―チクタク、チクタク。
健吾のリビングに飾られている時計が正確に現時刻を一秒ずつ刻んでいく。リビングには、健吾と雀躍の両名が対面でソファーに座っている。
「むー……」
雀躍が頬を膨らませ健吾を睨む。心なしか雀躍の目に涙が溜まっている。
「いや、だからな…呉さんの顔に泥塗る訳にはいかないんだよ」
目の前で未だに機嫌が収まらない雀躍にどうしたものかと、後頭部に手を当て戸惑いを隠さず密かにため息を吐く。幸い、気付かれなかったようだ。
現在の様な喧嘩が勃発した理由は、先程健吾が言った呉さんの手紙が事の発端である。
――一時間ほど前――
「けけけけけ、健吾!?お、お見合いってどういう事なの!?」
場所をリビングへと変え、健吾の両肩を強く握る雀躍。健吾は雀躍の握る力が強すぎて思わず顔を顰めてしまう。その表情を見て、冷静さを取り戻した雀躍はごめん。と言って手の力を抜くが表情はキッと健吾を睨む。
「待て。手紙を斜め読みしただけだから、もう一度しっかり読む。」
健吾は茶封筒に包まれた手紙をもう一度開ける。…茶封筒を留めるために張られた赤いハートのシールについては、二人とも突っ込みたくなかったのかスルーを決め込んだ。
『―残暑お見舞い申し上げます。立秋とは名ばかりの暑さが続いておりますが、お変わりありませんでしょうか。』
「待ってくれ!」
手紙の読み上げを中断する健吾に怪訝な表情を浮かべる雀躍。
「ちょっと、どうしたのよ健吾」
「いやいや、これは違う。こんな丁寧な手紙を、ましてや俺に送って来る訳がない!」
「自分がお世話になった恩人に対してなんてこと言うのかしらね…」
健吾らしからぬ混迷っぷりに呆れた眼差しを向ける雀躍。
「雀躍この手紙を書いてる人は呉さんじゃないんだ。そうだ。きっとそうに違いない…けど、字面が呉さんのだ!?嘘だろ!?まさか、年には勝てず丸くなったのか…」
もし今呉が居たら迷うことなく、健吾の頭を容赦なく引っ叩いていたであろう。雀躍は今も尚混乱する健吾を横目に読み上げを健吾に変り続ける。
『お陰様で私たちの鎮守府は私、艦娘皆一同元気に過ごしております。少し困ったことに最近の艦娘は皆、貴方に会いたがっています。駆逐艦の娘に限っては何時会えるのかと、毎回毎回催促しております。ハーレム野郎がもげろ。…こほん。暫くは酷暑が続くと思われたのでどうぞご自愛ください。 PS・どうしてもお前とお見合いしたいっていう知り合いの親父さんに別嬪な娘さんがいて、その娘が希望してるから絶対に空けとけよ。本当にもげろ。かしこ』
「あぁ、懐かしい呉さんだなぁ」
「………………」
健吾は恩人であり恩師の呉の所々混ざる罵倒に懐かしさを感じ昔を思い返す。雀躍は手紙を読んだだけで一癖も二癖もありそうな呉の性格を読み取った。しかし、雀躍が押し黙っているのはそれが理由ではない。
「なんで健吾は呉さんの艦娘に慕われているのかしらねえ」
「”え。それはあれだよ。よく呉さんの鎮守府に合同演習とかしてたからじゃないか」
「ふ~ん。それにしては駆逐艦の娘にはやたらと慕われているらしいじゃない。もしかして健吾って小さい子が好きな変態さんなの?」
雀躍の瞳が怪訝な瞳から養豚場の豚を見る目に変っていく。
「断じて違う!!」
「本当かしら?まぁロリコンの変態さんだとしても、私が矯正してあげればいいだけだしね」
「話を聞いてくれ………ん?まだ茶封筒に手紙が残ってる?」
健吾はぼやきつつ、茶封筒を捨てようとしたらまだ中に手紙が残っていることに気付いた」
「あら、本当ね。何かしら」
健吾が手紙を取り出そうとした瞬間。
――ピンポーン
玄関の呼び鈴がリビングに鳴り響く。
「すいませーん。秋田さんはいらっしゃいますかー?」
「はい、今出ます!」
健吾と雀躍は何事かと玄関へと向かう。
「呉安広さんからお荷物届いてますー。」
「え……」
二人の話の中心人物からの宅配物に思わず健吾は身構えてしまう。
「ど、どうしましたか?」
「い、いえ、失礼しました」
「はぁ、でしたらこちらにサインお願いします」
健吾は指定された箇所にサインをする。
「はい、ありがとうございましたー」
次の家へと配送する為そそくさと足早に去る配達業者。最初から最後まで彼の視線は雀躍へと向いていたのが気掛かりであったが。雀躍が美人とはいえ、失礼な輩だったなと心呆れる健吾。
「ねえねえ、中開けてもいい?」
待ちきれないのか宅配物である段ボールの前に座り、嬉々として健吾に許可を貰うのを待っている。因みに中身は海産物と書いている。
「海産物ならキッチンの方がいいだろ」
二人はキッチンへと場所を移した。
「じゃあ、僭越ながら私が開けさせていただくわ!」
「待て、今カッターを持ってくるから」
「ん?いらないわよ?ほらスパーって簡単ね」
雀躍はガムテープを自身の爪にあてがうといとも簡単に両断してみせた。
「おぉ、便利だな」
「ふっふーん。ではではご開帳~。おぉー!」
中には冷凍されたマグロ、エビ、ホタテ、ウニなど中にはノドグロ、金目鯛など高価な魚介類も入っていた。健吾一人だけでは到底食べきれない程の量が入っていたが、ここには健啖家の雀躍が居る。大半は彼女の胃袋に収まるだろうな。と健吾は考えた。
「じゃあ、これらは近所にお裾分けするから余ったのは解凍して刺身なり、鍋にして食うか。手紙はその後だな」
手際よく袋に海産物を分けていく健吾。雀躍も手伝い、二人で近所にお裾分けを上げに周った。
――お裾分けを上げに周り二人で海産物を堪能し、まったりと過ごしていた。
「それじゃあ、手紙の続きと行きますか」
雀躍は言うや否や手紙を読み上げていく。
『よう、久しぶりだな健吾。お前の事だ一枚目の手紙を読んで俺の文じゃなくて混乱してたんじゃあねえのか。図星って顔してやがんのが目に浮かぶぜ。お前がまだ軍に居た時にはこうして散々お前を揶揄ってたのが懐かしいぜ。』
『話を戻す。少し前にちぃっと可笑しなことがあってな。鬼神と謂われたお前の知識を貸してくれ。正直、俺もまだ混乱しているのが本音だ。先日、資源獲得の為に遠征に出した暁、雷、電、響、天龍で編成させた五人が任務中の海域にて、戦艦棲姫、防空棲姫、駆逐棲姫、北方棲姫、港湾棲姫、離島棲姫らとばったり出くわしたらしい。…信じられるか?未開放の海域ならまだしも、解放済みの海域に荒唐無稽な隊列。しかも姫級のオンパレードだ。あいつらも轟沈を覚悟で戦い、返り討ちにあった。』
『ズタボロになって、腕一つ上げられないウチの艦娘どもを向こうは何を考えたか、近くの無人島に匿い治療を続けたそうだ。健吾。お前の言いたいのは分かる。嘘をつくならもっとましな嘘でもついてるさ。だがこれは事実だ。その証拠としてお前に届いた海産物があるだろ?それは姫級の奴らが、任務の邪魔と資源を捨てさせてしまったお詫びとしてウチの娘どもに渡したんだと。余りにも量が多くてウチでは食いきれないのと、話を聞いて貰いたかったからお前にやる。…こんな話どうやって報告すればいい事やら』
『もしお前が食ったんなら話が早い。手伝え。お見合いの件も、今回の前代未聞な件も。ウチの艦娘どもが何時になったら会えるのかうるせえんだ。……健吾。あの時お前を助けてやれなくて申し訳なかった。あの時俺にもっと力があれば、お前はまだ軍に居ただろうに。今でも軍にはお前の復帰を熱望している奴らは軍人限らず、艦娘たちがいる。……指揮官としてでなくてもいい。いつでも俺んところに遊びに来い。あ、お見合いの日は絶対に空けろよ!いいか!絶対だぞ!!その日に話でもしようや。じゃあな」
リビングが静寂に包まれる。
「すごい、話の内容が凄すぎて頭に入ってこなかった」
頭を振り、再び手紙を読み必死に内容を理解しようとする健吾。
雀躍は心ここに非ずといった様子で虚空をボケーっと見つめる。
「姫級だと…果たして本当にそんなことが。暁ちゃんたちは大丈夫なのか?いや、だがここにその証拠の海産物がある。……ん?おい?雀躍、どうした」
顎に手を当てリビングの部屋をうろつき思考する健吾が雀躍の異変を感じ取った。
「健吾。もしかしたらその娘たち、私の知り合いかも…」
「な、なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!??????」
夜遅くに鬼神の絶叫が鳴り響いた。
投稿フォームで書かずにワードで書いたものをコピーして貼り付けると、行間がおかしくなる…投稿フォームだと書きづらいしどうしたものか。
以前書き直す云々言ってましたが、一通り簡潔させてからリメイクとします。
二転三転して申し訳ない…
ここまで読んでくださりありがとうございました。誤字、感想、お気に入り待ってます。
ご指摘、感想ありがとうございました。