それが看破されぬよう、諸君、×××××を回収せよ」
「ALaLaLaLaLa──!」
征服王と呼ばれた大男は、チャリオットに乗ったままランサーへと突進していきます。
彼女は左へ小さく転がって離脱し、回避しました。そして、物凄い速度で、チャリオットは私の目の前を駆け抜けていきました。
チャリオットは一旦離陸し、方向をぐるりと戻してこちらへと再び突進してきます。
彼女は鞭で車輪の軸を叩きましたが、チャリオットに壊れる気配はなく、減速せずに彼女へと走っていきます。
彼女は正面に跳躍し、征服王へ向け、鞭を振りました。しかし、彼の手にある短剣で妨げられ、有効打にはなりませんでした。彼女の唇を噛みしめるような表情が、形勢を表していました。
征服王はチャリオットを再び彼女へ向けました。
「ほう。言うだけはあるな‥‥‥。だが、
彼が叫んだと同時に、彼が乗るチャリオットは、彼女の目の前まで駆けていました。
(まずい‥‥‥!)
ランサーが轢かれて、死んでしまう。彼女が避ける間もなく、青い稲妻を纏ったチャリオットは彼女と衝突します。
吠える衝撃音。彼女の目の前で、彼女を守っていたのは緑色の猿によく似た精霊でした。
しかしすぐに砂煙が上がり、彼女は吹き飛ばされてしまいます。しかし、血が滲むような怪我は無く、ほっとしました。
「うわぁあ!」
チャリオットが駆け抜ける風圧が、私を襲いました。踏ん張っていないと吹き飛ばされてしまいそうなほど強く、また、彼の姿は残像でしか見えないほど速かったです。
征服王はチャリオットを滑らせて切り返します。
「
貴様の才、この地で没するには惜しかろう。
ここは一つ、聖杯を捨て我が軍門に降り、世界を征する愉悦を分かち合わんか?」
「それは残念だけど、ノーサンキューよ!」
彼の直上数メートルから、彼女は手榴弾のように、果物を投げました。一瞬私の頭に『?』が浮かびましたが、その果物はすぐに爆発し、グレネードそのものだということがわかりました。
「ほう‥‥‥、手癖が荒い小娘よのう」
体にすすが付いた征服王へ対して、突き刺すように彼女は鞭を振るいます。しなる鞭は一振りで正面と、背面をほぼ同時に攻撃しています。
征服王が短剣でその鞭を捌く中、彼女は距離を詰め、チャリオットの牛へ足を付けます。
「当然よ。諏訪を征服するなんて言う人には、容赦しないんですから」
ランサーは征服王へと更に距離を詰め、雨のように鞭の攻撃を行います。
しかし、どれも決定打には鳴らず、撃ち合い続ければ続けるほど、彼女の表情は苦しくなっていきました。
彼女が空中で征服王へと一手を打った時、彼のチャリオットは再び動き始めました。高速で間合いを詰められ、その勢いのまま剣を食らいました。
先の精霊が剣と彼女の間に入り、ダメージは軽減されたものの、彼女は強く吹き飛ばされ、地面に打ち付けられてしまいます。
チャリオットは倒れた彼女へと高速で駆けていきます。彼女は飛び起き、チャリオットへと高く跳躍しました。元居た場所へ、果物型のグレネードを置いて。
彼のチャリオットが通り過ぎる瞬間、グレネードは爆発しました。そして、爆煙の中へと彼女は鞭を入れます。しかし、中から火花が漏れていることが、彼を仕留められていない証拠でした。
彼女はチャリオットの後部側へと着地し、征服王へと、突き刺すように幾度となく鞭を飛ばします。
三回ほど打ち合った後、彼は彼女の鞭を掴み、叩き落とすように振りました。
「ぐあっ‥‥‥!」
精霊がクッションのような役目を果たしたものの、背を強く叩きつけられ、彼女の口から唾が飛び出ました。
しかし、致命傷には至りませんでした。彼は小さく舌打ちし、立ち上がる彼女を一瞥しました。
立ち上がった彼女は口元を拭い、今地を蹴ろうとしたその時でした。
「ランサー、ライダー、動きを止めろ。
さもなくば貴様らが生かしておきたいこの少女を、今から殺す」
その言葉は私の耳元で囁くように聞こえました。
ライダーは呆気にとられた顔、ランサーは酷く狼狽した顔をしていました。
私が置かれた状況は、喉元に冷たい何かが触れた時に気が付きました。
「ぁああ‥‥‥」
首元に軽く触れているナイフ、それを回すための黒い腕。悪寒が背筋に走る私から溢れたのは、悲鳴にもならない声。私の顔は、酷く青ざめていたでしょう。
「貴様も動かない方が身の為だ。この刃は切れ味が良い」
目を上に遣り、視界の端に入ったのは白い仮面の男性。昨日襲ってきた奴らの一味でしょう。けれども、先程まで気配すら感じませんでした。彼らは一体どこから‥‥‥。
そんなことを考える余裕は無く、私は冷や汗が服の背の部分を濡らしていくこと、鼓動と息が荒くなってくるのをただ感じ取ることしかできませんでした。
動悸を漏らしながら、再び上に目を遣ると、仮面の男性がこちらを見ています。正面に目線を戻すと、ボヤケた視界の隅に赤い血の飛沫が‥‥‥。
直後私の体は締め付けられ、何が何だかわからないまま、私の体は宙へ飛び立ちたました。
「おわぁあ!」
自分の今の状態に驚きながらも、飛ばされる前の方向を見ると、ナイフを持った腕と体が分離し、心臓を貫かれた仮面の男性の姿が。
ランサー、ランサーが私を‥‥‥
「きゃあぁ!」
巻き付かれた鞭が解け、私の体は回転し始めます。青の空と、緑の芝生と、遠くの街の景色が、ミキサーでごちゃまぜになるように映りました。
その後私の体はランサーに受け止められ、回る世界は動きを止めました。しかし、さっきの反動で空が歪んで見えました。
「みーちゃん! 怪我は無い?」
「う、うん。何とか‥‥‥。でも目眩が‥‥‥」
地面に足を付け、彼女にしがみつきながら周囲を見渡すと、同じ黒い外套、同じ白の仮面を付けた人たちが、私たちを囲んでいました。彼らの姿は私にはトラウマのように焼き付いていて、見るだけで体の震えが止まりません。
「戦闘している横でみーちゃんを‥‥‥。許せない‥‥‥」
「如何にも、余が勝負の末に略奪しよう物を横取りなど、到底許し難い」
憤った二人の声が耳に入りました。
「残念だが、それが聖杯戦争」
「故に、暗殺、謀殺へ貴様らにとやかく言われる筋合いは無い」
「それにライダー。貴様は暴れ過ぎだ。そんな大々的に戦っては×××××にほつれができてしまう」
彼らの言葉の中に、聞こえない単語が有りました。その部分だけが無音で、音声ファイルからそのまま抜き取ったような検閲に感じられました。
「‥‥‥どこの連中か知らんが、面も禄に合わせず余にそこまで言う度胸だけは認めてやろう。
だが、余は余のやり方を貫く。故に、貴様らには犠牲になってもらおう」
征服王は私たちの前にチャリオットを進めました。
「諏訪の勇者と言ったな‥‥‥。
貴様には特別、余の本気を見せてやろう。その姿を見て、余にこの地を明け渡すかそうでないかを決めよ」
征服王の背中の厚みは、戦闘にはからっきしの私にもわかりました。幾多の戦場を越え、広大な地を治めた王の背中が。
征服王は剣を掲げ叫びます。
「見よ、我が無双の軍勢を!
肉体は滅び、その魂は英霊として『世界』に召し上げられて、それでも尚、世に忠義する伝説の勇者たち。
時空を超えて我が召喚に応じる永遠の朋友たち。
彼らとの絆こそ我が至宝! 我が王道! イスカンダルたる余が誇る最強宝具──『
世界は広大な砂漠に、そこに居るのは私たちと、正面に立つ黒い外套の暗殺者たち。それと、横に並ぶ征服王イスカンダル、そして背後には‥‥‥圧倒的士気を誇るサリッサの大軍勢でした。