痛烈な空母棲姫からのビンタによって頬を腫らした健吾は、冷えたビール缶のプルタブを開け、ぐびぐびとビールを呷る。夜風が皆の間を爽やかに通り抜ける。
健吾の鼻腔にふと懐かしい匂いを嗅いだ。夏の夜の匂いがした。
夏の夜。健吾は島民の語らいを、草むらから聞こえてくる鈴虫やコオロギの語らいに耳を澄ましビールを飲む。健吾は我が家の付近に自生していた月下美人の白い花弁を目で愛でながらビールを飲む。そして健吾は空を仰ぐ。彼の目前には燦然と輝く星々が煌めき、すこし距離を置いた所に月の剣がある。残念ながら彼女の周りには雲が漂っている。彼は彼女の美貌を健吾たち、地上の者たちに隠すかの如く漂う。
「・・・月に叢雲花に風か」
これ以上の酒の肴を求めるのは無粋だろうなと一人ごちる。横にいたおっさんにどうした?と聞かれたが喋ると笑われるのは目に見えていたので誤魔化した。
先程プルタブを開けたばかりなのに気づくともう軽くなっている。健吾はビール缶を振り缶から伝わる振動で残りの量を確認する。思ってたよりも軽いことに軽く顔を顰め、残りを一気に煽ぐ。
「どれ、空母棲姫に質問でもしなきゃね」
よっこらせと立ち上がり空母棲姫の名を呼び彼女を招く。
「なになに、どうしたの?」
健吾が彼女を呼ぶと、先程まで喋っていたおばさんたちに軽く一礼をした後直ぐに彼の元に向かった。それはもう凄いスピードで。
「・・・・・」
「うん?」
中々話を進めない健吾に空母棲姫はおかしいなと首を傾げる。健吾は己が提督であった頃に鎮守府内で飼っていた犬と猫二匹の内の犬を思い出していた。とてもお利口さんな犬であった。朝には猫と共に健吾の顔を嘗め回し起こすのが恒例だった。何気なしに健吾は犬とジッと見つめていると犬はくぅん?と鳴き首を傾げ彼を見る。その首を傾げる仕草が目前の彼女とそっくりなのだ。
「空母棲姫?」
「んー?どうしたの?」
「犬みたいだな」
「にゃにおうっ!?」
辺りが静かになる。健吾のまさかの犬発言に驚いた空母棲姫は怒りたかったが酒の力と驚きが相まった。相まってしまった。結果が空母棲姫の猫化である。更に締まらないのが思ったよりも大きい声が出てしまったことだ。当然大声をだされれば静まってしまう。
虫たちの会話が響く。幽かに海の音も聞こえる。ついでに虫の音色が聞こえる。夜風ですすきや植物たちの葉擦れの音が聞こえる。もっと虫の声が聞こえる。近くにいたおっさんの尻から炸裂音が聞こえる。屁に触発されたのか何故か更に虫の声色が強くなった。こうもうるさくあっては風情もなにもあったもんじゃ無い。
「——っ!!!」
噛んだことに恥ずかしくなり、顔を背ける。
「まぁ、落ち着けよにゃんこ。いや、にゃんこ棲姫よ」
「うるさい!」
「まぁ、冗談は置いといてだ」
「・・・何よ」
頬を膨らまし半眼で健吾を睨むにゃんこ棲姫。
「いやいや真面目な話さ。だからいじけるのを止めてもらっていいかなそこのお姉さん」
「むう・・・じゃあ、質問に答えたら何でもお願い聞いてくれる?」
「叶えられる範囲でならな」
「ほんと!?約束よ!!」
今まで拗ねていたのに願いを聞いてくれると知ったら表情が一転しほくほく顔になった。
「あいよ。それじゃあ質問するぞ?」
「ふふーん。いいわよ」
両腕を腰に当て胸を張る空母棲姫。張った際に彼女の胸がぷるんと揺れた。声に成らない歓声がそこにあった。男はそのロマンに歓喜し、女は彼女のスペック、格の差をこれでもかと見せつけられ絶叫が幻聴として聞こえたと健吾は後に語る。
「おほん、えーでは始めます。空母棲姫、お前は砂浜に打ち上げられていたがその原因は何だ?」
「うぐっ、いきなり私が答えづらいところを突くとは。流石はかの秋田健吾ね・・・うー、これ答えなきゃダメ?」
「だめ」
「はーい・・・えっとね、確かに傷は負ってたのよ?それも原因の一つだけど一番の原因は・・・」
「原因は?」
健吾が前のめりになる。
「・・・くよ」
「なんだって?」
空母棲姫はぼそぼそと呟く。当然健吾の耳には聞こえるはずもないので更に空母棲姫に近づく。
「だから空腹が一番の原因って言ったのよ!!」
観念した空母棲姫が叫ぶ。
・・・深海棲艦は補給するから空腹はおかしいという方いらっしゃるかもしれません。そこはご都合主義という事で・・・すみません。
感想、閲覧、お気に入り登録ありがとうございます。今回短くてすみませぬ、もっと執筆時間あれば・・・