この話は本編とは一切関係ありません。
飛ばしてもらっても構いません。
『ぼくは世界の涯てが 自分自身の夢のなかにしかないことを 知っていたのだ』
寺山修司 「懐かしのわが家」より
「なあ、これからカラオケいかねーか?」
「…悪いな。用事がある」
そういうと、俺はカバンを机から持ち上げ、教室から出て行った。
上履きから外履きに履き替え、校門から出ると、大きなビルが立ち並ぶ。
最近、それが揺れているような感覚に陥るときがある。
でも、おそらく気のせいなのだろう。
疲れだ。どうせ、たいしたことはない。
高校の最寄駅へと向かい、いつもと同じ動作で定期券を改札に入れ、取り出す。
電車が来るまでの時間を確認し、ホームで電車を待つ。
…実は、特別することはない。
"用事"などない。少し疲れたから、今日は断ったのだ。
何も変わりなく、平凡に流れていく時間と人間。
辺りを見渡せば、携帯を睨み付けるスーツの男性や、怠そうにガムを噛みヘッドフォンをする青年、化粧を直す女性や、抱き合うカップル。
動く長針の針と、少し赤らむ空、遠吠えをする犬、都会特有の空気の不味さと喧騒。
何も変わらない光景だ。
だからこそ、退屈だ。
それがここ最近思うことだ。
反吐が出そうなほど、気が狂いそうなほど、刺激もなく何も起きない。
目に見えない事件や何かは恐らく起きているのだろう。
あの抱き合っている二人を見てみろ。
愛だとか恋だとかそんなモノでさえここのホームに溢れている。
それを事件と言わずに何という?
ここに限らず巷には見えないもので溢れている。
路上で抱き合い愛を確認する。若者に夢を語れと先人は言う。
愛だとか夢、そういったものだ。
それを否定するものは
存外、それに異を唱えることさえ許されないのかもしれない。そんな世の中だ。
だが、そんなものにどれほどの価値があるのか、今だに分からない。
所詮は短い人生の中での些細なこと。無くて死ぬわけではない。
あるから生きやすくなるわけでもないんだろう。
そんなものがなくても楽しいものは楽しい、辛いものは辛いのだ。
愛があれば耐えられるや夢の為だから耐えられるだとか、そういったものは結局辛いことには変わりないのだ。耐えられる耐えられないの問題ではない。
そこは問題点ではない。
目に見えないものは、手に持ったサハラ砂漠の砂のように零れ落ちて、気が付けば何も残っていない。何度も何度も掴もうが空を切るのだろう。
では物理的なものはどうだろうか。
…なんだかそれはそれこそさびしいと思う。
そうなってくると、本当に俺は何の為にここにいるのか、わからなくなる。
『居させてもらっている』。違う。俺はいつだって家を出ることはできる。
なら、なぜここに居る。
そこへ、電車が到着する音がする。
俺はふぅと考えるのを止め、電車の中へと乗り込む。
電車に乗ると仲良さそうに同い年の学生が話していた。
その顔には笑みが溢れ、楽しそうに口を動かす。
ああ、そうか。
俺は気が付いた。
俺は"オレ"が嫌いなんだ。
夢も理想も愛も他人も…
そんなものを持っている人間が羨ましい。だから、嫉妬する。
嫉妬しているオレが嫌いなんだ。
何も知らないくせに傲慢な態度でいるオレが嫌いなのだ。
持ってないから渇望する。そして、嫌悪する。
思わず俺は自分の顔を両手で覆った。
俺はオレでいることが何よりも苛立たしかった。
無知で愚昧で蒙昧…
自分の顔の皮を剥ぎたくなるほど俺は自己嫌悪する。
何も知らない。何も考えないでどこか遠くに行ってしまいたかった。
と、トンネルに入ったのか車輪音が響く。
俺は顔を上げると、客が誰も居なくなっていた。
そして、トンネルを抜ける。
軽快に鳴り響く汽車の車輪音、深緑に染まった山々が見えた。
固くなったパッチを人差し指と中指で挟み、それを勢いよく持ち上げる。その窓を開けた瞬間に流れ込む風と共に土のにおいが鼻を刺激する。
風で髪が靡く、何度もすれ違う細い電柱。
汽笛がなり、煙が濃くなる。
田園が広がり、農夫が身を屈め苗を植える。
そこには正に田舎町が広がっていた。
終点に付くと、自然と体が動いた。
無人駅で切符を小さな錆びた缶に切符を入れた。
そして、潮のにおいが鼻に刺さる。
海が近いのかそれにつられるように歩き出した。
ああ、旅は良い。喧騒もなく、人も少ない。
・・・人?
それで気が付いた。
俺は他人を見て、鏡のようにオレを判断しようとしていた。
決してそれは間違いではないのだろう。
人は他人からでしか自分をしることができない。
なら、諦めよう。
下らない問だ。
俺の癖だ。何の役にも立たない思考を繰り返す。
どうも、ムカつく。
意味なんて初めからない。
俺はオレと乖離することも離脱することもない。
ましてやそんな必要もないだろう。
そして、俺は崖に囲まれた浜に着いた。
そこからは、世界の果てまで見えるような、地平線の向こうまで一点の曇りもなく見える。
「静かだ。」
波の音だけが心地よく響く。
そこに一匹の蝶が飛んできた。
黒い透明感のある蝶だ。その蝶は俺の手に止まり、すこしはためくと
俺の体に溶けて行った。だが、それに違和感はなく、寧ろ心地が良い。
眼を閉じ、ため息を吐く。そして、目を開くと木の木目が視界に入った。
はて。あの景色はどこへいってしまったのだろう。
妙に手が痺れ、何より当たりが薄暗い。
ぐいっと顔を上げると、すぐ近くに問題集を持ち厳しい顔でこちらを見る数学教諭が居た。
俺はじーっとそれを見ると、再び机に突っ伏した。
目の前の数学教諭から逃げたいというのもあったのか、夢の中に置いてきたあの景色をもう一度見たい思った。
あの世界の果てまで見渡せるような、そんな景色をもう一度見たかった。
その後、頭に衝撃が走ったのは言うまでもない。
恐らく意味不明だと思いますので解説をいたします。
話はシンが人修羅になる前の話です。
日常的な雰囲気ですが、ある意味、神からの『啓示』的なストーリーになっています。
つまり、なるべくして人修羅になったという勝手な設定です。
真女神転生3では『あの者が気になるんでございますか?』と老婆が言っていました。ルシファー自身が気になるほどの恩恵をシンは受けていたという将又勝手な設定。
*Do Devils Dream Of God?(悪魔は神の夢を見るのか?)
これはわかる人にはすぐに分かりますが、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』のパロディです。神というのは出てきた蝶のことです。
蝶はこれはペルソナの元の『胡蝶の夢』を少し考えています。
夢の中に出てきた蝶。これは後の人修羅を象徴しています。
そして、神に近い存在になるという暗示。だと思ってもらっていいと思います。
何せ『混沌王』。それが神とほぼ対等だという暗示ですが、所詮は『夢』。それが事実なのか、神の手のひらの上なのか不明。
(個人的には、未来とか夢って自分の体の中にあって欲しいモノだと思う。誰かの思惑で動いてるんじゃなんか、俺いらなくね?みたいになる)
*『ぼくは世界の涯てが 自分自身の夢のなかにしかないことを知っていたのだ』
これも上記に関連しています。混沌王になってから、永遠に戦い続ける。
簡単に言ってしまえば世界の果て=戦いの終わりを意識しました。
だが、それは人修羅にとっては夢の中にしかないということ。
だから、自分自身の夢の中にしかない。
世界の果てと同じように。