真剣で京に恋しなさい!   作:やさぐれパパ

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真剣で京に恋しなさい!~15years after~

 

 

 

「とりあえずこんなもんか」

 

 

開店準備を整え店のシャッターを勢いよく開けると、眩しいほどの青さが目に飛び込んできた。

目を細めながら空を見上げて、あの日から十五回目の春を迎える。

 

 

「・・・武?」

 

「おう、来てみろよ京、気持ちよく晴れたぜ」

 

 

武は奥から姿を見せた最愛の妻に手招きをする。

 

 

「昨日の雨が嘘みたいだね」

 

「だな、これでモモ先輩に雨雲を吹き飛ばしてもらわなくてすむな」

 

「・・・しょうもない」

 

 

笑いながら空を見上げる武と京の背中に声が掛かる。

 

 

「お父さん!お母さん!開店準備しちゃったの!?」

 

「・・・僕達がやるって言ったのに」

 

 

外見は母親似で中身が父親似の娘と、外見は父親似で中身が母親似の息子は、同時に声を上げながら二階から降りてくる。

 

 

「んだよ、桜も護もさっきまでぐーすか寝てたじゃないか」

 

「・・・手伝う気があるなら自力で起きなさい」

 

「「うぐっ・・・」」

 

 

項垂れる二人の頭を武と京はクシャックシャッと撫でる。

言葉はきつく言うものの、まだ小学生ながら本当に良い子に育ってくれている二人を、武と京は溺愛していた。

 

 

「ほんじゃあ、後は任せたぜ?」

 

 

「・・・しっかりね」

 

 

父と母の信頼に二人は元気良く頷き笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

川神院に続く仲見世通りに店を構えて七年。

久寿餅と達磨に続いて、仲見世通りの有名店に仲間入りした和菓子屋「京」。

もちろん最大の売りは水羊羹で、休日になるとちょっとした行列が出来るのは、市長のお勧めと言うだけではなく、その丁寧な仕事ぶりと味に惚れ込む人が常連になってくれているからだ。

 

 

「取り敢えずワン子と川神院合流で良いんだっけか?」

 

「・・・うん、後の面子は其々向かうって」

 

「最後に全員で集まったのってどれくらい前だ?」

 

「・・・桜と護が生まれる前だから、七、八年前かな」

 

「もうそんなに経つか、それぞれには結構会っているからそんなに経っている感じしないな」

 

「・・・ね、ワン子なんて毎日会うし」

 

「だな、会ってはいないけど大和とモロはテレビで良く見るし、まゆ蔵は月一で買いに来てくれるし、クリ吉は京とスカイプで話しているしな」

 

「・・・滅多に会わないのはキャップくらいだね」

 

「まぁでも、キャップがつかまらないのは今に始まったことじゃないしな」

 

 

話しながら歩く二人が店の前を通る度に、威勢の良い挨拶が飛んでくる。

見慣れた顔ぶれに、京がにこやかに挨拶する姿を見て、武は嬉しそうにしていたが、挨拶を終えた京が突然じと目になる。

 

 

「・・・もしかして、突っ込み待ち?」

 

「へ?何が?」

 

 

京の急な問いかけに武は目を丸くする。

 

 

「・・・本気で忘れていたら、いくら岳人でも泣くと思うよ?」

 

「岳人・・・誰だっけ?」

 

「てめぇっ武!!俺様を忘れるとは良い度胸じゃねぇかっ!!」

 

 

その声と同時に武は振り向き様に右の拳を岳人の顔に叩き込むが、その攻撃を予想していたように武の顔にも岳人の拳が叩き込まれた。

打たれ強さは武が上、力強さは岳人が上。

力負けした武は数歩後退して、打たれ負けした岳人は膝を着きそうになるのを堪える。

 

 

「おうおう!そう言えばお前みたいなぶさいくな奴も居たっけなぁ!!今じゃ立派な九鬼の飼い犬様がよう!!!」

 

「飼い犬じゃねぇっ!!九鬼に無くてはならない有望な営業マンだっ!!」

 

「お前みたいな暑苦しい奴が営業とか客に同情するぜ!!」

 

「はんっ!俺様のお客様は殆どが紹介で増えてんだ!つまりっ!!お前が何と言おうが実績が俺様の魅力を証明してんだよっ!!!」

 

 

事実、実力重視の九鬼において岳人の営業成績はトップを誇る。

押しの強さと裏表のない人情に篤い人柄が、多くの客から信頼を集めていた。

 

 

「ふんっ!魅力だぁ!?童貞が何を言っても説得力ねぇんだよっ!!」

 

「てめぇ!童貞は関係ねぇだろうがっ!!」

 

 

再び始まった殴り合いを、立ち並ぶ店の人も客も面白がって見ている。

会えば必ずと言って良いほど喧嘩をしている武と岳人の姿は、本人達の知らないところで仲見世通りの名物の一つになっていた。

 

 

「・・・しょうもない」

 

 

そう言った京も、何時までも変わらない二人を微笑ましく眺めていた。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

「「こんにちはーーー!!!」」

 

 

川神院に着くと、何時ものように子供達が出迎えるために群がってきた。

 

 

「おう!元気してっかガキども!!」

 

「ガキじゃないやい!」

 

「そうだそうだ!」

 

「武のくせになまいきだぞー!」

 

 

武が声をかけると、一斉に子供達がパンチやキックを繰り出す。

 

 

「おうおう、しっかり元気じゃねぇか、とりあえずこれ、朝練が終わったら食っとけ」

 

 

そう言って差し出した包みを子供達は嬉しそうに受け取る。

 

 

「わー♪水羊羹だぁ♪」

 

「わーい♪」

 

 

どれが良い、私これ、僕はこれ、ぼくもそれが良い、そんなやり取りを子供達がしていると道場の方から声が響く。

 

 

「こらーーっ!!」

 

 

その声の主へ子供達は目をキラキラさせながら駆け寄る。

 

 

「一子お母さん、武が水羊羹くれたよ♪」

 

「一子お母さんが一番に選んで良いよ」

 

「わたし一子お母さんとおなじのがいいなぁ」

 

「全員一回しーーーっ!!」

 

 

子供達の声を遮って一子が口に指を当てて注意すると、全員が気をつけの姿勢をとる。

 

 

「これを貰ったお礼はしたの?」

 

 

一子の言葉に全員がはっとしてから俯いて首を横に振る。

 

 

「親しい人からでも、ううん、親しい人からなら尚のこと何か貰ったら必ずお礼を言うこと」

 

「・・・はい」

 

「よしっ!返事をしたなら即実行よっ!!」

 

 

一子に促されて全員が武の前に一列に並ぶ。

 

 

「せーの、ありがとうございます!」

 

「おう、たくさんあるからいっぱい食えよ」

 

「うんっ!!」

 

 

元気良く返事をすると、子供達は一子の元に駆け戻っていく。

その子供達を両手いっぱい広げて迎え入れ、全員の頭を撫でまわし朝練に戻るように促す。

 

 

「・・・すっかりワン子もお母さんだね」

 

「えへへ♪」

 

 

一子は川神院の師範代になり、道場で孤児を引き取り育ての親となっていた。

一子の元気で常に前向きな性格と優しさは、心を閉ざした子供にも容易に伝わりやすく、川神院に引き取られた子供はどんな子でも一ヶ月もすれば一子をお母さんと慕うようになる。

毎日の充実した日のせいもあり、本人に浮いた話はまるでなく、祖父や姉から心配されているが本人はどこ吹く風である。

 

 

「はぁ、「あの」ワン子が今じゃすっかりお母さんか、俺も歳をとるわけだ」

 

「なに爺くさい事言ってるのよ武、大体「あの」ってどう言う意味よっ!」

 

「朝っぱらからタイヤをズルズル引きずって、って、今もそうか」

 

「ふふんっ♪川神院の師範代として日頃からの鍛練は当然でしょ!」

 

「あーあれな、隣の煎餅屋の爺さんから、朝っぱらからズルズル五月蝿くて眠れないから止めさせろって苦情がきてんだけど」

 

「ぎゃーーっ!嘘よ!嘘よねっ!?あたし毎日欠かさず迷惑かけていたのっ!?」

 

 

あわあわと涙目になる一子に、京がため息をつきながら耳打ちする。

 

 

「・・・ワン子、嘘だから」

 

「え?」

 

「・・・お隣さん、ワン子が通る時間にはとっくに起きているし、毎朝元気でこっちまで元気になるって言ってたから」

 

 

京の言葉に一子が武を睨み付ける。

 

 

「たーーけーーるーー!」

 

「いやぁ今日は良い天気だなワン子」

 

「成敗っ!!」

 

 

岳人に続いて一子との第二ラウンドが始まった。

 

 

「なんだなんだ?朝から随分と騒がしいな」

 

 

眠そうな目を擦り、大きな欠伸をしながら現れたのは川神院現当主である川神百代だ。

 

 

「・・・あれ?モモ先輩は大和と一緒じゃないの?」

 

「ああ、昨日出先で急に会議の予定が入ってな、今日は現場から直接くるとメールが入っていた」

 

「・・・相変わらず忙しそうだね大和」

 

「まぁあまり無理はさせないように注意はしているがな」

 

「川神流無双正拳突きーーっ!!」

 

「うぐぅふっ!?」

 

 

顔めがけて正確に繰り出される一子の拳を、武は腕を交差して受け止めようとするが、急に軌道が変わりがら空きの腹部を直撃する。

 

 

「・・・千代ちゃんは?」

 

「今朝、布団を見たらもぬけの殻になっていたから、恐らく大和の所にでも行ったんじゃないか?まったく、今日は大人しく留守番だと言っておいたのに」

 

「川神流晴嵐脚っ!!」

 

「おまっ!それ川神流じゃなひぃいっ!?」

 

 

高速の蹴りから産み出された真空波が、咄嗟に首を捻って躱した武の頬を浅く斬る。

 

 

「・・・行動派なのはモモ先輩似だね、まぁ千代ちゃんなら心配無いと思うけど」

 

「まぁな、あの子は私似だからって、いい加減五月蝿いぞ武」

 

「どわわっ!?」

 

 

背後からの殺気に咄嗟に伏せた武の頭があった位置を高エネルギー砲が通過した。

その隙を逃さず、一子が武の頭に馬乗りになる。

 

 

「勝利よっ!!」

 

「だーっ!わかったわかった俺が悪かった、今度岳人の奢りで何でも好きなもん食わせてやるからそれで許せ」

 

「わーい♪」

 

 

武はそのまま起き上がり、一子を肩車する格好になる。

 

 

「なんでそこで俺様が出てくんだよっ!」

 

「良いじゃないか岳人、どうせお金を使う相手なんて居ないんだろう?この私が奢られてやろう」

 

「モモ先輩ぃひどいっす・・・」

 

「って言うか、モモ先輩、本気で人の頭を吹き飛ばそうとするのやめてもらえます?」

 

「安心しろ武、ちゃんと吹き飛ば無いように手加減している」

 

「手加減ねぇ・・・」

 

 

武は呟きながら、自分が避けたエネルギー砲が当たった場所を見て額から冷たい汗が流れる。

コンクリートの壁には綺麗な円形の、直径十センチ程の穴が開いていた。

周りが崩れていないのは完全に力が一点に集約されているからで、今までの大雑把な力の使い方から無駄の無い洗練された力の使い方に変わった百代は、以前にも増して確実に強くなっていた。

 

 

「いったい何処まで強くなるんですかモモ先輩は」

 

「どんな状況でも家族を守れるくらいにだな、例えば」

 

 

嬉々として話そうとする百代を武は遮る。

 

 

「いや、そのモモ先輩が想定している「どんな状況」が恐ろしい予感しかしないので、もう聞きたくもないって感じなので遠慮します」

 

「はっはっはー♪相変わらず武は生意気だなっ!」

 

 

百代の動きを察知した一子が肩から飛び降りると、武の頭を百代の腕と豊かな水蜜桃が挟み込んだ。

 

 

「ほーらどうだ?久しぶりに私の胸の感触を味わえて嬉しいだろう?」

 

「いやいやいやっ!俺は京以外の胸に興味ないででででででっ!!ギブギブッ!京ヘルプッ!ヘールプッ!!」

 

「・・・しょうもない、そろそろ行かないと待ち合わせに遅れるよ?」

 

 

呆れながら言う京の目には、若干冷たい光が宿っている。

 

 

「そう怖い顔するな京、軽い冗談だ」

 

 

百代の腕から解放されよろける武を、今度は京が豊かな水蜜桃で受け止める。

ほんのり頬を紅潮させる京と顔は見えないが耳まで真っ赤になっている武。

何年経っても二人の初々しい恋心は変わらない。

 

 

「はぁ~これが愛ってものなのね」

 

「そうだぞワン子、お前もそろそろ結婚を考えたらどうだ?」

 

「うう、薮蛇だったわ…あ、あはは…あ~そのうちね」

 

「まったくしょうがない奴だ、岳人みたいになっても知らんぞ」

 

「それどう言う意味っすかねぇ」

 

「どう言う意味も何も無いだろう?童貞が」

 

「ひでぇ・・・」

 

 

ガックリと肩を落とす岳人をそのままに、一同は待ち合わせ場所である「変態橋」へと向かう。

 

 

 

 

 

 




お久しぶりですやさぐれパパです。

最後に投稿してからもう三年も経っているとは、時が経つのははやいですね。
リアルに多少余裕が出て来て、ふと、書きたくなったのでまた少しだけ投稿させていただきます。
しかし、一話で終わらせる予定だったのに、なんだか長くなってしまいました。
次の更新は何時になるかわからないですが、三年はかからないと思いますので、暫しお付き合いを再開していただけたら幸いです。


では、また次回で。

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