霧に包まれたストリップ劇場。
それは普通ならあり得ない光景。
しかし、ここはそれが至極当然。
そう。何故なら、霧に包まれた世界なのだから。
全員でカーテンを開け、中に入ると、水着を着た久慈川りせがいた。
「知ってると思うが、あれは偽物」とシンは相変わらず淡々と興味なさそうに言った。
「ファンのみんな~!来てくれて、ありがと~ぉ!」
「瞳孔開いていますね」
「うむ。目を見開いている」とクーフーリンとシンは会話を始めた。
「今日は、りせの全て見せちゃうよ~!
…えぇ?どうせウソだろって?アハハ、おーけーおーけ!」とりせの影は言う。
「自意識過剰だな」「ええ、誰もそんなこと言っていません」
とシンたちが話していると、後ろから千枝のチョップが入った。
「うるさいっつーの」
「これは失礼しました」
「怒られたな」
「ならここで…あ、でもここじゃスモーク焚きすぎで見えないカナ?
じゃぁもう少し奥で、ウソじゃないって、ちゃーんと証明してあげるネ!!」
そしてりせの頭上にテロップが出現した。
『マルキュン真夏の夢特番!丸ごと一本、りせちー特出しSP!』
沸き起こる歓声。クマが言うにはシャドウが騒いでいるらしい。
(…ということは、存外ルイの言っていることが当たっているのかもしれん。
シャドウ自体が、人の欲望ということ)
「お、オレも、あんな風だったんか…?」
「ああ、そうだ。ふんどしでな」
「マジっスか…こらキツいぜ…」とショックそうにクマから貰った霧の中でも見えるメガネを外し、目頭を押さえた。
完二がそういった瞬間、再び歓声が上がった。
「うあ、ざわざわ声、今回スゴい…なんか気持ち悪くなってきた…」
「誰かが見てるんだとしたら…早くなんとかしないと、これ…」
「じゃあ、ファンのみんな!チャンネルはそのまま!
ホントの私…よ~く見て!マルキュン!」
そういうと奥へと消えていった。
「い、急ごうぜ!イタい話聞かれるだけとは訳が違うって!」
「そうだな」と鳴上が答える。
すると、またざわざわと騒ぐ。
「シャドウがめっさ騒いでるクマ!」とクマは眉間にしわを寄せ厳しい顔をした。
「さっきのは、リセって子が抑圧してる思念クマ!
このままじゃ、リセチャン危ないクマよ!?」
「今度は、オレが助ける側ってか。よし…なら急ぐぜ!」
完二の声と共にシン以外は走り出した。
「主。皆進んでいますよ。」
「…ああ、そうだな」とシンは考えるのを止め、ゆっくりと歩き始めた。
階段を上がるたびに聞こえる、りせの苦悩。
りせちーというキャラ、演じる様々なキャラクター達、そして、彼女は見失っていった。
本当の自分。そして、久慈川りせという人物を。
「…キミたちはどうだ?…本当の自分とはなんだと思う?」とシンは鳴上達と歩きながら言った。
「たぶんだけど、そんな自分も受け入れるっていうのが自分なのかもしれないね」と天城はすぐに答えた。
「でも、受け入れるだけじゃだめで、そこからどうしたいっつーかそういうのが大事だと思うぜ?」と花村も答えた。
「…すこしは参考になったかな?」とシンはクマに言った。
『わからんクマよ…』と弱々しくクマは答えた。
「しっかし、すんげぇ戦い方だと思うわ」と花村はシンの戦い方を見て言う。
正直、この瞬間だけ鳴上はシンを人間だとは思わない。
恐らく鳴上だけではない、千枝や天城、花村も完二も。
相手に囲まれようとも、天井や壁やらに飛びつき、相手に近づき相手を引きちぎる。
黒い液体を浴びながら、シンはちぎった相手を更に違う相手に叩きつける。
相手がいくらスキルをシンに当てても効いている様子がない。
寧ろ、素手で弾く始末。何より、それが通常攻撃であること。
それが鳴上達にとっては恐ろしかった。
「なに突っ立ってんるんスか!オレ達も負けてらんねぇ!」と完二もペルソナ『タケミカヅチ』を召喚し抗戦する。
「だな!」と花村もヘッドフォンをして臨戦態勢に入った。
「チカチカする場所だな」と歩きながら鳴上は言った。
「そうだな。こういういかがわしい店というのは基本、こんなものだ」
「やっぱり、東京とかってこういう繁華街的な?のって多いか?」と花村は尋ねる。
「歌舞伎町なんかはスゴイらしいな」
「あーやっぱりそうなんスか」と完二は納得するようにうなずいた
「オレも行ったことはないけどな(それにオレが行ったときは監獄だったしな…)」
「シン君って服装いつもパーカーだよね?」と千枝は尋ねる。
「…ポケットが多くて便利」とパーカーのポケットから飲み物を取り出す。
「ふーん。カバンとかでもいい気がするけど」
「カバンだと動きにくい。恐らく里中さんがいつもジャージなのと一緒だと思う」とシンが言った瞬間天城が笑い出した。
「な!し、失礼な!」
「いつも、ジャージのイメージがある」とシンは率直に感想を言った。
そして、そんな話をしながら七階へと来ていた。
再び、りせの声が聞こえてくる。
「うれしい!ホントに来てくれたんだ!
でも、やっぱりちょっと恥ずかしいからぁ…
電気、消すね!」と言われた瞬間、電気が消え、真っ暗になった。
『ヌオ!本当に電気が消えたクマ!これはキケン!センセイ、慎重に進むクマ!』
「大丈夫。『ライトマ』」とシンが手のひらを天にかざすと、辺りが先ほどまでではないが、明るくなった。
『おお!やっぱり、シン君はすごいクマ!』とクマは興奮気味に言った。
『ライトマ』で明るいため、鳴上達は難なくダンジョンを探索した。
そして、カーテンの向こうから声がする。
「来てくれたんだね!いいよ。りせ、心の準備はできてるから…」
「ゴクリ…センセイ、準備はいいか?」
鳴上は普通にカーテンを開け、中に入って行った。
「キャハハハハ!見て!ほら、あたしを見て!」
そこにはりせの影と白い大きな蛇が居た。
戦闘が始まる。
相手は突然、『淀んだ空気』を放ってきた。鳴上達は戦闘を始めた。
危なくなりながらも鳴上達は回復や弱点を突く戦いをし、相手を倒した。
『おぉ、さっすがセンセイクマ!』
そして、辺りが明るくなった。
「ふぅ…流石に疲れてきたね…」と千枝は息を切らし座り込む。
「そうだな…」と花村も疲れているようだった。
「一旦戻ろう。」と鳴上は『カエレール』を使って一旦帰還した。
一階の入り口には丁度、ソファなどがあり、皆はそこに座り休む。
そこへピクシーが現れた。
「ティファニアの言うとおり、居たわね。」
「突然だな。どうした?」
そういうと、ピクシーはシンの肩に止まりひそひそと話し始めた。
「実は、動きがあったの。黙示録の四騎士に警戒させていた『アサクサ』でマネカタが何人か殺されたの。」
「…目星はついているのか?」
「いいえ…言えるのは、私たちの勢力ではないってことくらい。
私たちは基本的に『アマラ深界』だし、シジマ、ムスビも動きはない。」
「…フトミミは?」
「そうね。あなたに任せるそうよ。あなたに生まれ変わらせてもらった命だからとか言ってたわ。サカハギはアマラで暴れてから、出てきてないし…」とピクシーは興味なさそうに言った。
「…となると、メタトロン勢力か…居場所は分かるか?」
「それが、これって言えるほどの本拠地がないのよ。メタトロンは隠れて出てこないし、有象無象も『ギンザ』とか、シジマだとか、ムスビに隠れて復活の機会を待ってたりするから、攻めるに攻めれないの」
「…仕方ない。四騎士に一任させる。」
「そうね。あいつらは意外と役に立つからね。そうしましょうか。…寧ろ、バアルとかより全然役に立つわ」
「頼んだ」とシンに言われるとピクシーは微笑み、帰って行った。
「シン君はカッコいいクマ…それに比べて…クマは…クマは役に立たないクマ…」
クマの中の闇を深くした。
少し休憩をして再び、皆で登って行った。
道なりはそれほど、難しいことではなかった。シンは手を出さずに傍観し、鳴上達の戦いを見ていた。
常に彼らは考え、次の手を考えている。
だからこそ、被害を少なくして、戦えている。
この先の事まで考えてな。
(…それは鳴上の指示のおかげか?)
「完二!追撃だ!」
「了解っス!」とパイプ椅子で相手を盛大になぐりつけた。
(…それも含めての、『チーム』ということか)
「…最上階だな」とシンが階段を一番初めに登りきり、まず目の前に大きな扉があった。
「案外、近くて助かったぜ」と花村は笑みを浮かべた。
全員で扉を開け、入る。
そこには、水着を着て中央にポールに寄り掛かる"りせ"と、豆腐屋の地味な服を着た"りせ"
がいた。
「いた!」と千枝は大きな声を上げた。
「見ろ、本物もいるぞ!」
全員で近づくと、こちらに気が付いたのか、高笑いをした。
「キャーハハハハハ!!見られてるぅ!見られてるのね、いま、アタシィィ!」
「やめて」と苦痛の表情を浮かべながらりせはいった。
「んっもー!ホントは見て欲しいくせに、ぷんぷん!
こぉんな感じで、どぉ!?」
そういうと、ポールを片手でつかみくるりと回った。
「もう…やめてぇ…」
「ふふ、おっかしー。やめてだって。」
「ざぁっけんじゃないわよ!!」と先ほどの表情とは違い怒りに満ちた表情で言い放った。
「アンタはあたし!あたしは、アンタでしょうが!!」
「違う…違うってば…」
「キャハハハ!!ほら見なさい、もっと見なさいよ!
これがあたし!これがホントのあたしなのよぉぉ!
ゲーノージンのりせなんかじゃない!ここにいる、このあたしを見るのよ!!
ベッタベタなキャラ作りして、ヘド飲み込んで作り笑顔なんて、まっぴら!
"りせちー"?誰それ!?そんなヤツ、この世に居ない!!
あたしは、あたしよぉぉぉ!ほらぁ、あたしを見なさいよぉぉぉぉ!」
「わ、たし…そんなこと…」
「さーて、お待ちかね。今から脱ぐわよぉぉ!
丸裸の私を焼き付けな!」
「やめ、て…やめてぇぇ!」と頭を抱えりせは叫ぶ。
「あなたなんて…」
鳴上達は慌て始める。
「だめ、言っちゃダメ!!」と千枝が叫ぶが届かなかった。
「あなたなんて…私じゃない!!」
そうりせが言い放った瞬間、りせの影から禍々しい空気が出てくる。
それと同時に本物のりせは気絶する。
そして、正体を現す。
そこにはカラフルな姿で、顔には衛星のミラー版のようなものが付いたりせの影が現れた。
「チッ…来るぞ!」と完二の声と鳴上達は構える。
シンはクマと共にそれを見ていた。
順調に攻撃を仕掛けていく鳴上達。
疲れもなく、彼らはりせの影を攻撃していた。
「なによ…こんんだけぶたれて、まだ不満なワケ?ゼータクなお客…
じゃ…いっそ死になさい!!」
『マハアナライズ』
緑色のレーダーの様なものが全員を包んだ。
戦っている全員の能力が分析された。
「…」
シンは無言でそれを見る。
だが、特に状態異常になるわけでもなく、何も変化はない。
「なんだ?」と花村がなんだと言った表情で言葉を吐いた。
「わっかんねーけど、ぶん殴ってやるぜ!」と完二が殴りに行くが、当たらない。
「なにやってんだ!下手くそ!」と花村はペルソナを召喚し、『ガルーラ』を唱えるが当たらない。
「アンタたちの事はすべてお見通し…キャハハッ!」
「何なの、アイツ!?全然、こっちのが当たんないじゃん…」と千枝は厳しい表情で言葉を吐いた。
「…俺がやってみる」とシンは前に出てくる。
「キャハハハ!あんたもやるの!?」
「ま、そうだな」とシンは構える。
『悪しき輝き』
それと同時に、りせの影を霧のように何かが包むが効かない。
(だろうな…)とシンは構える。
「何をやっても同じよ!」
『マハアナライズ』と同じようにシンをアナライズした。
「!?…あんた…何者よ!?」とりせの影が動揺している。
「…さあ?ね」とシンは口をニヤァと釣り上げた。
そこから、シンは魔法を連発する。
『ラグナロク』、『ニブルヘイム』、『真理の雷』、『万物流転』
だが、どれも当たらない。
「キャハハハ!」と高笑いをすると、謎の波動を飛ばすと鳴上達にあたる。
鳴上達は弱点を突かれ倒れこむ。
シンはそれを防ぐ。
「なんで!?なんで効かないの!?」
「…面白いね。面白い!」とシンは両手を前に翳した。
『初めに闇ありき』
シンがそう唱えた瞬間、轟音と共にシンの体が黒く発光し、何かが砕ける音が部屋に響いた。
鳴上達は思わず、目をつぶった。
>シンは闇を呼び、時をゆがめた!
「ぐっ」と鳴上達も当たるがそれほど、喰らわない。
「!?な、なんで!?わからなくなったの!?」
「…」とシンは何も言わず、追撃をするように、ジャンプしなぐりつける。
りせの影はアナライズの効果が消え、避けられることなく、シンの拳はクリティカルで顔にあたる。
りせの影は吹き飛び、ポールから落ちた。
「な、なんで…避けれないの」とりせの影は倒れこんだ。
「お前の中のデータを元に戻したに過ぎない。」とシンはそれだけいうとふらっときたため、目頭を抑えた。
「だ、大丈夫!?」
「ん。すこしSPを使いすぎた」
りせの影は先ほどの姿に戻る。
本物のりせが起き上がるとみな、そちらに向かった。
「ん…ここ…って…?」
「ごめん…なさい…私のせいで…」とりせは謝る。
「もう無理しなくていい」と鳴上は笑みを浮かべた。
「…え? …うん。」とりせは驚いた表情で鳴上を見た。
「いつ以来だろ…そんな事言ってもらったの…」
そういうとりせは立ち上がり、自分の影に声を掛ける。
「起きて…」
その声に促されるようにりせの影は起き上がった。
「ごめん・・今まで、ツラかったね。私の一部なのに、ずっと私に否定されて…
私…どの顔が"本当の自分"か、考えてた。
けど…それは違うね。そんな風に探してちゃ…"本当の自分"なんて…どこにも無い。」
「本当の自分なんて…無い…?」とクマはその言葉で更に闇に引きずりこまれた。
「あなたも…私も…テレビの中の"りせちー"だって…私から生まれた。全部、私」
自分自身と向き合える強い心が、"力"へと変わる…
りせは困難に立ち向かうための人格の鎧、ペルソナ"ヒミコ"を手に入れた!
するとすぐにりせは膝をついた。
「おわっと、りせちゃん!」と花村は慌ててりせを支える。
「りせ、でいいから…確か、お店に来てくれた人だよね…」とりせは少し微笑む。
「あ、うん、こいつらも…」と花村は説明する。それにこたえるように皆、自己紹介をした。
「そっか…先輩になるんだ…みんな…ありがとう。」
「後で全部ゆっくり説明するから、今は…」と千枝が後ろを向くと驚いた表情をする。
「本当の自分なんて…いない…?」とクマは頭を抱える。
「お、おい、クマ…」と完二は驚いた表情でクマを見た。
「ダメ、下がって!」とりせが声を大にして言った。
「あの子の中から、何か…!」
「"本当"?"自分"?」とクマの声とは思えないほどの低い声が響く。
「ククク…実に愚かだ…」
すると、クマの後ろにクマよりも大きな影が現れた。
一応、補足といいますか、勝手な設定追加。(というか、言い訳)
『初めに闇ありき』はルシファーの技ですね。
効果としましては、『残りHPをランダムで 1/2 1/4 1/10にする。』というものですが、シンの追加効果で、相手のあらゆる補助効果を消す。というものが追加されています。
ですが、その場に居る全員に喰らうため、鳴上達も喰らったということになる。
そして、なんでクマが影が出てきてんの?という疑問があるかもしれませんが、この技のせいということです。
闇を呼び寄せた為に、クマの中にある闇が増幅された。
ですが、クマ以外の人間は自分と向き合っているために、そんなことはなかったということ。
あと、今更感なんですが、確かバイクの二人乗りって1年経たないといけないんじゃなかったかな…
…でも、免許証の時点で矛盾が発生してるので、そこは目を瞑って下さい。