窓の外から雀のさえずりが聞こえる。しかし、体がまだ完全に覚醒しておらず瞼を閉じたまま鳥の声を聞きながら昨夜のことを思い出す。
――あの後我が家に招待した島民の皆と酒盛りをした。そこまではいい。うん。そこまではいいのだ。事の発端は、おじさん夫婦の姉妹の一言から始まった。
「ところで健兄ぃは、てーとく?ってのをやってたんだよね?」
胡坐を掻く自身の足に二人左右にお行儀よく座り、こちらに顔を向け疑問を問いかける。・・・その姉妹の後ろには鬼の形相のおじさんに気付くが、彼は気づかなかった振りをして彼女の疑問に答える。
「あぁ、そうだよ。ところで何で俺が提督をやってるのを知ってるんだい?」
「えっとね~?前に家族みんなでテレビを見てたら、海軍さんのお話をやってて白いお服を着たおじさんとかが並んでたの。そしたらお父さんが健兄ぃもこのおじさんと同じお仕事をやってるって!言ってたの!」
姉妹の姉の方は、話していくうちに興奮してきたのか足の上で軽く跳ねる。それを見たおじさんは彼女が一つ跳ねるごとにどんどん形相が険しくなる。怖い。
どうやら彼女が見た白い服のおじさんとは恐らく少将、中将、大将の将官から成る会議のことだろう。
「それでね!それでね!お父さんが健兄ぃは提督だからかわいい子と一緒に海を守ってくれてるんだって!」
「ははは、そうだなぁ。まず、メイちゃんがテレビで見たのは、俺のもっと偉い人たちさ。それでお父さんが言ったのは」
少し離れたところから”お義父さんじゃねぇ!”と声が聞こえ”アンタは黙ってな!!”とビンタをしたのだろう。おじさんの裂帛が聞こえた。南無。
「・・・えーとだねぇ」
負傷者がでたにも関わらず、周りは特に気にした様子も微塵も見られない。
これがこの島のいつも通りの風景なのだろう。皆仲良く談笑している。負傷者を除けばだが。
現に目の前にいる彼女らも別段気にした様子も無く、目を輝かせ早く!早く!とせがむようにパタパタと跳ねを繰り返す。
彼も分かった分かった。と苦笑しつつ姉妹の頭を優しく撫でる。すると彼女らはニパッととても嬉しそうに笑い、後頭部を彼の背中にぐりぐりと押し付ける。
「話を戻すよ?お父さんが言ったかわいい子は艦娘の子たちなんだよ。彼女らは俺にとって部下であり、仲間でもあり、戦友でもあり・・・家族なんだよ」
彼は姉妹を撫でながら自身がまだ提督であった思い出が蘇る。
――夕立は海から戻って来るたびに、よく頭を撫でるのを催促していた。時雨は最初こそ遠慮をしていたが、MVPをとって来たときに頭を撫でて以来、夕立と一緒に催促をしていた。
軽巡組は神通と木曾が大金星を上げた際に、思わず駆逐艦組にやるように頭を撫でたら二人とも顔を真っ赤にして俯いてたな。そしてそれを見た川内、那珂ちゃん、球磨型の姉たちが囃し立てて怒った神通、木曾に追いかけられていた。・・・少しして廊下から木曾の悲鳴が聞こえたのもご愛嬌だろうか。球磨曰く「姉より優れた妹なんていないクマ!」と言っていた。・・・重雷装巡洋艦になっても姉の壁は超えられないようだ。強く生きろ木曾。
重巡組は一番喜んでいたのは意外にも摩耶だったな。あの子は普段の口調が男勝りだが、どこぞの連合艦隊旗艦を務めた戦艦と同じように、実は可愛い物が大好きななのだ。
あの子も頭を撫でると恥ずかしいからヤメロ!と言うが、頭をグリグリと押し付けて顔を下に向きニヨニヨと笑っているのは知っている。
近くにあった鏡が反射して彼女の表情が鏡越しに映る。そんな素直じゃない彼女に一度犬のようにわしゃわしゃと少し乱雑に撫でたら怒られた。まあ当たり前だが。
少し話は変わり、何故俺が彼女らが可愛い物好きを知っているのかというと、摩耶と同じ重巡洋艦の青葉が発行している鎮守府新聞の一面にでかでかと載っていたのだ。
朝から某連合艦隊旗艦と摩耶が青葉を追いかけっこをしていた。勿論上に立つものとしての責務がある俺は何故かパンチパーマをした青葉を執務室に呼び、たっぷりと楽しいオハナシを彼女に叩き込んだ。
後日やり過ぎたかと自省した俺は青葉を呼び、こっそりと甘味処間宮で俺のおごりで一緒に間宮パフェを食べた。これで反省し皆のプライバシーを守った鎮守府新聞を作ってくれれば、と思ったが翌日華の二水戦の顔をした神通に追いかけられていた。
事の発端である今日付けの鎮守府新聞を摩耶から渡され読む。”神通が派手なオトナ下着を購入!提督を酒に酔わせ夜戦に持ち込み!決戦は今夜か!?”勿論すぐさま青葉を呼びオハナシをしたのは言うまでもない。
戦艦組は陸奥がお気に入りらしい。大人の女性の魅力に富んだ彼女が秘書官の時、俺が常日頃から頑張ってる陸奥に何か欲しいものはあるかと聞いた事がある。
正直言った後にしまったと思った。何しろセクシーという文字が歩いたり、戦場に出る彼女である。一体陸奥はどんな高級ブランドのバッグを要求するかと身構えていた。
すると彼女の要求は駆逐艦組と同じ様に頭を撫でてほしいことだった。思わず唖然とした俺に陸奥は端麗な顔を赤く染め上げ、早口でまくしあげた。
どうやら彼女は普段から頭を撫でられている駆逐艦組が羨ましかったらしい。しかし、私は戦艦として皆のお姉さんだから我慢しなければ!と思っていた矢先自身の姉である長門が俺に頭を撫でられているのを見て、色々と吹っ切れたという。
密かに高級な物の催促ではなくて良かった。と安堵のため息が出るのを咄嗟に殺す。はい、そこ。ヘタレとか甲斐性無しとか言わない。特に後者は俺に対しての殺傷力が高い。俺だってそこそこ貰っているが、ちっこいのとか一航戦の赤青に間宮で奢るから毎月厳しいんだよ。一航戦の誇りは飯の前には灰塵と消えるのが良く分かった。普段はかっこ可愛いのに、まぁそれも彼女らの個性ということで良しとしよう。
話を戻すが、普段の落ち着いた雰囲気のある陸奥だが、今目の前にいる彼女は普段の彼女と乖離して此方をチラチラと上目遣いで見る。しおらしい新たな彼女の一面に内心ドキドキしながら優しく彼女の丁寧にキューティクルされた髪の上を撫でる。
「~~~~っつ!!」
フルフルと体を小刻みに震わせ此方を見る。何か言いたいのに声の出し方を忘れたかの様に口をパクパクと動かすばかり。
そんな彼女が親鳥から餌を貰う雛のようで吹き出してしまった。彼が唐突に噴き出したのが気に入らなかったのか、陸奥は口を膨らまし拗ねてしまった。
「・・・何で笑ったのよ、こっちは勇気を出して貴方にお願いを頼んでるのに」
「すまんすまん、お前の平生の様子から離れた表情が見れて嬉しかったんだ。」
「それに、お前の口をパクパクしてる様子が雛みたいでな」
彼の一言が彼女の羞恥心のキャパシティが限界を超える。
「バカ!!」
そのまま彼女は執務室を飛び出した。その後も彼は陸奥のご機嫌取りに苦心した。
因みに一航戦、五航戦が的場で訓練してる時に赤青にかっこ可愛いのにと言ったら如実に狼狽えた。あのクールな加賀が真っ赤になったのには俺も驚き恥ずかしくなった。
真っ赤になった加賀を見た瑞鶴が煽る。
「おやおや~先輩?どうしたんですか~?先輩のお顔真っ赤っかですけど~?確かに提督さんの発言には驚きましたけど、こんなに狼狽えてる先輩初めて見ましたね~。真っ赤なお顔の先輩か・わ・い・いですね!」
瑞鶴が不思議な踊りをしながら煽る。これが俗にいうズイズイダンスだと後から聞いた。初めて見た。普段の瑞鶴も可愛いがこれは酷い。姉を見ろ。涙目になってあわあわと狼狽えている。
「・・・・・・・・・・・・・・・頭にきました」
ぼそりと低い凍みた声が加賀の方から聞こえ、瑞鶴と何故か俺の方に艦載機が飛んできた。
「待て!加賀!!瑞鶴は分かるが何故俺にも艦載機が!?」
横から”提督さん酷くない!?”と一緒に逃げてる鶴の声が聞こえる。お前は加賀に追いかけられるのに慣れてるだろう!俺はお前と違ってそれどころじゃないんだよ!!
「そもそも貴方が、迂闊に発言をしなければこんな事にはなりませんでした。後、瑞鶴?貴女には積もる話が沢山あります。じっくりと赤城さんとお話しましょう?」
「「あっ(察し)」」死んだわこれ。
あの後涙目の翔鶴に救助され包帯でぐるぐる巻きにされ、鼻と口を塞がれ死にかけた。
潜水艦組は全員で押し掛けてきて揉みくちゃにされて撫でるどころではなかった。しかも換装。所謂スクール水着を着たまま此方に突撃してくる。彼女らの柔らかな肉感に素数を数えながら只、耐えるしかなかった。
「・・・ぃ!・・・・んぃ!・・・健兄ぃ!!」
体を揺さぶられはっとする。
「おっとっと、ごめんねどうしたの?」
「む~っ。健兄ぃが艦娘の話をしてからぼーっとしてたんだよ!」
「あれ?そうだっけ、ごめんね?」
頭を掻きながら姉妹に謝るが、姉妹は彼に構ってくれない事にむくれ彼の両膝で跳ねる。
「もっとお話するのー!」
「するのー!!」
どうしたもんかと、彼が困り果ててしまう。そんな彼に見かねたのかおばさんが助け舟を出してくれた。
「ほら、健坊が困ってるでしょ?それにもうそろそろ、夜も遅くなるから家に帰るわよ」
未だに彼の両膝で跳ねる姉妹の額をペチンと、デコピンを放つ。姉妹は”あ”--””だーーー”と呻き声をあげ撃沈。おじさんの遺伝子は確実に受け継いでるのを確信した島民一同。
「ほら、帰るわよ。それじゃあ健坊。お邪魔しました。何か困ったことがあれば直ぐに相談すること。いいね?」
おじさんは姉妹を俵持ちで担ぎながら確認する。
「わかりました。その時はよろしくお願いします」
よし。とおばさんは頷き、おじさん一家はそのまま自宅へ向かった。姉妹が涙目で此方に腕を伸ばしながら。ドナドナのように次第に遠くなる彼女らを見て”絶対におじさんの遺伝子を受け継いだな”心密かに確信する島民一同。
――日もまたぎ丑三つ時に差し掛かり、誰が言ったわけでも無く自ずと酒盛りはお開きになった。島民から食材や労いの言葉を貰い。彼一人になり、こんなに広かったかと。見慣れた部屋なのに誰も居なくなった部屋を見渡し、少しの寂寥感を覚え、軽く部屋を片し就寝した。
「あ”--そうだ、野菜の収穫と水やりをしないと」
二日酔い特有の頭痛に苛まれつつ、無理矢理体を起こし水を一杯飲み畑へと向かう。
「でかいスイカが成ったか。こいつはスポット近くの小川で冷やすか」
いそいそと手早くスイカを回収し、水やりを終え例の何時もの秘密のスポットへと向かう。
「あ、健兄ぃ!おはよう!」
「健兄ぃだ!おはよう!」
スポットへ向かう途中で姉妹に会う。手に虫取り、虫かごを持っている。
「おはよう、虫取りかな?あまり森深くに行ったらダメだよ」
「「はーい!じゃあまたね健兄ぃ!」」
姉妹は手を振り彼が今来た道を辿る。
「・・・後でおじさんとこにスイカ差し入れ持っていこう」
元気な姉妹に癒されスイカに傷が付かないように歩く。
「これでよ・・・しと」
小川に着き予め持ってきた籠にスイカを入れ、取っ手と木にロープを巻き付ける。これで午後また来ればキンキンに冷えたスイカに様変わりだ。
家に戻り朝食、後片付け、洗濯、昼飯をとる。いつもと何ら変わらない日常を送っていた。
昼休憩をとった後、秘密のスポットに向かい到着する。しかし彼は眉を顰める昨日の今日だというのに、大きな漂流物が砂浜に打ち上げられていた。
「何だあれ?布か?布にしては面積があるな」
遠目だと何か黒と白の二色の物体としか確認できない。彼は燃やせるゴミなら直ぐに燃やしてしまうか、燃えないゴミなら分解して小さくして持ち帰ろうと考え漂流物に近づく。
漂流物に近づくたびに分かってくる。見覚えのある黒の換装。梳けばさらさらと流れるような白いサイドテール。出るところはでて、引っ込むところは引っ込んでいる、世の女性が羨望するシルエット。
「・・・・・・・・・まさか」
そうだ、俺はこいつを知っている。何故なら俺は過去こいつにさんざん頭を抱えさせられたのだから。こいつの首に下げているペンダントは俺が提督になった際に当時の初期艦から貰った物なのだから。
「何故、お前がここにいる・・・空母棲姫・・・!」
漂流物は彼と因縁のある空母棲姫だった。
甲子園見ながら執筆してたら野球に夢中になって進まねえ。
という訳で空母棲姫さん登場です。敵なのにめっちゃ好きなキャラクターです。