目前の空母棲姫が羞恥のせいで顔を赤らめる。余程言いたくなかったのだろう、それっきり空母棲姫は下を向きう~う~と唸るばかりである。ならば答えなければいいのではないかと思うが、空母棲姫は質問をする前の健吾との約束を守る為に答えるのであった。
「・・・空腹が原因でここに打ち上げられたのか」
流石の健吾もこんな理由だったとは思ってもいなかった。それもそうだろう、あの空母棲姫が、提督時代に健吾や、ほかの提督たちが散々苦渋を舐めさせられた空母棲姫が倒れていた理由が腹減ったからだ。あんまりにもあんまりである。事実ここで健吾はこれからの質問を行うのが馬鹿らしくなり、やけ酒でもしようかと本気で考えた。
「怪我と空腹と大時化のせいよ!たまたま一番の原因が空腹だっただけよ!!怪我も痛かったし、時化も酷かったんだからね!?」
今まで唸っていた空母棲姫が己の名誉の回復のために弁護が始まる。空母棲姫が健吾を見るがジト目でこちらを見るばかり。ならば他の島民はどうなのかと辺りを見渡すが、皆一様に孫を見るかのような優しい笑顔を携え此方を見る。違うそうじゃない、その優しい笑顔を止めてくれと叫びたいが必死に堪える。
「怪我というのは艦娘からの攻撃でうけた傷か?」
健吾がジト目を止め、空母棲姫の体を見やる。
「・・・まぁ、そうね。けどもう大丈夫だから安心して」
空母棲姫が両腕を曲げ自身の健康をアピールする。
「そうか、それならいいや。もしなんか調子が悪かったらすぐに言うんだぞ」
「ええ!わかったわ」
心配そうに健吾を安心させるため大きく頷く。
「じゃあ、次の質問。空母棲姫は俺の顔を視認した後俺の名前を言ったな?なぜ俺の顔と名前を知っていた?」
今までの長閑な空気が変わり周囲に緊張感が漂う。
「それはね、前から私たちの間でも噂が広まっていたのよ」
「噂?」
貴重な深海棲艦側の情報に眉が上がる。
「ええ。何でも今まで簡単に制圧していた海域が、新しい司令官に代わったら途端に手強くなったとか何とか。もともと私は噂なんかに興味が無かったから、聞き流していたけど司令官の名前を耳に入れてから不思議と気になっていたのよ。秋田健吾、あなたのことよ」
空母棲姫が顔に掛かった髪をかき上げ熱の籠った目で健吾を見る。
「俺の名は君たち深海棲艦の間で有名だったのか。名誉なことなのかどうか分らんな」
「あら、誇ってもいいんじゃない?私たちはあまり人間の名前なんて覚えるどころか気にもしないもの」
「俺たちが駆逐イ級を個別に判別が出来ないような認識か?」
「そうね。私みたいに人型じゃない子たちは人間を見ても皆同じ顔に見えるでしょうね」
ふむと。健吾は煙草に火を点け、考え込む。
「聞き流したと空母棲姫ちゃんは言ってたね?ならその時空母棲姫ちゃんは健坊の顔を知らなかったわけだ。ならば空母棲姫ちゃんはどこで健坊と会ったんだい?」
おばさんが空母棲姫と健吾の会話のなかで気になった点を質問した。
「私が健吾と会ったのはそうね、いつだったかしら?確か三年前の大規模作戦だったかしらね」
健吾が思考の海から三年前の大規模作戦というワードを聞き、顔を勢いよく上げた。
「三年前の大規模作戦・・・?捷号作戦か!?」
「ああ、確か人間たちがしきりにそんな言葉を言ってたわね」
「そうか・・・あの作戦の時か」
健吾が不愉快そうに煙草を吸いこみ紫煙を空に吐き出す。煙草の灰がフィルター近くまで迫ったので灰皿に灰を落とし吸い終わった煙草の火を消す。そしてまた新たな煙草を取り出し火を点ける。
「健吾どうしたの?」
健吾から剣呑な雰囲気を醸し出している。捷号作戦の名前が出てから彼の雰囲気が一変した。
「いんや、空母棲姫にイラついてる訳じゃないんだ。個人的にあの作戦には思うところがあってな。あの作戦は当時配属された海外からの艦娘の初めての共同作戦だったからな、海外とのつまらん国の誇りや力試し、政治的な理由もあったふざけた作戦だ」
「・・・そう。人間たちにはそんな思惑があってあんな大規模な作戦を決行したのね」
「ああ」
辺りが重い沈黙に包まれる。それもそうだろう、国の闇の部分を今健吾の口から垣間見たのだから。何も日本が清廉潔白な国であると、そんな子供染みた考えは無かったがいざ実際に聞くと閉口せざるを得なかった。更に島民は今初めて健吾の過去の話を聞いた。なりたくてなった提督をやめて帰郷したのだ、なにか大きな理由があるとは思っていたがここまでだとは思っていなかった。
空母棲姫はこの空気を払拭するために話をする。
「話を続けるわね。私が担当する海域では有名な奴だったから士気は高かったわ」
「有名な奴?」
「私たちにとってはね、もしかしたら貴方たちも知ってるんじゃないかしら?健吾は絶対に知ってる筈よ。それと健吾?私は遠いところで貴方の顔を見たわよ。普通の人間と違ってスペックは高いんだから!」
ふふーんとどや顔を決める空母棲姫。少しイラっとしたが耐える。
「俺が知ってる奴・・・あの七光り野郎か!!」
「あいつ七光りなの?道理でね。杜撰な指揮をしていつも撤退させてたから、今回は誰も傷つかずに勝てると思ったのよ」
ため息をこぼし、艦娘の子たちには悪いけどねと言いつつ日本酒を飲む。
「勝てると思った。最初こそ、いつものアイツらしい杜撰な指揮だったからイケると思った。ところが一時間もした頃だったかしら。艦娘たちの動きが目に見えて違った。先程までの死んだ目をしていた艦娘たちの目が変わった。それから私の味方が一人、また一人と大破に追い込まれ戦闘不能になっていった。最初はこちらが数も士気も有利に立っていたのに気付けば戦闘続行ができるのは私だけになった」
空母棲姫が日本酒をぐいぐいと飲み、酒を胃に押しやる。
「あれだけ私に勝てる要素があったのに、あんなに味方がいたのに気付けば私だけだったもの。私は恐怖した。しかし同時に何があったのか知りたかった。何故こんなことになったのだろう、一体何が彼女を変えたのだろうってね。私は仲間を連れ撤退した。這々の体で逃げる私に司令部から届いたのは鬼神が来たから早く帰投しろってね。」
「鬼神?」
今まで彼女の独白を聞いていたが誰かが聞き返す。
ちょいと無理矢理感あるので時間見つけて手直ししたいですね…
閲覧、感想ありがとうございます!また少し遅れるかもしれませんがしばしお待ちを!