迂闊な拾い物   作:猫茶屋

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ぽちぽち書いてたら出来ました。久しぶりにすんなり書けて進んだかな。短いけど。この筆の進みは常にこうでありたい


名は体を表す

「名前かぁ・・・」

 

 つぶやき、今も帽子で顔を隠す空母棲姫を見る。白い肌、首、腕の黒く赤い線が入った肌。出るどころは出て、締まるところは締まっている。間違いなくその女性達が羨む体型だ。性格は天真爛漫でアホで泣き虫、泣いたかと思うとすぐに笑う。山の天気でもこんなにコロコロと変わりはしないだろう。これで深海棲艦の頭を張っていたというのだから頭が痛いが、今ここに居る彼女が素なのである。

 

 彼女は空母棲姫として生まれ、今まで自身を殺して空母棲姫として生きてきた—健吾と会うまでは。彼女は今まで頑張ってきた。

 

 空母棲姫であれと、どれだけ自分を追い詰め傷つけてきたのであろうか。ここに来てから、彼女は楽しそうに心から笑っている。

 

 願わくば彼女の幸せがいつまでも続くように。いつまでも彼女に笑顔の花が咲いていますように、両親を失ってから神様とやらに忌避し祈らなくなった健吾は、この時ばかりは天に顔を上げ神拝する。———空母棲姫の名前が決まった。

 

「空母棲姫、決まったよ」

 

 健吾が未だに帽子で自身の顔を隠したままの空母棲姫を呼ぶ。

 

「え、も、もう決まったの?」

 

 驚嘆の表情を浮かべ、健吾をまじまじと見る空母棲姫。無理もない、彼女が健吾に名前のお願いを依頼してから数十分と経っていないのだ。しかし、空母棲姫は健吾のことだから真剣に考えてくれたのだろうと信じることにする・・・流石にペット染みた名前は拒否させてもらうが。

 

 その様子を見た健吾は苦笑しながら手を軽く振る。

 

「いやさ、正直に言うと前からお前の名前をどうしようかと考えてたんだ」

 

「え?」

 

「いつまでも自分のことを空母棲姫って呼ばれるの嫌だろ?それは種族名であるだけだ。それはお前も嫌だし、俺も嫌だから勝手に何個か名前を考えさせてもらった・・・って何故泣く!?」

 

「え?あ、あれ、本当だ」

 

 空母棲姫の目から地面に流れ落ちる紅涙。空母棲姫自身も気づかなかったのだろう健吾に指摘されて初めて自身が泣いていることに気付いた。

 

「ど、どうした空母棲姫。また俺やっちゃったか?」

 

「う、ううん、違うの。違うの。ただやっぱり健吾は私の事を考えてくれてたんだって思ったら身体の奥がぽかぽかして、凄く胸が温かくなって。な、なんだろうこれ、健吾を見てる時と似てる?だけどこんなに温かいのは初めて。健吾、私、どうしたのかな。どこか欠損でもしちゃったのかな」

 

 とめどなく溢れる涙を拭くこともせずに、空母棲姫は健吾を見る。彼女は自身に起こっている出来事に戸惑いを隠せない。

 

「空母棲姫、おいで」

 

 腕を広げて泣き虫を自身の胸に抱きこむ。彼女の疑問に自身が答えるのは流石に憚られた。背中に空母棲姫の腕が回った感触がある。下を見るとすっぽりと健吾の懐に空母棲姫の華奢な身体が収まっていた。——温かい。これが空母棲姫の体温なのか。とくん、とくんと彼女の鼓動が伝わる。これが空母棲姫の鼓動音なのか。間違いなく彼女は今生きている。生きて自身の胸に収まっている。

 

 そんな普通で当たり前な事がどれだけ難しいことであるか、どれほどの薄氷の上を歩いて得た奇跡なのだろうか。健吾は唐突に両親を失くした時に普通が如何に困難であるのかを突き付けられた。もし空母棲姫が他の者と接触し倒されていたら?いまここにある普通は無かった。——兎にも角にも、空母棲姫は彼女は今自身の胸で生きている。その事実だけでよかった。

 

 空母棲姫は健吾の胸元に自身の頭を預ける。逞しい胸板と腕で自身を抱きしめられ彼の匂いと鼓動が感じられる。それだけでなんて多幸感なのだろうか。

 

 健吾は先程の問いには答えない、それは自身で探せという事なのだろう。それにしたって少しくらいはヒントくらい教えてもらえないのだろうか。そんな少し意地悪な鬼神さんには私の涙で彼のシャツを汚してしまおうと彼の胸板で顔を動かし涙を拭く。私の涙で彼のシャツの色が変わる。それだけで彼は私のものだという証拠をつけたみたいで興奮する。・・・はっ!いけないこれでは犬と変わらない。

 

 そういえば前に私が少し噛んでしまっただけで、にゃんこ棲姫なんて言われる始末。やっぱり鬼神さんは意地悪だ。だけど、そんな意地悪をもっとして欲しいと思う私は姫失格だ。いや、元からか。ここではみんなは空母棲姫ではない、私を見てくれる。とてもありがたいことだ。更に今から健吾から私だけの名前を教えてくれる。早く教えてほしいというつもりで彼の背中に回している両腕に少し力を入れる。ねぇ、健吾。私の名前を教えて。

 

 

「空母棲姫」

 

 健吾が空母棲姫を抱きしめたまま彼女の耳元で彼女の今の名前を呼ぶ。彼女を種族名で呼ぶのはこれが最後だ。

 

「はい」

 

 空母棲姫も待ち焦がれた様子で、健吾から出る言葉を一言一句聞き逃さないように更に耳を健吾の口元に近づける。

 

「君の名前は」

 

「はい」

 

「雀躍だ」

 

 名前を言われた瞬間、空母棲姫——雀躍の目が見開く。

 

「じゃ、じゃくやく」

 

 健吾は雀躍を引きはがし両手を雀躍の両肩に乗せる。

 

「ああ、お前の名前は雀躍だ」

 

「じゃく、雀躍」

 

 雀躍はふるふると静かに震えながら俯く。雀躍という名前が自身の身体に吸い込まれ温かな熱になるのを感じた。顔を上げると優しい顔で莞爾とした表情で雀躍を見つめていた。

 

「そう、欣喜雀躍の雀躍だ。お前には笑っていてほしいんだ」

 

 言ってしまった後に恥ずかしいセリフを言ってしまったと、健吾が顔を赤らめ気恥ずかしそうに雀躍から顔を逸らした。

 

 そんな恥ずかしがり屋で少し意地悪な鬼神さんに、雀躍は考えるより先に行動に移した。

 

「けーんご!」

 

「ん、なんっ!?」

 

 健吾の視界一杯に広がる雀躍の顔。と同時に唇に当たる柔らかな感触と、雀躍から香る仄かに甘い匂い。

 

「っぷはぁ。えへへ、ありがとうね!健吾!!んふふ、雀躍。雀躍か~。私は雀躍!うん、素敵な名前をありがとうね健吾!!」

 

 健吾との口づけを終える雀躍は腕を後ろに回して組み、鼻歌を歌いクルクルとワンピースの裾が舞い上がるのも厭わずに回る。回り終えると小刻みにスキップをしながら健吾に向かって破顔する。

 

「ははは、名は体を表すとは言うが本当だな」

 

 まさに今の彼女は雀躍そのものであった。

 




閲覧、お気に入り登録、栞、誤字報告ありがとうございます。やっとこさハーメルンの多機能フォームになれたと思います。思いたい。

正直書く前までは別の名前でした。しかし、個人的にも空母棲姫大好きなので幸せになって欲しいとの思いで急遽この名前にしました。前回のあとがきに読者さんに空母棲姫の名前当てゲームでもやろうかなと思いましたが、誰からも来なかったら空しいやんと思って止めました。

・・・今度名前当てゲームやれたらやりましょうか(笑)

改めてここまでの閲覧ありがとうございました。感想などマジでお願いしますー

因みにパソコンで雀躍と打つと寂用が出てきて軽くうっとうしいです(笑)

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