Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

17 / 93
6月20日(月) 天気:曇

6月21日(火) 天気:雨







第16話 The Shadow of Bloom 6月20日(月)・21日(火)

人間というやつは自分の理想と現実の差異に苦しむ。

故に、理想を求めて直走ることが出来るのだろう。

 

"あいつ"。つまり、ニャルラトホテプに言わせると、

『過去と未来とは、現実と理想。

予知できぬが故に、人は未来に希望を抱き、それが過去となった時、儚い現実を知る。』

 

 

彼女はどうだろうか…

 

『…以上、当プロ"久慈川りせ"休業に関します、本人よりのコメントでした。』

テレビの中ではマイクに囲まれたスーツの男性がポツポツとアイドルの休業理由を語り終わった。

 

『えー、時間が押しておりますので、質問などございます方は手短に…』

 

と、一人の記者が声をあげた。

 

『失礼、えー"女性ビュウ"の石岡です。静養ということは、何か体調に問題でも?』

記者が質問を終えると、現役女子高生アイドルこと、久慈川りせにカメラが向いた。

 

『いえ、体を壊してるって訳じゃ…』というものの、目は少しうつろに見える。

 

『と、すると、心の方?休業後は親族の家で静養とのうわさですが、確か稲羽市の方ですよね!連続殺人の!』と語尾を強めて記者は質問する。

 

『え?…』

 

俺はリモコンを手に取り、テレビを消した。

 

彼女にとって、理想がどうなのかを俺は知らないし、過去も興味などない。

つまり、俺にはどうでもいいことだ。どうでもいいことだし、これから先も興味を持たないだろう…

 

そう思っていると、皿の割れる音がした。

 

「大丈夫か?」と俺はソファから起き上がりキッチンを見た。

「…はい。大丈夫でございます」と小さな箒で掃除を始めた。

 

そして、ここ最近、メリーの様子がおかしい。

あれほど、淡々と仕事をこなして彼女が最近、と言ってもここ二日三日の話だが、ミスが目立つ。

だからと言って、いきなりおっとりキャラにキャラチェンジをしている訳ではないらしい。

寧ろ、ミスをする方が、俺としてはそれの方が愛嬌があっていいと思う。

 

「…手伝うよ」

俺は起き上がると、メリーの掃除を手伝いにキッチンへと向かった。

 

 

 

 

 

普通の人間なら、寝ているときの『夢』というものはそれほど、大した意味を持たない。

概ね、記憶の整理とされている。

それが統合されて、混沌と化すことも屡ある。

 

だが、時に夢というのはとてもおかしいことを起こすものだ。

彼にとってはそういった経験は、二回目であった。

 

あの霧に包まれた夢よりも、もっと彼にとってはインパクトに残ることとなる。

 

 

 

 

「…ん、あ」と鳴上は固い地面に突っ伏していることに気が付き起き上がった。

 

(…どこだ、ここは)

まわりを見渡すと、赤い楕円の上下がとがったようなものが無数にあり、常に赤い点状のものがうごめいている。

そして、なにより、雰囲気が禍々しく、それだけで身を削られている気持ちだ。

 

「…あら、あなた、」と声を掛けられた。

「!?」

 

鳴上は驚いた。

透明な女性がこちらに話しかけてくるのだから、それはもう気が気ではない。

思わず、拳に力が入る。

 

「そう気構えないで頂戴?私は何もできないわ」

「…ここはなんですか?」

 

 

 

 

「ここは『アマラ深界』。『第1カルパ』」

「?"アマラ深界"…?」

「そう。マガツヒの流れる道の最深部に存在する世界。そして、治められているのは『あのお方』素晴らしく禍々しいの」

「…」

 

その眼はまるで取り憑かれたように虚ろであった。

 

鳴上は記憶を辿った。

堂島や菜々子と食事をしながら、久慈川りせのインタビュー映像を見た。

そして、お風呂に入り、確かに布団の中に入ったはずである。

 

だが、気が付けば、この禍々しい空間に居た。

 

「…何者ぞ」と丸いドアらしき場所から、黒い馬に乗り、赤い鎧で全身を包み、捻じれた角が二本生えている兜をかぶったモノが現れた。その手には槍を持っている。

 

「…わかりません」と幽霊の女性は首をかしげた。

 

「ふむ、人間か。

…だが、ボルテクス界は暗闇に包まれそして、神不在の今、人間がどこから現れようか。」

「恐らく、『あのお方』のお知り合いかと…でなければこうして、突然は現れませんと考えます」

「…ほう」

 

仮面のようなもので表情は分からないが、確かに自分を見る目が変わったように思えた。

 

「して、どうやってここに来られましたかな?」と突然、言葉が丁寧になった。

「…わかりません」と鳴上は正直に答えた。

「…うむ、困ったものだ。」

 

 

「膨大なマガツヒを感じたから来てみれば、可能性の人間か」

「!?」と鳴上はとっさに後ろに下がった。鳴上の戦い慣れがそれを瞬時に察し、足を動かさせた。

 

重々しい声がした方に鳴上は振り向く。

そこには、杯を片手に持ち、茶色に近い肌で魚のようなものを模した兜を被った男がいた。

 

「…この地は『あのお方』の許可なしに踏み入れることは許されん。

許可されしものは『ライドウ殿』のみ。ライドウ殿の修練の日だとは聞いていない。」

 

 

「は。バアル様。

アカラナ回廊からの接続も確認していません。」

 

「となると、貴様は可能性の世界からか。」

 

そういうと、杯指ではじいた。

 

すると、鳴上は力が抜けていくのを感じる。

「あのお方?…くっ…そ」

「…いずれ、またここを訪れる日が来ようぞ。

今、貴様はここに居るべきではないのだ。」

そういうと、バアルと言われた悪魔、笑みを浮かべた。だが、それはニヒルな、笑いである。

その笑みを見て一人思い当たる人物が居た。

 

「…シ…ン?」

そういうと鳴上の意識は薄れていった。

 

 

 

 

「……ん…ちゃん…お兄ちゃん!」

「!?」と鳴上は飛び起きた。

まだ、それほど暑くもないのに。汗をかいているのは明白であった。

 

「大丈夫?…大きな声…上げてた…」と菜々子が部屋のドアの前で心配そうな声を出していた。

「…大丈夫だよ。菜々子」

 

それは菜々子を心配させないと同時に、跳ねるように動く自分の心臓に言い聞かせるような心境であった。

 

 

 

 

 

その日の朝…

シンが珍しくいない中、それぞれ鳴上達が話していると、教室に完二が来た。

「うーっす」

完二は気怠そうに鳴上達に声を掛けた。

 

「お、来た。最近、マジメに来てんじゃん、どしたの?」

「出席日数って面倒なんがあるもんで。」

というとため息を吐いた。

 

「しかし、お前の顔を見ると、こう…どうにも林間学校思い出すな…」

花村がそういうと、男性陣三人は苦虫をつぶしたような顔をした。

 

「つーかそうだ、先輩ら、ニュース見たッスか?」

「ニュース?…ああ、"久慈川りせ・電撃休業"ってやつ?

まさに今ブレイク中ってとこなのに、なんで休業すんだろーね。」

 

「アイドルってのも大変だよなー、うん。」

「りせってそんなに有名?」と鳴上が花村に尋ねる。

 

「え…知らないの?お前、これは都会とか田舎、カンケーないぞ?

まだデビューして短いけど、このままいきゃ、じきトップアイドルだぜ。」

少し興奮気味に花村は話す。

 

「俺、結構好きなんだよ!なんたってキャワイイ!」

「キャワイイって…オッサンかよ。」

 

「まあでも、確かにここ出身で、小さいことまで住んでたらしいし、ファン多いんじゃん?」

「ニュースだと、彼女"お祖母さんの豆腐屋さん"へ行くんでしょ?それ…もしかして、マル久さんの事かな。」

 

「マルキュー?」天城の言葉に首をかしげた。

 

「"マル久豆腐店"。ちょっと前まで、ウチの旅館でも仕入れてたの」

 

「あー、商店街のあそこか!よく前通るな。

え、じゃあ、あの豆腐屋行ったら、りせに会えんのかな!?」

と花村はガタッと席を立った。

 

「ぜひ今度会いたい。」

 

「ちょっとちょっと、重要な点から逸れていってない?」

と千枝がカツを入れるが、花村は首をかしげる。

 

「事件の話だって!アンタ自分で"テレビ繋がり?"って言ってたでしょーが!

狙われるかもよ、彼女?」

「そんな、りせは別に昨日今日テレビに出たわけじゃないじゃん。」

 

「だが、そうでもないみたいだな」

 

「あ、シンか遅かったな」と全員が声のした方へ向いた。

 

「テレビに出ている時期は関係ない。時の人、が目を付けられる。」

「それに、これでもしりせが狙われたら、犯人の狙いがつけられるな」と鳴上はシンの話に同意するように付け加えた。

 

「テレビで報道された人間が犯人のターゲットということが確定するだろうな。

予想が的中すればな」とシンは腕を組む

「あーはーなるほど」と完二は納得したようにうなずいた。

 

「よし、じゃ早速、りせの動向に注意だな!」

 

「朝の時点では異常はなかったがな」とシンは席に着きカバンを置いた。

 

「うっそ!りせと会ったのか?」

「いや、まだ会ってない」

 

「ってか、間薙君、その帽子は?」と千枝はシンの被る帽子を指差した。

「ああ、これか…」と黒い学生帽を脱ぎ、手に取った。

 

「…プレゼントされたものさ」

「へぇ、でも年季が凄いっスね。でも、どうして被って来たんスか?」と完二はマジマジと帽子を見た。

「まぁ、少し煽ってきた」

 

「煽って?」と天城は尋ねる。

「面白くなるように、煽ってきた」とシンは頬を釣り上げて口をゆがませた。

 

「ま、間薙先輩流石っス。」と完二はあこがれの目でシンを見る。

「いや、多分お前が想像してんのと違うからな」と花村は恒例のツッコミを入れた。

 

 

この会話の約1時間前、一体何があったのか。

朝、午前7時。

 

 

 

「…」とシンは辰姫神社の入口すぐの階段に座り"マル久豆腐店"を気付かれないように見ていた。ズボンのポケットに両手を入れる。学生帽を被り、気配を消す。

恐らく、今のシンは空気である。

 

誰もそちらを見ない。

意識的にみない限り、彼に視線がいくことはないだろう。

 

「…あなたですか」と直斗がいつもと変わらぬ恰好で、シンの前に現れた。

「…なんだ、少年」

「何を言ってるんですか?ほとんど同じ歳ですよ…」と直斗はシンの横に並び立った。

 

 

「…あなた一人で攫う計画でも立てているんですか?」

「さあ?」とシンは表情を変えずに淡々と答える。

 

 

「…正直、あなたという人間がまったくもって情報がなくて、僕も困っているんですよ。」と直斗はシンをじっと見た。

「何故、この町に来たのか。これに関しては本当にわかりません。

ですが、どこから来たのか。これは東京だそうですね。」

「…ストーカーかい?君は」

「いいえ、探偵ですよ」と直斗は少し笑みを浮かべる。

 

「ですが、東京のどこからか…それは全くもってわかりません」と直斗は俯く。

 

「正直、これほど情報の無い人間はいません。そして、何よりあなたの眼が…同じ年の人間だとは思えない。」

「…それは論理的結論?」

 

「いえ」と直斗は顔を上げ、じっと見る。

 

 

「勘です。探偵としての」

 

 

「…残念だけど、俺は彼女を攫う理由もないし、山野アナや小西早紀の事件の時には俺はここにはいなかった。」

 

「いえ、あなただけを疑っているわけではありません。

"あなた達"も一つの可能性だと考えているんです」

 

シンは少し沈黙し、口を開いた。

「…一つ言えることは、君から見える景色と俺から見える景色は違う。

君がそれぞれ単体の"花びら"を見ているのかもしれないが、

俺は『華の影』を見ているのかもしれない。」

そういうと、シンは腰を上げた。

 

「…事件は"恋"するものではないぞ?盲目になっては誤った真実を生み出す。」

そういうと、ニヒルな笑みを浮かべる。

 

「…」と直斗は渋い顔をして俯いた。

 

「じゃあな、少年探偵。」

 

 

 

 

兎に角、彼"間薙シン"という人物は侮れないと感じる。

彼と接触を図ったのはある意味、失敗だったかもしれないと思う。

探偵をやってきて、様々な人と会った。

 

だが、彼のような人間は…初めてだった。

…寧ろ、"人間"なのか疑った方がいいのかもしれない。と思うほどだ。

 

吸い込まれそうな程、真っ黒な瞳は光さえ無い。

例え、どんなに太陽の光が射していても、彼の目には光がない。

 

そして、独特な髪形、私服は服装はフードのパーカーが多い。

 

学校での様子は至って優秀。

交友関係は僕が疑っている彼ら。

 

休日は一日中家から出てこない時もある。

 

何より、メイド。そう。メイドが彼の家に居るのだ。

相当な資産家と思われる。だが、そんな人間の情報がないというのは明らかに不審である。

 

ふと、直斗は思う。

 

…そもそも、彼はここで何をしていたのだろうか。

 

『一つ言えることは、君から見える景色と僕から見える景色は違う。』

 

…!?

そうか。彼らもやはり気づいているのか、彼らが犯人か…

 

 

 

 

21日・夜

 

時計の針はもうそろそろ、一番上で重なりそうな時間であった。

 

間薙は真っ暗な部屋で電源の入っていないテレビの前で寝っころがり、『マヨナカテレビ』を待っていた。

暗闇では青い目、そして、"金色の目"が光っていた。

 

暗闇になると、シンの瞳は"金色"に光る。

その光は禍々しい。暗闇では特に禍々しく、見たものを引き付ける。

 

「主。楽しそうですね」とクーフーリンは立った状態で寝っころがるシンを見た。

「そうだな。テレビというのは子供の頃から好きだったからな。」

「所謂、"テレビっ子"というやつですか?」

「…そうかもしれんな」とシンは思い出すように語る。

 

「そろそろですね」とクーフーリンが言うと、テレビから雑音が流れてきた。

 

ノイズの混じったその画像はどうやら女性のように見える。

水着を着て、様々なポーズをとっている。

 

だが、完二がテレビの中に入った時とは違い、鮮明ではない。

(つまり、まだ外に居るということか)

 

そして、恐らく"久慈川りせ"だろう。ツインテールという特徴が酷似している。

だが、顔までは良く分からない。

 

テレビが徐々に暗くなり、真っ暗になった。

 

「…不思議なものですね。テレビというのは」とクーフーリンはいう。

「これは例外だ。ふぁあああ…クーフーリンよ。俺がテレビが好きな理由がわかるか?」とシンは欠伸をして、起き上がった。

 

「…いえ、存じません」

「あの中には人の感情が渦巻いているからな。

夢、不安、笑い、感動、理想、願望…。

だからこそ、テレビは人を魅せるのだろうな。

今では趣味の多様化でテレビは衰退しているがな。」とシンは再び欠伸をする。

 

「…感情ですか。」

クーフーリンは…少しためらいを見せ、尋ねる。

「…主は…主はテレビの中に何を見たのですか?」

 

シンは少し間を開け、クーフーリンを見て呟くように言う。

「…人の闇だ。"悪魔"よりも残酷で非情な人間の心」

シンは少し溜め息混じりに言いベットのある部屋へと入って行った。

 

 

 

シンはベットに入り、天井を見る。

そして、事件のことを思う。

 

…テレビで報道された人物で、ほぼ確定だろう。

しかし、こうなると、動機が尚一層分からなくなる。

何故?…理由が思い当たらない。

これだけ、パターン化されているのに、動機がないというこは考えにくい。

となると、可能性が多すぎる。

 

…ま、解決できればいい。

人の生き死にはどうでもいい。

そんなものを気にする意味はない。

 

 

俺に人間的倫理も善さなんてものにはもう縛られん。

 

気が赴くまま…自分のやりたいことをやるだけだ。

ここに来たとき、そうやろうと決めたではないか。

 

思わず口元が綻ぶ。

 




どうも、真女神転生ivのサントラが良くて、テンションの、あがっているソルニゲルです。
だって、死ン宿とかbattle -c2-とかiiiのアレンジとかで、もうそれだけで大興奮!
ivはiiiと違って原点回帰というか、そんな雰囲気が有りましたね。
ただ、作品の雰囲気はiiiが一番好きです。
それに、そのivのchaos,lawルートはイザボーをね…結構、好きなキャラだったんで、初回がchaosルートだったので、すごく辛かったです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。