「あ、あの‥‥‥ランサーさん」
「どうしたのみーちゃん。そんなに改まって。
‥‥‥別に年もそんな変わらないんだし、タメ口で良いわよ。私も調子狂っちゃうし」
「あ、うん。その、どうしてさっき黒ずくめの人たちが襲ってきたのかっていうのと、どうしてランサーが私を守ってくれたのかが不思議で‥‥‥」
散らかったリビング。私の家。両親は外出しているのか、玄関に靴がありませんでした。
「そんなの簡単よ。これは戦争なのだから」
「戦‥‥‥争‥‥‥?」
「そう。七騎のサーヴァントがしのぎを削る、ビックウォーよ」
私の洋服一式を借りた彼女は言いました。
私には実感が湧かなくて、思わず言葉を詰まらせてしまいました。
けれども、それでは腑に落ちず、私は彼女に訊ねました。
「でも、それじゃあ黒ずくめの人たちが私を襲った理由が証明できないよ」
「それは、みーちゃんが私のマスターだからよ」
彼女はそう答えて、私の右手をそっと持ち上げました。その時私の手には、気のせいか、電撃が走るような感覚が肌に流れました。
「私達サーヴァントは魔力を供給してくれる人が居なければ現界し続けられないの。
その魔力を私に供給してくれるのが、マイマスター・みーちゃんなのよ。その右手の甲にある令呪が、その証ね」
私の右手の甲にある一輪の花の紋章。これが『令呪』と呼ばれ、マスターの証であるらしいです。つまり、さっきの黒ずくめの人たちは、私が何者かのマスターであるかを、令呪の有無で判断した。そして、魔力の供給を断つことによって間接的に勝利を収めるために襲ってきたのだと思えば腑に落ちます。
「その令呪は基本三画。それぞれのマスターに配られるわ。そして、その令呪を一画使うことで、みーちゃんは私に絶対的命令を与えることができる。
例えそれが、どんなに理不尽なものでもね」
彼女は付け加えて令呪について説明してくれた。茎と葉の模様で一画、花弁の模様で一画、柱頭の模様で一画。私の手にもきちんと、三画分の令呪が宿されているみたいです。
「じゃああと、もうひとつ聞いても良いかな」
「うん良いわよ。私で答えられる事なら」
「どうして、七騎のサーヴァントは争わなくちゃいけないの?」
ひぐらしの鳴き声が、部屋に響く。すぐそこの庭にでも居るのでしょうか。その声は、二人の会話を妨げる程の五月蝿さでした。
彼女は私に声が届くように、顔をぐいと近づけました。
「七騎のサーヴァントは、一つの聖杯を争っているの。それは万能の願望器。
私も他のサーヴァントも、マスターと協力して、それを争っているのよ」
万能の願望器。つまり、聖杯はどんな願い事でも叶えてくれる。
願い。それは、私の心にも思い当たるものがありました。しかし、それが何であるかは思い出せません。とても歯がゆい感覚でした。
しかし、それ以上に彼女が私の傍で言葉を囁くことが、私の心を引っ掻き回しました。
(どうしたんだろう。私‥‥‥)
自分の胸の高鳴りを、肌で感じました。理由はわからないけれども、彼女が私に何らかの作用を及ぼしたのは確かでした。
彼女は少しキョトンとした顔をしていました。
「どうしたのみーちゃん。顔、ちょっと赤いよ?」
「わわわわ何でも無い。何でもないよラ、ランサーってば」
親切に説明してくれたランサーに対してこんな空気にしてしまった自分に気まずくなりました。
「わ、私おそば茹でてくる。ランサーも食べる? 乾麺だけど」
私はその場から少しでもいいから離れたいと思い、言いました。私が動揺しているのは彼女の目にも明らかだったでしょう。
時計の針はまだ五時でしたし、実のところ私はそこまでお腹は空いておりませんでした。
「イエス! ありがたく頂くわ!」
彼女の言葉に見送られて私はキッチンへ向かいました。彼女の場所からはキッチンの中は見えません。私はそこで心の調子を整えようとしました。
ガスコンロに焚かれる水を張った両手鍋を眺めながら、胸を撫で下ろし、息を一つ吐きました。
(本当に、どうしちゃったんだろう)
根拠のない胸の高鳴りを抑えられない自分が、不思議でなりませんでした。
それは、綺麗な恋情というべきなのでしょうか、それとも、穢れた人の感情と言うべきなのでしょうか。何れにせよ、具体的な原因が無いのです。
けれども、彼女のさっきの言葉は、とても嬉しく思いました。
その後茹でたそばの乾麺をザルに入れ、二人で食べました。少し張り切っちゃったせいか、多く茹ですぎたと、そばに水を通したときは後悔しましたが、彼女が私よりも勢い良く食べてくれたお陰で、完食できました。
サーヴァントというものは、食欲が大きいものなのでしょうか。
結局、両親は八時を過ぎても帰ってきませんでした。こんなこと言ったら子としてどうかと言われてしまうかもしれませんが、帰ってこないでほしいと思ってしまいました。
田舎街の夜は短く、八時も回れば上諏訪駅周辺ですら人気が無くなります。
結局私に意識がある間には、両親は帰ってきませんでした。
鈴虫の鳴き声が寝室に届く中、布団に潜りました。気のせいか、枕の高さが合わないと思いました。
暗い部屋の中、目を閉じて数回寝返りをうちましたが、一向に眠れる気配はありませんでした。ランサーを見るたびに、心の凝りが違和感を伝えて、その原因を探ろうと思えば思うほど、目が冴えてしまい眠れる気配が湧きません。
あの特徴的な口調も、あの緑の髪も、あの装束も、私のかけがえのない誰かを構築する要素だったと、そう主張する自分が居るのです。では、その真実は何であるのか。その答えは出てきません。
結局のところ、心にぽっかりと空いた穴を埋めるものを見つける前に、無意識の迎えが来てしまいました。
*
とある公園。近くにショッピングセンターがあるからか、敷地内には小さな子供がぽつぽつ居ました。買い物帰りの私は、その公園のベンチで休んでいました。
その時、私は天から少し先の未来の姿を授かりました。天啓というのが正しいのでしょうか。
しかし、それは良い事ではありませんでした。授かった未来の姿は、酷く血塗られていました。見たこともない生命体が空から降ってきて、人を喰らう。
その未来の姿に狼狽していると、目の前で、一人の男の子が泣き出しました。『ママ~』と泣く声。
空を見ると、小さい黒の点が、現れていました。その点は段々と大きくなり、こちらへと近づいてきます。
私は咄嗟にその男の子へと駆け、手を引きました。
「皆、神社へ逃げて!」
私は叫んでいました。神社。この公園から走ってすぐにある、諏訪大社下社春宮。そこは危険が闊歩する中、数少ない安全地帯と、受け取った未来の姿が示していました。
近くに居た小さな子供たちと、数人の大人を連れ、神社に駆け込み、私は初めて街の姿を振り返りました。
その姿が見るに堪えないものであるのが第一印象であることは鮮明に覚えています。しかし、その先、何が起こったのかを私の目に焼き付けることはできませんでした。
夢から覚めてしまったからです。
*
天井の丸い円盤のカバーに覆われたライトへと、段々とピントが合ってきます。
外からは鍬を地面に打ち付ける音が、周期的にザクッ、ザクッと聞こえます。
私の家から数百メートル離れた所に畑はありますが、明らかに音の出処が近いです。
私は目を擦り、覚束ない足を壁に沿ってリビングまで運びました。先程から聞こえる音は、庭の方から聞こえていました。
カーテンを開き、大窓を空け、サンダルを履いて庭に出ました。白く眩しい朝日が目を刺激しました。
陽の光に目を慣らしてから入った光景は、変わり果てた庭の姿と、鍬を持ったランサーの姿でした。
雑草は隅に抜かれた状態で積まれており、人の手が入っていなかった庭は羽毛布団のような柔らかい土地に変容していました。
彼女は私の姿に気が付くと、私を見てはにかみました。
「グッモーニン、みーちゃん」
「あぁ、‥‥‥おはよう。
で、何してるの? これ」
「よくぞ聞いてくれました! これはね、シンプルに言うととってもエキサイティングなホビーなのよ!
真心込めて育てた作物を一番デリシャスな時に頂く。そう! これは‥‥‥」
彼女の足元にある野菜の種のパッケージを見て、彼女が何のために庭を耕したのかを把握しました。
「お隣さんに迷惑がかからないようにやってね」
「もっちろん! 農業王たるもの、弁えてますから!」
彼女は拳を強く握りしめて言いました。放置されていた庭です。
本来なら、朝早くから少女が庭を耕していることに何かしら衝撃を受けるのが妥当なのでしょうが、なぜだか私には、その光景が見慣れたものとして映りました。ただ‥‥‥。
「そのジャージは、ちゃんと洗って返してね」
彼女が砂だらけにしていた服が、私の中学校のジャージだった事は、衝撃的でした。きっと、完全に洗い落とすことはできないでしょう。
*
英霊というものは、人々の想念があった故人であると、彼女は教えてくれました。
そして、彼女のステータスは、その過去に依存する。だから、聖杯戦争ではその英霊の本来の名前、真名で呼ばずに、クラス名で呼ぶそうです。けれども私は、彼女の真名を知っていたほうがいい方向に作用すると思っています。
敵を知り己を知れば百戦殆うからず。大事なのは、敵の戦闘力を把握することと、“己”、つまり自分たちの戦闘力を知ることです。
「本当に‥‥‥思い出せないの?」
「うん。みーちゃんとの記憶も、私の周りで起きていた出来事もすべて覚えているのに‥‥‥」
ランサーの正体。これは二人が背負った穴。私はそう推察しました。
初めてあった時からの既視感。しかし、その感覚が嘘であるかのように彼女の事について思い浮かぶことが無いのです。
そして、彼女自身も、自分が何者であるかがわからない。
それは、私たちを繋いだ何かを遮断する扉であり、彼女の真名がその扉に掛かっている南京錠の鍵に見えました。
英霊の要素が人の想念ならば、図書館に史料の一つぐらいあるはずです。
だから、彼女が種まきを終えた後、私たちは図書館へ赴くことにしました。
【元ネタ】 白鳥歌野は勇者である
【CLASS】 ランサー
【マスター】 藤森水都
【真名】 白鳥歌野
【性別】 女
【身長・体重】 158cm・不明kg
【属性】 中立・善
【ステータス】筋力 C 耐久 C++ 敏捷 B 魔力 E 幸運 E 宝具 E-~EX
【クラス別スキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
【固有スキル】
カリスマ:C
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、小国の王としてはCランクで十分と言える。
乱戦の心得:B
敵味方入り乱れての多人数戦闘に対する技術。軍団を指揮する能力ではなく、軍勢の中の一騎として奮戦するための戦闘技術。かつての戦況故に、白鳥歌野は一対多の戦いに慣れている。
戦闘続行:B → -
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
勇者装束による補助が大きいため、勇者装束を失うとその能力を失う。
星の開拓者:D
人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
彼女が三年間諏訪を守り続けた事により、四国による人類史の存続の可能性が深まった。
×××××:- → A
宝具、『×××××』発動中のみ付与される。
その神性は日本の数多なる文献に伝わる神話の神そのものであり、本来はEXランクに値するが、依代が人間であることからAランクへと降格している。
【宝具】
『藤蔓ノ鞭(Elastic Whip)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:2~10 最大捕捉:5人
白鳥歌野の裁量で伸縮する。
そのムチは異界の中型生物さえを砕き割るほどの威力を持つ。
『×××××(×××××)』
ランク:E-~EX 種別:対軍宝具 レンジ:?????? 最大捕捉:??????
彼女が持つ勇者装束がとある平行世界の可能性を触媒に突然変異したもの。
それはツタが巨木の根のように地へ、空へ数多に這い、白鳥歌野の自由自在なコントロールによって獲物を撃滅する。
しかし、宝具の開放(×××××)には条件がある。
(Ⅰ)その英霊の立つ地が縁ある地であること
(Ⅱ)特定のゲージを満たしていること
(Ⅲ)魔力の供給が充分であること
上記の条件を満たした後、マスターの令呪一画を魔力源(×××××)とし、発動できる。
宝具のランクはマスターとの相性によって左右される。また、発動中は×××××が付与され、彼女の勇者装束もそれ相応に×××××なるものとなる。
【解説】
諏訪の勇者、白鳥歌野。
たった一人の戦力である中、バーテックスからの侵攻を三年間も諏訪を守り続けた事から、史上最強の勇者として彼女を指名する人も少なくない。
ランサーで鞭なのは‥‥‥細けぇこたぁ良いんだよ!
(大赦書史部・巫女様 検閲済み)