すんません。ペルソナ4しか知らない人にとってはここから少し、訳の分からない話になりますので、ご了承下さい。
(一応、タイトルだけで分かるように日付がありません。)
第28話 There's Not A Thing I Don't Cherish
時間は午前9時ぐらいだろうか。
夏もそろそろ本番となり、暑さが増していくなか、少年少女たちはアパートの前に居た。
「せ、先輩がおしてくださいよ」
「く、クマ届かないクマ!」
「ば、バッカなんかとんでもねーもんでてきたらどうすんだよ!
あとなんでテメェは着ぐるみ着てんだよ!」と完二と花村はインターフォンを誰が押すかでもめていた。
「センパイが押しちゃえば?」とりせは鳴上に言う。
「ああ」と鳴上が押そうとすると、天城が押した。
「ああ!」
「だって、なんか出てくるんでしょ?面白そう」と天城は目を輝かせてドアを見つめる。
すると、足音が聞こえた。徐々に近づいてくる足音。
皆が唾をのみこんだ。
「はい」とそこには少し顔の白いメイドさんが出てきた。
綺麗に整っている顔だが、表情がないため、少し不気味さを醸し出している。
事情を知らない、りせや千枝、天城は驚いた表情であった。
「あーえっと、メリーさんでしたっけ?」と花村はそのメイドさんに尋ねた。
「ええ。そうです。ご用は?」
「間薙シン君はいますか?」と鳴上が尋ねた。
「残念ですが、不在でございます」
「ちなみにどっかに行ったとか分かりますか?」と花村が尋ねた。
「ええ『辰巳ポートアイランド』です」
辰巳ポートアイランド。
人工島であるポートアイランドは海に囲まれ、モノレールによって人工島にある『私立月光館学園』へと通う学生が多く、にぎやかな街である。
時間は既に短針が5を差し、日暮れも近くなっている頃。
ポートアイランド駅へと二人の少年が降り立った。
荷物は取り合えずは、ロッカーの中に入れ、町を散策することとなった。
八十稲羽からの電車乗車時間は長く、お互いのことを話している間に、それなりに仲が良くなった。
「変わらない?」
「…うん、変わらない」と青い髪の少年は懐かしそうに辺りをかみしめるように見渡す。
オルフェウスの願い、いや…契約は一つ。
『あなたの力で、主である結城を少しの時間だけでもいいから、自由にさせてほしい』という願いであった。
悪魔の契約は絶対。
そこで、シンは作戦を考えた。
Nyxと言われる、いわゆる『死』自体に悪意はない。
つまり、結城が抑え込む必要もない。
結城である必要はないということだ。
だが、大勢の悪意がそれを呼び寄せてしまう。
ならば、それにも劣らない"穢れを知らない善"をそこまで呼べばいい。
そう教えてくれたのは、紛れもない、銀座のニュクスであった。
「形は所詮はイメージでしかないのよ」と哲学的なことを言いながら、微笑みながら答えた。
さて、そこで登場するのが、メタトロン。
しかし、偽物の神が不在の中、やつがそうそう姿を現すことはない。
故に、アマラ経絡でその時の狭間にあった、結城の作り出した宇宙に接続した。
無論、そんなことが出来るのはルイ・サイファーである。
渋々、ルイは接続しご丁寧に迷宮まで作り上げた。
あとはボルテクス界に情報を流すだけ。
見事にメタトロンは引っかかり、大勢の善と共に、その宇宙へと向かった。
その後そこをアマラ経絡から隔離し、見事にメタトロンの軍勢を閉じ込めた。
しかし、メタトロンの相手は死そのもの。
この世界の人間の悪意が増幅した場合、危険ではないかと推測されたが、どういう訳だか、違う形でその悪意の向かう方向が変わっている。
つまり、悪意がNyxに集まらなくなっている。
シンは『マヨナカテレビ』が関係しているのではないかという結論で納得した。
つまり、『シャドウ』という形で悪意が具現化され、悪意というものがそこで消費される形になったのではないか?という推測をした。
そして、テレビに入れられた際に発生する、『シャドウ』はテレビ世界への干渉度合が高くなり、その人間に見合った世界を生成し、シャドウはそこに集う。
Nyxに集まるのと同様だと推察される。
…それが事実かは分からない。
そして、魂だけではどうすることも出来ないため、義体を用意。
作成方法は…シンは知らない。
バアルに丸投げした。
しかし、それをやってのけてしまうのだから、さすがである。
この一件後、ルイは疲労し「これは貸だ」と言うと再びどこかへ消えた。
一応、その封印を見張るのはシヴァに任せている。
どうせ、あいつは暇だったのだ。構いやしない。
「…僕は…死んだんだね。あの日に」と結城は少し悲しそうな顔でシンを見た。
「あの日…というのは知らないが、そうなんだろうな」
「…うん。わかった。」と結城は淡々と答えた。
「体に不具合はないか?」とシンは結城の手をみる。
結城は夕日に手を翳し、動かす。
「慣れたかな?」
その手の甲には、呪詛の様な細かい文字が見えない位に刻まれている。
そんなことをしながら、二人は階段を降りる。
「でも、どうやって、彼らを集めるの?
携帯番号も…覚えてない。」と結城は首を傾げた。
「君の話では、シャドウを探知するりせのような能力を持っている人がいるらしいじゃないか。だから、それに似た力を少しだけ解放する。」
「君が言っていた、悪魔の力?」
「そうだ。それにかかってくれれば、」
「横着なんだね。キミは。」と結城は少し笑った。
「王様だからな」とシンは皮肉を言った。
シンの目が金色に光り始めた。
「さて、どこにいく?」と結城は微笑みシンに尋ねる。
「キミの行きたい所に行くと良い。」
「うーん。巌戸台分寮に行こ」
「思い出めぐりか。嫌いじゃないし、俺はこの辺は知識ないからね、ついていくよ」とシンはポケットに手を突っ込み答えた。
既に外は暗くなってきたが、人工の明かりでぼんやりと光が遠くに見える。
「不思議な気分だよ…」と結城はモノレールの中で外の景色を眺めながら言った。
「所謂、黄泉がえりだからな。不思議だろう」
「キミは本当にすごいんだね。…それに、どこか君とは馬が合う」
「そうか」とシンは外を眺めながら夜の街を眺めていた。
巌戸台分寮前。すでに誰も使っていない様子で、真っ暗であった。
「…懐かしいな。すべてが」と結城はペタペタと入口のドアを触る。
そして、ドアを引っ張るが無論開くはずもない。
「流石にね。」と結城は少し残念そうにため息を吐いた。
「…ちょっといいか?」とシンは結城をドアの前からどかすと、ポケットからキーケースを取り出した。
そして、そこから、すこし特殊な形をした細い鉄のものを取り出した。
「ピッキング…出来るの?」
「混沌王ってのは暇なんだ。色々やっていたような気をしてるんだけど、今思えば実はそんなことないのかなって思った」
シンは鍵をいじりながら思う。
(…どうでもいいことを覚えていたのだな。
悪魔は適当な知識を適当に教えてくる。
ピッキングであるとか、足跡の圧力による身長の割り出し方のような探偵的なものから、所謂、自分の神話だとか、自分の指の数だとか、とにかくどうでもいいことを。)
カチャという音と共に、ドアが開く。
「すごいね。アイギスより早いかも」
「キミの言っていた、対シャドウ特別制圧兵装のこと?」とシンは電気を付けようとするが、つかない。
「つかないか…まあ、当然か」
「電気来てないからな。つかないのはわかってた」とポケットから懐中電灯を取り出した。
「ソファとか、椅子とかまだ残ってるんだ…」と結城はほこりにまみれたソファを眺める。
「寮にしては…」とシンが感想を言おうと結城を見ると、頬に涙が伝っていた。。
その顔にシンは特に反応することなく、じっとみていた。
「ここで、特上寿司を食べたんだ。荒垣さんのおかゆも食べた。おいしかった。洋風で。あと、順平がカップ麺ばっかり食べてて、真田先輩はプロテインを牛丼に、かけて食べてた。
それで…それで…」と結城は思い出すように、そして、どこか悲しそうに泣きながら語る。
「でも…でも、それも全部…全部、終わったんだ」
「もっと…もっと、生きたかったな…やっと、この世界の面白さに気がつけたのに…」と結城は暗い天井を見上げた。
その胸中に去来した数々の思い出はシンには分からない。
だが、悔しさや痛みがシンにはヒシヒシと伝わっていた。
シンはただただ、だまる結城を見ていた。
落ち着きを取り戻した結城は口を開いた。
「…好きだからこそ、守りたかったんだ。」
「大切な仲間を救えた。
大切な人たちを守れた
これで良かった…」
「…それにしても、食べた思い出ばっかりだな」
「そうかも」と結城は笑った。
そして、キッチンや二階、三階、四階と結城についていきながら、シンも回った。
「…やっぱり、ないよね」
結城は無くなった機材の辺りを歩き回り、懐かしんでいた。明らかに床には何か大きなものがあった形跡が残っている。
シンはふと、窓際へと歩き始めた。
「車。二台…キミの言っていた、桐条の人?」と締め切られていたカーテンを少しだけ、開け外を見る。
そこには黒い車、黒いスモークの掛かった窓の二台の車が止まり、黒いスーツを着た人間が降りてきた。
「…まさか、間薙君はこれを狙っていたの?」と結城はズボンのポケットに手を入れ、考える。
「…桐条グループは抜け目ないのは分かってた。だから、たぶん君が訪れるであろう思い出の場所もそういった機密が漏れないようにしてると考えた。
だから、君が行く場所には自然と桐条が来る。」
「それも結構、横着だと思う」
「王様だから」とシンは言うと、ドアの方へ向かった。闇の中で、金色の目が怪しく光る。
「それで、どうするのかな?これから」
「これを置いて、そして、屋上から隣のビルに飛び移るよ。」とシンは当たり前のように言う。
「僕は?」と結城は首をかしげた。
「キミも飛ぶんだ」
黒い人たちが寮の前に立っているのを二人は隣の屋上から眺めていた。
そして、シンは結城を抱えて裏の通りへと飛び降りた。
「…大丈夫ってわかっていても怖いからね」
「俺は60階から飛び降りた」
「痛くないの?」
「滅茶苦茶痛かった」
それを聞いて結城は声を出して笑った。
「…どうしてあれを?」
「みんなに会いたいだろ?だから、まずは一番動けない人を動かせるような動機が必要。」とシンと結城は二人ともポケットに手を入れて月夜を歩いていた。
「泊まってるホテルも桐条グループの関連…。やっぱり、キミ面白い」と結城は笑う。
「…明日はどこ行く?」
「月光館学園とか入れないかな?」と結城は無理だよねといったニュアンスを含めて言う。
「…可能だよ。誰だと思ってる?」
「王様…でしょ?」
「でも、超人ではないからな。」とシンは鼻で笑った。
「ん?なんだ?」と桐条美鶴は日本のグループから連絡が来たことに驚いた。
相当なことがない限り、緊急であることがうかがえる。
シャドウワーカーの仕事も安定し、やっと桐条グループの仕事に集中できると思っていた矢先の連絡、美鶴は何かシャドウワーカー仕事ではないかと、予想した。
『実は、先ほど巌戸台分寮に侵入の警報が鳴りました。』
「なんだ、それだけのことか。どうせ、ネズミの類ではないのか?」と桐条は安心したようなため息を吐いた。
『いえ、ですが…』と相手は言葉を詰まらせる。
「…なんだ?」
『作戦室がありました部屋に…召喚機がありました』
「!?なんだと?」と美鶴は思わず椅子から立ち上がった。
『そして…その、あり得ないことなのですが…』と相手は更に言葉を詰まらせる。
『シリアルナンバーが結城理のモノです。指紋照合も行い、結城理のモノと、もう一名の謎の人の指紋が採取されました』
「バカな!?」と美鶴は言葉を荒げる。
『いえ、それが…調べさせたところ、研究所から消えていました』
(…どういうことだ?)と美鶴の頭の中は竜巻でも通過したようにゴチャゴチャになっていた。
『一応、黒沢巡査の命で連絡させていただきました。』
「分かった…一応、このことはアイギスや岳羽には伝えないでおいてほしい。私が直接そちらに向かう」
『了解致しました』
というと相手は電話を切った。
「きっと、釣れるよ。その大きな魚がみんな連れてきてくれる。」とシンはホテルのエレベータの中で結城に言った。
「心配してないよ。それに…みんなにはみんなの今があるんだ、期待はしてないよ。」
結城は少し皮肉まじりに笑った。
「そうか…俺たちの部屋は最上階…すまん、持っててくれ」とキーを結城に渡すと靴紐を結び直した。
「ロイヤルスイートルーム…初めてだ。それに…偽名使ったのも初めて。」と結城は子供の様に嬉しそうに鍵を受け取った。
「…キミは案外、表情豊かだな」
「…そうでもないけど…」と結城は答えた。
「でも、たぶん、…同じような人間が一緒に居ると、気が楽だからかな?」
「『どうでもいい』だったかな。君の口癖は」とシンは言う。
「…そう。昔はどうでもよかった。
でも、今はもう…"どうでもいい"ことなんてない。
大切じゃないモノなんて、無かったんだ」とエレベーターのガラス窓から見える町を見下ろして結城は言う。
「僕を変えてくれたこの町を、この大好きな世界を僕が守ったんだ」
「崇高だな。」
「そう言われると…なんだか、照れる。」と結城は頭をポリポリと掻いた。
「キミはどうして、あの世界を望んだの?」
「…色々理由はある。退屈だった、あのクソッタレが嫌い。
混沌というのは、興味深かった。何か退屈しないと思った。
でも、偽神を倒した後はどうもする事がない。
単調で退屈。それでも、続けてこれたのは…恐らく、贖罪。」
「…死んでいった友人や先生、仲魔に…許されたいのかもな。」
チンという音と共にエレベーターの扉が開いた。
そこの階には5部屋ほどしかない階だ。
降りようとすると、執事のような人物に止められた。
「失礼。この階は「宿泊者だ。」」と鍵を見せると一瞬驚いた顔をしたが、すぐにアイコンタクトで、後ろのモノ達にシン達の荷物を運ばせるように命令した。
「広いね。」
「…俺もこんなに広いとは思わなかった」
そこは正にスイートルーム。
大きなソファに大きなテレビ。
何の機能性も持ち合わせていない置物。
まさに、金持ちの自己顕示欲のためとしか思えないモノばかり。
シンはこういうところを好かない。
機能性を重視する。
なら、シンが何故ここを選んだのか。
結城が柔らかいソファに座る。
シンは辺りを見渡し、目的の部屋に入る。
「風呂が広い。」とシンは少し嬉しそうにジャグジー付きの大きな風呂を眺めていた。
『There's Not A Thing I Don't Cherish』
「大切じゃないものなんてない。」
某大作RPGの七作目のアドベントなんちゃらで主人公が言っていたセリフの英語版です。
結城の心境に非常に合っていたので、使わせていただきました。