだーっと頭を乱暴に掻きながら声をあげる。

 

 

「じゃあ今から一ヶ所だけ俺に付き合え!それで今日の事はチャラだ!!」

 

「?何処に…」

 

「良いからついてこい!」

 

 

珍しく強引に言う武に気圧された京は黙ってついて行く。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

「で、これが武の来たかった場所なの?」

 

「お、おうよ」

 

 

武は観覧車の中で小さくなりながら、引きつった満面の笑顔という不思議な顔で答える。

 

 

「高所恐怖症なのに観覧車に乗りたいとか、武はMなの?」

 

「す、好きな人と一緒に観覧車に乗るって言うのが男にとってどれ程の夢かわかるまい!!付き合ってくれ」

 

「…わかりませんお友達で」

 

 

外は雨が打ち付けて、良い景色の欠片もない。

でも、そんな観覧車も何故か悪くないと思える。

 

 

「もうすぐ頂上だね」

 

「ひぃっ」

 

「…う~ん」

 

 

京はなにかを考えるように唸ってから、頭を抱えたまま下を向いている武の横に移動する。

急に視界に入ってきた、京のシミ一つ無い綺麗な太ももに武の視線は釘付けになる。

 

 

「み、みやこ?」

 

「はいはい私の太ももをそんなに凝視しないの…揺らしちゃうよ?」

 

「ごめんなさいごめんなさい!!」

 

「まったく………武、ありがとうね」

 

「な、なんだか最近、京に礼を言われてばかりだな」

 

「そうだっけ?」

 

「これはもう京は俺にぞっこんと言う解釈で良いのかな?」

 

 

京は無言で観覧車を揺らす。

 

 

「ひぃいっ!?調子乗ってましたすいませんすいません!」

 

「くくく…良い怯え方だ。そのまま震える小動物の様に縮こまっているが良い」

 

 

京が楽しそうに笑う。

それだけで武は本当に幸せだった。

乗り終えた二人も帰路につく。

変装していることを忘れて島津寮に帰った二人が、大和と玄関で鉢合わせして、二度とその変装セットが使えなくなったというオチつきで。

 

 




もっと長くなるかと思ったら、意外と短くなりました。
ゲームやり直してみても、意外とあっさり終わっていたのでまぁこんなもんで勘弁してください。
これを書いている時に、奥さんに行間があきすぎて読み辛いとダメ出しされました。
携帯で書いているので、自分としては行間開けた方が書くのも読むのも見やすくて良いんですけど、見辛い人には見辛いのか…。
まぁ一応このスタイルで継続します。

ではまた次回で。


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