ここは地球。そこにはあまりにも多くのモノや現象が常に起きている。
人間が生み出した物質であるとか、科学、情報…
それらがこの世界を形作っている。
だが、忠告だ。
そんな有象無象でこの世界全体を表現できるのだと思っているなら、それは大きな勘違いだ。
奢りが過ぎる。
でも君は違う。
間薙シン。
キミは何を知ってるのかな?
僕は知っている。
「つかれたー」
花村はそういうと、崩れるように広場に倒れ込んだ。
今はテレビへの入り口の広間へと来ていた。
とりあえず、一番上まで上り、いったんこの広間で休んでいた。
シンは『リベラマ』の効果が切れるまで戦い続 け、4Fは酷い惨状であったことはいうまでもないだろう。
その間に鳴上たちも完二たちが連れてきたシャドウを倒し、LVを上げていった。
だが、本当に恐ろしいのはやはり、間薙シン。
100、200のシャドウを相手にしながら、それを2ラウンドもやってみせた。
それだというのに、顔には疲労すらない。
寧ろ、ここに来たときよりも健康そうに見える。
「みんな、お疲れさま。」とりせは皆を激励する。
「クマはもう、真っ白になったクマ。癒してほしいクマ!」
「はいはい」と千枝は流した。
「もう…俺もヘトヘトっス。」と完二は腰を床に降ろした。
「スタミナが足らんな」
「ま、間薙先輩はずるいっスよ、スタミナ切れとかないっスよね?」
「まあ、切れないことはない。前までは鈍ってたからな。今は殆どない」
そういうシンの顔はどこか楽しそうである。
「やっぱり、シンは戦闘狂だホー。」とライホーは鳴上に言う。
そして、クーフーリンもいつの間にか合流していて、その話しに首を突っ込んできた。
「ええ、彼は殺す、倒すという行為に関しては非常に冷酷なまでに淡々とこなします。」
「そうなのか?」と鳴上はクーフーリンに尋ねる。
「ええ。悪魔も人間と同じ、怨みがあるから相手を殺すということも勿論あります。」
「ですが、主は違います。
まるで機械の様に淡々と相手を殺します。
ですが、どこか楽しそうに見えます」とクーフーリンは完二と話すシンを見て言う。
「…矛盾している。」と鳴上が指摘すると、クーフーリンは苦笑する。
「私や、ピクシー様、など付き合いの長い方々は主の表情を読みとることが出来ます。
戦っている主は一見、機械の様に排除していきますが、付き合いの長い我々にはそれは主にとって、楽しい事だということを理解しています。ですが、端から見れば、殺戮マシーンの様に見えるのではないでしょうか。」
「…何故、そうなった?」
鳴上はクーフーリンに尋ねた。
「…この世界には素晴らしい言葉ありますね。
『Mement Mori』
死ぬことを思え。と言った意味。
主はいつか絶対に果てるでしょう。
それは反逆者の末路…いえ、それがどんな世界でも摂理です」
「しかし、それがすぐに訪れるのか…或いは、幾星霜も経ったことなのか…
それは分かりません。
しかし、主はそんなことを考えるのを止めたのです。
常に自分の興味の赴くまま、楽しむ。
『Mement Mori』には死ぬことを思えという事と同時に、『死ぬのだから今を楽しめ』といった意味もあります。
まさに、主はそれを実行しているのです。」
「…自由人なのだな」と鳴上は少し笑った。
「どこまでも自由人なのです。寧ろ、ピクシー様はめんどくさがりですが、規律を重んじております。故にあの世界は成り立っているのです。
それに、あの方は死にません。」
「は?」と鳴上は少し間抜けな声を出した。
「…おそらく…ですが」
クーフーリンが笑みを浮かべると、ゴスンとクーフーリンの鎧が少し凹むほどの力で後ろからど突かれた。
「…喋りすぎだ。」
振り返ったクーフーリンをシンは睨み付けた。
「し、失礼しました。」
クーフーリンは苦痛に顔を歪め、後ずさりをする。
(…やっば、こえー)と花村はそれを見て思ったのであった。
シンはため息を吐きながら、何もないところから、飲み物を取り出す。
「そういや、シンって毎回それ飲んでるよな。」
「ん?これか?」と透明な瓶に入った、お茶の様なモノを持ち上げて花村に見せた。
「飲むか?」
「あぁ、貰うよ」
シンは再び何もない空間から、その飲み物を取り出し、花村に投げた。
花村は何の疑いもなく、その飲み物を口に含んだ。
そして、硬直…
「…ど、どうなの?」
「…なんつーか…予想以上に普通だったわ」
「ああ…そうなんだ」
「普通というか、メリーの作った、普通のお茶だからな…」とシンは花村からビンを取り、それを飲み干した。
「なんで、ビンなの?」と天城は尋ねる。
「…知らない。メリーが瓶にいつも入れているから」
その言葉にガタッと千枝は大阪のノリで倒れた。
俺の胸中に不安はない。
鳴上は確かに一年という限られた時間でしかない。
だが、胸中に不安はない。
事件が終わってしまったら、この仲間たちとの関係も終わってしまうのか?
なら、俺は何故こうして背中を預けられていると思う?
何故、相手は俺を信頼して、俺の指示を聞いてくれる?
仲間だからだ。
絶対の自信を持って俺はそれを言える。
『その先!大きなシャドウの反応があるよ!』
「案外近かったっスね」
全員が大きな扉を見上げてみていた。
結局、どこまでもつづく8bitの世界。カクカクの世界のまま頂上まで来ていた。
ポリゴンにも3Dにもなることはなく…
(ゲームは進化してきたが、こいつの作り出した世界は変わらず…)
「みんな、行くぞ!」
「おう!相棒!」
その掛け声と共に大きな扉を開いた。
「やぁーっと見つけたっ!!あそこ!」と千枝のゆびをさした先に二人の久保が居た。
「テメェが久保か!野郎、歯ぁ食いしばれッ!!」
「待て、完二!…なんか様子がおかしい!」
「どいつもこいつも、気に食わないんだよ…
だからやったんだ、このオレが!
どうだ、何とか言えよ!!」
と、久保がもう一人の久保に言い放つが、返事がない。
「たった二人じゃ誰も俺を見ようとしない。だから三人目をやってやった!
オレが、殺してやったんだっ!!」
(…決まりだな)とシンは思うと構えた。
「…」
「な、何で黙ってんだよ…」
「何も…感じないから…」
「感じないなら、いいよな」
「「「!?」」」と皆がその行動に驚いた。
奥に立っていた久保を目の前までほぼ見えない速度で近づき、殴り飛ばした。
「…」とゆっくりと立ち上がる奥の久保。
「な、なにすんだよ!」と手前に居た恐らく、本物の久保がシンに大きな声を上げた。
「うるさい」とシンは久保を睨みつけた。
その睨み付けで久保は倒れてしまった。
その目は金色に染まり始め、刺青の色が濃くなっていく。
『やばい!センパイたち!シン先輩から…兎に角、逃げて!!』
「な、え!?と、とりあえず、久保連れて逃げんぞ!」と花村は完二に言うと、完二は慌てて、倒れた久保を引きずり、皆がドアの方へと走る。
閉まったドアを鳴上は見つめていた。
「…どうしたんだろうね。間薙君」
「わかんねーよ。でも、とりあえず…こいつは連れてきたんだ。」と久保を花村は見る。
「…おそらく、シンは久保の言葉に引っ掛かったんだ。」と鳴上は言った。
「…なんかおかしなところあった?」と千枝は鳴上尋ねた。
「分からない…」
そんなことをはなしていると、りせから通信が入る。
『せ、センパイたち!兎に角、そこから早く出た方がいいよ!間薙センパイがめっちゃくちゃキレてるから!』
「と、とりあえず出るクマよ!」
「そうしよう」と鳴上はカエレールを使って入口まで帰った。
『アイアンクロウ』で相手のボコボコとした鎧を切り裂くと、不気味な赤ん坊が中から出てきた。
シンはそれに近づき、容赦なく頭を潰す。
その力で相手の頭はグチャグチャに飛び散り、地面には大きなひび割れが入った。
だが、その表情はいつもと変わらない無表情。
じっと、その潰れた頭を見る。
「…お怒りのようですね」
「…」
クーフーリンの言葉に何かを返す訳でもなく、ただ、残骸を思いっきり蹴飛ばし、それは壁に叩きつけられたら。
「主が一番嫌いなタイプですね。」
「…そうだな。」
「”退屈”な人間。私はそう感じました。」
「…」
シンは答えることもなく、パーカーのポケットに手を入れ、金色の目を不気味に輝かせながら、大きな扉を蹴り開けた。
(…相変わらずの恐ろしさ…
私は未だに主の気迫に負けてしまいます。
あの瞳と濃くなる黥…まだまだ、私も未熟…)
クーフーリンはため息を吐くとシンについて行った。
久保を足立に渡すと嬉しそうに足立は久保を連れて行った。
「…そのセンパイ、何に対してそんなに怒ったんですか?」とりせはシンに尋ねる。
「…退屈。それに…昔を見ているようで嫌になった。」
「昔?」と花村が首を傾げた。
「孤独に飲まれそうになったときの俺に似ていて嫌になった。」
そういうとシンはフードコートの椅子から立ち上がった。
「…君達のように、頼れる人間がいないやつは恐ろしいほどに、簡単に闇に飲み込まれる。
興味本位で深淵を覗かない事だ。
足を滑らせて落ちるぞ。
怖くなったら叫べ。隣の友人にな。それが君達には出来るんだ」
そういうとシンはフードコートから去っていった。
沈黙がその場を支配した。
だが、そこで一人、口を開いた。
「…ねぇ、間薙君のこと私たち知らなさすぎだと思うの」
天城である。
「うーん、でも、それってやぼかっておもっちゃったりする」と千枝は少し自信なさそうに頭を掻いた。
「でも、アイツは言わないよなぁ。自分から…そういうことをさ。おれたちはなんつーか、良い意味でも、悪い意味でも自分の嫌いな所って見られてるからな…」
と花村は天を仰ぐ。
「…話さなきゃ伝わらないよ。」とりせは少し俯き言う。
「何となくね、間薙センパイの言うこと少し分かるんだ。一人で悩んでると、どんどん深くに落ちていくような感覚。
芸能界を休業する前はそんな感覚だったの。
それに、」とりせは言葉をためた。
「なんだか、センパイの目が悲しそうだったから」
「…なんつーかさ、アイツ強いし、どっか超人とか思ってたけど、俺…なんか、勘違いしてたのかもな。」と花村はポツポツと語る。
「私も。テストの点数とか、1位だったし、なんか、完璧な人だと思ってた…」と千枝も言う。
「天城の言うとおり、ホントに知らなさすぎなのかもしれない…」と鳴上はみんなを見て言う。
その会話に入ってこない、くまがプルプルと体を震わせる。
「ってか、お前何ふるえてんだよ」と隣に座る花村はクマに顔を近づけた。
「あー!!!もう、我慢できないクマ!!」
「うるせー!!耳元で叫ぶなクマ」と花村は耳を塞ぎクマに言う。
「クマ知ってるクマ!!」
「バカ!クマ公!先輩に口止めされってんじゃねーのかよ!!」と完二はクマに言う。
「…あ、そうだったクマ…」とクマは思い出したように言った。
「なんか知ってんのか?」と花村はクマに言う。
「…お、男の約束クマ!破る訳にはいかないぜよ」とクマは口を塞ぐ。
「クマぁー。なんか知ってるなら話しなさいよ!」とりせはクマの頬をつねった。
きっと君は終わってしまうことを恐れてるんだ。
(恐れる?…終わる、恐怖…)
そう。君はあの止まってしまった世界で君自身も停滞していた。
始まることもない、終わることもない。
あの停止してしまった世界。だから、苛立つんだ。
でも、ここは違う。
季節は移ろい、あの世界とは違いにならないくらい退屈しない。
(…俺は…長い時間の中であまりにも多くの事を忘れていたようだ。
物事には始まりと終わりがある。それが自然の摂理。)
君なら、それを乗り越えられる。
また終わってしまうのは、何かが始まるからなんだ。
(…そうか。そうだったか。というか…お前は…誰だ?)
僕?…そうか。思い出せないよね。
もう、思い出す必要もないのかもしれないけど、忘れないでくれ。
僕はずっと君のそばにいるんだ。
あとそうだ。君は奢ってもいい。
摂理なんてクソ喰らえって言うかもね。
でも、いいんだ。君ならいいんだ。
『王様』なんだから。
「…」
シンは旅行鞄に服を詰めている最中に寝てしまったことを思い出した。
実に奇妙な体勢で若干、骨が軋む。
(…それにしても、夢か…奇妙だな。懐かしい声…だが、誰だか思い出せん)
シンが頭を抱えていると、ふすまが開く音がした。
「シンよ。」とバアルが声を掛けてきた。
その右肩には人間が抱えられている。
「ん?なんだ、居たのか」
「寝ぼけているのか…まったく、人が面倒を請け負ったというのに」とバアルはため息を吐いた。
「すまないな。手間をかけた。」とシンは立ち上がった。
「抜け殻だが、用意はできた。それに長くは持たない。」
「…それはどっちの話?メタトロン?それとも、義体の方かな?」
「両方だ。封じているやつの魂をこの義体に降ろしたのだからな…
しかし、ずいぶんと無茶をしたものだ。シンよ」とバアルは笑みを浮かべた。
「好都合だった。メタトロンは目の前の悪を逃すほど、軟ではない。
だが、相手は『死』そのもの。俺でも勝てない。それに俺には封印も出来ない。
メタトロンなら…恐らく可能だろう。一時的でしかないが、短い期間でも彼を連れ出す必要があった。」
「しかし…」とバアルは言葉をためると笑い始めた。
「ハハハハッ…今思い出しても笑えるぞ。ものの見事に、アイツらはこの坊主の作り出した、アマラに閉じ込められた訳だ。餌に引っ掛かるとは、神の使いは疑うことを知らん。
故に愚かだ。ルイ様が嫌うのもわかる」
「そうだな」とシンも少し馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「ルイ様やあの這い寄る混沌にお礼を言った方がいい。あいつらも苦労していた」
「わかった」
バアルは抱えている少年を布団に置くと、それを見て口を開いた。
「…しかし、貴様は人の死さえ、お前は無に帰するのか?交換条件であっても」
「違うね。"一時的"にだ。それに魂を降ろしただけ」とシンはカーテンを開ける。
「そこら辺の、イタコさんだってやってる。」
「あれとは別だろう。」
「…まあ、いずれにしてもオルフェウスとの契約を果たせるし、俺の好奇心をも満たすし、観光も出来る。
一石二鳥。いや、三鳥か」
シンは振り向くと、布団に寝ていた少年が起き上がる。
「おはよう。結城理。昨日はよく眠れたかい?」
「…どうでもいい」と再び布団に倒れた。
はい。登場しました。ペルソナ3の主人公。
正直、読者様にぶっ殺される覚悟で書きました。
出すつもりはなかったんですけど、映画の影響というか、その彼の報われなさが可哀そうな気がして、出してみようと決意しました。
名前は映画版のほうです。漫画版の『有里湊』でもいいかなって思ったんですけど、映画の影響です。
あと、至極どうでもいいことを言わせていただきますと。
先ほど言いましたが、夜に映画を見て帰ってきて、これを書き上げていた時に、「あーペルソナ3の映画よかったな」って思って、誰かに話そう。と思ったけど、誰もいない。っていう少し悲しいことを思ってしまいました。
映画とかゲーム、本でも音楽でもいいんですけど、「これ面白い!」って思った時に伝える相手とか共有する相手がいない時って、とんでもなく『きっついな』って思っちゃいました。
ラーメンズの小林賢太郎さんも同じことを言ってましたね。
…べ、べつにぼっちとかじゃ、ないから。
ぼ、ぼぼぼぼっちちゃうわ!
すみません、次回は恐らくP3の舞台の地に降り立つことになるでしょう…