ありふれた職業で異世界最強―聖印と邪紋と転生者 作:袴紋太郎
は~いみんな並んで~
えっちほっちら歩きましょう。
あ、モンスターがいるよー
みんなで頑張って倒しました。
僕らはみんな最強だー
みんな陽気に笑ってる。
あ、なにか光ってる~
それ罠だよー
滅茶苦茶骸骨やデッカイ化物が出ちゃったーあははー
死ねばいいのに。
◆◆◆
【オルクス大迷宮】、その名のとおり地下100層からなる巨大な迷路。
中には無数の怪物―――魔物が生息しており、進むほどに強力な魔物が探索者の行く手を阻む。
名称や内容を考えれば酷く陰鬱なイメージを抱きかけるが、その入口は博物館の入場ゲートを彷彿とさせる門が設置されており。
さらには受付窓口で容貌の優れた管理員が出入りする者たちの人数などを記録していた。
なんでも魔物とやらの体内には【魔石】という物体が存在し、心臓部ともいうべきそれは【トータス】において幅広く活用されていた。
日常生活に使用する魔道具、つまりは【魔石】を原動力とした機械。
軍などが使用する強力な魔法、【固有魔法】を使用するための魔法陣を描く原料。
それ以外にも多種多様な使い道があるそれは、この世界において無くてはならない必需品と言えるだろう。
魔物の死体から採取できる皮、肉、骨、角、それらの素材も売買されているらしく。
需要と供給があるならば、そこには利益が発生し。
金が流れれば人が集まり、人が集まれば物が生まれ流れていく。
魔石と素材を入手する冒険者の誕生は必然であり、彼らを対象にした商売が生まれるのもまた必然。
【オルクス大迷宮】の近くに栄えている宿場町ホルアドにて、勇者様とその仲間たちは活気あふれる市場を物珍しげに眺めていた。
その中には清正の姿があり、彼も知的好奇心を抑えられないようで―――
「(さぁ何が売れる? 価値は? 貨幣システムは? 可能な限り情報を集めたい、あと金金金金!)」
俗物的金欲が優っているようだ、どうしようもねぇ。
談笑しつつ目ざとく売れ筋を確認し、一行は宿屋にて休息を取る。
今回の遠征はずばり、勇者たちの実戦経験を養わせるためだ。
王都周辺の弱い魔物ではなく、ダンジョンに住み着く少し強い程度の魔物。
ここで一つ難易度を上げる…といのは建前で、上は何かしらの目に見える結果を出したいのだろう。
新兵のそれではなく、異世界から召喚された勇者たち。
当然幾つもの思惑が絡み合い、そこには教会と貴族も例外ではない。
しかしこの大迷宮による実践訓練は、騎士団長メルドにとってはいつものことだった。
落ち着いていつも通り、それで問題ない。
問題ないはず、【だった】。
◆◆◆
マジ死ねばいいのに。
騎士団御用達の宿屋Mその一室に案内されるとベッドに突っ込んでいる先客がいた。
南雲ハジメ、絶賛メンタルサンドバック状態のそれは清正の入室に驚いたのか、慌てて顔を上げたのであった。
何こいつ、いきなり人様にケツ向けて寝転がるとか何様?
思わず全力で尻キックをかましたくなる衝動にられるも、軽く咳払いをしつつ荷物を置く。
「やぁ南雲くん、そのままでいいよ。結構長い距離を歩いたからね」
足がパンパンさと困ったように見せているが、内心では気分最悪である。
いや別に彼個人が嫌いというわけではない、無論好ましくなど天地が逆になっても思わないが。
ただ単に一人部屋でないとくつろげないだけだ、心の狭い男よ。
対してハジメの方はというと、少々気まずかった。
転校生であり、まだクラスに編入されてから日が経っていないとはいえ清正の存在感は小さくなかった。
異世界に来てからというものの、生徒たちの諍いを仲裁する場面も多く、実力も天之川光輝に優らずとも劣らない。
正義感の押し売りがない分、こちらの方がより好印象だった。
クラス内カースト
ボッチ的こじらせを発揮するハジメ、上から目線自己中の清正。
ベクトルこと違いがあれど、ダメさ加減は似たようなものだった。
ハジメは城から持ち出した迷宮低層の魔物図鑑を開き、清正はベッドの上で用意した道具の点検を行う。
投げナイフ、松明、ポケットティッシュ、包帯、持ち歩くには少しばかりかさばるがこの手のダンジョンアタック系で用心するに越したことはない。
まぁ、あくまでTRPGでの経験則に過ぎないのだが。
「(つーか少しは喋れよ、ただでさえ陰キャな奴は部屋の空気をマイナス方面に下げるんじゃねぇよ)ところで南雲くん、今回の遠征拒否しても良かったと思うんだが?」
「あ、うん、ごめんね。迷惑かけちゃって」
「迷惑とか、そういうのじゃないさ。錬成師だったかな、君の天職は前に出て戦うタイプじゃないと思ったから」
生産系職業が現場に出てどうすんねんと、ハッキリ言って現状ついてこられる方が迷惑だ。
周りも期待していないのだがら、適当なこといって辞退すればいいのに。
いや、そこらへんも自分で動くつもりがないのだろう。
要は自己判断力が弱いのだ、周りがこう言えばハイハイと頷いてしまうタイプ。
珍しくもなく平時ならば特に気兼ねすることもないが、怪物との殺し合いでそれでは非常に困る。
「天職なんて、ただの目安に過ぎないよ。自分に一番合った仕事ができる人間はそういない」
「君にしかできない仕事がある、まずはそれを探すべきじゃないかな」
偉そうですまないと、後頭部を掻きつつ道具の点検を続ける清正。
ハジメはというと困惑していた、自分の役目を探せなど両親やその関係者以外から言われたことなどなかったのだ。
「(とは言っても、どうすればいいだろう…)」
己が使える手札はあまりにも矮小で、先行きなどさっぱり見えない。
結局頭を悩ませるのも馬鹿らしくなり、ハジメは瞼を閉じた。
さっさと寝てもらったほうが気楽なので、清正はそれを無視して作業を続ける。
日が落ち、各々が寝静まった頃ドアがノックされ、ハジメは出て行った。
特に気になるわけでもなく、彼が戻ってきても反応は示さない。
興味がないことを問いかけるのは、ある意味で最大の苦行なのだ。
◆◆◆
翌日、騎士団長とその部下を戦先頭と最後尾に置き、生徒たちは【オルクス大迷宮】の中へと入っていった。
通路は縦横約5m、光源がないにも関わらず薄ぼんやりと内部を照らしていた。
事前に聞いていた情報では緑光石という特殊な鉱物が埋まっているため、それが明かりの役割を果たしているらしい。
道中に出てくる魔物はステータス上位の清正や光輝たちが、騎士たちと交代で処分していく。
「(悪くないな、この武器)」
清正の手に長剣が短剣が一つずつ握られていた。
短剣の方は何の変哲もない鉄製のものだが、長剣の方はハイリヒ王国が管理しているアーティファクトの一つ。
魔力を込めることで刃を修復し、長期間の戦闘に耐えられる代物だ。
まずなにより安定性、清正としては光輝の使う【聖剣】と呼ばれる大剣と比べてもコチラを取るであろう。
しかし所詮武器は武器、使い手がヘボをすればそこでおじゃん。
こちらに背中を向けていた女子生徒―――八重樫雫の背後から忍び寄るネズミのような魔物を切り捨てる。
「ッ、ごめん、助かった!」
「気にしないでくれ、先は長い。落ち着いていこう」
背中合わせで互を守り合うように構える二人、雫は不思議とこの背中が頼もしく感じた
「(簡単に消耗されちゃ肉壁の意味がない、どうせ死ぬなら俺を守って死ねよ、いいな?)」
こっちは最低の屑野郎なわけだが。
一行は徐々に歩を進めていき、このペースならば目標としていた20階層へ到達できるだろう。
清正の心中に安堵が訪れた、その時。
「だったら俺らで回収しようぜ!」
なにを?
前列近くから声がすると、誰がが前へと飛び出した。
檜山、ハジメを虐めている主犯格の男子生徒。
崩れかけた壁から光るものが見える、恐らくアレが狙いなのだろう。
ダンジョン、宝、となれば次は…
檜山が光るそれに触れた瞬間、彼の両脇に赤黒い魔法陣が浮かび上がった。
するとそこからは通路を埋め尽くす骸骨の群れ。
動く死体はそれぞれ折れかけた、錆びた剣や槍などを構えこちらへと迫ってきた。
いや、その程度ならば楽だった。
骸骨たちとは比べ物にならない巨体。
圧倒的な存在感と敵意が、揺らぎなく生徒たちへと向けられ―――誰かがソレ【ベヒモス】と呼んだ。
グルァァァァァアアアアア!!
「全員下がれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
気づけば声の限り叫んでいた。
アレはヤバイ、とんでもなくヤバイ、本能が警鐘を鳴らしていた。
「騎士団長! 申し訳ないが騎士の方々に足止めを願いたい、我々では全滅する!」
「――っ、ああ!」
「後衛はそのまま退避、慌てずにそのまま下がれ! 前中衛は前後に分かれて後衛を守るんだ!」
「俺が先導する、行くぞ!」
いよし、殿と肉盾用意。
仲間を守るため先頭に立つと、脇目も振らずに逃げ出すでは意味合いが違う。
このまま肉盾を後ろに備えつつ安全に退散…それとそこの屑野郎、てめぇ顔おぼえたかんなぁ!?
駆け出す清正、それに続く
ハジメだ、非戦闘員の南雲ハジメだ。
よく見れば光輝を含め前衛の生徒が何人か残っている。
阿呆が、お前らが逃げねば騎士たちも逃げられんのだぞ!?
彼らの役目は召喚された勇者たちを守ること、こんなところで死なせたらどうなるか。
だからこそ殿を任せた、ある種の気遣いでもあったのだ。
それを
だが変わらない、可愛そうだがこっちの安全が第一。
割り切り、歩を進めようとした矢先。
誰かに腕を掴まれた。
悲鳴が出かけるのを気合で堪え、それが白骨化していない人間の手であることに安堵。
視線を上げて、掴んだのがクラスのマドンナ――ー白崎 香織であることが分かる。
「ハジメくんを、助けて…」
不安と恐怖で彩られた眼差しが、手から伝わる震えが、間違いなく高円寺清正にかけられた願いなのだと知らしめる。
ワッツ? イッツミー?
「お、お願い、貴方なら、ハジメくんを」
ヘイヘイヘイ、ちょっと待てやクソビッチ。
なんで俺があいつを助けなきゃいけないの?
それこそ勇者様に任せればーってふぁ!?
こっちに向かってくる甘いマスクの勇者様+その一行。
その無効ではなにかの技能なのか、地面を掘り返して壁にしつつ怪物たちを足止めするハジメの姿。
ぷぎゃーだっせぇーーーーーー!見下してたやつに守られてやんのー!
でそれを助けろとかふざけんなや阿呆がぁぁぁぁーーーーーーー!!!
だがどうする、この発言は既に肉盾共に聞こえている。
振り払えばどうなる、仕方がないとするか、非難が向くか。
決まっている、この状況での恐怖を押し付けるために俺が罪人扱いだ。
正当性だとか、そんなものを思春期の糞餓鬼共が考えるわけがない。
逃げるだけなら、逃げるだけならいけるか…?
此処で清正はミスを犯した、いくら罠とはいえある程度はなんとかなると過信してしまった。
過信の負債は、必ず首をしめてくる。
それを忘れていたのだ。
「分かった、白崎さんも早く逃げるんだ! 天之川くん、皆の先導を!」
返事を待たず入れ替わるようにして前に出る。
なんてことだ、なんてことだ、全てお前らのせいだ!(責任転嫁)
「南雲くん! 伏せろ!」
「高円寺くーーう、うわぁ!?」
何度目になるか分からない土壁をを作ったハジメは、抜刀しつつ駆け込んでくる清正を見て咄嗟に頭を下げた。
土壁を蹴り上がり、向こう側で押しのけようとするベヒモスの脳天―――から生えた角へ。
「角なら頭蓋骨に振動が届く――」
長剣を、振り下ろす。
ガオンッという、車の衝突事故のような轟音。
僅かながらもベヒモスはたじろぎ、体勢を崩していた。
頭蓋を揺らせば、脳も揺れる。
いくら怪物であろうと、人知を超えた化物であろうと。
血が流れるということは心臓があり、眼で物体を判別しているならば脳があるはず。
ただの思いつきであったが、それが功を奏した。
「あばよ…!」
そこへもう片方の短剣を、巨躯に合わぬつぶらな眼球へと刺し込んだ。
ぐるおぉぉぉぉおおぉぉおぉぉぉおぉおおお
激痛に暴れまわる怪物を無視し、ようやく状況が見えたハジメと共に駆け出した。
「高円寺くん、たすかっ「いいから走れ! 怒り狂った獣が突っ込んで来るぞ!」は、はいぃ!」
上手くいった、上手くいった、上手くいった!
成功だ、生きている、問題ない、大丈夫だ!
急げ! 走れ! 逃げろ!
二人の頭上を何かが通り越していく、魔法だ。
生徒たちが次々と攻撃魔法を打ち込み、ベヒモスを足止めしている。
怪物との距離は既に30m以上開いていた、これならばと確信が生まれる。
ここで清正は、また二つのミスを犯す。
一つめ、ベヒモスとの交戦は予想以上に通路の床へとダメージを与えたこと。
地下迷宮なのだ、足の下にはまた別の通路があって当然。
二つめ、人間の嫉妬と恋心を甘く見たこと。
ベヒモスに向かって放たれたはずの火球が、軌道を変えてハジメへと飛んでいく。
咄嗟にそれを回避するも、着弾した箇所から広がる爆発と衝撃波。
完全な不意打ち、爆音と衝撃波で三半規管が狂ってしまった。
揺れる視界、揺れる足元、そして。
グルァァァァァアアアアア!!
怒りに燃える隻眼のベヒモス。
爆発のダメージ、怒り狂う怪物の足踏み。
もはや、通路の限界値を超えていた。
崩れる足元、浮遊感は重力にかき消され落ちていく。
まだだ、もう一度死んでたまるかぁ!
まだ届く、届くのだ、手を伸ばせば、まだ…
グイッ
絶望が、いや死神に足を取られた。
ハジメが、清正の足を掴んでいたのだ。
こ、このクズがぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!!!!
清正とハジメは、底の見えない奈落へと墜落していくのでありました。
もっとぶっちゃけたいものです