健吾と空母棲姫改め—雀躍は自身の名前が決まり、改めて自己紹介を行う為に島民の元へと向かった。
「おばさん、おじさん、皆さんに聞いていただきたいことがあります。私の名前がきまりました!」
雀躍が島民に向かって大声で呼びかける、最後は震え声だった事が島民達は気付いていた。しかし先程の健吾に詰問をされた時の悲しみに満ちた声では無い事が彼女の嬉々とした表情から用意に伺えた。余りにも嬉しそうな雀躍を見て島民は柔和な笑顔で彼女を迎える。
「空母棲姫ちゃん。もう決まったのかい?思ったよりも早く決まったねえ。」
「健坊、ちょっといいかい?」
おばさんが健吾を連れ出す。一体何事だろうかと考えつつもおばさんに着いていく。
「あれ?健吾?ごめんなさい、ちょっと待っててください!」
おばさんに連れ出される健吾を見た雀躍が、首を傾げつつおばさんと健吾の元へと向かう。
「どうしたんだ?おばさん」
「健坊。まさかとは思うけど空母棲姫ちゃんの名前を適当につけた訳じゃないだろうねぇ。名前を着けるという事はその人の人柄を表し、一生その人に付き添う事になる大事な大事な儀式だよ?」
おばさんは健吾に向かい含み笑いをするが、目は真剣に健吾の目をしかと見る。健吾も己の誠実さを示す為に真剣におばさんの目と向き合う。そのおばさんの少し奥の小さな茂みに良く見慣れた白いサイドテールがぴょこっと突き出ているのを見つけた。
本人は上手く隠れているつもりなのだろうか。健吾の視線が自身を向いていないことに気付いたおばさんが健吾の視線を辿り、後ろをちらりと見やってサイドテールを視認する。おばさんの口から失笑が漏れる。
「・・・オホンッ。あぁ、分かってるよおばさん。さっきこの子にも言ったが、前々から名前を考えていたんだ。いつまでも空母棲姫なんて呼び、呼ばれているこの子が寂しそうな表情を浮かべたらと考えたら我慢ならなかったからな」
「この子にばれない様に毎夜毎夜、辞典を開いて考えに考え抜いた末の名前をつけたんだ。それに適当に名前でもつけてたら此処まで喜んでる事なんざ無いと思う」
な?と健吾が茂みに隠れていた雀躍に同意を得ようとする。すると雀躍は勢いよく健吾の左腕に抱き着きそのまま頬ずりをする。
「ぷっあははは、それもそうだね。ごめんね健坊、悪戯で言ってみただけよ。それにしても空母棲姫ちゃんはよっぽどいい名前を健坊に着けてもらったのね。見てるこっちまで嬉しくなるね」
「ええ、健吾にとても素敵な名前を着けてもらったもの。私、今とても幸せよ!」
雀躍が先程より更に強く健吾の左腕に抱き着く。健吾は羞恥を我慢して悦に入る雀躍の頭を空いている右手で優しくそっと撫でる。
「おーい二人ともーイチャイチャするのは良いが、早く空母棲姫ちゃんの名前を教えてくれー!」
おじさんがお酒を飲み、二人を揶揄うかのように急かす。揶揄われた健吾と雀躍は慌ててそれぞれ左腕を、頭を放した。
「・・・本当にあの人ったら昔っから空気が読めないねえ。折角健坊と空母棲姫ちゃんの幸せそうな顔拝んでたっていうのに・・後で折檻しなきゃあねえ」
奥の底から低い声を出し、二人の仲睦まじい様子を楽しんでいたおばさんが立腹する。
「あはは、ま、まあ私たちも夢中になったのがいけないし。おじさんを怒らないで下さい」
「そ、そうだな。これは俺たちが悪いからおばさん怒っちゃだめだ」
おばさんの立腹を宥める為に二人が干渉する。
「ふふっ、冗談だよ。空母棲姫ちゃんの新しい名前が決まったっていうのに、そんな無粋な事はしないから安心しな」
あーはっはっは!!と健吾の背中を勢いよくバシン!と叩きそのままおじさんの所へと合流するおばさん。背中を強く叩かれ咽る健吾の背中をさする雀躍。
「相変わらずおばさんは凄いわねぇ・・・」
「そうだな、今回の事で一番喜んでるのはおばさんだろうな」
「え、そうなの?」
「ああ。あの人はお前の事を実の娘の様に可愛がってたからな。そんな大事にしてた娘のお祝い事だ、そりゃぁ喜ぶだろう」
「そ、そっか・・・えへへ。なんか恥ずかしいというか、嬉しいのがごちゃごちゃで良く分からないわ健吾」
「雀躍。その感情は照れると言うんだ。さあ皆の所に行こう。これ以上遅くなるとおばさんが暴れて手が付けられなくなっちまうぞ」
おどけておばさんの暴れる真似をする健吾を見て、雀躍がケラケラと笑う。そして二人は漸く何時の間にか集まっている島民のもとへと歩を進める。
「お、来たか健坊。俺らだって早く空母棲姫ちゃんの新しい名前を呼びてえのに・・・焦らすじゃねえか」
こちらに向かってくる健吾と雀躍を見たおじさんが早速揶揄いに走る。
「あはは、ごめんなおじさん。今この子が皆に教えるから」
健吾が雀躍の背中を軽く押す。振り返り健吾を見て頷く雀躍、頷き返す健吾。
「皆さんお待たせしてごめんね。健吾にこの名前を付けてもらえた時本当に本当に嬉しかった」
雀躍の一声で辺りは口笛や手笛、歓声で溢れる。
「そ、それじゃあ私の名前を言います」
雀躍が恥ずかしそうに身を縮こませながら喋ると、島民たちの歓声がピタリと止む。ついさっき迄の歓声が嘘かのようだ。
「私の名前は、雀が躍ると書いて雀躍と言います。改めて皆さんよろしくお願いします」
途端に先程以上の歓声が沸き上がる。
「雀が躍るで雀躍か!健坊!いい名前をつけたね!!雀躍ちゃん此方こそ改めてよろしくね!!あははは!めでたいねえ!」
「雀躍・・・健坊あの子にぴったりだな。あの子の支えになってやれ。雀躍ちゃんはお前を必要としているんだ。お前を頼りにしてる雀躍ちゃんの、女の子の期待に応えてやんないとな。なあお前ら!!」
「おーう!!!」
島民の男衆に揉みくちゃにされる健吾。だが彼の表情はとても嬉しそうだ。
顔を真っ赤にしながらも羞恥に耐え漸く、島民たちに新しい自分の名前を告げることが出来た雀躍。彼女は既に空母棲姫—悲しい寂しがりな一人の深海棲艦—ではなく雀躍—喜び笑顔に満ち溢れた女性—として新たな門出に立つ。
「あ、雀躍ー」
健吾が男衆からのお祝い兼、雀躍ちゃん侍らせて羨ましいぞの嫉妬兼、ネーミングセンスもいいとかふざけんなの嫉妬という名の揉みくちゃ祭りからやっとのことで抜け出せた。死闘を演じたのだろう彼の服装は乱れに乱れているだけでなく、髪もぼさぼさになり普段の彼の格好からは乖離している。
「わ!健吾どうしたのその格好!?」
急いで健吾の元へと駆け寄る雀躍。健吾に傷が無いかペタペタと健吾の胸元、腹、背中などを触る。健吾は彼女の小さな手が自身の身体の各所を弄られ、恥ずかしさとむず痒しさを感じるが、彼女の為すがままに成る。
「うん、怪我が無さそうで安心したわ。それにしてもこっちの男の人って元気な人が多いのね関心するわ」
雀躍はしばらく健吾の身体の弄りという名の触診を終え、健吾の後ろに立ち、彼の髪をおばさんから貰った櫛で梳き整えていく。整えるといっても健吾は短髪なので然程時間は掛からないだろう。
「昔、漁とかで鍛えられた体力が有り余ってるからな」
「昔?今は違うの?」
「昔はここは深海棲艦が出る前は漁が盛んだったけど、深海棲艦が出てからは漁に行く回数が減ったよ。何故かは分からないが最近この島近海に現れる深海棲艦が減ったとか何とか。まあ食うに困らない分だけの漁獲量はあるさ」
「ふーんそっか・・・・あ”」
「ん?どうした?」
今まで健吾の髪を梳いていた手がピタリと止まる。
「い、いやーそのーね?」
しどろもどろになる雀躍に、絶対ろくでも無い事だと気付きため息を吐く。振り返り彼女と正対する。
「ね?と可愛い声で言っても誤魔化されんぞ。怒らないから答えなさい」
ニ”ッ”コ”リ”と雀躍に健吾は今自分に出来る精一杯の爽やかな笑顔を雀躍に向ける。
「あ、あれ?何かデジャヴ」
「怒らないから、早く・・・な?」
ずずいっと雀躍の顔面に己の顔を近づける。勿論彼女の頭の両脇には健吾の強く硬く握られた手が既にセットされている。
「ひいっ!!・・・・あのね、ここに流れ着いた翌日にね?イ級ちゃん達に健吾との時間を邪魔されたくなかったから、この島近海の子たちに大人しくしててって号令出しっぱなしだったの忘れてた・・・・」
「・・・・・・・・・」
「えーと・・・・テヘペロッ?」
ボスクラスになるとイ級を始めとした姫、鬼級では無い深海棲艦に号令出す事出来るのかよと思ったり、雀躍の嬉し恥ずかしい理由に怒ろうか怒るまいか葛藤していた健吾だったが、雀躍の一言が余計だった。
「なんでそんな大事な事教えてくれなかったんだ!!このばか雀————————!!!!」
「に”ゃ”—————————————————!!!!ごめんなさいいいいいいいいいいいいい!!!」
雀が鬼にアイアンクローで堕とされた。
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・・・一応今回の話で出てきたネーミングセンスに関しては自画自賛じゃないのであしからず。それではまた。