Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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深まる闇の『鳴神月』
第11話 Very Mad 6月6日(月) 天気:晴れ


日が暮れはじめた放課後、空は日によって赤く焼け、情緒ある景色である。

シンは屋上へと一人行くために階段を上っていた。

 

無論、待ち合わせである。

普段のシンなら、間違いなく、真っ直ぐ帰りテレビを見ていた。

 

存外、カウチポテトなのだ。

 

テレビを見て、くだらないとわかりながらもバラエティ番組を淡々と眺め、そして、夜になれば、ランニングなどを始める。

夜の方が自分に馴染んでいるとやはり思う。

 

取っ手に手を伸ばし、屋上へのドアを開けると、先客が居た。

それは、時々鳴上と一緒にいる・・・

 

 

「なんていったかな?」とシンは腕を組み首を傾げる。

「一条康だって。」と少し落胆気味に一条はシンを見る。

 

「えーっと、間薙シンっていうんだよな」

「ああ」とシンは頷く。

 

「よく鳴上との会話に出てくるから、どんなやつかなって思ってたけど、周りが言ってるほど、って感じだな」と一条は笑う。

 

それから、少し他愛も無い話をした。

世間話である。最近のニュースに始まり、ゴシップネタまで。

 

「そういや、久慈川りせってアイドル知ってるか?」と一条は言う。

「休業するとかなんとか、噂になっているが」

「そうそう。実は八十稲羽の出身らしいぜ」

「そうなのか」とシンは何となく、それを頭の隅に入れて置いた。

 

「あ!そうだ・・・バスケやらない?」と一条は思いついたように言う。

 

「・・・考えておくよ」とシンは胡坐を掻き地べたに座った。

 

「鳴上も居るしさ、部員も少ないし、頼むよ」

そういうと、一条は立ち上がる。

するとシンが口を開く。

 

「バスケ・・・楽しいか?」

 

「え?」と一条は思わず足を止める。

「いや・・・オレは部活ってやったことないんだ。だからさ」とシンは淡々と一条の方を見ずに言う。

 

一条は少し沈黙し、空を見上げて言う。

「・・・初対面のやつにいうはなしじゃねーかもしれないけど、わかんなくなってんだ。オレのところって、結構名家なんだ。それで、バスケなんかやめろって言われてたんだけど、突然、好きにしろって言われてな。」

 

シンは一条の方を見ずにその話しを聞いていた。

 

「お前が来るまでさ寝っ転がって空を見てたんだけど、したら色んな部活の声が聞こえてきて・・・

なんでみんな、あんなに楽しそうなんだろーなって思ってさ。」

 

それを言うと一条は黙ってしまった。

そして、空からシンの方に目線を戻す。

 

「わりぃ。お前にする話じゃなかったな。」そういって屋上から出て行こうとすると、再びシンの声で止められる。

 

「何故、俺をバスケ部に誘った?」

「・・・なんでだろうな」と弱々しく笑う一条。

その表情のまま一条は屋上から去っていった。

 

その心境はシンには図れなかった。

幾千、幾万もの会話と説得をしてきたシンだが、どうも人間には疎い。

長年、人間のいない世界にいたからだろうかとシンは思う。

そして、なにより、シンはやりたいことをやってきたからだとすぐにわかった。

やりたいことをやりたいようにやってきた。

 

その結果が余りにも残酷でも自分の気持ちが赴くままに何事も決めてきた。

 

それに自分には今は何も縛るモノはない。

一条の立場は彼にしかわからない。

 

余りにも赤い空に一条の心情をシンは見ているように感じるのであった。

 

 

 

「やっときたか」とシンは立ち上がると、屋上のドアがギィーっと開く音がする。

「悪いな。教室の清掃係だったんだ。」

鳴上はそう言うと綺麗な笑顔でそれをシンに言う。

 

「しかし、相棒が居るとそれも手早く終わって助かるぜ」

花村はニコニコしながら、鳴上を見る。

「そうだよね。それに雪子もいるし」

「え?私は別に・・・」

「そうそう。天城と相棒が居ればあのモロキンも納得する教室の綺麗さだよな」

花村は自分の事の様に喜ぶ。

 

「で、肝心の完二は?」

かんじ(・・・)んの完二・・・シン君がダジャレ・・・ブフッ」と天城は何を想像したかはわからないが吹き出し、笑い始めた。

 

 

「う、ういーっす」とそこへ完二が来る。

屋上のちょっとした段差に千枝と花村は座り、天城と鳴上は立ったまま、完二を迎えた

シンは腕を組み、屋上から見える景色を見ていた。

 

「ぶっ・・・意外に敬語じゃん。」

「や、だってその・・・先輩だったんっスね」と完二は照れを隠す様に髪の毛を掻く。

 

そう完二がいうとシン以外は笑う。

 

「えと・・・そのありがとうございました。

あんま、覚えてねえけど・・・」

完二は少し不安そうに言う。

 

そして、ここに完二を呼び出した理由を天城が話し始める。

 

「私たち、教えてほしいことがあるの。」

 

その言葉に完二は首を傾げる。頭にクエスチョンマークが出てきそうな勢いだ。

 

「さっそくだけど、あん時会ってた男の子、誰?」と千枝は完二を見て言う。

男の子という言葉に反応し、一瞬驚いた完二は慌てた様子で語る。

「ア、アイツの事は・・・オレもよくぁ・・・」

「つか、まだ二度しかあってねえし・・・」

 

と完二が言うと、シンが口を開く。

 

「白鐘直斗。私立探偵。162cmくらいだろうが、恐らく靴なんかを外すともう少し低いかもな。

・・・」

続けて、シンは何かを言おうと口を開いた。

「おそらく・・・」

「おそらく?」と花村が言うと全員がずいっと一歩前へと踏み出したが、シンは。

 

 

 

「・・・なんでもない」とシンは言うと、再び景色に目線を戻した。

 

「な、なんだよ期待させといて」

「憶測の話を言っても仕方あるまい」

「そうだけども・・・」と千枝は少し表情を濁らせる。

 

「それで、なんでシン君は彼の事を知っているの?」と天城は尋ねる。

「使えるモノは使う。それ以上の意味はない」

「・・・そうか」と鳴上は頷く。

 

「それでさ、二人で学校から帰ってたんじゃんよ?何話したの?」

「や、えと・・・最近変わった事ねえか、とか・・・ホントその程度で・・・

けど、自分でもよく分かんねんスけど、オレ・・気づいたら、また会いたい、とか口走ってて・・・」

「男相手に。」と千枝はぼそりと言う。

 

そういわれると、完二は頷き言う。

「オ、オレ・・・自分でもよく、分かんねんスよ。

女って、キンキンうるせーし、その・・・すげー・・・苦手で。

男と居た方が楽なんスよ。

だ、だから、その・・・もしかしたら自分が、女に興味持てねえタチなんじゃって・・・

けどゼッテー認めたくねーし、そんなんで、グダグダしてたっつーか・・・」

完二は自分の言葉で話す。

 

「まー確かに、男同士の方が楽ってのはわかるけどな。」

 

「気持ちは落ち着いたか?」と鳴上は完二に言う。

 

「もう大丈夫っスよ。

要は勝手な思い込みだったって事っスよ。

壁作ってたのは、オレだったんだ。」

 

その話に皆首を傾げる。

「あ、ええと・・・ウチ、こー見えても代々"染物屋"なんスよ。

・・・あ、知ってんのか。

親は、染料は宇宙と同じ・・・とか、布は生きてるとか

・・・ま、ちっと変わりモンで。」

 

「んな中で育ったもんで、オレ、ガキの頃から、服縫うとか興味があったんスよ。

けどそういう事言うと、やっぱ微妙に思うヤツも居るみたいで・・・

女にゃイビられる、近所は珍しがるで、一時はもう、なんもかんもウザかったんスよ。

で、気付いてみりゃ、一人で暴れてた・・・ってとこスかね。」

 

「・・・」

 

「んだ、オレ・・・何一人でベラベラ喋ってんだ。

あー、今の無しで。・・・なんかオレ、だいぶカッコ悪りっスね。」

 

「そんなことない」と鳴上は真剣な眼差しで完二に言う。

 

「いや、全然ダメっすよ・・・」

そういうと完二は空を見上げて言う。

「ハハ・・・こんなん、人に初めて話したぜ。

ま、今まで言う相手も居なかったんスけど。

やっぱオレ、男だ女だじゃなくて、人に対してビビってたんスかね。

・・・なんか、すっきりしたぜ」

完二の顔は清々しい。

 

「意外に純情じゃん・・・つーか、いい子じゃん・・・」と千枝は笑顔で完二に言うと

「い、いい子は、やめろよ・・・」と完二は怒りながら照れている。

 

「・・・その様子じゃ、犯人の顔は見てなさそうだな。

鳴上たちを追いかけまわした後だ。」とシンは初めて完二の方を向いた。

 

「えーっと、誰か来たような・・・来てないような」

 

「なんだよ・・・ハッキリしろよ」と花村は困惑している。

 

「あと思い出すことっつや・・・

なんか変な、真っ暗な入り口みてえのとか・・・

気が付いたらもう、あのサウナみてえなトコにブっ倒れてたっス。」

 

「真っ暗な入口・・・」と天城はつぶやく。

「それってもしかして、テレビだったりしない?」

 

「あ・・・?

あー、言われてみりゃ、んな気も・・・」と完二はあいまいな答えをすると、シンが完二の前に来る。

そして、完二の頬を両手で挟む。

 

「な、なにするんふか?」

「俺の目を見ろ。・・・思い出せ」

 

完二はその眼を見た瞬間、背筋が凍った。

その眼は今まで見たこともないほど、鋭く自分の顔に刺さっている。

 

「あ、え、っと・・・」と完二は口ごもる。

 

「ちょ、何暴走族脅してんだよ」と花村はシンに言う。

「・・・すまん」とシンは完二から手を放し、上着のポケットに手を入れる。

 

鳴上は自分の目に映ったように口に出した。

「何を焦っているんだ?」

 

「・・・いや、悪かった。」とシンは呟くと屋上の出口へと向かって行った。

 

「・・・」

「大丈夫か?」と花村は言う。

 

「す、すげーっス」

「「「「は?」」」」と四人は完二の言葉に驚く。

 

「い、いや!そういう意味じゃなくてっすね。なんつーか、あの目力をすげぇっすよ」

「ま、まぁ、あいつのキレた時は本気でヤバいからな」と花村は追って来ているシンの目を思い出し

冷や汗を流す。

 

「・・・何を焦っているんだろう」と天城はシンの出て行ったドアを見て呟く。

「確かに・・・珍しく感情的って言うかね」と千枝は天城に同意する。

 

「・・・そういえば、シンはテレビに入った時、『影』の暴走はなかったよな」と花村は思い出す様に言う。

「『影』の暴走?」と完二は首を傾げる。

「お前がテレビの中で見た、もうひとりの自分の事だ」と鳴上は説明する。

 

「そうだね。確かにシン君だけなかったね」

「やっぱり、『悪魔』だからなのかな?」と千枝は言う。

「あ、『悪魔』?ど、どういうことっすか?」

 

「一通り説明しよう」と鳴上は言う。

 

シンの事に始まり、完二の身に起きた事、マヨナカテレビなど自分たちの知りえることを話した。

そして、完二が特別捜査隊に入ることを祝いにシンを除く全員でジュネスへと向かった。

 

 

 

 

薄暗くなってきた帰り道、シンはポケットに手を突っ込んだまま歩いていた。

焦りたくもなる。中途半端に終わられても困るのだ。

 

「ルイ。見てるんだろ」

「・・・何か用かね」

 

「この休息とやらはいつ終わる」

「クックックッ・・・」とルイは不敵に笑い言う。

 

「・・・まさか、わからない。ということでは、無いだろうな」

「鋭いな混沌王」とルイは笑うのを止める。

 

「この世界にある『アマラ経絡』の穴。それが生じている間、とだけは言っておこう。」

「・・・不安定ということか。」とシンは腕を組み考える様に言う。

「そうだ。現に『仲魔』の召喚が不安定なのが何よりの証左だ。5月には無尽蔵に呼び出せたが、今では、この世界に維持できるのは最大5体。

ストックも含めてな」とルイはハンチング帽子を脱ぎ、髪型を戻し、再び帽子を被る。

 

「・・・お前も楽しんでいるのだな。俺が悩み、もがいているところを見ているのは」

「クックック・・・どうだか。この世界の悪は可能性を探っている。自分が操り人形だと知らずに、神を気どっているのだ。そういう意味では、我々の敵は”善”そのものだ。

だが、どうやらお前はその可能性に荷担しているようだが。正直、彼らがどちらに転ぶか、我は楽しみにしているのだよ?それにそれほど、心配する必要はない。

時間は掛かるが再びこの世界への経絡を開けばよいだけの話だ」

「焦る必要はないと?」

「そうだな」

「だましたな」

「そうだな」とルイは笑いをこらえている。

「私は限りある時間と言ったが、それがいつなのかは明確には言っていない。

しいて言えば、この事件の黒幕を暴くまでいてもらいたいのだよ。」

「…なぜ」

「それが、我々にとって必ずしも力になるからとしか言いようがないがね」

 

シンは一瞬、拳を握ったが、すぐに緩めた。

「…まあ、いい。知らない俺が悪かった」とシンはため息を吐いた。

確かに、何を焦っていたのか、シンは思う。アマラ経絡の形や制限を未だに理解していない自分を呪った。

 

 

そうしているうちに住宅街に差し掛かると、ルイは消えた。

シンには消えた理由がすぐにわかった。

バイクの音が聞こえたからだ。

 

「まいどー」それは愛屋の『中村あいか』であった。

 

「・・・どうも」

 

「今日も来る?」

「ああ」

「まいどー」と言うとバイクで颯爽と走って行った。

 

放課後は愛屋でシンはまったりとしていることが多い。

週五と言わんばかりであり

今日も、それは変わらない。

 

夜になり、いつも通り、愛屋から出ると、完二と出くわした。

「こんちゃーす。・・・じゃなくて、こんばんはーッス。」と完二に言われ、シンは頷き答える。

 

「先輩もここらへんなんすか?」

「神社裏のアパートだ。」

「へぇ、一人暮らし、してるんっスね」

と完二は言うと、夕方のことを思い出し尋ねる。

 

「あーえーっと、天城先輩と鳴上先輩が言ってたんっすけど、何を焦ってるすか?」

「・・・俺は自分に愚直で、気の赴くままやってきた。だが、中途半端というのはあまり好かなくてな。

特に、好奇心に関係したことは特にな」

 

「はぁ・・・でも、なんで好奇心が関係してくるんッスか?」と分からないと言った返事をした後に、完二は質問する。

 

「単純なことだ。

 

 

面白そう。

 

 

それだけだ。」

 

それを聞いた完二は一瞬止まり、そして、笑い始めた。

 

 

「ハハハッ・・・なんすかそれ。なんかもっと大事とか思ってました」と完二は笑いながら言う。

 

「何事も動機は単純な方がいい。

それにどんな結果になっても、俺は変わることはない。気の赴くまま、いくだけだ。」

 

「でも、やっぱり先輩はかっこいいッス。」

 

「・・・そうか」とシンは淡々とそれを受け止める。

 

「じゃ、そろそろ帰ります」

「ん」と手を挙げてシンはそれに答えた。

 

 




主人公のシンについて何となく固まってきそうかな?って、感じてす。
あのセリフのおかげですかね。

漠たる死に安らぎなし
曲折の果てに其は訪れん
人に非ずとも 悪魔に非ずとも
我が意思の逝くまま

DDSのやつですね。

我が意思の逝くまま
ある意味赴くままというイメージが強かったので、中身でも赴くままとしました。

真があるのかないのか。わからない感じにしようかなと。
・・・’シンだけに

あと、個人的にペルソナとかのアニメとか映画、なんかいろいろやってて、最近じゃ、ペルソナ5の発表とかあって、アトラスが凄い盛り上がっててすごく嬉しいのです。

でも、その勢いのまま、空中分解とか洒落にならないので、そういうのも勘弁してください。
僕が死ぬまであるといいなぁ。
勿論。アトラス作品死ぬまで買い続けますとも。



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