空母棲姫のてんやわんやな昼食の後、健吾達は腹ごなしついでに雑貨屋をめぐっていた。
空母棲姫が唯一、健吾に―いや正確には、健吾の家なのだが。それは家の中の飾り気が無いという事だった。空母棲姫は昼頃に流れるトーク番組の可愛らしい雑貨特集を見て ふと思った。
(あれ、私の周りにハート柄の物ってあったっけ?)
ありません。ある訳が無いのである。考えてみてほしい。秋田健吾は元提督であり、現役の頃は鬼神だ、何だと味方からは尊敬やら自分が所属する艦娘からだけでなく、他の鎮守府の艦娘からも大いに慕われていた。敵からは、畏怖や恐慌。会ったが最後、彼が腕を一振りするだけで死ぬ。といったあからさまに嘘だと思う噂でも深海棲艦側は事実と認識され一部からは死神と散々な評価を受けた健吾。
そんな彼は今は故郷の実家に帰り、男一人で暮らしている。大事な事なので二回言うが男で一人暮らしである。そんな輩の家にハートの雑貨等置いている訳がない。仮にだが以前同棲していた前の彼女だとしたらまだ話は分かるが、生憎とその様なことは無い。故に無機質な彼の家が女の子受けしにくいのは当然の帰結である。
(よし、今度のデートで私好みの雑貨を買うのよ私!勿論健吾も気に入るような調理器具も買って二人仲良く料理もして・・・これが共同作業ってこと!?そうよね!そうに違いないわ!それで精力が付くご飯を食べて夜になって、私の艶やかな魅力に我慢できなくなった健吾が・・・うふふふふ)
随分と雑な皮算用で幸か不幸か、そんな雀躍の思惑に気付かない健吾は彼女の行きたい雑貨屋へと一緒に歩く。
(確かに俺の家は女の子には随分無機質に見えてただろうな。だけど瑞雲とか烈風とかのプラモデルもいいと思うんだがなぁ、空母棲姫でもあまりそういうのは興味ないのかねぇ・・)
別の娘だったら沢山喜んでもらうという事を健吾は知る由もない。
「あ、健吾この豚さんの蚊取り線香可愛くない?健吾もこのキャラすきでしょ?」
雀躍がおもむろに立ち寄った雑貨屋でジブ〇とコラボしていたのか、戦闘機乗りの主人公が蚊取り線香様に可愛らしくデフォルメ化されていた。
「ん?おぉ!よく見つけたな!買うぞ!ちょうど蚊取り線香が欲しかったところだったんだ。」
自分が好きな映画のキャラであり、更にそのキャラがちょうど欲しかった蚊取り線香になっていて正に一石二鳥で健吾の気分が上がった。
「本当に健吾はその人・・人?好きよねぇ。私はこっちも可愛くて好きなんだけどなぁ。」
そう言って雀躍が差し出したのは白トト〇だった。口をあんぐりと口を開けたトト〇の上には、トト〇と同じく口を開けたカエルがちょこんと乗っていて可愛らしい。
「それも可愛らしくていいな、雀躍二つとも買うか」
言うや否や健吾がそっと丁寧に買い物かごに入れた。
「本当に?ありがとう健吾!!」
雀躍が健吾の腕に抱き着く。健吾から蚊取り線香が割れちゃうだろ!と怒っているが彼も薄く笑っている。なんだかんだ言って健吾は雀躍に甘いのである。
あれから雑貨屋を巡った後に、雀躍念願のアパレルショップで買い物をした。途中試着室で着替え途中の雀躍が、わざと健吾に試着室のカーテンを開けさせて半裸の雀躍とご対面した健吾が雀躍を説教したトラブルなどあったが。
二人は帰りの船を待っている。空は既に赤みがかっている。海上をひらひらと飛ぶ海猫が鳴いている。地平線に沈もうとしている太陽が、夢のような一日が終わってしまうという事を諭されているかのようで雀躍は太陽から目を背けた。
「雀躍」
両手に沢山の紙袋を持つ健吾が雀躍の異変を感じ取り、彼女の名前を呼ぶ。
「んー?またお説教?本当に懲りたから人前ではもうしないわよ」
こんな自分の些細な感傷に健吾まで付き合わせる気は無いと、おちゃらけて返す。
「人前じゃなかったらするのかよ・・・。雀躍また来ような」
雀躍の頭を撫でようとしたが手荷物が多すぎて上手に彼女の頭を撫でることが出来なかった。
「・・・ぷっ!あはははは健吾ったらカッコ悪ーい!」
手を叩きながら涙すらも浮かべて大笑いする雀躍。恥ずかしさから赤くなった顔を雀躍に決して見せまいとそっぽを向く健吾。
「けーんご!ありがとうね!」
雀躍がそっぽを向く健吾の頬にキスをし、きつく健吾の身体を真正面から抱きしめる。
「おま・・!人前ではしないって!それに蚊取り線香がわれちゃうだろ!」
別の意味で更に顔を赤くして胸元に見える髪の上に自身の顎を乗せる。相変わらず良い匂いがする彼女の幽香にドキリと胸騒ぎする。
「私が言ったのは無暗にはしたないことをしないって事だもん。健吾は何を考えてたの?健吾ってばムッツリさんなんだね~」
健吾の胸元で隠れて見えないがきっとしたり顔をしているのだろう。その証拠に健吾の胸をうりうりと突いている。
「ふふふ、また感傷に浸ったお前を心配したのに・・・お仕置きだ!」
雀躍の頭の上に載っている顎をグリグリと動かす、下からきゃーと楽し気な声が聞こえているから嫌がっている様子は無さそうだ。二人のじゃれあいは帰りの船が到着するまで続いた。
「着いたーーー!!」
「はい、無事に到着っと・・・ん?手紙?」
自宅に着くころには既に空は暗くなり、満点の星空が現わしていた。先に雀躍がカギを開け、健吾が雀躍がカギを開けている間に郵便受けの確認をする。いつものルーティンだった。
「健吾ー開いたよー荷物頂。ん?どうしたの?」
雀躍は神妙な顔持ちをしている健吾の異変を嗅ぎ取った。
「誰からの手紙?」
「呉安広さん・・・俺が入隊して直ぐ面倒を見てくれた人だ」
荷物を雀躍に渡し、健吾も玄関へと入る。
「ふーん、健吾の上司か。で?そのくれやす・・さん?の手紙で健吾はおかしいの?いじめられたとか?」
「くれやすじゃなくて、やすひろな。いじめられるなんてとんでもない、あの人は俺に何でも教えてくれた人だよ」
「じゃあ、何で?」
健吾を心配した雀躍が健吾のそばに近寄る。
「えーと・・・・その・・・」
「ん?言ってみなさい?」
雀躍は健吾が言い淀む事は、今までの経験的に絶対ろくでも無い事だと分かった。なので今、この状況もろくでも無い事なので健吾に笑顔で詰め寄る。
「ぃました・・・・」
「ん?健吾、ハッキリと言いなさい怒らないから。ね?」
嘘である。絶対に怒る、雀躍は決めている。何があろうと、絶対に驚かずに怒る。
話は変わるが、彼女は驚いたり感極まると猫語が出る癖があり、そのせいで健吾に限らず色んな人に揶揄われたのだ。一体誰だ。にゃんこ棲姫なんて言ったのは。こちとら誰もが恐れおののく空母棲姫だというのに。あのおじさんの娘さんたちに猫じゃらしを貰ったのはただのプレゼント。そうだ。そうに違いない。じゃないと泣く。
話を戻す。今までのも大したことは無かったんだ。今回もきっとそう、怒って風呂上がりのアイスは健吾の分も貰う。これはもうどうしたって覆せない決定事項である。さぁ、来てみなさい秋田健吾。私のこの広くて大きい度量で待ち構えてあげるんだから。心構え完了である。だが悲しきかな、真実は残酷である。
「・・・・・俺、お見合いする事になった」
「にゃにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
夜の初め頃。夜空に一匹の猫の鳴き声が響いた。
閲覧ありがとうございました。デート編は長引かせたくなかったのでサクッと終わらせてしまいました。書くと何故か長くなる・・・
雀躍えっちいの苦手じゃ無かったん?て思った方が居るかとは思うのですが彼女は自分から攻めるのはまだ平気。恥ずかしいには恥ずかしいんです。自分からと、他人から+不慮のえっちいのに弱いだけ。今回は初めてのショッピングデートだから浮ついてたんです。
次回から新しい章になります。また見てくれるとありがたいです。誤字指摘してくださる方ありがとうございます。助かります。感想、評価してくださると頑張れます。
それでは。