「さっすがみーちゃん!
よし、思い立ったらすぐ行動よ!」
私がその旨を伝えた後、彼女の目はメラメラ燃えているように熱く輝いていました。
直後彼女は私が貸した衣服から一瞬で、彼女が言う、『勇者装束』へと変身を遂げました。
「しっかし、サーヴァントのシステムはユースフルね‥‥‥。いちいち着替えなくても良いんだから」
「ってことは今までわざわざ着替えてたの?」
「そうよ。三年もやっていたから慣れちゃったけど、これは手放せなくなりそうね。
それで、行き先は市立図書館で良いかしら?」
「ああ、うん‥‥‥ってうわぁあ!」
彼女の両腕に私は持ち上げられ、雲が混ざった青空を背景に、彼女の顔と胸元が一気にズームされました。太もも裏と背に彼女の腕の感触で自分が彼女にお姫様抱っこをされていることに気が付きました。
確かに、英霊と人間の身体能力は根本から格が違うことはわかっています。だから、これが妥当な移動手段でもあります。しかし、この体勢は、どうしても落ち着きません。
「きっと、みーちゃんが考えるよりもずっと速いから、しっかり掴まっていてね」
「あわぁあ!」
彼女はより落ちにくくするために持ち直しました。それは小さな刺激ですが、糸を張ったような心理状態の私は思わず悲鳴のような驚きの声を漏らしてしまいました。
私が彼女の首元に腕を掛けるとすぐに、彼女は膝を屈め、図書館の方へ跳躍しました。
風を切る轟音が耳に響き、強い風圧のせいで禄に正面も向けず、私は彼女に強くしがみついていました。
その状況に少し慣れ、心に余裕がようやく生まれた時、私はどこからか視線を感じました。
「ねぇ、私達、誰かから見られていない?」
「うん。でも、気にしちゃったら、それは彼らの手中に収まっちゃう気がする」
私がふと首を傾けて、彼女の体の横から、彼女の後方を見た時、気のせいか昨日襲ってきた黒ずくめの人達の一人と、目が合ったような気がしました。
しかし、もう一度見ると、彼の姿は消えていました。
図書館に到着した後、ランサーは変身を解いて、少女の見た目に戻りました。
そして、二人で図書館の中を探しました。彼女の話を元に史料を探しましたが、彼女に関連する書籍は見当たりませんでした。
図書館にあったパソコンから検索も掛けてみましたが、彼女に関するものは一切、出てきませんでした。
彼女の武器である鞭が、蔓のように見えたことから、彼女の真名を『タケミナカタ』と推察しましたが、彼女は「関係はあるかもしれないけど、私は奉られるような者じゃない」と、否定されてしまいました。
他にも、書店や役場、史料館も回ってみましたが、彼女を直接的に示唆するものは見当たりませんでした。
*
「結局、手がかり無しか‥‥‥」
彼女は公園の芝生に大の字で寝転んでいました。
私はその横で座りながら、スーパーで買った菓子パンを食べていました。
背後からは中央自動車道を走る車の音が、無機質に流れています。周囲に私たち以外人の姿が無く、街を一望できる公園は閑散としていました。
(これじゃあ、ただ二人で街歩きしているだけだよ‥‥‥)
それも悪くない。そう邪念を抱いた自分の心を、私は首を振って紛らわしました。
彼女と強く関連している人物は、古代日本神話の『タケミナカタ』。彼女を知る手立てがあるとすれば残りは‥‥‥。
(諏訪大社。そこしかな‥‥‥)
休憩を終え、立ち上がろうとした時、空を横切ったのは一台の馬車。いや、チャリオットと言ったほうが相応しいでしょう。
そのチャリオットは私たちの周りを空中で一周し、砂埃を上げて私たちの目の前に着地し、そのチャリオットは停止しました。
乗っているのは赤い髪、赤い髭を生やした大男でした。筋骨隆々で、鉄パイプですら簡単に割りそうなほどの。
「ほーぅ。貴様が‥‥‥」
彼は私の右手を一瞥しました。私は左手で、右手の令呪をそっと隠し、唾をゴクリと飲みました。
「ランサーのマスターか」
私は目をそらすこと無く彼を睨み続けました。
「おいランサー! どこに隠れておる。さっさと、姿を見せよ」
彼は周りに大声で呼びかけます。草木は揺れ、地の砂が舞い上がるような爆音で。
「シャラップ! ここに居るわよ。こ こ に !
私が彼女のサーヴァントよ」
「貴様のような小娘がだと? ハハハ、笑わせてくれる。余のマスターと盟友はこんな小娘に怖気づいていたのか!」
彼は大きく口を開けて少しの間笑いました。しかし、その後すぐに表情を元に戻しました。
「まぁ良い。ランサーが誰であれ、貴様に用は無い。余がここまで出向いた理由は‥‥‥」
彼は私を指差しました。
「貴様だ。余のマスターは貴様を強く欲している。なんせ、令呪を用いる程だからな。
まぁ、初めは意図が掴めなかったが、今腑に落ちた。確かに貴様の容姿は綺麗に整っている。余が遊んできた絶世の美女には及ばんが、欲するものが居てもおかしくはなかろう」
「当然よ。みーちゃんはこの世界の誰よりもビューティフルなのですから。
それで、貴方は私のみーちゃんを奪おうって訳?」
「それもだが、貴様が真にランサーであるなら、貴様の命から頂こう。マスターの身柄はその後でも良い。
貴様含め他の六騎を倒し、聖杯で受肉を得る。そしたら手始めにこの諏訪、そしてそこから‥‥‥」
「諏訪?」
「おうとも、遠く離れた異国の地であるが、ここは過ごしやすい。
余の新たな覇道の起点として、征服する価値が十二分にある」
彼が諏訪を征服すると発言した瞬間、彼女の目の色が変わりました。虎のような目つきで彼女は彼を睨みつけました。
「言ってくれるじゃないの。この『諏訪』を『征服』だなんて、それだけで私はアングリーよ」
彼女は勇者装束に変身し、鞭を手に持ちました。
「みーちゃんも渡さないし、諏訪の地も譲らない。私は、諏訪を守る勇者ですから。それがマイアンサーよ」
「ほう。俄然面白い。抵抗されると余計それを手に入れたくなる性でな。
貴様の実力、しかと見せて貰おう」
「来い! 征服王!」