2回目転生者達が切り開くIS世界   作:影鴉

5 / 9
孤独のグルメSeasun3が一向に放送されず絶望していたところに今頃になって始まって「遅せぇよ!」と思わず叫びかけた影鴉です。
今回、束がヤマト重工の入社試験を受験します。
果たして合格できるのか……?(棒)

それでは、『2回目転生者達が切り開くIS世界 第5話』始まります。



 束と入社試験

「ふい~、こんなものかな?」

 

 

 試験対策用の分厚い参考書を置き、束は立ち上がる。

 

 

「あうう~、体が硬くなっちゃった…」

 

 

 捻ったり、伸ばしたりして体を解す。源之丞から推薦状を貰ってから約1年が経過し、クラスメイト達は受験シーズンに突入していた。束は高校の進学先を千冬と同じ高校にしている。高校の方は全くと言って良い程、問題無い。束が問題視しているのはヤマト重工の入社試験だ。

 実際、源之丞に渡された過去に出されたヤマト重工の試験問題の傾向について書かれた書類を読んだのだが、特に問題は無いと思えた。一番心配であった面接も担任に頼んで練習を何度もした。因みに、練習を頼んだ時の担任の反応は凄まじかった。

 

 

「篠ノ之さんは何処の私立高校を受けるのですか?」

 

 

 と尋ねられたので、

 

 

「ヤマト重工の入社試験を受けます!」

 

 

 と返したら担任は固まってしまった。

 数分後、元に戻った担任が信じていなかった様なので推薦状を見せてみたら……

 

 

「ヴェイッ!?」

 

 

 変な奇声を上げたのだった。この時、病院に連れて行った方が良いのではと本気で考えてしまった。勿論、精神系の、である。その後、

 

 

「ヤマト重工に高校前の子が…入社出来たら勝ち組という…あの超大企業に…?」

 

 

 とブツブツ呟かれながらも、特に問題無く練習は進んでいった。様々な質問を答え、もう問題無いであろうと言われた。

 

 しかし、試験の時期が近づいてくる度に自信満々であった筈が何かと不安になってしまい参考書を何度も見直してしまう。

 そして試験前日となった今日、束は参考書をまた読み返していたのであった。

 

 

「む~、落ち着かないよ~」

 

 

 着けているウサ耳を横に倒し、クルクルと回りだす。特に意味は無い。ここのところずっとこんな調子だ。そわそわしてしまい、落ち着かない。それが入社試験への緊張なのか、試験を突破したら源之丞達と共に研究が出来るという嬉しさなのか、将又、試験に落ちてしまうかもしれないという恐怖からなのか……恐怖では決して無いと結論した。

 

 因みに束が居るのはヤマト重工近くのホテルである。ヤマト重工は源之丞の実家と同じ新潟にある。試験前日である今日、事前に予約しておき、ホテルにチェックインしていたのだ。ホテル内はヤマト重工を受験する大学生達が多くいた。

 

 ベッドに倒れこむ。狸の皮算用であるつもりでは無いが、入社後どうISを造っていこうか考えてしまう。ヤマト重工の研究者達とも様々な話が出来るであろう。まったく専門知識のない筈の者からも素晴らしい考えをすることがあると源さんから言われたことがある。自分が思いつかないようなアイディアが多く貰えるかもしれない。

 そして何より源之丞の存在である。彼と共にISは勿論、様々な研究を行えるのだ。その事を思うと胸がドキドキしてきた。

 

 

「源さん……、」

 

 

 束はあの日の事を思い出した。あの時、嬉しさで胸がいっぱいになってつい、彼にキスをしてしまった。あの後は、顔が火照ってにやけ顔がなかなか消えなかった。あの日以降、源之丞に会う度にドキドキし顔が火照ってきてしまう。彼と一緒にいるだけで、他愛ない話をしているだけで、彼の微笑みを見るだけで幸せを感じてしまう。

 

 

「何なのかな?」

 

 

 初めての感覚に束は悩む。今、気にすべきなのは明日の入社試験だというのに…。でも嫌な感覚でない、寧ろ心地良く、ずっと感じていたくなってしまう。

 

 

「これが恋愛感情ってやつなのかな…?」

 

 

 だとしたら……

 

 

「ヤマト重工に入ったら、源さんと一緒に働くようになったら、これからもっと感じちゃうのか  な?」

 

 

 くすぐったい感じだ。

 

 

「嬉しいな♪」

 

 

 束は微笑み、ベッドの上を転げ回る。回り過ぎてベッドから転げ落ちる。

 

 

「うふふふ……ウヴォアッ!?」

 

 

~♪

 

 

 携帯からメール着信音が鳴る。体をさすりながら束は送信元を確認する。

 

 

「あいたたた…あっ、ちーちゃんからだ♪」

 

 

 束はメール内容を確認する。

 

 

---------------------------------------------------

From

ちーちゃん

 

Subject

いよいよ明日だな

 

Sentence

調子はどうだ?

私では勉学において何も力になれないから、

応援することしか出来ないのが口惜しい。

束なら大丈夫だろうが、油断はするな。

一夏と一緒に合格を祈っている。

頑張れ!

 

---------------------------------------------------

 

 

「うふふ~、ちーちゃんが頑張れって言ってくれた♪」

 

 

 友人の励ましのメールに束は喜ぶ。

 

 

~♪

 

 

「おろ?」

 

 

 再びメールの着信音、確認すると、

 

 

「今度は箒ちゃんからだ♪」

 

 

---------------------------------------------------

From

箒ちゃん

 

Subject

姉さんへ

 

Sentence

いよいよ明日が試験となりましたね、

調子は大丈夫でしょうか?

父上は相変わらず姉さんの事を心配しています。

姉さんなら絶対合格出来ると信じています。

明日は頑張って下さい。

 

---------------------------------------------------

 

 

「有難う、箒ちゃん♪」

 

 

 大好きな妹からもメールが来た。束は2人に返信しようとするとまた受信音が、

 

 

~♪

 

 

「お父さんだ」

 

 

---------------------------------------------------

From

お父さん

 

Subject

束へ

 

Sentence

いよいよ明日が試験ですね、

受験票は無くしていませんか?

体の調子は大丈夫ですか?

怪我はしていませんか?

お腹は壊したりしていませんか?

変な人に絡まれたりしていませんか?

何か困った事が起きていませんか?

私は心配です。

どうか、どうか無事に帰ってきて下さい。

 

---------------------------------------------------

 

 

「………………」

 

 

 相変わらずの親バカっぷりに呆れが半分、嬉しさが半分で束は苦笑い。

 その後も、クラスメイトや面接の練習を手伝ってくれた担任からも激励のメールが沢山来た。皆の応援を受け、束は嬉しさでいっぱいになる。

 

 

「みんな有難う♪」

 

 

 メールを送ってくれた皆にそれぞれ感謝の返信を送り、明日に備えてそろそろ寝ようと寝間着に着替えていた時、メールの着信音…、

 

 

~♪

 

 

「誰かな?」

 

 

 束は携帯を確認すると、

 

 

---------------------------------------------------

From

源さん

 

Subject

束ちゃんへ

 

Sentence

とうとう明日だね、

束ちゃんの事は解っているつもりだ。

今迄、学んだり練習してきたことをすれば

問題無く合格できるよ、君なら大丈夫だ。

Good Luck!

 

---------------------------------------------------

 

 

「有難う、源さん…」

 

 

 携帯を胸に抱き、束は呟く。

 

 私をいつも思ってくれている彼、

 

 私の胸をいつも暖かくしてくれる彼、

 

 私が大好きな彼……

 

 携帯を直し、ベッドに潜り込む。そして毛布にくるまって……

 

 

「大好きだよ」

 

 

 瞳を綴じて小さく、しかし思いを込めて呟いて、束は眠りにつくのだった。

 

 

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 

 

 試験当日、束は鏡の前で身嗜みを整える。今日は当然ながら、いつものようなウサ耳カチューシャやフリルの付いた洋服では無い。白いシャツに紺色のジャケットとタイトスカートで、下には肌色のストッキングと黒色のパンプスを履いている。立派なリクルートスタイルだ。この日の為に父、龍韻がオーダーメイドで買ってきたスーツだ。

 実はこのスーツ、着るのは今回で3度目である。1度目は買った後に着方を確かめる為、2度目は昨日、実家からホテルへ向かう際に着た。本当はいつもの私服で行くつもりであったのだが、龍韻が娘の晴れ姿での出発を見たいと言って聞かなかった為である。

 

 ホテルを出ると他の受験生達も出ていた。彼等と共に束もヤマト重工へ向かう。歩いて約15分程でヤマト重工へ辿り着いた。サイトで外観は見ていたが、実際見てみるととても広い。

 

 

「ようこそヤマト重工へ! 受験生の方々はこちらに来て下さ~い!」

 

 

 入り口で誘導係が受験生達へ指示する。束もそれに従い指示された方へ歩いて行く。行き先はヤマト重工本社の多目的ホールであった。

 ホールに到着すると、入り口前で係員が受験生の受験票をチェックしており、受験生が列を作っていた。束もその列に加わる。

 

 

「次の受験生の方、どうぞ」

 

 

 束の番となり、係員に受験票を見せる。係員は受験票を確認する。

 

 

「推薦枠の方ですね、推薦枠はこちらになります。」

 

 

 推薦枠の受験生は別室へと案内される。

 

 本来、ヤマト重工の入社試験は履歴書の『書類選考』に始まり、SPI等の『筆記試験』、『一次面接』、『専門知識試験』、『二次面接』となる。一方で推薦枠の受験生は『専門知識試験』と『二次面接』のみで他は免除される。本日の試験では一般受験生は皆、『書類選考』を通過した者であり、筆記試験と一次面接を受け、合格した者が後日、専門知識試験と二次面接を受ける。推薦枠は専門知識試験と面接だけ受けて合格通知を待つことになる。

 

 専門知識試験を受ける部屋に入る。受験票に書かれた番号の席に座った。待つこと数分、

 

 

「これより『専門知識試験』を開始します。筆記用具と時計、受験票以外は鞄の中に入れて下さ  い。制限時間は120分です。始めの合図がある迄問題用紙を表にしないで下さい。」

 

 

 試験官が問題用紙を各席へ配る。専門知識試験は書かれた課題に対して自分なりの答えを書くレポート方式の試験である。

 

 

「それでは……始め!」

 

 

 試験官の合図を聞き、束はペンを取り答え始めた。

 

 

::::::::

:::::

::

 

 

「ふう……」

 

 

 専門知識試験が終了し、休憩コーナーで一息を吐く。この後は面接を受けるのみである。束は自動販売機で購入したミルクティーを啜る。

 

 

「お疲れっちゃ、束ちゃん」

 

 

 ふと、背後から呼ばれて振り向くと見慣れた人物がいた。

 

 

「辰さん!? どうして此処にいるの?」

 

 

 道場によく遊びに来る葛葉 辰巳だった。いつも着ている着流しでは無く、黒色のスーツを着ている。着ていると言うよりも着られていると言った感じであった。

 

 

「わっちはヤマト重工のSPなんよ」

「そうだったの!?」

 

 

 束は驚く。彼のいつもの風貌や道場で披露した剣術から何処かの道場で先生をやっているのかと思っていたのだった。SPとはいえ、まさか知り合いがもう1人ヤマト重工に勤めていたとは意外であった。

 

 

「推薦枠なん(なら)専門知識の試験じゃっちね? どうでん(どうだった)?」

「うん、予習通りの内容だったから問題無かったよ」

「そいは良かっちん、とこいで(ところで)そんスーツ似合っちょとね」

「有難う♪ 辰さんはそのスーツ似合って無いね」

 

 

 辰巳は笑う。

 

 

こい(此処)の制服じゃっち、仕方無いっちゃ」

「そういえば、源さんは何処? 研究室?」

なんども(なんでも)開発が良いとこじゃっち、忙しってとこばい、昼頃にゃ終わっと言おっとった」

「そうなんだ、試験が終わる時に会えるかな?」

「多分、大丈夫っちゃ」

 

 

 談笑を続けている内に面接の時間が来た。

 

 

そじゃん(それじゃあ)わっちはもう行くっちん、源さんば会うたら言ってくっちゃ」

 

 

 そう言って辰巳は手を振りながら去って行った。束はその姿を見送り、面接室の場所へ向かった。

 面接室の前には受験生が順番に並んでいた。束は自分の順番となる席に座る。面接室から面接を受け終えた受験生が出て来る。その光景が幾つか続く。次が自分の番だ、束は気持ちを落ち着ける。

 

 

「次、どうぞ」

 

 

 数分後、面接室から声が聞こえる。

 

 この面接で試験は終了である。

 

 専門知識試験は完璧だった。

 

 コレで最後。

 

 

(絶対に合格するんだから!)

 

 

 束は面接室のドアノブを握り、扉を開いた。

 

 

::::::::

:::::

::

 

 

「失礼します!」

 

 

 束ははっきりとした声を出し、面接室へ入室した。視線の先には3人の面接官。束は礼をし、部屋の真ん中にある椅子の横に立つ。3人の面接官の中で真ん中の初老の男性が声を掛けた。休憩時間の時に見た肖像画の人物とそっくりであることから彼がヤマト重工の社長なのであろう。

 

 

「どうぞ、お座り下さい」

「はい」

 

 

 束は椅子に座る。

 

 

「この度は我が社の入社試験を受けて頂き、有難う御座います。私はヤマト重工社長の大和 栄吉(やまと えいきち) と申します。これから幾つか質問を行いますが宜しいですね?」

「はい! 宜しく御願いします!」

 

 

 社長である大和の言葉に束は強く応える。

 

 

「それでは、まず自己紹介から御願いします」

「はい、私の名前は篠ノ之 束と言います。現在、○○中学校に在籍しています。そして…………」

 

 

 

 

 

 面接の問答が始まった。

 

 

 

 

 

 幾つかの問答を繰り返す。束はどの質問にも詰まる事無く答えていく。特に問題は無かった。

 

 

「それでは次の質問が最後になります。貴女が我が社を選んだ理由を答えて下さい」

「はい、私が御社を選んだ理由は現在、御社が機械・プログラム開発において世界でもトップであ り、これからも更に発展していくであろうと思ったからです。更に私は機械工学が得意であり、 自分の技能を存分に生かす事が出来ると考えたからです。そして……」

 

 

 束は息を吸う。

 

 

「そして何より、私は御社に勤めている光浦 源之丞博士に憧れを抱いています。夢を追い、人の役に立つ実用性が有りながらも浪漫溢れるモノを造っている源之丞博士と一緒に私も研究をし、みんなの役に立つ、夢溢れるモノを開発したいと考えています!」

 

 

 真剣な表情で語る束を大和は見つめる。その目は本心を語っているか見極めている様であった。

 

 

「分かりました。貴女の気持ち、確かに受け取りました」

 

 

 大和は静かに微笑んだ。

 

 

「それでは面接を終了します。お疲れ様でした」

「有難う御座いました!」

 

 

 束は一礼し、出口へ向かった。

 

 

::::::::

:::::

::

 

 

「お疲れ様でした、これで推薦枠の試験は終了となります。そのまま帰宅するも良し、社内の見学 も自由です」

 

 

 面接室を出ると係員から労いの言葉を掛けられた。自分がやるべき事は全てやった。後は結果を待つだけ……

 社内の見学は自由と言われたので開発現場を見学していこうかと考えていたところに声が掛かった。

 

 

「試験ご苦労様、束ちゃん♪」

「源さん!」

 

 

 声の主は源之丞であった。束は笑顔になり駆け寄る。

 

 

「試験はどうだったかな?」

「うん! ばっちりだよ♪」

「それは良かった♪」

 

 

 お互い笑い合う。

 

 

「お昼はこれからだよね? 一緒に食べないかい?」

「いいの?」

「当然さ、丁度お昼時だしね♪」

「やった♪」

 

 

 そう言って2人は食堂へ向かった。

 

 

::::::::

:::::

::

 

 

 『ヤマト重工食堂』は見学やクライアント等の外来者の為に定員が500人以上を越える巨大な食堂となっている。席の方もグループ用の長テーブルから個人用のカウンター席、2~4人用の丸テーブル等色々あった。料理の方も様々あり、週一でバイキングが行われる。お昼の社員食堂特集番組でも紹介された。

 

 

「うわ~、おっきい~!」

「ヤマト重工自慢の社員食堂だよ」

 

 

食堂に到着し、束が感嘆の声をあげる。

 

 

「束ちゃんは何を食べるかい?」

「う~ん、おすすめとかある?」

「おすすめかぁ、どれも美味しいからなぁ…、そうだ!」

 

 

 源之丞は指を指す。その先には看板があった。書かれている内容は……

 

 

『本日の日替わり定食:チキン南蛮定食』

 

 

「チキン南蛮?」

「宮崎県の名物だったかな? 鶏のムネ肉の唐揚げに南蛮酢とタルタルソースを掛けたやつだった筈 だ」

「美味しそう♪」

「これにするかい?」

「うん!」

 

 

 2人は定食コーナーに並び、チキン南蛮定食を2人前注文する。暫くしてお盆に載せられた定食が渡される。その内容は、

 

・ご飯 

 ほかほかの炊きたて銀シャリ

 

・汁物

 麦味噌の味噌汁、大根と人参入り

 

・チキン南蛮

 南蛮酢で黄金色に輝いている。千切りキャベツとトマトが脇に盛られている

 

・ポテトサラダ

 ベーコンとミックスベジタブル、スライスしたリンゴと玉葱が入っている

 

 

「「いただきます」」

 

 

 2人用の席に着いて食事を始める。

 

 

「ん~、美味し~♪」

「甘めの南蛮酢だが、ご飯が進むなこれは」

「ポテトサラダもシャキシャキするのがいいね」

「味噌汁の大根も味がしっかり染みているな」

 

 

 料理のコメントをしながら箸を進めていく。

 食後、お茶を啜りながら源之丞は束に尋ねる。

 

 

「試験の手応えはどうだったかな?」

「うん、束さんの持てる全てを出し切ったよ!」

「そうか、それなら大丈夫だね」

 

 

 そう言って源之丞は微笑む。その微笑みに束は顔を赤らめる。何度も見慣れた微笑みの筈なのに、とても魅力的に感じてしまう。ふと、彼の手が頭に乗る。

 

 

「よく頑張ったね」

「うにゅ!?」

 

 

 最近撫でられることが無かったので、不意打ちとなってしまった束は思わず変な声を上げてしまい、彼の手が止まってしまった。

 

 

「大丈夫かい?」

「ふぇ!? 問題ないよ、全然!」

「本当に?」

「本当だよ、だから……撫でて?」

 

 

 若干俯いてからの上目遣いで御願いする。源之丞はくすりと笑って再び撫でだした。

 

 

(幸せだな~♪)

 

 

 束はこの束の間を満喫するのであった。

 

 

::::::::

:::::

::

 

 

「送ってくれて有難う、源さん」

「気にしなくて良いよ、本当はホテルまで同行したいのだがね」

「うふふ♪ 大丈夫だよ、研究頑張ってね」

「ああ」

 

 

 ヤマト重工の出入り口前まで源之丞は束を見送った。午後から開発の打ち合わせがあるのでホテルまで同行出来なかった。

 

 

「源さん、御願いがあるんだけどいいかな?」

 

 

 おずおずと束は源之丞に尋ねる。その顔は頬が朱に染まっていた。

 

 

「何だい?」

「ギュッとして!」

 

 

 そう言って束は両腕を広げる。

 

 

「え? え~と?」

「今日、束さんは頑張ったから御褒美が欲しいの!」

「それで……ハグなのかい?」

「駄目?」

 

 

 束はちょっと悲しそうな表情になる。源之丞も困った表情になる。

 

 

「私なんかが良いのかい?」

「源さんだから良いの!」

「わたしだからか…、仕方無いなぁ…」

 

 

 仕方無いと言いながらも、微笑みながら源之丞は束を抱きしめた。

 

 

「あぅっ……」

 

 

 強く抱きしめているようで苦しくない優しいハグ、スーツ越しから伝わる相手の体温と心臓の鼓動に束は顔を赤らめながら自分も抱きしめ返す。源之丞は束の耳元で囁いた。

 

 

「束ちゃん、」

「何?」

「今度、此処に来る時はヤマト重工職員としてだよ?」

 

 

 そして束を離し、笑いかける。いつもの微笑みとは違う、ニカッとした笑み。束にとってその笑顔もまた魅力的だった。

 

 

「うん!」

 

 

 束も満面の笑みで返し、ヤマト重工を後にした。

 

 

「中々、面白いお嬢さんですね」

 

 

 束の姿を見ている源之丞の背後から声が掛かる。

 

 

「彼女はどうでした?」

 

 

 声の主が横で止まり、源之丞は尋ねる。

 

 

「そうですね、貴方と初めて話した時を思い出しましたよ」

 

 

 ヤマト重工社長、大和 栄吉は面白そうに答える。

 

 

「あの娘が入ったら面白いことになりそうです」

「そうですか…」

「それでは、私はこれから出張ですので失礼します」

 

 

 言うだけ言って栄吉はリムジンに乗りヤマト重工を後にした。彼は今、提携する様々な企業との話し合いで世界を忙しく飛び回っている。今回も推薦枠の面接の為に来てくれたのであった。

 

 

「有難う、社長…」

 

 

 リムジンを見送り源之丞は感謝の言葉を告げた。

 

 

「『創造者(クリエイター)』、こんとこ(此処)におったばい?」

「『無刀』か…」

 

 

 『無刀』と呼ばれた辰巳が源之丞の傍にやって来る。此処には今、連盟の関係者しかいない。互いに二つ名で呼び合っていた。

 

 

「束ちゃんの護衛は?」

「ちょっち用ばあってん、『魔弾の射手』に頼んどんばい。今からまた交代じゃっけん」

「彼女が出ていった後、追いかける影があった」

「!?」

 

 

 源之丞の言葉にいつもは見せない真剣な表情になる。

 

 

「もうっち、狙っちょるん阿呆が出とっと?」

「『魔弾の射手』だけでも問題ないだろうが、保険だ。君も行きたまえ」

「御意っちゃ」

 

 

 そう言って辰巳は風の様に消えた。1人になった源之丞は踵を返し、本社へと戻っていった。

 

 

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 

 

 束が帰って来て、ホテルへ入っていく姿を1人の男が見ていた。

 

 

「あの小娘が依頼されたターゲットか…」

 

 

 束の姿を見ていた男は依頼を思い出す。彼は人攫いのプロであり、今回、ヤマト重工のライバル企業から依頼を受けていた。その内容は、ヤマト重工の総合開発主任である光浦 源之丞がと交流がある少女を人質に取り、交渉材料として源之丞から会社の機密データを奪う事であった。

 近年、急成長を遂げたヤマト重工にあちこちの企業は戦々恐々していた。元々、日本の地方の、それまた農家のみを対象に農耕機械を扱って細々とやってきた小規模な会社だったというのに、一気に日本国内どころか世界でも通用する農耕機械を製作するようになり、農耕機器のメーカーとしてトップに躍り出た。その上、農耕機器以外の機械や、部品、さらにはコンピュータープログラミングといった関係なかった分野にまでに手を伸ばし、いずれも大成功を納めていった。そして機械工学・プログラム産業においてどこも並ぶことの出来ない超大企業へと変貌を遂げたのだ。更には各国の様々多種の企業とも提携を結んでいるらしく、規模は日々を追う毎に膨大になっている。噂では独自の警察組織や軍隊を編成しているとも聞いている。結果、世界的にも大きな影響力を持つようになった訳だが、その原因が、総合開発責任者である光浦 源之丞であると各企業は考えているそうだ。ならば彼から情報を得ることが出来れば企業は大きく発展できる筈と、

 源之丞には家族や他の友人がいるのだからそれらをターゲットにすれば良いのではと男は思ったのだが、嘗てその者達を狙った者は原因不明の行方不明となり、その裏にいた依頼した組織も原因不明の事故等で壊滅してきたという。どう考えても彼かヤマト重工の仕業であろうが、証拠など幾ら探しても見付かることはなかった。このことは裏ではこれ以上詮索するなという警告の意味だと考えられており、どの企業もヤマト重工に手出しをしなくなった。今回依頼されたのも、束がそこまでヤマト重工と関係が無いであろうという考えの元であった。束がヤマト重工に入社し、本格的に関係を持ってしまう前に蹴りを付けろということだ。ヤマト重工の入社試験を受けに来たのだ、天才なのであろうが、所詮は小娘。ボヤ騒ぎを起こして慌てている内に攫ってしまえば良いだろう。

 決行は今夜、早速準備に取りかかろう。そう思った矢先、

 

 

「何ばやっちょっとね?」

 

 

 後ろから声が掛かる。振り向くと、スーツに着られているような男が立っていた。その手には木刀が握られている…

 

 

(後ろには誰もいなかった筈!?)

 

 

 数歩下がって距離を取る。辰巳は怪訝な表情をして、

 

 

「おなごん遠くから眺めとっと、『すとおかあ』とか言うやっちゃ?」

「別にストーカーでは…」

「ちょっち、来てくれんと?」

 

 

 そう言って辰巳は近づくや否や男は逃げ出す。

 

 

「逃がさんばい!」

 

 

 その後を辰巳も追いかける。

 

 

::::::::

:::::

::

 

 

「はぁ、はぁ、くそっ!」

 

 

 人気の無い裏道を男は走る。よりにもよってとんでも無い連中に目を付けられてしまった。

 

 

「ヤマト重工のSPに見付かるなんて」

 

 

 追い掛けてくる男がスーツの胸ポケットに付けているエンブレム、あれはヤマト重工直属のSPである証である。SPといっても実際は暗部の様な役目を担っており、前述した独自の警察組織や軍隊を指揮する権限も持っているらしい。奴らによってヤマト重工に裏から接触しようとした産業スパイ、企業は尽く潰されたという。自分も捕まってしまえばどうなるか分かったものではない。

 

 

「逃げるには殺るしかないか?」

 

 

 見たところ追ってくる男は片手に木刀を持っているだけ、スーツ裏に銃を隠し持っていなさそうだ。このままでは逃げ切れないだろう、殺さないまでも行動不能になって貰わなければ…

 決意した男は裏道脇の廃倉庫へ飛び込む。直ぐさま置いてあった木箱の物陰に隠れ、懐から拳銃、『ルガーKP85』を取り出す。

 

 

どけ(何処)に隠れちょっち?」

 

 

 そう言って辰巳は木刀を構える。廃倉庫から漂うカビの臭いの中から人の匂いを探し、

 

 

「ここっちゃ!」

「!?」

 

 

 男が隠れていた木箱ごと切り伏せる。すんでの所で男は避け、銃口を辰巳の足へ向けて発砲しようとする。しかし、

 

 

バシュッ!!

 

 

 風を切る音がしたかと思うと鋭い痛みが『ルガーKP85』を持った手の先から走る。見ると引き金ごと持ち指が吹き飛んでいた。

 

 

「な……!?」

 

 

 驚く間も無く、

 

 

ビシュッシュッ!!

 

 

 男の右太股が貫かれる。太股には2本の鉄の棒が突き刺さっていた。

 

 

「くそっ! 一体何処から? …ぐがっ!?」

 

 

 逆の太股も貫かれ、男は崩れ落ちる。自分が足をやられてしまった。これでもう逃げられない。辰巳が近づいてくる。

 

 

「さって、あそい(彼処)でなんばやっちょっと?」

「言うと思っているのか?」

 

 

 男は黙り込む。

 

 

「××技工に依頼されたのよね?」

 

 

 女性の声が聞こえる。見るとジャケットにパンツのスーツ姿の女性が弓を持って立っていた。ヤマト重工SPのエンブレムを付けていた。

 

 

「援護ありがとっちゃ、『魔弾の射手』」

「それ嫌なのよねぇ、ネタ元で呼ばれた奴、最後に死ぬから」

「文句は『管理者』にいっちゃれ」

 

 

 先程男を狙撃したのは『魔弾の射手』と呼ばれた彼女であった。

 

 

「残念ね、依頼主は勿論、××技工はとっくに制裁されているわ、あなたで最後。終わりよ」

 

 

 その言葉に男は観念し、俯いてしまったのだった。

 

 

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 

 

「姉さん、何時までそうしているんだ?」

「合格通知が来るまで」

「だからって、玄関前に正座で待つなんて…」

「此処で待っていないと直ぐに迎え撃てないじゃないか!」

「迎え撃つって…、別に急ぐ必要が無いと思うのだが…」

 

 

 ヤマト重工での試験日から数週間後の今日が合格通知が自宅に届く日であり、束は玄関前にて正座して今か今かと待ち受けていた。因みに高校受験の方であるが、千冬と共に試験会場へ行った後に、テスト用紙の前で、

 

 

「なんなんだぁ? この楽勝過ぎる問題達はぁ?」

 

 

 という何処かの某伝説の野菜人的な台詞を零してしまい、周囲の受験生はプライドをズタズタに引き裂かれてしまった(千冬は運良く、束の声が聞こえない位置が席だった)。自己採点結果は文句無しのオール満点であったのは言うまでもない。

 

 

「玄関は冷えるし、居間で待っておこう?」

「駄目! 昨日眠れなかったから暖かい部屋に行ったら寝ちゃうかもしれないもん!」

「そんなに!?」

 

 

 緊張で眠れなかった束に驚く箒。その時、

 

 

ピンポ~ン♪

 

 

 玄関のチャイムが鳴る。

 

 

「来た、きた、キタ!」

 

 

 ガバッと立ち上がろうとする束、しかし長時間正座していた足は血の巡りが悪くなっており、

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!? 足が痺れたぁぁぁぁ!」

「だから正座は止せと言ったんだ、姉さん!」

 

 

 立てずに足を押さえて転げ回る束に呆れながら、箒は代わりに玄関の戸を開いた。

 

 

「こんちゃ、箒ちゃん」

「辰巳さん?」

「失礼するぞ、箒」

「真助さん? 2人でどうしたんですか?」

「わたしもいるよ箒ちゃん」

「源さんまで!?」

 

 

 玄関前には源之丞、真助、辰巳がいた。そして何より目に入ったのは…

 

 

「それってもしかして…」

「ああ、束ちゃんにね。勿論居るよね?」

「居るには居るのですが…」

 

 

 困った表情で箒は答える。辰巳は大きな花束を、真助はケーキ屋では売っていないような一抱えある巨大なケーキ箱を、源之丞は額縁に入ったナニカを持っていた。どう考えてもアレだと箒は思った。

 

 

「姉さんは玄関に居るのですが…」

「どうしたん?」

「正座でずっと待っていたので今、足が痺れて動けないのです」

「おいおい…」

 

 

 耳を澄ませると、

 

 

「うにゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 と変な唸り声が微かに聞こえる。4人がどうしようかと困っていたところに、千冬と一夏がやって来た。

 

 

「おや源さん、束にはまだ渡していないのですか?」

「それが…かくかくしかじかで」

「やれやれ、束らしいと言えばらしいが」

 

 

 額に手をやる千冬。因みに2人は大きな重箱を手に提げている。

 

 

「あの、千冬さん。その重箱は?」

「ああ、これか? 実は昨日の内に源さんから聞いていてな」

「夜から頑張って作っていたんだ!」

「一夏君の料理は美味しいからね、つい…」

「自慢の弟が作ったんだ、美味くない筈が無い」

 

 

 千冬が自慢げに言う。どうやら2人は先にアレを伝えられていたらしい。

 

 

(しかしお祝い料理を作って貰う為に本人より先に伝えるとは如何なものだろうか? まあ、一夏の料理は絶品なのは認めるが…)

 

 

 箒はそんなことを考える。そこへ、

 

 

「箒ちゃ~ん、どうなっているの~?」

 

 

 ようやく痺れが取れたのであろう、束が玄関から出てきた。

 

 

「姉さん、」

「束さん!」

「束か、」

「よいす、束ちゃん♪」

「来させて貰ったぞ束、」

「やぁ、束ちゃん♪」

 

 

 6人が玄関前に立っていた。

 

 

「みんな?」

「おめでとう、束ちゃん!」

 

 

 状況が分からなかった束の前に源之丞が額縁を差し出す。受け取って額縁の中を見てみると…

 

 

----------------------------------------------

 

ヤマト重工推薦枠入社試験合格通知書

 

篠ノ之 束 殿

 

 

貴殿はヤマト重工推薦枠入社試験に

合格したことをこれに記します。

 

 

ヤマト重工社長 大和 栄吉

 

----------------------------------------------

 

 

「おめでとうっちゃ、束ちゃん」

「おめでとう、束」

「よく頑張ったな、束」

「おめでとう、姉さん」

「束さん、おめでとう!」

 

 

 皆が口々にお祝いの言葉を紡ぐ。

 

 

「束ちゃん、ようこそヤマト重工へ!」

 

 

 源之丞が満面の笑みで束に微笑みかける。

 

 一度に入ってきた情報に束の頭は処理が追いついていないようだった。

 

 自分はヤマト重工の入社試験に合格したようで、

 

 それを源さん達はお祝いに来てくれたようで、

 

 ちーちゃんやいっくんもお祝いに来ているようで、

 

 箒ちゃんも自分をお祝いしてくれているようで、

 

 それがとっても嬉しい訳で、

 

 幸せいっぱいな気持ちを自分は現わしたい訳で、

 

 束は源之丞に飛び付くと、彼の首に両腕を掛けて、その口にキスをした。

 

 

「んんっ!」

「うむっ!?」

 

 

 舌を絡めるようなディープでは無いが、束は彼の唇に何度も重ねる。源之丞は突然の事で何も出来ずに只、されるがままで居た。

 その光景に辰巳はニヤニヤ顔で、

 

 

「激しいっちゃねぇ♪」

 

 

 真助は呆れながら、

 

 

「結局、ロリコンか…」

 

 

 箒は顔を真っ赤にしながら、

 

 

「げ、げげ源さんと、き…ききキス!? は、破廉恥だぞ姉さん!!」

 

 

 千冬は一夏の両目を手で覆い自分も瞳を綴じて、

 

 

「私は何も見ていない、何も見ていない…」

 

 

 両目を塞がれた一夏は、

 

 

「へ? 何だ? 何が起きてるんだ!?」

 

 

 6名それぞれの反応の中、束はキスを止めて源之丞を見つめる。そしてにっこりと微笑んで彼に言った。

 

 

「源さん、だ~い好き♪」




如何でしたか?

面接での受け答えについての突っ込みは勘弁願います。
次回は原作の主人公である一夏と転生者である辰巳にスポットを当てていく予定です。

それでは次回『一夏と辰巳』お楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。