この状況下で君が何を期待しているか、実は僕にもわからない。
・・・底から拾い上げてくれ。退屈で死にそう
残念だけど、そうもいかない・・・だから、少し話そう。
昔話でもさ。僕は案外、君を気に入ってるんだ。
永遠の呪われた者として。
・・・世界が焼け落ちるかもしれないって言っていた。
そんな世界でも、希望がなくても、先生に会いに行った。
でも、そんな淡い希望はすぐに打ち砕かれた。
そんな世界だってその時に思った。
・・・君はこの状況下で何を期待していたんだ?
だから、すこしでいい。落ち着いてくれ、全ては陰に覆われた。
それは覆すことのできない事実なんだ。
・・・箱詰めされた、世界がその様相を変えた。その中身は絶望だろう。
やがては街中がそれに飲み込まれた。でも、俺には何もできなかった。
・・・君は何を期待したの?
壊れていく世界を見て、君は何に絶望したの?
・・・絶望なんか初めからしてた。
期待・・・か。・・・そうだな、俺は期待していたんだ。
ずっと退屈な毎日が過ぎていくこんな世界に鬱陶しささえ感じていたんだ。
呆れるほど人が居て、自分の生きる意味を自問して、何も知らずに、何も理解しないままに死んでいく。
そういった意味じゃ、少し氷川の気持ちが分からんでもない。実に不毛だった。
・・・死人の話はいいよ。
・・・お前も案外、酷いやつなんだな。
そんな日常は何の好奇心も刺激しない。
ただただ、世界が愁いて行くのを歳と共に感じていた。
虚しさだけが募っていた。
そんな時に先生が入院したって聞いた。
なんだか酷く奇妙な感覚になったのを覚えている。
・・・それは恋愛感情?
違う。そんなものじゃない。
何というか、胸騒ぎ。そうだ。ザワザワとした。それは何だか針山のように尖ったモノが動いたような気がしたんだ。
いつもの先生が居ない。いつもと少しばかり景色が変わって見えてきた。
そんな違和感だけで少しだけで、好奇心が湧いた。
それで先生に会いに行ったの?
・・・そうだ。何か俺の中で針が回り始めたんだ。時計の針が正常にだ。
確かに、友人との付き合い。それもあっただろう。
でも、もっと腹黒いものだったと今は思う。
好奇心?
そう。好奇心だ。重度の群発性頭痛患者の様にのたうち回るんだ。
誰もそれを止められない。俺でさえも。
でも、そんな胸騒ぎも別に大したことじゃないと思った。
代々木公園での事件だって、興味深くて俺は代々木公園に行ったんだ。
でも、それ以上のことは何にも考えてなかった。
世界が表情を変えるなんてことは尚更考えてなかったな。
それを後悔しているの?
・・・どうだろうか。自分の好奇心によって来た責任かもしれないな。
そう考えると、後悔がないといえば嘘になるな。
だが、何れにしてもあの世界の行く先に後悔がないとは思えないしな。
・・・だから、君は尋ねるようになったんだね?
・・・そうかもしれん。
悪魔になってから、昔の自分に尋ねられるようになった。
「コレハカワリマスカ?」って。何度も何度も。
・・・でも、『ルイ』を倒してからそれは無くなった。
恐らく、覚悟を決めたんだと俺は思う。
自分じゃよくわからんがな。
唯、云えることはそんな揺らいでるようでは『クソッたれ』には勝てないってわかったんだ。
質で勝てないんじゃ、量だって。
・・・でも、それも繰り返し。
何度闘わなくてはいけないのだろうって君は思うはずだ。
これが最後になればといつも願うだろうね。
あの『クソッたれ』にもう二度と会わなくても済むようにね。
・・・そうだな。
何度、夢から覚めただろうな。
でも、これが永遠に呪われた者の性さ。
・・・分かっていながら
なんで、君はそうなることを選んだの?
・・・あの何もない只々老いて、愁いて行く世界は嫌だった。
弱肉強食の世界も、静寂な世界も、干渉されない世界も、どれもこれもなんだが俺の好奇心を満たすような世界じゃなさそうだった。
だったら、この真暗な街灯もない道の先を見てみたかった。
それだけだよ。『クソったれ』
・・・愚かだね。惜しいよ、実に。
うるさい。またぶっ殺してやる。
クソッたれ
「・・・ん」
夢かとシンは思い、ベットから起き上がる。
まだ、意識が朦朧としている中、なんだか酷く懐かしい夢を見たとシンは思う。
ベットの暖かさがなんだか身に染みる。
大きく伸びをして、辺りを見渡す。
そこには、誰もいない。静かな空間が広がっていた。
暗い影が胸に突き刺さる。
敷衍すれば、それは恐らく・・・孤独かもしれない。
永遠に孤独であることが、永遠に呪われた者の一つの罰なのだろうか。
完璧な悪魔にもなれず、人間でもない。
完璧に悪魔になれないが故に、何かに対して毎度毎度苦悩している。
こんなことはこちらに来てからだ。
昔は有った。そんな苦悩が。だが、混沌王となってからは多忙さ故に考えることをやめていた。
・・・俺は思わずそれをすぐに心の外にため息と一緒に押し出した。
俺の中には邪魔だと一蹴する。
『悪魔』故に孤高であり、『人間』故にそれに苦悩する。
例えば、俺が自分に分からせるために「もう決して寂しくはない」と口に出して言ったところで、また孤独感に襲われるのだ。
俺は思わず再びため息を吐いた。
俺は・・・いや、俺という存在はすべてさびしさと悲傷、孤独・・・それらすべてを紙の様に火に焚いて、俺は『修羅』の軌道を進むのだ。
だが、悲傷は確かに蓄積されているだろう。
それでも尚、俺は前に進まねばならないのだ。
窓を見れば、空が碧く流れる雲に鮮明に映る。
残酷な季節は過ぎ、やがて曇った空から降ってきた透き通った水が木や葉を伝う。
前と変わらない世界だというのに、これほど空気が違い、俺の好奇心を満たす。
俺は一人の修羅なのだ。
永遠に呪われた『混沌王・人修羅』なのだ。
俺が嫌でも、この人修羅という名称は付いて回るのだ。
俺がこの名称が嫌いな理由は俺の中ではちゃんとした理由がある。
修羅というのは『醜い争いや果てしのない闘い』。
そんな意味がある。あの『大いなる意志』との戦いを醜いとは俺は思わない。
確かに傍から見れば、くだらない争いなのかもしれんが、やってる側は全身全霊を掛けてやらねばならないのだ。果てしないと言う意味ではあっているが。
だが、『ボルテクス界』での争いはどうだ?
結局、世界を構成しようとしたのは人間だ。
俺も中身は人間だった。
世界を変えるはずの『受胎』だったのに、結局、創造主は人間でしかなかった。
・・・それも一つの理由かもしれない。
人間が想像できない、苛烈な戦いを見たいという好奇心。
俺がこの『コトワリ』を選んだ理由かもしれん。
「主・・・どうなされたのですか?」とクー・フーリンは尋ねる。
「・・・いや、少しセンチメンタルになってただけさ」
「お若いですな」
「そうだな・・・今日も学校か」とシンはゆっくりと布団から起き上がる。
そうか。所詮は"人"か。
人の修羅なのだ。
愚かで、醜い争いを続けていかなければならないのかもしれんな。
それが人修羅である所以かもしれない。
「・・・笑っていらっしゃる」
「え?」シンは着替えており、何も聞いていなかった。
「いえ・・・なんでもありません」とクー・フーリンは微笑み、言う。
「主。何をそれほど悩んでおられるのですか?」とクー・フーリンは尋ねる。
シンは学生服を着ながら答える。
「そうだな・・・もう、進むべき道は見えている。
だが、案外・・・くだらない問いなのかもしれないな」
「はあ・・・師匠もそうですが、我には良くわかりません」とクー・フーリンは首を傾げる。
「若いな」
シンは靴を履き、ドアノブに手を掛けた。
「主ほどではありませんよ」とクー・フーリンはムスッとした顔でシンを見送った
俺はこの世界について何を知っていたんだろう。
あの箱詰めされたコンクリートジャングルの中でただ無知なまま、狭い世界の事を語っていたんだと分かる。
だが、それで何かが変わっただろうか。
「コレハカワリマセン」
・・・ああ、またお前か。
そう思い、道の角を曲がった瞬間。
「ちょ!まじかよ!!」とその声と同時に、シンに腰に物凄い衝撃が来て、そのままゴミ捨て場にゴールした。
「いてててっ」とその衝撃を与えた人物は自転車を持ち上げて、シンから離す。
シンはゴミ袋に顔を突っ込んだまま動かない。
「あー!!すみま・・・ってシン!?大丈夫か!?」
その人物は花村だった。
その声に反応もしないシン。
「おーっす。はな・・・」
と千枝がシンを見た瞬間「まさかあんた!?」と花村を見る。
「ちげぇから!」
と花村が大声を上げると、シンがムクっと起き上がった。
その表情は花村たちと別の方向を向いている為にわからない。
だが、二人はそのオーラでわかった。
(完全に怒っていると)
「じゃ、じゃあね・・・花村・・・」と千枝は逃げるように走って学校の方へと行った。
「・・・覚悟は出来てるんダロウナ」
シンは拳に力を込める。
「い、いえ、出来てませーん!!」と花村は自転車に乗って慌てて逃げ出した。
シンはそれを力を解放して、追いかけた。
後日の話だが、刺青の少年が街中を爆走していたという話は完二に追い回された話とごっちゃになり、八十神高校の生徒が金髪の悪魔に追われているという噂が立ったのはまた別の話である。
「で、どうなったの?今日の朝のやつは」
「見りゃわかんだろ・・・」と花村はぐったりした顔で教室の机に突っ伏していた。
話の分からない天城と鳴上は顔を見合わせ首を傾げる。
そこへ、相変わらずの無表情でシンは教室へと入ってきた。
その顔を見た花村は即座に飛び上がり、「本当にすまん!」と頭を下げる。
「別にいいよ。なんか、すっきりした」と珍しくシンの雰囲気がほっこりしていると鳴上は感じた。それと同時に初めて息切れしているのを見た。
雰囲気は今まではまるで人間の形をした、まさに冷酷な悪魔の様な雰囲気を出していた。
実際、周りの生徒もそれほど近づいてくることもないが、逆に社会の教員には「エジプトの王様の風格だ」と言わしめた。
「・・・何かあったのか?」と鳴上は小声でシンに言う。
「そうだな・・・強いて言えば、悩む前に全力疾走すべきだと学んだくらいだ。」
「?」
そうだ。俺は生きると言うことを内向して悩むような軽薄さを嫌っていたじゃないか。俺はいつも好奇心に取りつかれたように解決していたんじゃないか。
俺が思うようにやればいい。それでこそ、人修羅だ。
授業中ふと、鳴上が見ると、シンは微笑み真っ青な空を見ていた。
鳴上は首を傾げながらも、少し変わった友人をほほえましく見ていた。
混沌 ランク 2→3
閑話みたいな話なので、好き勝手に書きました。
なんというか、苦悩してる人修羅ってのを書いてみたかったと言うのは大きいです。
凄い特殊な人物、(というか悪魔?)なので
評価していただいてありがとうございます。
どんな評価でもしてもらえるだけでなんだが、うれしいですのです。