襖越しに射し込む光が朝を告げていた。
意識が覚醒し始めた大和は、自分以外の二つの温もりを感じる。
ひとつは柔らかい感触。
「・・・おはよう大和、寝起きの顔も素敵 付き合って」
椎名京はその豊満な水蜜桃を大和に押し当てて微笑む。
「おはよう京、お友達で」
ひとつは硬い感触。
「おはよう京、大和の寝起きの顔にみとれる顔も素敵だ。付き合ってくれ」
二条武はその鍛えられた胸板を大和に押し当てて京に微笑む。
「おはよう武、お友達で」
椎名京は直江大和に惚れている。
幼少の頃に親が原因で苛められていた京を、大和の呼び掛けで風間ファミリーが助けたのがきっかけだった。
京への苛めを黙認していた大和は、その罪悪感から事あるごとに京の面倒を甲斐々しくみていた。
結果、今の大和100%ラブの京が形成される事となる。
二条武は椎名京に惚れている。
幼少の頃に親が原因で苛められていた京を、大和の呼び掛けで風間ファミリーが助けたのがきっかけだった。
一目惚れをして京100%ラブになっていた武は、裏で苛めを続行しようとしていた奴等を、事あるごとに体を張って食い止めていた。
その武の行為があったからこそ、最終的に京の苛めは無くなったのである。
しかし、完全に裏方に徹していた為、京はその事を知らないし武もその事を言うつもりは無かった。
「お前らなぁ…いい加減に…」
大和の体がプルプルと震え出す。
「しろやーーー!!!」
「きゃっ!?」
「おわっ!?」
怒鳴り声と共に武と京は勢いよく布団から転がり出される。
「毎朝毎朝人の安眠を妨害して…なんか俺に恨みでもあんのかっ!!」
「ああ~ん朝から怒る大和の顔も素敵ー!」
「怒る大和の顔に頬を染める京も素敵だっ!」
朝の恒例行事になりつつある現状を打破すべく、部屋への侵入を防ぐ為にあらゆる防御策を講ずる大和であったが、そのどれもがこの二人によって悉く突破されていた。
大和は頭を抱えて諦めにも似たため息を吐く。
もちろん本当に諦めているわけではない。諦めたらそこで試合終了と言うどっかの漫画で見た台詞が心に突き刺さる。
「はぁ…ったく、もう良いからさっさと自分の部屋に戻って着替えてこい…」
「「はーい」」
京と武がいそいそとその場で服を脱ぎ始めると、ぶちっと何かが切れる音がした。
「自分の部屋でって言ってんだろうがあぁああっ!!!!」
キレた大和の本気の怒鳴り声に脱ぎかけの服もそのままに、一目散に廊下へと逃げ出した武と京は壁に凭れ掛かりながら一息つく。
「ふぅ…まったく冗談のわからねぇ奴だな。あれくらいでキレやがって、京もそうおわっ!?」
武は顔を真赤にして慌てて視線を逸らす。
脱ぎかけで強調された京の際どい胸のラインが武の目に飛び込んできたからだ。
「・・・相変わらず無駄に純情だね」
京は大和の次にストレートに好意を向けてくる武が好きだった。
風間ファミリー内でも、岳人や卓也には見られたくないが、武にならこれくらい見られても気にはならない。
「む、無駄とか言うなよ…俺はモモ先輩やクリ吉、まゆ蔵の裸なら見ても微塵もなんとも思わない自信があるが、お、お前のは刺激が強すぎて駄目だ」
「ワン子が抜けてるよ」
「街中で散歩している犬を性的欲求の対象としてみれるのか?」
「それも含めて後でモモ先輩に報告しておく」
「い、嫌だなぁ京大先生…じょ、冗談に決まっているじゃないかごめんなさい」
「・・しょうもない」
初夏の日差しが射し込む島津寮から、何時もの日常が始まっていく。
☆ ☆ ☆
島津寮を出た武は改めて京に見惚れていた。
今日から制服が夏服になり、寮内でもその美しい肢体が露になっていたが、太陽の元で見るそれは室内とは比べ物にならないほどの輝きを放っているのだ。
「うーっす!今日から夏服で俺様の肉体美がよりいっそう輝くぜ!」
何時ものポーズを決めながら、制服を気崩した岳人が島津寮の隣にある実家から姿を見せる。
「ふあ~あ…相変わらず筋肉だなガクト」
「…おはようガクト」
「おはようガクト、制服はちゃんと着ろだらしないぞ」
「お、おはようございますガクトさん」
大和の横で言葉を発する京はまるで天使のようだ。
「うんうんやっぱ夏服は良いねぇ…って、あれ?キャップいねぇじゃん」
「キャップは土曜日から帰ってないぞ…くぁあ~~あ…」
「相変わらずだな。大和も相変わらず眠そうだが今朝もか?」
「ああ、京と武に絡まれた」
「…絡むだなんてそんな」
大和の横で頬を赤く染める京は女神よりも美しく奥床しい。
「難儀な奴だ。で?俺様に挨拶しねぇ二条さんちの武君はどういうつもりなんだ?」
京が動くたびにスカートが揺れて際どいラインが見え隠れして動揺を誘う。
「おい武、いくらガクトが相手だからって挨拶はちゃんとするべきだぞ」
それはまるで、別荘に吹き込んだ風がシルクのカーテンを揺らし、外に広がる新緑の美しい景色を写し出しているかのようだ。
『た、たけ坊の奴、京姉さん見たまま固まって、クリ吉の声も届いてねぇってどんだけだよ』
「ガクトさんだけにしている嫌がらせでは無いのですね」
クリスは呆れ由紀江は驚きを顔に浮かべている。
「おぉい武!俺様を無視するんじゃねぇ!!」
岳人が京を見ている武の視線上に割り込んだ。
瞬間、頬を染めて気の抜けまくった顔をしていた武の表情はみるみるうちに鬼の様な形相に変わり、周囲の空気が一気に張り詰める。
「うるせぇ脳筋ゴリラッ!!俺が京に見惚れているのに不快指数八十越えが前に立つな外を歩くな息をするな京と同じ世界に存在するな!」
「てめぇ朝から喧嘩売ってんのかっ!!」
「喧嘩売ってんのは京の美しさを汚すお前の存在だっ!!」
叫んで同時に繰り出された拳がお互いの顔をとらえる。
打たれ強さは武が上、力強さは岳人が上。
力負けした武は数歩後退し、岳人は膝を着きそうになるのを堪える。
「上等だガクト…その変な髪型さらに乱してやるからかかってこいや!」
「男の癖に花の髪留めなんか付けてる奴に言われる筋合いはねぇっ!」
「てめぇ京に貰った俺の家宝にけちつけやがったなコラッ!」
再び武と岳人の拳が交差する。
何時ものやり取りに慣れている大和と京は既に歩き始めていた。
しかし、まだ慣れていないクリスと由紀江は時々振り返りながら心配そうに見ている。
「お、おい、放って置いて良いのか?」
「良いんだ。毎朝付き合うだけ時間の無駄だ」
「・・・クリスもまゆっちも早く慣れた方が良いよ」
「が、頑張ります…と、ところで、あの武さんが付けている髪留めって…」
「ああ…京、あれってあの時のか?」
「うん、私が最初に武の髪を切った時の」
「何だその話は、自分達にも聞かせてくれ」
「・・・しょうもない話だけどね」
京はため息をついて武を見てから話し出す。
幼少の頃、武の髪を一番手先が器用だった京が切る事になった。(後に京との仲を深めるために百代と翔一が仕組んだ事だとばれたが)
いくら手先が器用といっても素人が上手く切れるほど散髪は甘いものではなく、百代と翔一の狙い通り京は失敗した。
現代生け花みたいな髪型になって爆笑されている武に責任を感じた京は、自分のしていた髪留めでなんとか見れるようにしようしたが、これが逆効果になりさらに爆笑を誘うことになる。
武は京が釣られて笑い出したのが嬉しくて、それ以来髪留めを必ず付けるようにしていた。
「・・・なんてお話」
「良い話じゃないか、律儀な奴なんだな武は」
「うううう、良い話ですぅ」
『ほらほらまゆっち、オラのハンカチで涙を拭けよ』
「・・・まぁ武らしいよね」
「愛する俺の名前を呼んだかい?」
岳人を置き去りにしていつの間にか武が横に並んでいた。
「愛してないし呼んでもいないよ」
「はっはっはー愛するのはこれからで良いさ。そして呼ばれなくても来るのが愛する者の勤めだ!だから付き合ってくれ」
「…お友達で」
何時もの返答にがっくりと武は肩を落とす。
「どう?この大和一筋な私…付き合って」
「はいはいお友達で」
「お″~の"~れ"~や"~ま"~ど~~」
武は呪詛を紡ぐ様な声と血の涙を流しそうな勢いで大和を睨むが、決して愛する京が愛する大和には手を出さない。
「おい!俺様を置いていくんじゃー」
「うるせぇ!!」
「ぐはあっ!?」
怒りの矛先を岳人に向けて、振り向きざまに一撃を放つ武。
ここから今朝の武vs岳人の第二ラウンドが始まるのであった。
どうもやさぐれパパです。
とりあえず最初は、風間ファミリー内での二条武の立ち位置がどんなもんかってことでやっていこうと思いますんで宜しくです。
ちなみに一番好きなキャラはゲンさんです。
絡ませたいけどうまくいかぬ歯痒さよ。
ではまた次回で。