真剣で京に恋しなさい!   作:やさぐれパパ

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第二十話 「推して参る!!」

 

 

「狙えそうか?」

 

「…さすがにそこまで甘くは無いみたい」

 

 

数から来る自信かS組であると言う満身からか、総大将である英雄率いるS軍本体は、最前線で一子と忠勝が率いるF軍と交戦していた。

 

 

「混乱はしているみたいだけど、親衛隊がきっちりガードしてる」

 

「やっぱ楽にはいかないか…しかしあのロリコン、やっぱ優秀だよなロリコンのくせに」

 

「…うん、全体に指示を出しながら周囲の警戒も怠ってない、出来れば早めに退場してもらいたいところ」

 

「だな…あ、なんて言ってたらそのチャンスが早速来そうだぜ?」

 

 

大和の作戦通り、一子達は派手に暴れたあとに退却し、それを追ってきた英雄の軍に多数に分けた伏兵をぶつけている。

一部隊の数は多くないものの、何隊出てくるか分からない伏兵に敵の士気が落ち始めていた。

そこに、後退を止めて転進した一子と忠勝がぶつかり、一気に形勢が逆転する。

さらに、その伏兵の中にクリス率いる白の隊と翔一、岳人率いる黒の隊が加わり、その勢いは総大将の英雄に届きそうなほどだった。

 

 

「これ決まっちゃうんじゃね?」

 

「…駄目、クリスが気負いすぎて孤立した」

 

 

京は弓を構える。

出来れば英雄か準を仕留めるまでは、居場所を知られたく無かったが、そうも言っていられない。

 

 

「まて京、やっぱうちの可愛いワン子は優秀だ」

 

 

見れば一子が敵を薙ぎ倒してクリスと合流している。

この二人が揃えば、囲んだ親衛隊とて物の数ではない。

さらに、英雄を一時撤退させるために立ち塞がった準に、岳人が迫っていた。

その絶好のチャンスを見逃す京ではない。

構えた弓に矢を番え気を乗せる。

全てが止まる静から一瞬にして動に移り、矢は準の後頭部目掛けて寸分の狂いもなく飛んでいく。

殺気を感じ取ったのか、準は直前で矢を回避するが、同時に迫っていた岳人の全力を込めたラリアットをもろにくらい撃沈する。

 

 

「…あれが避けられるとは」

 

「やっぱ只のロリコンじゃ無かったか…けど、ガクトのブサイクラリアットで無事退場してもらったし、結果オーライだな」

 

「…うん」

 

「さて、次はっと」

 

 

武は携帯で大和に現状報告と次の指示を仰ぐ。

一分もしないうちに返信が来て、武と京の次の行動が決まる。

 

 

「俺達はワン子達とは別に、S軍総大将英雄の首を狙ってくれってさ」

 

「…了解」

 

「しっかし、なんだか俺すげぇ楽してるよな、最後まで出番が無いのが一番なんだけど…」

 

「そうやってすぐフラグ立つ様な事いうから」

 

 

背後に人の気配を感じて、武が京の前に出る。

 

 

「いたぞっ!葵君の言う通り狙撃者は男と一緒だ」

 

「良いか、仕留める順番を間違えるな!絶対に男を仕留めてから女を仕留めろと、葵君にきつく言われているからな!」

 

「おう!」

 

 

数は四人。

其々が棍棒を持っているがその構えは素人で、武は嬉々として前に出て囲まれる。

 

 

「葵冬馬め、中々気の利いた命令出すじゃねぇか」

 

「…武に暴れさせないためでしょ」

 

 

武と京の言葉を無視して

 

 

「覚悟っ!!」

 

 

叫んで同時に飛び掛かってくる男の一人に狙いを定めて、武はカウンター気味に拳を放って沈める。

それと同時に残りの者から殴られるが、武の涼しい顔は崩れない。

 

 

「こいつ!?手を出さないんじゃ無かったのか!?」

 

「あ~そりゃ情報不足の葵冬馬を恨んでくれ、最近ちょっとした心境の変化があってな、家族が傷つく優しさは優しさじゃなくて逃げだってなっ!!」

 

 

素早く相手の懐に入り、服を掴んでもう一人に目掛けて投げ飛ばすと、お互いの頭を激しく打ち付けて気絶する。

 

 

「ちくしょうっ!!」

 

「ふんっ!」

 

 

武は頭に振り下ろされた棍棒を頭突きでへし折る。

 

 

「俺を倒したかったらな、モモ先輩の拳より固い武器をもってきなっ!!」

 

 

武の拳が鳩尾に極り、最後の一人も呆気なく崩れ落ちた。

 

 

「おっしゃ絶好ちょばらっ!?」

 

 

武は後頭部に矢を受けて地面に口付けする。

 

 

「…いちいち避けられる攻撃を食らうんじゃないの」

 

「だからって矢で射る事ないだろ!!目の前がお星様でいっぱいどころの騒ぎじゃねぇぞ!」

 

「……」

 

「…ごめんなさい」

 

 

睨まれた武はシュンする。

 

 

「…しょうもない…ほら行くよ、私の事守ってくれるんでしょ?」

 

「おうよ!」

 

 

追撃を開始するF軍本隊に平行するように、距離を保ちながら武と京も森の中を進んでいく。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

現在の戦況は数で劣るF軍が、大和の作戦で何とか食い下がっている状態であった。

東山山頂にあるF軍参謀本部は満を含めた圧殺部隊で、襲い来るS軍一年部隊を壊滅し死守に成功。

その代償に圧殺部隊は葵冬馬の毒入り食べ物の罠であっさり壊滅してしまった。

しかし、死守に成功した東山に腕自慢の川神院僧兵を配置する事で山そのものを制圧し、これ以上攻め込まれないための抑止力とした。

 

 

「伝令、友軍の一年部隊がこちらに向かってるって大和」

 

「もう裏切ったのか、まぁ表情と態度で予想はしていたけど…それより俺は圧殺部隊がやられたのがショックだよ」

 

「どうするの?」

 

「ああ、それは」

 

 

既に大和は伝令を飛ばしていた。

 

 

「クリスティアーネ・フリードリヒ推参っ!!」

 

 

裏切り者であるF軍一年部隊の横を穿つ様に、白の隊率いるクリスが戦場を駆ける。

雑魚には目もくれず隊長に一直線に向かっていく。

 

 

「はあああああっ!!」

 

 

閃光の様なクリスのレイピアは、悲鳴を上げさせる間も与えず相手を討ち取る。

 

 

「敵将討ち取ったり!!残党も逃がすな、四隊に分かれて殲滅しろ!!」

 

 

まるでクリスの手足のように動く白の隊は、瞬く間に友軍であった裏切り者五十名を壊滅させた。

そして休む間もなく、北の戦線へと進軍を開始する。

 

 

「白の隊から伝言、裏切り者は全て討ち取ったってさ、やったね大和」

 

「ああ、さすがクリスだぜ」

 

「わわっ一難去ってまた一難だ」

 

 

喜んだのも束の間、再び緊急を知らせる伝令が飛び込んでくる。

 

 

「どうしたモロ?」

 

「源本隊が敵弓矢部隊に阻まれて進軍できないって!」

 

 

大和のその伝令を聞くと、即座に携帯を手にした。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

京の携帯が鳴った。

武は周囲を警戒しつつ、京からの言葉を待つ。

 

 

「…武、ワン子達が相手の弓部隊に足止め食って動けないから、活路を開いてくれって」

 

「おうし、ようやく京の表舞台デビューだな。派手に決めようぜ」

 

「相手の全弓部隊と私一人だよ?」

 

「問題ねぇ!だから大和もお前に命令をだしたんだろ?」

 

「…うん」

 

 

武と京は素早く行動を開始する。

森を抜けて川沿いに出ると、F軍本隊の姿があり、その先頭で一子が声を荒げて忠勝の前に躍り出ていた。

 

 

「危ないたっちゃん!!」

 

 

雨の様に振りかかる矢を、驚異的な身体能力と熟練した薙刀の技で打ち落としていく。

 

 

「すまねぇ一子、後退だ!全員弓の射程外まで下がれ!!」

 

 

相手の徒弓にS軍本隊を目前にして、F軍は後退を余儀なくされる。

 

 

「体制が整ってない今がチャンスなのに…」

 

「じゃあこっからは俺らに任せろよ」

 

「武!?それに京!」

 

「…私が相手の射程外から狙撃する」

 

「相手が届かねぇのにこっちが届くわけねぇだろボケが!」

 

「狙撃用に強化した弓だから平気」

 

「しかし、そんな不確定な要素で―」

 

「京なら出来る、そう信じて大和は命令をだしたんだ。だからゲンさんも信じてくてよ」

 

「……わかったやってみろ、ただし、しくじったら承知しねぇからな」

 

 

口調は厳しいが、武の言葉と京の自信に満ちた表情に、忠勝は二人を信じる事にした。

 

 

「ワン子、お前の薙刀借りっぞ」

 

「えっ!?使えるの?」

 

「使えねぇ!矢だけ落とせりゃ良い!」

 

「だったら私が」

 

「お前はこっちだ」

 

 

武は服の中から、冷却スプレーとテーピングを取り出して一子に投げ渡す。

 

 

「さっきので足挫いたろ?応急処置しとけ」

 

「あ、あははっバレてた?」

 

「ったりめぇだ、俺を誰だと思ってんだ…ほれ、下がってろ」

 

 

武は薙刀を受けとると京と前に歩みでる。

相手の矢はまだ届かない位置だが、徐々にその距離は詰められている。

 

 

「京、あれやって良いか?」

 

「…しょうもない…けど、やるなら派手にね」

 

「了解」

 

 

武はニヤリと笑って薙刀の柄を地面に叩きつけ、まるで武蔵坊弁慶の様に仁王立ちすると、胸が張り裂けそうな程思いっきり息を吸い込み。

 

 

「オオオオオオオオオオオオッッ!!!!!」

 

 

戦場全てに響き渡る程の咆哮をあげた。

突然上がった獣の様な声と全身が泡立つような空気の振動に敵の動きが止まる。

 

 

「っ!!」

 

 

その隙をついて間髪いれずに放った京の矢は、相手の射程外から弓道部主将の額を捉えて沈める。

 

 

「二条武!」

 

「椎名京」

 

「「推して参る!!」」

 

 

味方の歓声と敵のどよめきが飛び交う中、予め主将が倒された時の命令系統を決めていたのか、すぐ弓部隊は木盾を構えながら反撃を開始する。

無数に飛来してくる矢を、武はひとつ残らず叩き落としていく。

 

 

「すげぇな、武は素人じゃないのか」

 

「素人よ、でも毎日の様にお姉様の連打を受けていれば、あれくらいの矢なら落とせて当然よ…でも」

 

「何か問題があるのか?」

 

「うん…あれじゃあ矢は落とせても、武が邪魔になって京が射てないわ」

 

 

一子の心配を他所に、京は狙いを定める。

そして、躊躇いなく矢を放つ。

 

 

「あぶなっ!?」

 

 

一子が思わず声を上げたのも無理はない。

矢は武の後頭部に直撃コースだった。

しかし、当たると思われたその刹那、武は軽く頭を傾けて振り向きもせずその矢を避ける。

あまりにもギリギリ過ぎて、武の矢羽がかすって出来た頬の傷から薄く血が滲む。

 

 

「見もせず避けやがった…」

 

「無茶苦茶よ…」

 

 

二人の驚きを他所に矢は木盾を砕いて、副主将を仕留める。

武が京の呼吸、気、射るまでの時間、背後から向けられている視線を読み間違う筈がなかった。

そして、それを誰よりも理解しているからこそ、京は何の躊躇いも無く矢を放つ事が出来るのだ。

 

 

「京!鉄の盾だ!」

 

「…後一メートル近づいて」

 

「任せろ!!」

 

 

武はさらに敵との距離を詰める。

距離が縮まった分、矢の軌道は放物線からほぼ直線に変わり飛来してくる。

 

 

「うらあっ!!」

 

 

薙刀を片手で振り回しながら反対の素手でも矢を落としていくが、一本の矢が武の横を通過しようとする。

ガギッと嫌な音がして、武はその矢を口で受け止めていた。

 

 

「ペッ美味くもねぇ、ジャスト一メートルだ京!!」

 

「っっ!!」

 

 

武の声と同時に京は一本目の矢を放つと続け様に第二射を放つ。

京が渾身の気を乗せて放った矢は、一本目が鉄の盾に刺さると同時に後から放った矢が重なるように刺さり、鉄の盾もろとも最後の命令系統である二年のまとめ役を打ち倒した。

敵の矢が止まったのを見て忠勝が叫ぶ。

 

 

「今だ突っ込め!!!」

 

 

合図と同時に駆け出したF軍本隊が、弓部隊の残党を排除するのに然程の時間は掛からなかった。

 

 

「ふぅ任務完了だな」

 

「…うん」

 

 

京は返事をしながらその場にへたりこむ。

呼吸は荒く額にはびっしょりと汗をかいている。

その姿が消耗の大きさを物語っている。

 

 

「平気か?」

 

「…平気と言いたいけど、暫くは動けない」

 

「ああ、今はゆっくり休め」

 

「やったわね!武、京!!」

 

 

嬉しそうに駆け寄ってきた一子に、武は携帯食料を渡す。

 

 

「俺達は暫く休んでいくから、これ食って暴れてこいよ、足に負担が掛からない程度にな」

 

「わーい♪でも、テーピングのお陰で全然平気よ!もっともっと暴れてやるわ!!」

 

「…無理しないようにね」

 

「うん!…ねぇ京」

 

「?」

 

「やっぱり京は凄いわ!!」

 

 

一子の会心の笑みに京は照れたように笑う。

 

 

「…ありがとう」

 

「おいワン子!俺も凄いだろ!?」

 

「あはははっもちろん!!」

 

「良い子だ…やられんなよっ!」

 

「そっちこそっ!!」

 

 

一子は武と拳を合わせると、再び元気に走って忠勝達と合流する。

 

 

「さてとっ」

 

 

武は徐に京をお姫様抱っこした。

 

 

「ち、ちょっと!」

 

「ここじゃ目立ち過ぎだ。森の中に一旦避難するぜ」

 

 

言って走り出す武の顔は何時も通り真っ赤に染まっていた。

 

 

「…しょうもない」

 

 

川神大戦は最終局面を迎えようとしていた。

 

 

 




川神大戦はあっさり終わらせようと思ってたのに、なんか書きたいものが増えてきて、次回も続きます。
ちなみに矢を噛んで止めたのはキョウリュウジャーを見ながら書いてたわけでは、って前もこの話したような…。

ではまた次回で。


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