——或る夏の小夜のと或る一軒家のリビングにて、男女がソファーに座り映画に耽っている。女こと空母棲姫は初めて見るホラー映画を見て、男こと秋田健吾の左腕にずっとしがみ付いている。健吾は冗談で彼女に掴まれている左腕を離そうとしたが、空母棲姫の捨てられる子犬をするかの如く目をうるうると潤ませ此方を向いたので彼女の思うままにさせてあげようと決めた。
「うううう・・・!何で最後の最後にこんなものを見させるのよ、健吾の馬鹿ぁ!」
空母棲姫が未だに彼の左腕にしがみ付きながら健吾に文句を放つ。
「それはお前の運が無かっただけだろうに。あみだくじの配置から線を足すのも全部お前がやっただろ」
そう。彼らは今まで映画をずっと見続けていた。ジャンルは広くアニメや恋愛もの、アクション幅広く鑑賞していた。事の発端は空母棲姫が健吾に映画を見てみたいと言ったことから始まった。
健吾がリビングに保管していたボックスからブルーレイディスクを取り出し、空母棲姫に何を見たいか尋ねると、選べないから全部見たいと言ってきた。健吾はボックスからブルーレイディスクを一つ一つ取り出し床に置いていく。横で空母棲姫が歓喜の声を上げていた。おそらく空母棲姫は何かの拍子に映画に関する情報を拾ったのだろう。彼女は人間に関する趣味等には興味津々といったきらいがあった。恐らく憧憬もあるだろうが。健吾はそんな彼女の喜んでる姿に綻びつつ床に並べていく。
全部で五十枚程はあろうか、並び終えると今まで横から聞こえた声が無いことに気付いた健吾が空母棲姫に目を向ける。すると空母棲姫が呆気に取られた様子で健吾と床に並べられたブルーレイディスクを交互に顔を動かす。
「ん?どうしたんだ?」
目まぐるしく頭を動かすので彼女のサイドテールが激しく動き回っている。健吾も動き回るサイドテールの様子の動向をチラチラと見守る。
空母棲姫は最初こそ喜んだ。十枚目はこんなに沢山映画がある!凄い!まだあるのかな?
と喜んでいたが三十を過ぎたあたりから怪訝の様をした。こんなに沢山がこんなにも沢山になった。文字一つ付け加えるだけで心象が真逆になるね不思議だね!
四十を超えハイライトさんが強制シャットダウンしかけたところで五十になり第一次健吾事変が終わった事により、空母棲姫のハイライトさんは間一髪で免れた。
これは流石に持ちすぎではないかと、空母棲姫は健吾に問わねばなるまい。自身の声が震えていることを自覚しつつ聞く。
「健吾・・・人間はこんなに映画を持ってるものなの?」
「映画?・・・あぁ、ブルーレイディスクの事か。どうだろうな他の人と何枚持ってるかなんて話題にはならないし。うーん、多分多い方なんじゃないか?」
そうでないと怖い。言葉に出したかったが空母棲姫は咄嗟に耐える。
「ですよねー。・・・だけどこれは持ちすぎだと思うわ。健吾ってそんなに映画が好きなの?」
「んーそんなに興味はないんだよな。面白そうなCMとか見たら行きたかったけど行く暇がなかったからなー・・・」
提督時代を思い出す健吾。休憩時間や食事の時間に艦娘の子たちとテレビを見ることが多く、テレビの内容にきゃーきゃーと楽しく騒ぐ子たち。
艦娘の子たちに人気があったのは映画だった。偶に恋愛映画のCMのキスシーンが流れたときは凄かった。駆逐艦組や初心な子たちは顔を真っ赤にしながらもテレビを見たり、そちら方面に余裕のある子たちは微笑ましくそんな彼女らを眺める。違う意味で余裕の無い子たちは健吾を熱い目でじっとりと見る。健吾はその視線に気づかないふりをしながらテレビを見るしか方法が無かった。
健吾はカーアクションの映画が好きである。カーアクションのCMが流れると作業を一旦中止してテレビを見る。秘書官も本来は注意すべきだろうが、CMが流れる時間もたかが知れているので特段注意はしなかった。いや、むしろカーアクションのCMが流れたら一目散に健吾に教えているだろう。
何故なら健吾がそのCMを見るときにはキラキラしてテレビを見るものである。普段落ち着いている提督が子供のように目を輝かせるようにテレビを見るのを見守ることが、艦娘の子たちに大人気なのであるから。因みに健吾はこのことについて一切知らない。
ある一幕ではキラキラ健吾が青葉に盗撮もとい撮影に成功され、その写真は艦娘の子たちに密かに売買されている。因みに一番の高額はキラキラ健吾が満足げに微笑んでいる写真。一枚八万円也。
購入した某一航戦空母曰く「これは譲れません。・・・これがバブみというものでしょうか」
なお、たまたま近くにいた某鶴が某一航戦に抱腹絶倒した後気づいたら何故か入渠していたという事件があった。
「おーい健吾ー?」
ふと気づくと空母棲姫が目の前で手を振っていた。
「いや、すまない。昔の提督の時を思い返していた」
苦笑しながら頭を掻く健吾。そんな健吾を空母棲姫が心配そうに健吾を見る。
「そんなに提督って忙しかった?」
「ケースバイケースだな。何ら変わりない日は16時には終わるが、戦闘準備やら演習やらだと最悪日付は超える。それにウチは他のとこよりもいたずらっ子や酒飲みが多かったからな。そいつらのお説教やお酒に付き合ったりして、忙しくも楽しかったさ。」
とても尊い大切だったものを思い返し空母棲姫に微笑む。空母棲姫はそんな彼の微笑みの裏にある寂寞を見逃さなかった。いつか彼が私の前から居なくなってしまうような気がして、空母棲姫は健吾のその微笑みが苦手だった。
「・・・そっか、ねえ健吾一緒に映画沢山見よっ!」
ポンと柏手をし、適当に裏面にされているブルーレイディスクを手に取り健吾に見せる。
「あ”」
健吾がしまったと声を出し空母棲姫が手に持つブルーレイディスクを取り上げようとする。
「ん?」
しかし流石は空母棲姫。軽く身を躱し態度が変わった原因であろうブルーレイディスクを表面に翻す。彼女の目前に現れたのは”俺が拾ったイ級ちゃんが女に生まれ変わったので俺の女に仕立て上げた”・・・やたらとピンク色が使われているパッケージ。挙句の果てには何故かイ級が女の姿になり、あられもない痴態をさらしている。
「な・・・な・・」
ワナワナと震える空母棲姫。
「アーオネエサン。ソレチガウ。ゴカイネゴカイ。ソレオッサンニ、ムリヤリモチカエラサレタモノ」
棒読みをはるか遠くに通り越して外国人の片言になる健吾。
「ナラナンデカエサナカッタノ?ココニアルッテコトハソウユウコトダヨネ?ネエ?」
悲報、空母棲姫のハイライトさんと言語さん死亡し空母棲姫さんに進化。
「いや、それはあのですね。海よりも高く、山よりも深いお話がありましてですねはい」
空母棲姫のハイライトが消えた代わりに赤い光が彼女の目に宿る。それは空母棲姫がマジ切れした時に起こる現象だ。つまりどういうことかというと健吾の命の灯が風前の灯火である。頑張れ健吾ここを乗り越えれば今夜はドン勝だ。
「イイワケヲシナイ!!」
「イエスマム!」
健吾が最早ここまでかと走馬燈を巡らす。
「もう!健吾も男の子だから仕方ないか」
空母棲姫が大きいため息をつき顔を赤らめながらパッケージをしげしげと見つめる。
「・・・・え?」
朗報、健吾今夜はドン勝確定。
「どうしたの健吾?」
ぽかんとする健吾を面白そうに見やる空母棲姫。
「え、怒んないのかなと」
「オコッテホシイノ?」
空母棲姫が空母棲姫さん化する。あかん、大人しくしとくべきやで健吾。
「そんな滅相もない。ふだんの貴女で居てください。何でもしますから」
即座に頭を下げ、禁句を言う健吾。何も言わない空母棲姫に胡乱げに見ると空母棲姫がニマ~と笑っていらっしゃる。数秒前の己を殴り倒したくなる健吾であったが既にもう遅い、賽は投げられたのである。
「じゃあじゃあ!今度映画館デートしましょう!そこで映画館に行ってそれぞれ好きな映画見るの!男に二言は無しよ!」
ぺかーっと笑う空母棲姫に毒を抜かれる健吾。健吾はもっと過酷なお願いをするものだと思っていた。それにしても空母棲姫は何ら人間のカップルと変わらないデートに憧れていたのか。そんな当たり前のことすらとても尊い出来事の様に捉えている節がある。
健吾はそんな空母棲姫が考えている尊い出来事を当たり前にすると決めた。
「空母棲姫。その願いは勿体ないから別の願いにしておけ。映画館のデートは何回でも行くから」
空母棲姫を優しく抱きしめ右手で彼女の頭を撫でる。すると空母棲姫も健吾に両腕を回し抱きしめる。
「えへへ、うん分かったわ。今すぐには思いつかないから後にとっておいていいかしら?・・・それともうしばらくこのままで居てほしいの」
「はいよお嬢さん」
二人は暫く抱きしめあい、それぞれの体温と鼓動を確かめ合った。
「・・・ところで何でイ級が女性になったのかしら?敵をもそんな対象にするの?
「それはその作品の設定だろ。後者の質問は・・・結構こんな作品がある」
「・・・・・・人間は業が深いわね」
「・・・・・そうだな」
改めて人間の欲望の闇を感じる二人であった。
一話で終わんなかっただと・・・正直艦娘の下り削ろうかと思ったけど、本編で全然艦娘出てきてないし、オリキャラばっかだから書いたけど、数人しか出れてねえ。/(^o^)\
なのにこんな拙作を読んでいただけて本当に感謝。感想評価、閲覧ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします!
書きながら口の中甘くなったのでタバコ吸いながらドクペ飲みながら書いてたら、何を間違えたのかドクペに煙草の灰を入れる奇跡のオウンゴール・・・ではまた今度・・・