ありふれた職業で異世界最強―聖印と邪紋と転生者 作:袴紋太郎
異世界召喚という珍事から数日後、社会科教諭、畑山愛子は人気のないベランダで夜空を見上げていた。
夜空が広がり、星の輝きが都会の喧騒に疲れた心を癒すだろう。
とは言ってもこの状況で呑気に星キレーとかのたまうほど、愛子はお気楽な人間ではなかった。
「どうすればいいんだろう…」
畑山愛子、25歳、独身。
小柄な身長と童顔から生徒たちと同い年に間違われてしまいそうだが、立派な大人。
彼女は善性の人間だ、この状況下で己ではなく生徒たちの安否を気遣える。
職務であることを差し引いても、疑いようもない事実だ。
それゆえに責任感が強く、現状において何も出来ない己の不甲斐なさを責めている。
天職、その人物が最も適しているとされる職業。
この異世界【トータス】では戦闘に関わる天職を持つ人間は希少だ。
モノによっては万人に一人という割合、まるでゲームのように与えられた手札以上の事は出来ない。
愛子は作農師、字の通り戦闘に向いた職業ではない。
約一名を除き、生徒たちはほぼ全員が戦闘職が天職とされていた。
召喚から数日たった今や、各々の武器を持ち訓練に励んでいる。
生徒を守ることができない。
生徒を助けることもできない。
なんて、なんて情けな「先生、どうしましたか?」
思考のループに入っていた所に声をかけられ、慌てて振り向くと男子生徒が立っていた。
転校生の高円寺清正は、木の樽で出来たカップを愛子に差し出す。
「どうぞ、今夜は体が冷えますから」
中身は赤い液体、香りからしてワインだろうか?
「俗に言うホットワインってやつです、厨房に顔を出したら頂きまして」
酒精はほとんどないみたいですよと、清正は己の分を口に含み胃へと流し込んでいく。
「未成年の飲酒は認められません!」
「うおっと!」
器を取り上げるが、既に中身は空。
道中で大半を飲んでいたのだろう、愛子の目が釣り上がる。
それに対して青年はあははと愛想笑いを浮かべ、降伏するかのように両手を上げるのであった。
善意で持ってきてくれたということもあり、強く叱ることはせずアルコールの危険性と道徳について愛子は語りだす。
「グビリッ、いい高円寺くん。貴方は未成年で、いくらここが日本じゃない所でもお酒を飲んじゃいけないの」
「グビリッ、そもそもアルコールは若い頃から摂取し続けると中毒症状を引き起こすこともあり」
「グビリッ、また君のような年頃の子には興味が強いだろうけど」
所々で相槌を打つ清正に説教するも、気づけばこっちの分も空。
それとなーく目配せするも、料理長の親切だったものでと肩をすくめられる。
「ううう、ごちそうさまです…」
「いえいえ、貰い物を美味しく飲んで頂けたならそれでいいですよ」
「…何か、相談したい事とかあるかな?」
数多い懸念には清正の事もあった。
転校生であり、クラスに転入したのもつい最近。
時期も少しずれてしまい、クラス替えのタイミングにも遅れたため周囲から浮いていないか気になっていたのだ。
「いえ、みんな気のいい奴らですんで。天之川くんも親切にしてくれますから助かってます」
愛子の懸念に反して彼のコミュ力はかなり高かったのだ。
周りを立てるというのか、過度な主張をせず他者との仲介をする場面が多く見られている。
今もどちらかといえば年上の男性と話しているかのような、安心感を感じていた。
「(と、年下の方が大人に見える…)」
心中でショックを受ける愛子。
同年代と比べて頭一つ大人びた印象を受ける青年と比べ、己の子供っぽさはなんだ。
頭を抱えぼやけている自分、そんな自分を心配して暖かい飲み物を持ってきてくれた気遣い。
これではどちらが大人なのか分からないではないか。
「先生、今日もみんなヘトヘトになって戻ってきました。勿論俺も」
「?」
「そういうとき先生がお疲れ様って言ってくれるのは、凄くありがたいんですよ。ホッとするというか、日常というか」
「高円寺くん…」
そう言う清正の表情には、僅かながら不安と疲れを感じさせた。
当然だ、彼はまだ子供なのだ。
周りや自分を気遣って明るい振る舞いをしているが、本当は不安で仕方がないのだ。
愛子は清正の両手を取ると、真摯な眼差しで青年の目を見る。
「これからは何でも先生に相談してちょうだい、辛いことも、苦しいことも、一人で抱え込んじゃダメ…いいね」
鳩が豆鉄砲を食らったようにパチクリと目を瞬かせた青年は、気恥ずかしげに頷いた。
「(やるぞ! 大人として、先生として、私がみんなを守るんだ!)」
決意を胸に、小柄な教師は改めて誓うのであった。
◆◆◆
あ~めんどくせぇ、てめぇが折れると余計面倒なんだよしっかりしろ。
一緒になって飛ばされてきた女教師のテンションが目に見えて落ちていた。
分かりやすく上下関係を構築できる存在は重要だ、なにより同性である女子生徒達にとって彼女の存在は大きいだろう。
なにかの拍子にタガが外れ、欲望に従った男共が女生徒を襲う…なんてケースがあるかもしれない。
本音を言えば性欲処理の観点からして、そちらの方が未知の性病に感染するリスクを減らせるため賛成しよう。
だが今後のクラスメイト同士の関係を考えて、無用な火種を残したくはない。
今はまだ新しい環境に慣れていないため気にはしていないが、そっち方面の処理を考えねばなるまい。
果たして王族やらがそこらへんを考慮してくれるかどうか…
とにかく、愛子に潰れられると色々まずいので、こうして演技しつつメンタルケアに励んでいるのだ。
「(ま、意図せず捌け口は見つかったのが幸いか)」
南雲ハジメ、彼の存在が予想外にプラスに働いた。
いきなり強くなったとかそういうことではなく、ストレスを発散するための行為として彼への暴言などが出てきたのである。
当然といえば当然だ、元々カースト最下位で、能力も極めて低い。
異世界召喚という非常識な状況により発生する恐怖、不安、理不尽への怒り。
それによって発生するストレスを解消するため、「明確な弱者」を見下すのだ。
現状から見て少なからず効果が出ているだろう、約一名が精神的な負荷を受けているかもしれんがそれはそれ。
一種の
サンキュー、グラーシアス、オブリガード。
「それじゃ、俺はこの辺で。おやすみなさい先生」
「おやすみなさい、高円寺くん」
ガラクタ教師と別れ、人気の少ない通路を進んでいく。
この数日間、城の騎士やメイド、道中ですれ違う人々から幾つかの情報を得ることに成功した。
勇者とその仲間たちという肩書きは、存外に役に立つ。
宗教、価値観、地理、貨幣、常識に関わることが大半。
やはりこの世界では【エヒト】神を信仰する聖教教会が、かなりの権力を保有していること。
魔人族、獣人族は差別の対象であること。
分かったのは大体この程度か。
「(情報が足りん、どうすれば帰還できる? そもそも誰が敵で、誰が味方だ?)」
事の発端である魔人族、間違いなく敵だ死ね。
自分たちを【トータス】に召喚したという【エヒト神】、敵だとも言えないが味方には分類できない死ね。
聖教教会、こちらも敵対はしていないが信用できない死ね。
…明確に味方と呼べる者たちが少なく、権力者に逆らうなど馬鹿を見るだけだ。
改めて自分のステータスプレートを確認する。
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高円寺清正 17歳 男 レベル:1
天職:紋章剣士/君主
筋力:1500
体力:800
耐性:600
敏捷:600
魔力:700
魔耐:800
技能
・聖印/セイバー 第一階梯解除
・剣術[+二刀流] 第二階梯解除
・統率 第一階梯解除
・タフネス 第一階梯解除
・強運[+天運上昇Ⅳ] 第二階梯解除
・装備熟練[+武器の印] 第二階梯解除
・■■■■/経験点不足により未解除
・■■/経験点不足により未解除
・■剣/経験点不足により未解除
・■属性適正/経験点不足により未解除
・金■力/経験点不足により未解除
・■地/経験点不足により未解除
・■■/経験点不足により未解除
・技■熟練/経験点不足により未解除
・言語理解
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聖印発動時での能力がこれ、経験点を何処で確保できるかは不明。
恐らく死亡する直前で使用していたキャラを元にしていると考えれば、経験点を獲得することで徐々に能力が開放されていく。
そういうことだと考えるしかない、今のところは。
今は流れに身を任せることしか出来ないだろう。
何もない、金も、権力も、力も。
薄暗い城の通路を進みながら、清正は部屋に戻るのであった。
基本自己中で自分さえ良ければいいと考えているけど
最終的にマイナスに繋がる行為はしたがらない
そんな感じの主人公です