放課後…
ジュネスから変わらず、テレビの中に入ると、クマが背を向けていた。
「おーい、クマクマ?」と千枝はそんなクマに声を掛けた。
「クマ、泣いてないよ。」
「みんな、クマの事忘れて楽しそうに…クマ、見捨てられた…」
「そ、そんな事あるわけないじゃん!」
「でもでも!いろんな"アクマ"?が来て楽しかったクマ!」と一転クマは笑顔で答えた。
「ヒホー!ここで最強になるんだホー!!」とクマの周りにはジャックフロストが居た。
ジャックフロストはシンを見ると、飛び跳ねて踊り始めた。
「でも、クマは自分が何なのか、わからないクマ。ダメな子クマ…」
「答え見つからないし、みんなは来ないし…」
「お前…情緒不安定すぎるだろ…」と花村がため息を吐いた。
「…でも、アクマが帰っちゃうと、独りだしいろいろ考えちゃって、寂しさ増量中クマ…
みんながいないと切なくて、胸がはり避けて綿毛が飛び出しそうクマよ…」
そういうクマを千枝と天城が撫でると、嬉しそうな顔で千枝たちの方を向いた。
「いつか逆ナンしてもよい?」
「おー、いいぞぉ!」と千枝は答えた。
「…逆ナンのネタは、もう封印しない?」と天城はばつが悪そうに言った。
「それよか、確かめてー事あるんだよ!今、こっちどーなってる?」と花村は話を戻した。
そう、ここに来た理由。
それは昨日映ったりせは鮮明に映ってしまった。それが問題なのだ。
鮮明に映ったということは、すでにテレビの中にいるということになっている。
昨日の花村の悪い予感は的中したことになる。
「久慈川りせって女の子、来てないか?なんかわかんない?」
「クジカワリセ…?んむ…?」
「わかんないのか…?なんか、お前の鼻、段々鈍ってきてない?」
「クマは何をやってもダメなクマチャンね…みんなの役に立たなくなったら、きっと捨てられるんだクマ…」
「そんな事ない」と鳴上がフォローする
「そうなったら、"ウチ"に来るといいんだホー!なんて言ったって、シンはこん…」とヒーホーが何かを言おうとしたが、シンにより強制帰還させられた。
「クマー!ホント、クマか?」
「…まあ、別にいいぞ。ウチはお前みたいなやつばっかりだからな」
「ははぁ、シン君は王様クマね!」とクマは飛び跳ねた。
「そうかもな」とシンは表情を変えずに答えた。
「じゃあさ、それは置いておいてね、この前みたいに、何か感じつかめそうなもの探してくるよ。」と千枝が言った。
皆が頷き、テレビの外へと向かった。
シンはテレビの中に残っていた。
「…シン君、どうしたクマ?」
「クマ。君は俺と会った時、"同じ匂いがする"といったな」
「うん、今もするクマ」
「…クマ、悩め。」
「?」とクマは体を傾け疑問の意を示した。
「最善な答えなんてないんだ。絶望したって、結果は変わらない。なら、受け入れることだ。」
「な、なんか分からんけど、クマやってみるクマ」
「…さてさて、どうするかな」とシンは商店街の入り口に立ち、考える。
前回と同じようにパーソナルな情報を集めれば、良いのだろう。
とりあえずは豆腐屋だな。
「おや、この前の…」
「こんにちわ。すみませんが、彼女についてなにか教えてもらえますか?」
「そうだねぇ。時々ふらっといなくなることはあったけど…心配だねぇ。
最近はうちの周りにカメラを持った人がうろついてるって、聞くしねぇ。
ぱぱらっち、と言うんだったかのぉ。
商店街の皆さんに追い払ってもらってるが、懲りないねぇ…
今も時々土手にいるそうだよぉ。」
「…なるほど、ありがとうございました」
土手か…行ってみるか。
「ああ、なんか居たんスけど。オレが話を聞こうとしたらなんか逃げやがって…アイツ、どこに逃げてった…」
「まあ、お前の人相で話しかけられたら、そりゃビビるわ」と花村が言った。
「…そうか。」とシンは腕を組んだ。
『王よ』
(…なんだ?)
ニャルラトホテプからテレパシーで連絡があった。
『校内で良い情報を聞いた。役立つといいが』
(それで?)
『どうやら悩んでいたそうだ。…人間はいつもそうだな。特に思春期特有の苛立ちや悩みを一生抱えて、未成熟なまま人間は死んでいく…愚かだ…実にな』
(…いつの時代も変わらんさ。)
「…ってシン聞いているか?」
「一つ、情報が入った。どうやら、悩んでいたそうだ。」
「"悩んでいた"っスか…でもなんでなんスかね?」
「さあ?そこまではわからない。」とシンは首を振った。
「悩んでいたか…やっぱ、芸能界ってそうなのかな…」と花村は言う。
「なんだ、やっぱりスカウトされたいのか?」
「バカ!ちげーよ!…ああ、バイクナンパ事件、思い出したら体調悪くなってきた…」と花村は顔を青くした。
「とりあえず、また明日来てみましょうよ。」と完二は言った。
「そうだな。そのパパラッチなら知ってるかもしれん。もっと詳しい理由を」
次の日は生憎の雨であった。
シンは放課後、傘を差し土手へ向かった。
「なんだ君?」とマスコミのカメラマンに答える。
「久慈川りせについて教えてほしい」
「君もりせちーについて情報を集めているのかい?」
「…よかったら、君の持っている情報と僕の持ってる情報を交換しない?商店街の人たちには警戒されちゃってなかなか情報があつまらないんだよ。」
「わかった」
シンは『TVとは別人であった』ということを伝えた。
「ふうん、やっぱりか。…実は僕も昔、プライベートのりせちー、目撃したことがあるんだ。
驚いたよ、テレビの印象と全然違っててさ。すぐに本人とは分からなくてね。
でも、アイドルって"キャラ作り"するものだし当然っちゃ、当然なのか。」
そして、『悩みを持っていた』ということを伝えた。
「…悩んでいた…ね。やっぱりそこになるのかなぁ…
いや、実は先日電撃休業の理由について、取材していたんだけどさ。
"りせちー"って創作されたキャラクターに疲れてしまった、って情報が有力なんだ。
"普段の自分とは違う、アイドルとしての自分…"
それに耐えられなくなった…って線で決まりかな。目新しい情報はなかったけどありがとう」
そういうと、カメラマンは去って行った。
シンは皆にジュネスに集まるように連絡して、自らもジュネスへと向かった。
つまり久慈川りせは"本当の自分"について悩んでいたということになる。
(同じ悩みを持った者が二人か…クマと久慈川…同じ穴の狢というわけか)
しかし、前回の事を考えると、犯人はテレビの中にいないだろう。
それに『シャドウ』も雑魚に等しい…
「また、つまらん探索か。」
そういうとシンはため息を吐いた。
シン自身、人助けであるとか、そんなことを目的とはしていない。
今回に関しては、マヨナカテレビに入れられてしまった事で、既に8割興味が失せてしまっている。
何故なら、犯人は自らはテレビの中に入らないという確信があったからだ。
根拠は、まず死ぬと分かっていて入る馬鹿はいないからだ。そして、”入れる”ということを主に考えている人間がワザワザテレビの中に入る必要がないからだ。
ご存じの通り、あのテレビに入れられた者は死体となって帰ってくる。
まさに、死体生成機と言ったところだ。
…電子レンジ並の手軽さだ。
鳴上達の話によれば、自分の影に食われてしまうということらしい。
それと向き合った者が、ペルソナというシャドウに対抗しうる力を手に入れる。
自分のシャドウというのは、完二のを見る限り、自分の本音、まさに影の部分をエグいくらいにマヨナカテレビに映し出している。
今回もそうだ。
ストリップという形で自分をさらけ出す。
そして、それに影響されるが如く、あの世界も姿形を変えの力ということは…
ジュネスに着いて、傘を閉じる。
フードコートへ向かい、屋根のついている席に着く。
そして、思わず口に出す。
「…なんだ?」
「存外、人々の心かもしれんぞ?」
「ルイか。それに人々の心?」
シンは普通に突然現れた、ルイに話し掛ける。
「私はあれを見たとき、大勢の意志を感じた。
大いなる意志とは違い、寧ろ”私達”寄りの意志だ。」
「…欲ということか?」
「…さあな。そこまでは私も分からなかった。
這い寄る混沌も同じことを言っていた。」と黒い傘を丁寧にビニールの袋に入れる。
「お前やニャルラトホテプでも、見つけられないのか?」
「そうだな。恐らく、ヤツは種を蒔いたに過ぎないのかもしれんな」
ルイはシンを見た。
5人は合流し、ジュネスへと向かっていた。
「いやぁ、間薙先輩は探偵なんスかね?」と完二は傘を差しながら、鳴上達に言った。
「うーん、確かに凄くテキパキしてるよね?」と天城は言う。
「掃除の時なんか、すげぇの何のって、もうどんだけあいつは真面目なんだってくらい真剣にやってるからな。」
「だって、あのモロキンに気に入られてるくらいだから、相当じゃない?」
「でも、なんつーか、オーラがな…。」と花村はため息を吐く。
ジュネスに着き、エレベーターに乗った。
「やっぱり、あの雰囲気だし、放課後もすぐに家に帰っちゃうしで、みんなも話し掛け辛いみたい」と千枝が言う。
「でも、愛屋に毎日行ってるみたいなんスよ。
近所のババァ達がそんな話をしてたっスから。」
「やっぱり、金持ちなんかな?」
「…そう考えると、凄くミステリアスだ。」と鳴上が言う。
エレベーターを降り、シンが居るであろう、場所へ向かおうとしたとき、ふと、一番前を歩いていた千枝が足を止めた。
「あれ。隣に誰かいるね」
「何か話してる。」と天城が言う。
「…ちょっと、近づいてみようぜ」と花村はテンション上げひっそりと近づいていった。
皆が物陰に隠れ話を聞く。
白いスーツを着た金髪の男性が言う。
「そうだな。恐らく、ヤツは種を蒔いたに過ぎないのかもしれんな」
ルイはシンを見た。
「お前が選ばれたようにな。」
「…」 とシンはため息を吐いた。
「あの時、一般人と変わらず『受胎』迎えていたら、どれほど幸せだっただろうか。
"選ばれた"んじゃないさ。"選ばれなかった"んだ。」
「…相変わらず頽廃的思考だ。お前の中には寂寥感しかないのか?」
「常に満ち足りている人間なんていないだろうに」とシンは笑った。
ルイは椅子から立ち上がった。
そして、鳴上達の方を見て言った。
思わず、全員の心臓がビクンと跳ねた。
「またな、可能性ある者達」
そういうと、エレベーターの方へと消えていった。
「盗み見聞くとは感心しないな」とシンは淡々と言った。
「いや、そういうつもりはなかったっていうか…」と花村は少し慌てた様子で言った。
「別にいいさ。大した話でもない。」とシンは飲み物を飲み干した。
「あの人も悪魔?」と千枝が訪ねる。
「そう。良い意味でも悪い意味でも目立ちすぎるのが、難だけどな。」
「あーその、『受胎』ってなんスか?」と完二は気になったことを口に出した。
「それも、大したことではない。」
「…はあ。まあ、間薙先輩がそういうならいいスけど。」と完二は納得出来ない雰囲気であった。
そして夜12時、シン達は全員でテレビに入った。
「リセチャンって子の事、調べてきたクマ?」とクマが皆を出迎えた。
鳴上がクマに説明する。
シンはその間、辺りを見渡す。
(空気の重さがボルテクス界と酷似しているが、ボルテクス界とは別物…
だが、霧には何の意味がある?…)
「おっ!?なんか居たクマ!クマ見つけっちゃったクマ??
ついてくるクマ!」
クマは大きな声を上げ、歩き始めた。
皆はそれについていった。
ついていくと徐々に暗くなり、そして、真っ暗な場所までたどり着いた。
「なにここ…真っ暗じゃん」と千枝は足を止め辺りを見渡した。
すると、待ってましたと言わんばかりに明るくなった。
そこはまさにストリップ劇場のような紫色の座席やカーテンがそれを醸し出していた。
そして、七色に光り始める光、レーザーのようなものでハートが表現されている。
「まさにさらけ出すということか…」
「うまくないよ…」と千枝は驚いた表情でシンを見た。
「お、温泉街につきもののアレ!?」と花村はテンションを上げる。
「…あ、そうかも。…え、う、ウチには無いからね?」と天城は自分が何を言ったか理解したようだ。
「ストリップ…てやつスか。」
そこでクマが猛烈に反応した。
「ストリップ!?はっはーん!読めたクマよ…シマシマのやつクマね!?」
「…」
「ストリップって…シマシマのやつクマね!?」と同意を求めるようにクマは皆を見る。
「…違うよ。ストリップというのは…「だぁあ!言わなくていい!」」とシンが説明しようとしたが、千枝が遮った。
「ここ眩しい…メガネしてても目が痛くなりそう。」と天城は我関せずの状態である。
「シン君のまさかのボケつぶしクマ…」とクマはショックを受ける。
「さて、今回は俺は一人で探索する。」
「だ、大丈夫なの?」と天城は言う。
「大丈夫さ。『仲魔』つれていくから」
シンはそういうと見慣れた三体が雷の音とともに現れた。
「我は幻魔・クーフーリン。主のお呼びに参上仕った。」
「ヒホー!アマラで揉まれて、更にサイキョーになったライホーだホー!!」
「私はティターニア。やっとあなたに会えるのね」
「…こうしてみると、変なパーティーだ。」とシンは腕を組んだ。
「あら、いいじゃありませんの?それに私はあの酔っ払いどもといるより、こっちの方がいいわ」
「ヒホー!あっちは本当にお酒臭かったんだホー!」
「なんか、すげぇ壮観だわ」と花村は感心したように言う。
「鳴上先輩がいいなら、俺たちだけでも行きましょう」と完二は腕を回す。
「…二手に分かれよう」
シンは一人、怪しい雰囲気のストリップ劇場を歩いていた。
「しかし、主。どういうつもりですか?」
「というと?」
「そうね。戦力を分ける。いや、寧ろ彼らはまだそれほど強くないと思うわ。そんな彼らと一緒に行動しなくていいの?」とティターニアはシンに尋ねる。
「まあ、彼らだって弱くはないしな…
それにオレがいなくなっても乗り越えていかなきゃいけない時がくるかもしれんからな。
俺と関わったからには強くなってほしいものだ。」
「それだけじゃ、無いとライホーは推理するホ。」
「…そうだね。今回、正直言って助かろうが助かるまいがどうでもいいんだ。だから、今回はこの世界でも探索しようかなとか思ってる。」
「それはニャルラトホテプ様との契約内容ですか?」
「そうだな。これほどの世界を作り出した奴の顔を拝んでみたいのさ」
「ふーん。まあ、いいわ。主の行くところならどこでもついていきますよ?」とティターニアは微笑んだ。
この世界そのものにシンは興味を向けた。
生成される『シャドウ』。
奇形な形をしているため、悪魔とは違った種類のモノだと考察できる。
シンはシャドウの攻撃を避け、『アイアンクロウ』で相手の体と腕を分離させた。
すると、まさに光に照らされた影のように消え去った。
(主観的に見れば、おどろおどろしさはそれ程ないように思える外見だ。
何パターンかに分類され、強さも若干ながら完二のステージよりも強くなっている。)
「何かわかりそうですか?」とティターニアは絶対零度を放ち相手を氷漬けにする。
それを、クーフーリンは容赦なく貫く。
「…この世界にいる連中から割り出そうと考えてみたが、ヤツとの関連は薄いかもしれん。」
「といいますと?」
「仮にこの世界が人の意識によって、形成されるとした時、こいつらもそういうモノかもしれない。となった場合、この世界を作り上げた者にはたどり着けないだろうな。」
シンはそういうと、まるで怒りをぶつけるように『ジャベリンレイン』を繰り出し、自分に群れるシャドウを消し飛ばす。
「ヒホー!シンが怒ってるホー!!」
「最高にイラつく」
そういうとシン達はシャドウが沢山いるであろう、道の先に走っていった。
クマを通して連絡を取り合い、お互いがお互いの情報を交換しながら、階段や宝箱を取りつつ、上がって行った。
三階のクマが"誰かいる"といった部屋の前で鳴上達はシンを待っていた。
「…しかし、敵が少なくないか?」と花村が口を開く。
「確かに、そうだね」
『たぶん、シン君たちにめっさ集まってるクマ』とクマの通信が聞こえる。
「なんでなんスか?」
「さあ?私もわかんない」と千枝は首をかしげた。
『たぶん、シャドウ達は勘違いしてるクマよ』
「勘違い?」
『そうクマ…クマも…何だかわからないけどシン君を見てるとオウサマって感じがするクマ!』
「王様ねえ…歴史の教師もそんなこと言ってたよな?」
「うん」と天城はうなずく。
「実は本当に王様だったりしてね?あるいは悪の帝王的な?」と千枝は笑いながら言う。
「…いや、案外あり得るかもしれねーぞ?」
「え!?いやいや、ギャグだから!なに本気にしてんのよ」と千枝は花村の言葉に慌てる。
「だってよ、悪魔を使役してるって、なんかそれっぽい気がしないでもないだろ?」
と花村が言うと、地面が少し揺れた。
『ウヒョー!シン君めっちゃ暴れてるクマ!!!』
「…それにこんだけの力だぜ?」
「でも、そんな力あるなら世界支配とかしそうなものだけど」と天城は言う。
「そればっかりはわかんねーな。それに、王様ってことが確かならってことだしな」
そして、再び大きな揺れが伝わる。
「これ、大丈夫なんスかね」
「お、おそらく…」と鳴上も少し不安そうに言った。
そこへ四つの影が近づいてきた。
「ヒホー!ヘモカワ…じゃなくて、居たんだホー!」とライホーが鳴上達を指差した。
「ヘモカワ?」
「なんでもないホー!!」
「相変わらず意味不明な発言が多いわね」とティターニアはライホーを見て言った。
「それで、なんかあったのか?」
「そうだな。やはり何もなかった。」とシンは欠伸をした。
「やっぱり、この世界を作ったやつってのはそうそう現れないもんスかね?」
「そりゃそうだろうよ、いきなりそんなやつ来たらラスボスだろどう考えても」と花村は笑う。
「この後はまた行動を共にするよ」
「じゃあ、私とライホーは帰還致します。」とティターニアはライホーの手を握ると還っていった。
「我は主と共にあります。」
「わかった。」
そして、クマが何かいると言った部屋に皆で入って行った。
助けたいと思う鳴上達とは違うシンの歩みに力はないが。
嫌なほど、時間の経過が早すぎる。
この先どうなっちまうんだ…
この話もどうなっちまうんだ…