真剣で京に恋しなさい!   作:やさぐれパパ

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第五話 「…許さねぇ……」

 

それは放課後に起こった。

三年の男子生徒が、帰ろうとしている京に声をかけたのが始まりだった。

 

 

「ねぇねぇ君2ーFの椎名京ちゃんでしょ?」

 

「・・・」

 

 

京は男の方を見ようともせず靴を履き替えようとするが、靴箱を男が強引に閉めた。

 

 

「ちょいちょい、無視しないで傷つくなぁ。あのさ、掲示板で見たんだけどお前って金出せば誰にでもヤラせてくれるって本当?」

 

 

京の表情が一瞬にして強張る。

そんな京を無視して男はさらに言葉を続ける。

 

 

「学校の裏サイトってやつ?あれにさ、お前の母親が淫売でお前も同じだって書いてあったんだけどさぁ、いくらでヤラしてくれんの?」

 

「…ウザイ」

 

 

京の殺気が籠った冷たく鋭い視線に射抜かれて、男は数歩後退する。

しかし、男は下卑た笑いを浮かべてなおも食い下がる。

 

 

「お、おいおいそんな怒るなって、お前って俺のすげぇ好みのタイプなんだよね。そのエロそうな体つきも含めてさ。五万くらいなら出しても良いぜ?」

 

 

いやらしく身体を見てくる男に睨みをきかせつつ、京はさっさと靴を履き替えて無視して行こうとした。

しかし、すれ違い様の男の一言が京の逆鱗にふれる。

 

 

「んだよ、仲間にしかヤラせないって噂の方が本当だったのかよ」

 

 

吐き捨てるように言う男の言葉に京は足を止める。

 

 

「…なん、だと?」

 

「ああん?毎日毎日違う仲間と取っ替え引っ替えヤリまくってんだろ?きたねぇ廃ビルでよ」

「っっ!?」

 

 

刹那、京の拳が男の顔を殴り飛ばそうとしたが、それは直前で別の手によって阻まれた。

 

 

「武っ!?」

 

「どうした京、揉め事か?」

 

「離して武っ!こ、こいつは仲間を侮辱したんだっ!!」

 

「落ち着けって、こんな頭悪そうな男を殴ってお前の手が傷付くのは我慢ならねぇよ」

 

「でもっ!ゆ、許せないよっ!!」

 

 

武は怒りに震える京の両肩に優しく手を置く。

そして、京の好きなあの笑顔で語りかける。

 

「落ち着け、な?…落とし前はおれがつけるから」

 

 

武はそう言うと自分のワッペンを男に投げた。

 

 

「つーわけで頭悪そうな先輩、俺と決闘しませんか?」

 

「はぁ?何言ってんだてめぇ。何で俺がそんな事しなくちゃいけねぇんだよ」

 

「確かに理由は先輩にはないかな?…だけどこのままで良いんですか?憂さ晴らししたくありませんか?」

 

「何言って…」

 

 

武は前に出て男に小声で呟く。

 

 

「ーサンドバッグで」

 

「…お前…へへっ、そうかそうかどっかで見たこと有るかと思ったら…良いぜ決闘しようぜ」

 

 

男は確認する様に武の顔を見ると、嫌な笑いを浮かべて自分のワッペンを武のワッペンに重ねた。

 

 

「それじゃあ決闘成立って事で、京は先生呼んできてくれ。出来れば面倒が無いヒゲ先生が良いな」

 

「……うん」

 

「場所は体育館で良いですか先輩」

 

「ああ、人の目は少ない方が良いからな」

 

「そう言う事で、先に行っているから頼んだぞ京」

 

「…わかった」

 

 

少しだけ落ち着きを取り戻した京の背中を押すと、武は体育館へと向かった。

京は移動しながらファミリー全員にメール送る。

受け取った全員が今している事を止めて向かう。

武が決闘を行う体育館へと。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

「そんじゃまっこれから決闘を行う。武器は学校指定の物以外は無し、どちらかが戦闘不能になったら決着で良いな?」

 

 

巨人のダルそうな声に武と男は頷く。

相変わらず男は、武の事をニヤニヤと可笑しそうに見ている。

 

 

「そんじゃ始めっ!」

 

 

巨人の合図と同時に男が駆け出して武に拳を繰り出す。

普段から百代に鍛えられている武には難なく防げるはずの拳が武の腹を捉える。

さらに突き上げられた拳が顎に決まりそうになるのを、武は顔を捻ってかわす。

なおも男は休むこと無く、不規則に拳や蹴りを武に打ち込む。

その様子を、知らせを受けて集まった風間ファミリー全員が見ていた。

 

 

「あの変則的な動き…あれは骨法なのか?」

 

「さすがお姉様、確かあの人大会の常連者よ」

 

 

百代の疑問に一子が答える。

 

 

「あーもう!なぜ武は反撃しないんだっ!!しかもあの程度の攻撃なら全てかわせるだろ!」

 

 

クリスは苛立ったように声を荒げる。

 

 

「へっ!やっぱお前反撃しねぇんだな!!」

 

 

男は大きなモーションで飛び蹴りを入れる。

武は体を捻ってかわすが、すれ違い様に男が握っていた砂が武に浴びせられた。

 

 

「くっ!?」

 

 

室内で目潰しが来るとは思っていなかった武は、意表をつかれ視界を封じられる。

 

 

「これでもうかわせもしねぇだろっ!!」

 

 

男の肘が武の額を切り裂き血が流れ出す。

 

 

「卑劣な…武っ!見えなくても良いから手を出せ!!」

 

 

叫ぶクリスの肩に岳人が手を置く。

 

 

「無駄だぜ…あいつは決闘や喧嘩で手を出さねぇんだよ」

 

「何故だ!?」

 

「理由は…まぁ後で本人から聞きな。武はファミリーを守るとき以外で手をあげねぇ」

 

「だけど今朝お前を殴っていたじゃないか!」

 

「俺様って言うかファミリーは別なんだよ」

 

 

殴られ続ける武をクリスと由紀江以外は静かに見守っていた。

 

 

「武は決闘を挑まれても相手が疲れるまで耐えるのよ」

 

「だからサンドバッグなんてあだ名を付けられて、憂さ晴らししたい奴に決闘を申し込まれる時期も一時期あったな」

 

「そんな…それではこれは決闘ではないではないかっ!!」

 

 

無抵抗のまま殴られ続ける武を見ていられないのかクリスが飛び出そうとするのを百代が手で制した。

抗議の声を上げようとするクリス達の元に、男の暴言が飛び込んでくる。

 

 

「ったくよ!せっかくエロそうなビッチとヤレると思ったのによぉ!」

 

 

ミシっと言う音が小さくした。

 

 

「てめぇだってあのビッチとやってんだろ?一日くらいこっちにもまわせよなっ!」

 

 

バキンと何かが砕ける音がする。

 

 

「まぁどうせヤリまくって病気持ちだろうから助かったってか?ひはっはっはっはー!」

 

 

男の笑い声が響き、クリスと由紀江の怒りが頂点に達しようとしているなかー。

 

 

「あ~あ、やっちゃったね」

 

「ああ、救いようがねぇな」

 

 

卓也と岳人が冷静に言う。

 

 

「まぁ自業自得だな」

 

「微塵も同情は出来ないけどね」

 

 

それは翔一と大和も同じだった。

怒っているのは全員が同じではあるが、クリスと由紀江と他の風間ファミリーとでは違うことが一つだけあった。

二人以外は知っているのだ。

この後この男がどうなるかを。

 

 

「クリ、まゆっち…確かに武は普段絶対に手を出さない…だが、今奴は武にとって一番やってはいけない事をした」

 

「やってはいけない事?…」

 

「ああ、奴は京を傷付けた」

 

「し、しかし、いくら武さんが打たれ強いと言っても素人ですし…それに今武さんの視界は封じら…れ……え?」

 

 

由紀江は何か感じたかように武を見る。

 

 

「さすがだなまゆまゆ、感じたか?」

 

「はい…な、なんですかこれは…」

 

「なんだ?自分はなに…も……」

 

 

武を見たクリスの肌が一斉に泡立つ。

殴られ続ける武の姿に息を飲む。

武の体から溢れているのは威圧感などと言う生易しいものではない。

それは明確な殺意であった。

 

 

「見ておくと良いわクリにまゆっち…ファミリーを、特に京を傷付けた相手にだけ発揮する武の力を!」

 

 

視界を封じ反撃してこない余裕から、戦いの最中にも拘らず笑みを浮かべて一方的に殴っている男は、自分が優位であるがために気づかない。

触れてはいけない逆鱗に触れてしまった事に。

 

 

「そろそろ疲れたから、これで終いにしてやるよっ!」

 

 

男の回し蹴りが武の首に決まったが、その足を武が掴む。

 

 

「てめぇ…今何て言った?」

 

「なんだ?サンドバッグが口利いてんじゃねぇよ!」

 

 

捕まれた足をそのままに、男はもう片方の足で飛び上がり武の延髄に鉄板が仕込まれた靴先を叩き込む。

ぐらりと揺れて、捕まれていた足が武の手から離れると、男は自分の勝利を確信した。

 

 

「病気持ちのクソ淫売って言ったんだよ!ぎゃははははー!」

 

 

だが、武は倒れなかった。

 

 

「…許さねぇ……」

 

「なっ!?」

 

「許さねぇ許さねぇ許さねぇ許さねぇ許さねぇ許さねぇ許さねぇっっっ!!」

 

 

刹那、獣の様な咆哮が上がり、爆発的に膨れ上がる闘気の嵐が体育館の窓を震わせた。

 

 

 




続くになりました。
決して次回で凄い盛り上がるからとかではなく、更新頻度を落とさないためにケチりましたごめんなさい。
因みに、今後多々ゲームやってない人にわからないことが出てきますので、買ってやってください。
宣伝ではなく布教です。

ではまた次回で。


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