迂闊な拾い物   作:猫茶屋

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お待たせしました。寝れなくなったので、ちょびちょび書いてたのを書きたいまま書いたらまだ続く羽目に・・・

登場する料理の作り方ですが筆者の我流ですので、あまり参考にしないでください。旨いものを食いたければ店に行くのが一番。


フデヤスメ続き

 AV事件の後、二人に気まずい雰囲気が流れる。この空気を打破しようと健吾が動く。健吾がテーブルの引き出しからA4程度の白い紙とマジックペンを取り出し、ソファーの前に配置されたテーブルにそれぞれを置き健吾はソファーに座る。そして紙に適当にマジックペンで縦の線、横の線を適当に書いていく。

 

「健吾?何をしてるの?」

 

 空母棲姫が健吾の右後ろから覗き込み問いかける。知っていてわざとやっているのか、空母棲姫の長い髪が健吾のうなじをさわさわと触れる—むず痒い。

 

「今回は俺がおススメする作品をチョイスするからさ、見る順番をあみだくじで決めてしまおうとね」

 

 確かに如何せん健吾の所有する映画作品は多すぎた。仮にも全てを見ようとしても二日や三日では到底全てを見るのは叶わないだろう。ならばすべてを見終えた健吾におススメを決めてもらうのは実に合理的である。

 

「ふふーん!健吾のおススメとは大きく出たわね。私は結構映画にはうるさいわよ?」

 

 両腕を腰に当て胸を突き出しドヤ顔をする空母棲姫。健吾はうなじの搔痒感が無くなったことに密かに安堵したが彼女の発言に気になる点があるので問う。

 

「いや、君初めて映画を見るんだろ?」

 

 健吾の純粋な疑問にドヤ顔のまま固まる空母棲姫。再び沈黙が訪れるかと思ったが健吾があみだくじの作業を続行した。

 

「待ってよ!構いなさいよ!」

 

 再び空母棲姫が健吾の後ろから顔を出す。今回は健吾の首に空母棲姫の両腕を回されるオプションつきで。

 

「今さっさと決めないと見終わるのが遅くなっちゃうだろ」

 

 空母棲姫に答えながらも作業の手を休まない。そんな彼の態度が面白くなかった空母棲姫が口を窄め健吾の体を揺らしながら拗ね始めた。

 

「健吾がつめたいー」

 

「気のせいだ」

 

「健吾が構ってくれなーい」

 

「今もこうして答えてるだろー?」

 

「私はもっと健吾と楽しくいたーい」

 

「俺は空母棲姫と一緒にいる今のこの時間がとても好きだよ」

 

 空母棲姫からの揺さぶりが唐突に止まりその少し後に首筋に軽い衝撃が来る。おや?と思い健吾が振り返るが空母棲姫の白い髪が見えるばかり。彼女から仄かに漂う甘い匂いが香る。

 

「空母棲姫?」

 

「・・・・・いきなりは卑怯よ」

 

 未だ健吾の首筋に顔を埋め、決して健吾に顔を見せようとしない空母棲姫が小声で喋る。

 

「何がだ?」

 

「だからさっきの健吾の言葉よ・・・私といるこの時間が好きって・・・」

 

 好きのセリフだけ更に小声になり、自分で喋って恥ずかしさから逃げるようにグリグリと健吾の首筋に頭を動かす。

 

「いたたた、空母棲姫少し痛いから止まってくれ。よし、止まったな。お前と暮らし始めてまだ短いが、最近時の流れが早く感じてな。一人の時は矢鱈と遅く感じていたのに・・それでお前と一緒にいるのが楽しくて好きだと気が付いたんだ」

 

「・・・・・うん。私もこうして健吾と一緒に居られて楽しいし、好き」

 

 事実、空母棲姫は健吾に無理矢理押し掛ける形で彼の家で一緒に暮らすことになった。その件で彼は空母棲姫を迎えてくれたが実は傍迷惑ではなかっただろうか、その不安があった。しかし先程の健吾のセリフで彼女の不安は払拭された。

 

「ところで空母棲姫、貴方の腕が俺の首を締め付けられて苦しいんですが」

 

 空母棲姫が健吾を見ると確かに彼女の腕が健吾の首筋を締めていた。健吾の顔色も悪く暫く彼女のあすなろ抱きに耐えていたのが伺える。

 

「あわわ、ごめんね!」

 

 空母棲姫が慌てて両腕を健吾の首から離す。締め付けが無くなったことにより十分に呼吸が出来るようになった健吾はせき込みながら息を吸う。空母棲姫が健吾の背中を優しく擦り呼吸を促す。

 

「げほっげほ!お、お前なぁ・・・」

 

 苦し気に空母棲姫を見やるが彼女はゴメンと手を合わせて健吾に謝るばかり。このアホの娘をどうしてくれようかと思っていると昼時を示すサイレンが島中に鳴り響く。

 

「げっ!こんな事してる間にもう昼になっちまった!!」

 

「あ~どおりでおなか減るわけね」

 

「ほら、だらけてないでお前も飯の手伝いしろ」

 

「えー?もう少しだけゆっくりしたい~」

 

「このわがまま娘は・・・」

 

 健吾の居なくなったソファーの背もたれに空母棲姫が両腕を伸ばしてだらける。折角の健吾の残り香と体温を感じていたかったのに、当の本人に空母棲姫の背骨に指を沿わされてしまって泣く泣くソファーと別れることとなった。

 

「ひゃん!ちょっと何するのよ!」

 

「何時までも動かないからイタズラしただけさ」

 

 被害者が抗議しても加害者は飄々として昼食の準備をする始末。

 

「何でそんなセクハラ紛いのイタズラするのかしら?」

 

「俺が手伝えって言ってもどうせ、もうちょっと~とか言ってすぐに動かないだろ?」

 

 恨みがましく健吾をジトっと睨む空母棲姫だが、健吾に図星を言い当てられ黙るしかなくなる。しかもなまじ空母棲姫の言い方が似ているので尚更質が悪い。

 

「・・・よく私の事分かってるじゃない」

 

「んー?なんか言ったかー?」

 

 空母棲姫のつぶやきは健吾の耳に入ることはなかった。空母棲姫は面白くなかったので健吾の昼食作りを観察することにした。

 

 健吾が鍋に水を大量に入れて更に大量の塩を入れる。そして三口コンロの右下に置き火をかける。まな板を取り出しニンニク、近所の方からお裾分けでもらったベーコン、健吾の畑から採れたアスパラガス、トマト、ニンニクを素早くカットしていく。鉄のフライパンにたくさんのオリーブオイルを敷き、先程カットしたニンニクを投入し左下のコンロに置く。

 

「あれ?フライパンを温めてからオリーブオイル入れるんじゃないの?」

 

「持論になるがその方法だとオリーブオイルの折角の香りが飛ぶんだ。だから最初にオリーブオイルとニンニクを入れてから火をかけると香りも飛ばないし、ニンニクの火の通りを調節しやすくなる」

 

「ふーん・・・それにしても健吾のその調理スタイルって言うの?カッコよくて好きよ!」

 

「別に普通のデニムにYシャツだが・・・?」

 

 目の前で意気揚々と此方にサムズアップをする空母棲姫に戸惑う。改めて健吾は自身の格好を見るが、提督時代に買ったデニムに白無地のYシャツだ。一体何が彼女の琴線に触れたのだろうか?

 

「まだまだ女の子の事を知らないのね、いいわ教えてあげる!」

 

 言うやいなやソファーの背もたれに腕を組み顎をついていた空母棲姫がキッチンに来る。

 

「健吾は普通の格好だと言ってたけど、キッチンに立つ休日の男で白Yシャツ、更に腕捲りが男のアダルトさを醸し出してるのよ!」

 

 目を輝かせながら空母棲姫が語りだした。彼女は普段は要領のいい女性だが、偶に現在の様にスイッチが入ってしまうと気分が高揚しマシンガントークが始まってしまい、トークの収まりがつかなくなる。マシンガントークをいち早く察知した健吾が止めさせるがてらキッチンから追い出す。

 

「分かったから、倉庫から玉ねぎを一個取ってきてくれないか」

 

「あ、ちょっとこれからだっていうのに!もう!」

 

 健吾は改めて昼食作りを開始する。右下にセットした鍋が沸騰していたので4人分のパスタ麺を投入した。配分は健吾で1.5人前、空母棲姫で2.5人前だ。空母なだけあって一般女性と比べたら健啖家だが、一航戦の赤青コンビと比べたら可愛い物だ。

 

 左下にセットした鉄のフライパンに火をつけ、中火にセットする。ニンニクが焦げないように軽くフライパンを回しベーコンを投入するとリビングのドアが開き空母棲姫が頼んだ玉ねぎを持ってきた。

 

「はい、言われた通り持って来たわよ」

 

「サンキュー、ついでにその玉ねぎカットしたらこのフライパンに入れてくれないか?」

 

 ’分かったわ’と言って手を洗った後健吾の隣に立ち、慣れた手つきで玉ねぎをカットする。

 

 空母棲姫はおばさんに様々な特訓を受けたお蔭で洗濯、料理、裁縫など出来るようになった。最初の彼女の料理は大変なものだった。野菜炒めを作ろうとし、揚げ物をするかの如く大量の油をいれ危うく火事を起こしかけたのだ。健吾は当初、油通しをするのかと思ったが野菜を入れてフライパンを振ろうとしたところで違うことに気付き、火を止めようとしたが時すでに遅し、天井まで届かんとばかりの火柱が上がった。呆然とする空母棲姫をすぐに退避させ大きめの濡れた布で窒息消化にしたのは記憶に新しい。

 

「切ったからフライパンに入れるわよ」

 

「おお、頼む」

 

 玉ねぎがフライパンに投入されたと同時にアスパラガスも入れる。ベーコンの香ばしい匂いと野菜の仄かに甘い匂いがキッチンに充満する。健吾がフライパンを振っていると隣から”く~”と可愛らしい腹の音が聞こえたので隣を見る。

 

「・・・こっち見ないで」

 

 頑なに健吾と視線を合わそうとしない空母棲姫に健吾はフライパンの中から一切れのベーコンを菜箸で取り出し空母棲姫の口元に差し出した。

 

「ほれ、味見してくれ。あーん」

 

「あ、あーん・・・うん!美味しいわ!」

 

「よっしゃ。もう少しで出来るから、皿とか用意してくれると助かる」

 

「はーい」

 

 空母棲姫が食卓にフォーク、お茶を用意するのを見てから健吾は締めに取り掛かる。ゆでていたパスタの煮汁をフライパンに入れて乳化させ乳化を確認したら潰しておいたトマトを入れる。フライパンを軽く振った後シンクにざるを用意し、ざるに鍋を傾かせパスタを取り出す。軽く水気を切った後フライパンにパスタを投入する。ソマトソースと材料、パスタが混ざったら塩コショウをふるい完成。付け合わせのサラダも適当にキャベツ、キュウリ、トマトをボウルに入れて漸く昼食が完成した。

 

「サラダとドレッシング食卓に持っていくわね」

 

「あいよ。じゃあパスタの盛りつけ終わったら早速食べよう」

 

「早くしてね!もうお腹ペコペコなんだから!」

 

 最近のテレビで流れている流行り歌を鼻歌で奏で、食卓へ歩く空母棲姫。健吾も早く昼食を摂りたかったので、盛りつけを急ぎながらも丁寧に整え空母棲姫が待ってる食卓へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん!良い匂いね!」

 

 食卓に並ぶトマトソースが主体のパスタに、サラダを見て空母棲姫がこれ以上待ちきれないといわんばかりの視線を健吾に向ける。自分も少しは手伝ったとはいえ昼食作りの殆どを健吾が作ってくれたのだ。苦労した健吾より先に食べてはいけないと自身で自制する。

 

「よし!早速食うか、いただきます!」

 

「いただきます!」

 

 二人最初に手を付けたのはパスタだった。健吾はフォークでたくさんのパスタを巻き大口を開けて食べ、空母棲姫は少量のパスタを巻き小さく口を開けて食べる。

 

「うん、即席で考えた分にしては上出来かな」

 

「~~~っつ!美味しいわ!」

 

「そうか、ありがとさん。まだあるからゆっくり食べな」

 

「ええ!」

 

 そのままパスタをもむもむと美味しそうに食べる空母棲姫。

 

 健吾は部屋に食事の匂いが着くかと考え、部屋の窓を開ける。すると海の漣の音や海猫の鳴き声が健吾の耳朶に入る。何ら変わらない夏の休日の昼間、食卓からは舌鼓を打ちご機嫌な同居人。健吾は呆れと安心が混じった声をごちる。

 

「・・・・・平和だなぁ」

 

 

 




閲覧ありがとうございました。終わり方がなんか打ち切りっぽいのは気のせいです。
エタりませんからね(笑)
感想等待ってます!

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