Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

24 / 93
第23話 Probatio Diabolica 7月11日(月)  天気:曇

諸岡先生の死体が見つかった翌日。教室は騒然としていた。

 

「な、モロキンの話ってマジ?」

「テレビでやってたし、間違いないっしょ。」

 

そんな話でクラスは持ちきりであった。

 

「よう」と花村が少しテンション低めで教室へと入ってきた。

鳴上も千枝、天城もそれぞれテンションが低いようだ。

 

一方、シンは相変わらずの淡々とした表情でそんな噂話はどこ吹く風。

 

「…実感湧かないぜ…担任が“殺された”なんてさ。」

花村は椅子に着くなりため息とともに言葉を吐き出した。

 

「…間薙君は?」

「…特に何も感じない」とシンは淡々と答える。

「なんつーか、やっぱりシンはシンだな。」

 

そんな花村の言葉に、どこか現実的でない担任の死を少しだけ和らげられたような気がした。

それはやはり、いつもと変わらない間薙シンという"悪魔"のおかげだろう。

 

「けど、てことはつまり、担任が新しくなるのか?

誰だろうな…まあ、モロキンより濃いヤツなんて

そう居るわけないか。」と花村は自分の言葉に笑った。

 

そこにドアが開く音、それと同時に静まる教室。

 

 

「おっはよぉ。今日から貴方たちの担任になった、柏木典子でぇす。」

 

 

((((め、めっちゃ濃いのきたぁああああああ!!!))))

クラス中の人間が、同じことをほぼ同じタイミングで思った。

 

そこには胸元の大きく開いた服を着た、モロキン並に嫌われている柏木典子が来た。

 

「知ってると思うけど、諸岡先生が亡くなられたので…

私が代わりに、あなたたちのお相手をすることになったわけぇ、うふふ…」

 

「はぁい、じゃあ、まず、諸岡センセに黙祷をささげまぁす。」

「はぁい、じゃ目を閉じてぇ…」

 

その言葉に皆、目を閉じた。

 

「はい、もういいわよぉ。」

「「「「!?」」」」

 

皆が目を開くと、教卓に座り足を組んでいた。

 

 

「諸岡先生に恥ずかしくないよう、張り切っていくわ。

来週の定期試験も、ちゃぁんとあります。

"こういう時こそ、スケジュール通りに仕切らないとね、典ちゃん"って、校長がね。

うっふふ。あなたたちも大変よねぇ。でも、オトナになってくって、そういう事よぉ。」

 

(恐らく、違う…そして、ウザい。果てしなくウザい。銀河の果て並にウザい)

シンは心の中で珍しく苛立つ。

 

シンと同じことを思った生徒が居たのだろう、口に出して言っていた。

 

「果てしなくうぜぇ…」

「モロキンから柏木って…どんな濃い味のコンボだよ…」

 

 

「それとぉ、一応、言っとくけどぉ。1年に、例のアイドル…

クジカワさん…だっけ? 入ったけどぉ。

テレビで見るのと、ぜ~んぜん違うから、がっかりしないようにねー…うふ。」

 

そして、表情が変わった。

「な~にがアイドルよ…ねぇ?ただのシリの青いガキじゃないの。」

 

…長い話が続いている。

 

「んだよアイツ…対抗意識ってコト?」と男子学生の声が聞こえる。

「どう考えても、りせちーの勝ちだろ…てか柏木、地味に40過ぎって噂ホントか?」

 

「りせちーの入学、モロキン生きてたらケッコ喜んだかもなぁ。

こないだ本屋で、りせの写真集買ってんの、見たヤツいるって話だし…」

と茶髪の男子学生が後ろの男子学生に話しかける。

 

「微妙にムッツリっぽいなそれ…

けど…ムカツク奴だったけど、殺されたって思うと、けっこ可哀想かもな…」

 

そこで思い出したように、茶髪の男子学生は後ろの男子学生に話し始める

「あ、そういやさ、知ってる?りせちーのストリップ番組の話。」

「はぁ? ストリップ?んなの出たら、マスコミ大騒ぎだろ。」

「マジなんだって! …けど結局、脱ぐ前に電波ヘンになって、見れなくなってさ…

ほら、噂の"マヨナカテレビ"だよ。」

「お前バカじゃね?あんなん信じてんの?

どーせ、寝ぼけてただけだって…」

 

 

「"マヨナカテレビ"広まってきてるね…」

「早いとこ、解決しないとな…

とにかく、今日集まろうぜ。放課後空けとけよ。」

花村の言葉に皆、頷いて了承した。

 

 

 

 

放課後…

 

いつもの席ではなく、人数が増えた為、屋根つきの広い席に皆座った。

 

「あー…来週もう期末かぁ…赤、久々にくるな、コレ…」と千枝の言葉に皆のテンションが下がった。

「しょっちゅうだろ。」と花村のツッコミに千枝は立ち上がり怒る。

「う、うっさいな!花村に見せた事無いっしょ!」

 

「そういや、間薙はなんか中間の後に来たんだっけか。」と花村はシンに尋ねる。

「そうだな。」

その顔に不安は一切ないように見えた。

 

「はは…やっぱり、悪魔の頭脳ってか」と花村はため息を吐いた。

 

「けど千枝は、赤の課目以外はいっつも平均点以上だよね。」

「そ、そこ! フォローになってないから!!メリハリよ、メリハリ!!」

 

 

「あはは。」とりせはそれを見て笑っていた。

 

 

「り、りせちゃんまで…」と千枝はショックそうに言った。

「ふふ、違うの、ごめんなさい。

私…新しい学校でも、どうせ当分は友達うまく出来ないって思ってたから…」

「きっかけが事件なんかじゃなきゃ、もっと良かったんだけどね。」

 

「てかそう、事件の話だけど、今回のモロキンの件…どう思う?

夜中の番組に、全然映んなかっただろ?」と花村の言葉で皆思い出したように話し始めた。

 

「じゃあ、"連続殺人の犯人"と今回の事件の違いを話し合おう」と鳴上は言う。

 

「ハイハイ!クマ知ってるクマ!」とクマは真っ先に手を上げて、言う。

「もしテレビの中に入ったなら、クマが分かるはずだよ。

前より鼻、利かなくなってきてるけど、それくらいは間違えないクマよ。」とクマは自信満々に答える。

 

「けど、死体見つかったの、

また霧の日だったんでしょ?現場の様子も、山野アナや小西先輩と

同じだったって、ニュースで言ってたし。」と千枝は言った。

 

「犯人の動機…ほんと、何なのかな…どうして諸岡先生が狙われたんだろう。」

「恨みってんなら、モロキン恨んでるヤツなんざ、数え切れねえ。」

 

「でも確か、テレビで話題になった人が狙われるんじゃなかった?

テレビ見て狙い決めてるなら、被害者と面識無い犯人ってイメージだけど。

そういうタイプは、動機なんて考えても意味なさそう。

会った事も無いのに意味分かんない理由で恨んでくる人、世の中にはいっぱい居るし。」

とりせの言葉に千枝は

「あ~…りせちゃんが言うと、そういうの、リアルだね…

けどモロキンの場合、マヨナカテレビだけじゃ

なくて、普通のテレビにも出てなかったしな…

んあ~、全っ然分からん!」と髪の毛をぐちゃぐちゃと掻く。

 

 

「…久慈川さんの言うとおり、「りせでいいですよ」」とりせの言葉にシンはうなずき言い直す。

 

「りせの言う通り、事件の内容的に面識のない犯人だろう。

しかし、そんな人物にいとも簡単にテレビの中に入れられている…

これが不思議だ」とシンが言うと、テレビに入れられた三人は少し俯く。

 

「しっかし、ウチの高校から続けて二人か…警察、ウチの人間に目星つけて、

目ぇ光らしてんだろうな…」と花村は言う。

 

そういうと、花村も少し俯いて言う。

それはさながら、懺悔でもするように思えるだろう。

 

「俺、白状するとさ…正直、心のどこかで、モロキンのヤツが

犯人かもって…思ってた事あんだ。

ウチから二人目って言うけど、実際はもっとだろ?

それにあいつ、“死んで当然”とか何度も言ってた事あったしな…

けど…疑って悪かったなって…

ムカつくヤツだったけど、こんな死に方、あり得ないだろ…

モロキンだけじゃねえ…可哀想っつーか…なんつーか…

とにかく犯人、許せねえよ…!」

 

「モロキンのためにも、あたしたちに出来る事、やるしかないよ!

こうなると、ウチの学校になんか関係あるってのが、今んとこ有力でしょ!?

なら、あたし達で手分けして…」

 

「その必要はありません。」と聞き覚えのある声がし、皆がそちらを向いた。

 

 

「オ、オメェ…」と完二は少し慌てた様子でその声の主を見た。

「諸岡さんについての調査は、もう必要ありません。」

 

その声の主は白鐘直斗であった。

 

「な、なんでよ?」

 

「容疑者が固まったようです。ここからは警察に任せるべきでしょう。」

「容疑者固まったって…誰なのッ!?」と千枝は驚いた表情で直斗を見た。

 

「僕も名前は教えてもらっていません。容疑者…高校生の“少年”ですから。

メディアにはまだ伏せられていますが、皆さんの学校の生徒じゃないようです。

ただ、今回の容疑者手配には、よほど確信があるみたいですね…

今までの事件と、問題の少年との関連が、周囲の証言ではっきりしているそうです。」

 

「逮捕は時間の問題かも知れません。

無事解決となれば、またここも、元通り、ひなびた田舎町に戻りますね。」

 

「…それで、お前は何をしに来たんだ?

伏せられてるんだろ?なんでわざわざ知らせに来た?」と花村は言う。

 

「皆さんの“遊び”も、間もなく終わりになるかも知れない…

それだけは、伝えておいた方がいいと思ったので。」

 

「遊びのつもりはない」と鳴上は言う。

 

「関わった事は否定しないんですか?

まあ、いいでしょう。僕もこれ以上、どうこう言う気はありません。」

「遊び…?遊びはそっちじゃないの?」

「!?」

りせは厳しい表情で直斗に言った。

 

 

「探偵だか何だか知らないけど、あなたは、ただ謎を解いてるだけでしょ?

私たちの何を分かってるの?…そっちの方が、全然遊びよ。」

「こっちゃ、大事な人、殺されてんだ…遊びで出来るかよ…

それに…約束もしてるしな…」とクマの頭に手を乗せる。

「ヨヨヨースケ…」

 

「遊び…か。

確かに、そうかも知れませんね…」と直斗は俯き腕を組んだ。

 

「な…なによ、急に物分りいいじゃん…」と千枝は驚いた表情で言う。

 

花村は気づいたようにはっとしてそして、少し嫌な顔をする。

「そっか、容疑者固まったのに、な~んでこんなトコぶらぶらしてんだと思ったら…

容疑者わかったらお払い箱なのか?んで、寂しくて来てみたとか?」

 

「探偵は元々、逮捕には関わりませんよ。それに、事件に対して特別な感情もありません。

ただ…必要な時にしか興味を持たれないというのは…確かに寂しい事ですね。

もう、慣れましたけど…」

 

完二はそれを聞いて少し思うことがあったのだろう。少し、厳しい顔をしていた。

 

「謎の多い事件でしたが、意外とあっけない幕切れでしたね…

…じゃ、もう行きます。」

 

「そんなお前に俺が面白い、仮の話を聞かせてやろう」とシンがそこで口を開いた。

「というと?」と直斗の足が止まった。

 

「存外"模倣犯"かもしれんぞ?」

「…根拠は?」と直斗はシンに尋ねる。

 

「そうだな…"今回の犯人"が"前件の殺人事件の犯人"と同じという証拠はない。故に、同一犯とは言えない。」

「は?」と花村は思わず情けない声を出してしまった。

 

「…"悪魔の証明"ですか…」

「そうだな。事実、これまで捕まる事の無かった犯人が今回の一件で明確に容疑者として固まった…。これほど、おかしな話はない。

相違点を上げれば、恐らく全部違うだろう。」とシンは言う。

 

「たとえば、犯行の方法、前件までに見られた予告なしの殺人、証拠、動機ありの殺人…それらすべてが相違してる。」

 

「…」

 

「警察はこれで幕引きにしたいのだろうが…俺は一点の曇りがある限り、疑い続ける。

そ…」とシンは何かを言いかけ、そして、何か決心をしたように口を開いた。

 

 

 

 

「その結果が、たとえ友人との永別であってもだ」

 

 

 

 

 

そこから皆は解散し、どこか納得のいかないが、どうすることも出来ないため、家へと帰った。

 

 

直斗とシンを除いて。

 

 

 

「…メールを渡したのにこうして呼び出されたのは初めてか」

シンも帰ろうとしたが、すぐに携帯が鳴った。

それは直斗からであった。

 

『先ほどの場所に来てください』

 

そこへ行くと、少し暗めの直斗が椅子に座っていた。

 

「…何故でしょうね。今日、初めてあなたという人間を知れたような気がします。」

「そうか?それは良いことか?」

「ええ。それで、詳しい話を聞きたいと考えて呼びました。」

 

「そうか。じゃあ、説明しよう。

まず、今回の殺人が明らかに殺し方が違うのが分かる。」

「ええ、やはり証拠がすぐに出た点で、そうだと言えるでしょう」

「なぜ、同じ方法で殺さなかった?」とシンは直斗に尋ねる。

「…」

「しかし、仮に模倣犯だと考えれば、辻褄が合う。

高校生、動機、殺人方法の違い…それらすべてが合致する。」とシンは言った。

だが、とシンは続ける。

 

「これが主観的証拠にすぎないということだ。」

「そうですね。ですが、調べる意味はあるように思います…」と直斗は言うと、早速立ち上がった。

 

「じゃあ、俺も質問させてくれ。」

「なんですか?」と直斗は言う。

 

「なぜ、俺に興味を持った。」

 

直斗は少し考え言う。

「…僕はたぶん、嬉しかったんだと思います。

先ほど言いましたが、終わってしまえば探偵というのはお払い箱です。

探偵というのは、いつも先を見なければなりません。

そう簡単に出来るようなことではない。」

 

「ですが、あなたは僕と同じ視点を持っていました。

そして、僕よりも遥か先を見ていた。

だから…僕の見えない景色を見ている人に興味を持った…それだけのことです」と直斗は言った。

 

「…俺の友人に、頭のいいやつが居た。

そいつは俺なんかよりも、ずっと先を見ていた。

まさに、才能だった。

凡人が自分の足元しか見ていない中、アイツはずっと先を見ていた。

俺はそいつと一緒についていこうとした、だが、いくら経っても追いつくことはなかった。」

 

「…でも、そいつは孤独だった。才能のあるやつは孤独だ。いつもいつも。

何故だかわかるか?」

 

シンの言葉に直斗は首をかしげた。

 

 

 

 

 

「それはな、自分が辿り着いたところで、誰も一緒に景色を見てくれないからだ。

何故なら、凡人は自分の足元を見ているので精一杯だからだ。

 

誰も自分の見ている景色を見てはいない。

誰も自分の隣に立ってはくれない。そもそも、誰も立てないからだ。」

 

 

 

友人のこと…と言ったが、恐らく、俺は自分の事を話した。

 

俺は天才なんてものじゃなかったが、

確かに人修羅になる前に不可解な事が多かった。

変な夢に始まりそして…

 

…人修羅となって、やがて友人だった人が変わった。残酷な現実に耐えられなくなっていた。

 

俺はずっと、皆と同じ景色を見ているモノだと思っていた。

ずっと、凡人で居たかった。

 

でも違った。

 

人修羅になって気が付いた。

 

俺の隣には誰も居なかった。

 

俺は…

やめよう。言葉にすればするほど辛くなるだけだ。

 

 

 




二時間ちょっとで三話書き上げたので、矛盾が発生しているかもしれませんが、気付いたらちょびちょび直していきます。

特に一旦、模倣犯の下りを前話の22話から移動させてきたので、そちらに矛盾が発生してるかもしれません。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。