迂闊な拾い物   作:猫茶屋

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お待たせしました。ようやくの本編です。


ケンカと服装と

 健吾はおばさんにしがみ付いて泣きじゃくる空母棲姫を黙って見るしかできなかった。彼女は、空母棲姫として(人類)から恐れられ味方(深海棲艦)からは信頼されていると思っていた。

 

 事実、確かに味方からは信頼されたであろう。しかし、それは空母棲姫としての力しか見られていなかった。幸いにも彼女には防空棲姫、戦艦棲姫らの知己がいるらしいが、もっと彼女に親身になる味方が居れば、彼女の疎外感は無くなることは無いだろうが、幾分かは和らげることは出来たのかもしれない。

 

 彼女の味方は深海棲艦、憎悪を糧に生まれ活動する。味方からしたらイレギュラー、バグなのはむしろ彼女の方である。深海棲艦にそんなたらればを用いても無意味なことだ。

 

 未だに空母棲姫に何と声を掛ければいいのか分からずに健吾が狼狽していると、それを見かねたおばさんが空母棲姫の頭を撫でながら健吾を呼ぶ。

 

「健坊。あんたね意地の悪い質問をするもんじゃないよ。空母棲姫ちゃんが救いを求めて遠路遥々やってきたんだよ、私たちは困ってる子を放っているような冷たい子に育てた覚えはないよ。それに、この子がそんな非道なことをすると思うかい?」

 

 心底呆れたようにおばさんがため息を吐く。

 

「・・・するとは思っていないが念のためだ」

 

 味方からは尊敬、畏怖の目で見られ、敵からは恐怖の対象でしかなかった鬼神もおばさん始め、島民の人たち相手には鬼神の名も形無しに頭が上がらないようで、おばさんの説教を受ける。

 

「もしかして空母棲姫ちゃんが深海棲艦だからかい?この子の人となりを見たら分かるじゃないか。そんな事は私よりも健坊の方が知ってるだろう?」

 

「まぁ、空母棲姫は他の奴らと違うのは知ってるよ」

 

「ならいいさ。ほら健坊さっさと仲直りしなさい。悪いことしたらどうするんだっけ?」

 

 あまりにも子供扱いをするおばさんに、健吾は苦虫を噛みつぶしたような顔で苦言をする。

 

「おばさん、子供じゃ無いんだからそれはやめてくれないか」

 

「あんたがいくら年を取ろうが、いつまでもアンタたち兄妹は私たちの子供だよ」

 

 そう言っておばさんは右手を健吾の頭に置き撫でる。あの余り手の掛からなかった健吾が説教されてるのも珍しいというのに、挙句の果てには頭を撫でられる始末。それを見た男性陣が早速揶揄いに走る。自身を揶揄う声を聞いた健吾は始め、恥ずかしそうにもがいていたが、それでもなお続く愛撫に諦めされるがままになる。それと同時に感謝の念とこの人たちには敵わないと思った。

 

 いつまでも続く大きな子供たち(男性陣)相手におばさんが二人の愛撫をやめて始動する。それを見た大きな子供たちが一目散に逃げていく。おじさんが酒を飲みすぎたのか千鳥足でおばさんから逃げようとするが小石に躓き転び逃げ遅れる。おじさんが助けてくれと仲間に手を伸ばすが誰も助けに行かずおばさんの餌食になる。

 

 おじさんを筆頭に大きな子供たちの絶叫のコーラスを背後に健吾がしどろもどろに空母棲姫に話しかける。

 

「く、空母棲姫。その、なんだすまんかった。お前はそんな奴じゃないと知ってるのに、もし他の深海棲艦同様に人を殺していたかと思うと冷静になれなかった」

 

「・・・そうよ。私の事信頼してくれてたんじゃないの?」

 

 半眼にふくれっ面で健吾を睨む空母棲姫。健吾もこれには尻ごみになるしかない。

 

「すまん、言い訳にもならんが深海棲艦を見ると怯えよりも先に怒りが先行してしまって・・・」

 

「まぁ、私深海棲艦ですしー。その中でも強い強い空母棲姫ですしー」

 

 完全に臍を曲げてしまった空母棲姫。気づけば空母棲姫のサイドテールもピンと逆立っている。このサイドテールは空母棲姫の機嫌と連動しているのかと一人驚愕する健吾。

 

「すまなかった空母棲姫。お前がそんな苦しみを抱えていたとは気づきもしなかった」

 

「・・・・因みに健吾から見て私はどう見えてたの」

 

「え・・・」

 

「怒らないから答えなさい」

 

 どもった健吾の様子を見て空母棲姫は絶対に碌な印象じゃないと勘づく。にっこりと優しい笑顔で健吾を問い詰める。

 

「いや、それ絶対怒る奴のセリフ」

 

「怒らないから、早く・・・ね?」

 

 これ以上の時間稼ぎは危険と判断した健吾は正直に答える。

 

「・・・とんでもないアホなおさせが来たなと」

 

「おさせって何?」

 

「・・・・痴女」

 

「私のこの格好のどこが痴女なのよ!!」

 

 案の定というべきかやっぱりというか。案の定、空母棲姫が怒る訳であって。怒ったのもおさせというキーワードが怒りのスイッチだった。彼女が怒るのも無理はない、どの女の子も自身の事を痴女と言われれば誰だって怒るむしろ訴えられてもおかしくはない。

 

「お前の格好だろうが!!肌色成分強いんだよ!ほぼ半裸じゃないか!」

 

 健吾も怒り返す。空母棲姫と出会ってこの服装でほぼずっと健吾の近くにいるのだ。空母棲姫の健康的なハリのある肌が常に健吾の視界に入る。元提督といっても提督以前に男なのである。健吾の理性は日々摩耗されていくばかり。

 

「な・・・!?この格好がおかしいっていうの!?」

 

「ああ」

 

「そんなまさか・・・おばさーん!!」

 

 あまりにもキッパリと答える健吾に私の美的感覚がおかしいのかと慄く空母棲姫。ならば同姓であり、師匠でもあるおばさんに白黒はっきり付けてもらうべくおばさんの元へむかう。

 

「おや、どうしたの空母棲姫ちゃん。健坊と仲直りできた?」

 

 死屍累々の光景にただ一人立つおばさんが苦笑しながら空母棲姫を迎える。

 

「い、いやあそれはもうちょっとなんですけど、私のこの格好っておかしいですか!?健吾におかしいって言われたんですけど!」

 

 異様な光景に怯える空母棲姫だったが、健吾のおさせ発言で怒りが再燃しおばさんに同意を求める。

 

「んー、空母棲姫ちゃんのお肌が沢山見えちゃってるから、新しい洋服買いましょう」

 

 間接的にお前の格好はおかしいと言われ、空母棲姫敢え無く撃沈。

 

「えー、俺らは今の格好がいいんだけどなー」

 

 おじさん、藪医者を筆頭にそうだそうだーと空母棲姫に男性陣からの同意の声が多数上がる。

 

 その声を聞き再び復活する空母棲姫。彼女の顔からは嬉々に満ちた表情を浮かべておばさんを見る。

 

「空母棲姫、気をつけろあのおっさんどもはお前のえろい格好を見たいだけに言ってるんだ」

 

健吾は空母棲姫の背中に今まで羽織っていた上着を着せ、肌色の露出を隠す。

 

「わ、あ、ありがとう」

 

「どういたしまして、さておっさんども。さっきは揶揄ってくれたり空母棲姫の格好みたりよくも俺らで遊んでくれたな」

 

 健吾は空母棲姫の頭をぽんぽんと撫で、おっさんたちと対峙した。

 

「おいおい健坊、ウチの母ちゃんならまだしもお前がこの人数に挑むのか?」

 

 健吾の目前には八人のおっさん達。それを見ても健吾は何ら憶することなく、掛かって来いとジェスチャーを送った。

 

「おうよ」

 

「っか~、言ってくれるねぇ。お前ら敵は健坊だが手加減はいらねえ!いくぞ!」

 

 おじさんの声を皮切りに一斉に健吾に迫る。対する健吾は慌てることなく、先頭のおっさんを正拳突きで迎え入れる。健吾の拳がおっさんの腹部に命中しおっさんが悲痛な声を上げて後方に飛ばされた。おっさんの後ろにいた二人は、突如こちらに飛んできたおっさんに対処することが出来ずにおっさん諸共倒れる。

 

「・・・・え?」

 

 誰が漏らした言葉だろうか、一斉に襲い掛かろうとしたおっさん達を除く五人は健吾とおっさん達を交互に見やる。健吾は腕の筋を伸ばしたり、屈伸したりと余裕そうだ。

 

「おー健吾ったら強いのね」

 

 あまりの出来事にフリーズしている五人を横目に、空母棲姫と女性陣がパチパチと拍手を健吾に送っている。更にその横ではおばさんがうんうんと納得したようにしきりに頷いている。健吾も健吾でどうもどうもーと会釈する。

 

「あー・・・健坊一つ言いか?」

 

「なんだ藪医者」

 

 おずおずと健吾に腕を上げ質問する藪医者。他の五人が顔を青ざめている事から、もう乱痴気騒ぎは起こらないだろう。

 

「お前さんそんなに強かったか?軍に行く前は、そんじょそこらの子供と変わらなかったと思ってたんだが」

 

 藪医者の至極真っ当な質問に空母棲姫、おばさんを除く島民が一斉にうんうんとしきりに頷く。

 

「海軍入って体鍛えただけだが?」

 

(嘘つけー!!!)

 

 不思議そうに首を傾げる健吾におばさん除く島民たちは心の中で叫ぶ。

 

 唖然としたままの男性陣を後にして健吾は空母棲姫と向かい合う。

 

「空母棲姫、今度服買いに行こう」

 

 健吾からのデートの誘いに島民の女性陣は黄色い声を上げてざわめき立つ。

 

「空母棲姫ちゃん行ってきなさい!」

 

「そうよ、健坊なら元提督だから甲斐性あるわよ!沢山お洋服買ってもらいなさい!」

 

「あたしいいお店知ってるから!今メモ書いて渡すから待っててね!」

 

 空母棲姫が女性陣にあっという間に囲まれて姿が見えなくなる。健吾は何時になっても女の人たちは買い物が好きなんだなと再確認して苦笑する。

 

「空母棲姫ちゃん、お店に行くのならその恰好だとまずいから取り敢えずはこの服で我慢して頂戴な」

 

 おばさんが手に持っていた紙袋から黒いティアードワンピースとつば広女優帽、ローヒールをとりだし、空母棲姫に渡す。

 

「え、こんないい服を頂いても良いんですか?」

 

「ええ、いいわよ。昔、若い頃に買ったのはいいんだけどあの人の前で着るのが恥ずかしくなっちゃって結局着れなかったのよ。押し入れにしまいっぱなしにするよりかは、空母棲姫ちゃんに着てもらった方がその服も嬉しいでしょうよ」

 

 この二つはどこかの高いブランド品なのだろう。ワンピースは手触りがとてもよく、デザインもフリルがあるものの落ち着いたもので、膝丈まである。帽子は頭に白いリボンが巻き付かれてあり、そのリボンが帽子の思い黒色との調和がとれている。ローヒールも帽子と同じ様なリボンが足の甲の所にちょこんと付いていた。歩きなれないハイヒールよりも歩きやすいローヒールを選んだのもおばさんの優しさだろう。

 

「さ、早速空母棲姫ちゃん着てごらんなさい。ほら健坊がエスコートしなきゃ」

 

 さあさあさあと、健吾と空母棲姫を健吾の家に押しやり、女性陣、男性陣仲良く酒盛りを再開すること十分後。漸く健吾と空母棲姫が現れる。

 

 女性陣は黄色い悲鳴と、男性陣は感嘆の声が上がる。

 

 おばさんから貰った三品を着た空母棲姫は貴族の令嬢のような気高く、気品のある佇まいだ。元々彼女の肌は白い。そこに黒と白で合わさったワンピース、帽子、ローヒールが更に彼女に映える。

 

 皆から注目されている恥ずかしさから、もじもじと両方の人差し指をつんつんと合わせる。いたたまれなくなったのか空母棲姫が健吾に助けを求めるために横にいた健吾を見るが、健吾も恥ずかしそうに顔を赤くし似合ってるよと言われ更に赤くなる。

 

「うん、空母棲姫ちゃん似合ってるよ。あたしの目に狂いは無かったね」

 

「母ちゃん、ナイスだ」

 

 おじさん夫妻が満足げに頷く。

 

「おばさん、こんなにいい服ありがとうございます!」

 

「いいよ、こっちもいいもん見れたんだからお相子様だよ」

 

 空母棲姫がおばさんに頭を下げる。本当にうれしいのだろう海風で帽子が飛ばされないように大事そうに胸に抱えている。

 

「おばさん、空母棲姫に服ありがとうね」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

「ね、ねえ健吾。あのさ・・・」

 

 もじもじと恥ずかしそうに、健吾を見る空母棲姫。

 

「ん?どうした空母棲姫」

 

「そ、その私に名前を付けてくれないかしら」

 

「な、名前を付けてくれたら、今回の件は許してあげる!

 

 言い切ってしまったと、顔を真っ赤に染めて健吾を見るが帽子で自身の顔を覆い隠してしまう。またそっと帽子を下ろし、健吾がまだ此方を見ていることに気付くとまた帽子で顔を隠す。

 

「なあ、健坊やい」

 

 その一連を見たおじさんが健吾の肩を腕で組む。

 

「なんだおっさん」

 

「空母棲姫ちゃん、尊いなぁ」

 

「全くだ」

 

「あの子に似合う名前考えてあげな」

 

 そう言うとおじさんはおばさんの元へ向かった。

 

 




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