迂闊な拾い物   作:猫茶屋

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頑張って連続投稿するぞい。・・・而今飲んでみたいなー。最近イカの薫先はまってます。飽きないですね。


藪医者からどぶ医者

おかしいと思った。なんで藪医者が人類の敵と評される深海棲艦のボスクラスの一角である空母棲姫と出会っているにも関わらず、落ち着いていられるのか。

 

「おい、健坊。この子はおめえんとこに配属されてた艦娘なんだろ?わざわざ会いに来てくれるなんて愛されてんなぁ。ええ?おい」

 

俺の横ではいつ近くに来たのか藪医者が肘で俺の脇腹をグリグリと押し付けてくる。止めろ、鬱陶しい。

 

「おい。藪医者アンタは勘違いをしているぞ。こいつの名前はな深海棲艦のボス級で空母棲姫と俺らは呼んでいる。つまり人類の敵だ」

 

俺がため息をつきながら答えると横からの鬱陶しい攻撃がピタリと止み、顔をフルフルと震えながらこちらを見る。

 

「・・・嘘だろ?この子が深海棲艦?こんな綺麗な子が?」

 

その言葉に俺は頷くことしかできなかった。藪医者は悲痛の表情を浮かべ黙ってしまった。無理もない。勘違いしていたとはいえ、ずっと自分が人類の敵、しかもボスの目の前に己が体を晒しだしていたというのだ。

 

今も撫でられている空母棲姫を見ると沈痛な面持ちで床に目を落としている。先程まで会話をしていた人に恐れられたことがショックなのだろうか。俺は変らずコイツの頭を愛撫し続ける。ハッとした様子で俺を見上げてくるが構わず撫で続ける。空母棲姫は頬を薄い朱に染め上げ俺の腕に自身の顔を押し付ける。

 

「健坊・・・」

 

ゆらりと力無く立ち上がる藪医者。普段の赫然たる様子とはかけ離れている。

 

「どうした藪医者」

 

「羨ましい」

 

「は?」

 

「え?」

 

聞き間違いだろうか、目の前の藪医者は何て言ったのだろうか。あれか、なまじ頭が良すぎると一般人には理解し難い行動をするのと一緒であるのだろうか。馬鹿と天才は紙一重のあれか?

 

「横に綺麗なねーちゃん侍らしやがって羨ましいと言ったんだ」

 

おい。現実逃避させてくれよ聞き間違いにさせてくれよ頼むから。

 

「お前何なんだ!提督だとあれか!?妖精とか非科学的なモンと仲良くなるに飽き足らず、そんなボインで綺麗なねーちゃん横に立たせやがって!」

 

いい歳こいたおっさんが地団駄を踏む。見苦しいからやめてくれ。空母棲姫が恐怖の視線で藪医者を見る。おぉすごいな藪医者、空母棲姫が艦娘に対して恐怖の視線を送るのではなく人に対して送る恐怖の視線は人類初ではないか。

 

「くっそ、何回もアイツと本島のキャバクラに行ったのにねーちゃんクラスの子には出会えなかったってぇのに」

 

何やってんだこの藪医者とおっさん。ふと、空母棲姫を見ると冷めた視線を藪医者に送っている。その視線に気づいた藪医者が身悶え始めた。すると空母棲姫が怯え俺の腕に先程より強くしがみ付いてきた。痛いから止めろ。

 

「・・・・なぁどぶ医者。もう一回言うがこいつ深海棲艦なんだが」

 

「藪医者な。もう一回言ったらわざと誤診してやるからな。それがどうした?」

 

「・・・イエ、ナンデモナイデス」

 

もういいや。

 

ふと気づくと玄関先が騒がしい、ドアがノックされたので空母棲姫を連れて出る。

 

「おーー!健坊が彼女連れて来たって本当か!?どこにいるんだ・・・って本当だー!本当に彼女連れてきたぞ!!」

 

おっさんとおばさん筆頭に前回の宅飲みメンバーがやってきた。おっさんが俺の横にいる空母棲姫を見るや否や他の島民に教え始めた。おっさんの後ろから俺と空母棲姫を囃し立てる声が聞こえる。小学生じゃねえんだから、そのノリは一体何なんだ。

 

「あ、おばさん。おっさんが藪医者と何回か本島に行って若い姉ちゃんと酒呑んでたらしいですよ」

 

仕入れたてほやほやの情報をおばさんに流す。おばさんは、おっさんと藪医者の首根っこを掴み屋内までひきずり何処かに消えた。瞬く間に裂帛が二つ分聞こえたのは言うまでもない。決して先程の腹いせではありませんとも。ええ。

 

「健吾悪い笑みしてるよ」

 

「見間違いじゃないか?」

 

そう言うと空母棲姫は呆れた表情を浮かべ、ため息をついた。失礼な。

 

「とりあえず、中に入ってください。」

 

島民を居間に迎え入れる。島民全員が空母棲姫の端麗な容姿に驚愕し、俺が男の島民から一発ずつ怨嗟の籠った拳と声を浴びせられた。酷くないか?皆が居間に入ったことを確認し,庭の裏方に空母棲姫と移動する。

 

「空母棲姫。ちょうどいい機会だ。島民皆にお前の正体を伝えたい」

 

空母棲姫が動揺した様子で俺を見る。

 

「・・・私ここの皆に受け入れてくれるかな?」

 

「それは分からない。」

 

「なら!なんで!!」

 

「逆に聞くが、皆を騙したままこの島で過ごすつもりか?」

 

その言葉に空母棲姫が息をのむ。

 

「仮に艦娘と称したとしても、勘のいい奴ならすぐさまお前が深海棲艦という事に気付くだろうさ。すると話は広まり島民が猜疑心で満ち溢れお前も俺も居られなくなるだろうな」

 

「なら、今一番に島民にお前の正体を明かした方がいいだろうよ」

 

胸ポケットから煙草を一本取り出し、煙草を吸いながらライターに火を着け紫煙を燻らす。

 

「・・・怖い。私の正体を明かすのが怖い。皆に嫌われるのが怖い。貴方に会えなくなるのが怖い・・・。ねぇ健吾知ってる?私ここの人たちに貴方の事をよろしくねって頼まれたのよ?嬉しかった。あぁ、私ここの人たちに信頼されてるんだなってとても嬉しかったの。」

 

空母棲姫は健吾の胸に自身の顔を押し付け、抱き着く。自身の鼻に煙草の独特の匂いが入ってくるのを厭わずに、彼に救いを求めるかの様に幼子のように抱き着く。彼女の体が小刻みに震え、やがて彼の着ているシャツの胸元が彼女の涙でほんのりと変色する。

 

「けどね、それと同時に私が嫌になった。なんで私は深海棲艦なんだろう。なんで私は空母棲姫なんだろう。笑って私を迎え入れてくれた皆を裏切ってる、そんな私がどうしようも無いほど嫌になった。さっきのお医者さんだってそう。健吾が私の正体を明かした時の彼の表情が今も目に焼き付いている!もうあんな表情を向けられたくないのよ!」

 

それは彼女の悲痛な思いだった。彼女が深海棲艦でなければ敵対することはなかった。彼女が空母棲姫でなければ健吾とであうことは叶わなかった。皮肉なものだ。彼女が深海棲艦で空母棲姫であったから健吾と出会えたのだから。

 

「・・・俺が助けるよ」

 

「え?」

 

「お前がここの皆に頑張って正体を明かして、お前が苦しくなったら俺が助けるよ」

 

「健吾・・・」

 

「・・・どうして?」

 

「あん?」

 

「どうして私を助けてくれるの・・・?健吾まだ私のこと疑ってるんじゃないの?」

 

「・・・まぁ、最初はな。だがなお前がこんなにぴーぴー泣いたり、泣いたかと思ったら今度は子供みたいに笑う。敵さんがこんな表情豊かに表すのはお前ぐらいだよ」

 

「う、うるさいっ!」

 

彼女は照れ隠しから健吾を軽く小突く。

 

「それにな。お前の首元にぶら下がってるペンダント、それは俺の初期艦から貰った大事なペンダントなんだ。そのペンダントが綺麗に磨かれてるんだ。疑ったのも馬鹿らしくなったさ」

 

「健吾・・・」

 

「あ、後でお前に聞きたいことがたんまりあるからな。覚悟しとけよ!」

 

「ええ!!」

 

彼女の体の震えは止み、さらに彼に抱き着く力を強める。彼女は空母棲姫。空母並みの力が出せるわけであり、人間の力を遥かに凌駕するのは言うまでもないことである。そんな彼女が力一杯彼を抱きしめてるという事から導く答えはいうまでもない。

 




なんだかんだ言ってちゃんと健吾を診てくれる藪医者(矛盾)閲覧とお気に入り登録等ありがとうございます!
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